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第182回 ハイパーインフレと叫ぶ愚者たち 前編(1/3)
http://www.asyura2.com/12/senkyo139/msg/779.html
投稿者 MR 日時 2012 年 11 月 27 日 22:06:23: cT5Wxjlo3Xe3.
 

三橋貴明の「経済記事にはもうだまされない!」 トップ |
第182回 ハイパーインフレと叫ぶ愚者たち 前編(1/3)
2012/11/27 (火) 12:32

 安倍晋三自民党総裁がデフレ対策について、
「やるべき公共投資をやって建設国債を日銀に買ってもらうことで強制的にマネーが市場に出ていく」
と語ったところ、
「すわ! 安倍総裁が日銀直接引き受けを言い出した! ハイパーインフレーションだ!」
 と、二重、三重の意味で愚か極まりない批判の声が、民主党の政治家を中心に沸き起こった。色々な意味で、現在の日本を象徴する「経済ニュースのウソ」であるため、本件についてしばらく取り上げたい。
 まずは基本的な事実を抑えておきたいのだが、安倍総裁は「日銀に建設国債を買ってもらう」と言っているだけで、「日銀に建設国債を直接引受させる」とは言っていない。それにも関わらず、11月18日に毎日新聞が、
「安倍総裁:建設国債の全額日銀引き受け検討 独立性懸念」
という見出しの記事を報道し、記事中で、
「安倍氏の発言は、政府から直接、国債を買い取る「直接引き受け」を念頭に置いた可能性もあるが、財政法は原則として日銀による国債の直接引き受けを禁じている。」
 と「憶測」を書いたため、いつの間にか安倍総裁が「直接引き受け」を日銀に要請しているという「虚偽情報」が既成事実化されてしまった。何しろ、ほとんどのマスコミが「安倍総裁が直接引き受けを要請する」という前提で、野田総理や日銀の白川総裁に質問を投げかけ、反論を掲載するという事態に至ったのである。
話を整理するが、日銀の国債「直接」引受は、財政法第五条により「特別な事由があり、国会の議決を経ない限り禁止」となっている。

『財政法第五条  すべて、公債の発行については、日本銀行にこれを引き受けさせ、又、借入金の借入については、日本銀行からこれを借り入れてはならない。但し、特別の事由がある場合において、国会の議決を経た金額の範囲内では、この限りでない。』

すなわち、「日銀の国債直接引受は法律で禁止されている」と言った人がいた場合、その人は「嘘つき」ということになる。何しろ、財政法にきちんと「特別の事由がある場合において、国会の議決を経た金額の範囲内では、この限りでない。」と書いてあるわけだ。毎日新聞の記事は「原則として」という言葉を入れてぼかしているが、それにしても中途半端な説明であり、読者をミスリードしたいという意図が透けて見える。
 先にも書いた通り、安倍総裁は日銀に「直接」建設国債を引き受けさせるとは言っていない。日銀の国債直接引き受けは、国会決議が必要で、面倒くさい。しかも、参議院の過半数がない以上、自民党だけでは可決することは困難だ。
 それ以前に、そもそも、
(1) 政府が国内の「銀行に」建設国債を発行し、日本銀行が「銀行から」建設国債を買入れる買いオペレーション
(2) 政府が日本銀行に建設国債を発行する直接引き受け
 の二つでは、経済的な効果は同じだ。ここで言う経済的な効果とは、デフレ脱却に貢献する政策効果という意味である(すなわち「物価の上昇」に与える影響だ)。
 経済的効果が同じである以上、わざわざ面倒くさい国会決議による直接引き受けなどしなくても、淡々と日銀に買いオペレーションをさせればいい。無論、中央銀行の独立という観点から云えば、インフレ目標を政府が指示するのはともかく、目標達成のための金融政策については日銀の好きにできる。日本政府が、
「インフレ目標○%をいついつまでに達成せよ」
 と指示し、日本銀行は「独立した手段」で目標を達成する。これが本来的な意味における「中央銀行の独立」だ。現在の日本では、政府がインフレ目標を指示しておらず、中央銀行の総裁の罷免権すら誰も持たない。すなわち、現在の日本は「中央銀行が異常なまでに独立している」事態になっているのだ。

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http://www.gci-klug.jp/mitsuhashi/2012/11/27/017712.php  

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コメント
 
01. 2012年12月06日 22:42:47 : IOzibbQO0w
コラム:「2―3%インフレ目標」ではなぜまずいのか=熊野英生氏
2012年 12月 6日 16:56 JST
トップニュース
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FOMC、ツイストオペに代わる新たな債券買い入れプログラム発表へ

熊野英生 第一生命経済研究所 首席エコノミスト

[東京 6日 ロイター] インフレを起こそうとする政策には、誘惑が付きまとう。最初はデフレが解消できればよいとだけ思っていても、時間が経つと「いやいや望ましい物価上昇率は1%程度」となる。そして議論が白熱すると、「物価上昇率は2%でなくてはならない」「私たちは3%が最適だと考える」とエスカレートしてくる。しかし、その誘惑は事後的に見えにくい代償を支払わなくてはいけない。

事前の約束が事後的には好ましくない結果を招くジレンマは、「時間非整合問題(Time inconsistency)」と呼ばれる。わかりやすく言えば、「事前と事後の食い違いによる苦しみ」といったところだろう。

たとえば、中央銀行の政策目標として「2%のインフレ率を実現すること」と定め、かつ「長期金利は1%前後の低水準に据え置く」と約束したとしよう。次に、あらゆる金融政策の手段を動員して、消費者物価指数の前年比伸び率2%が達成できたと仮定する。その場合、同時に長期金利は上昇しているだろう。これは、中央銀行にとって望まない弊害である。長期金利を引き下げるために中央銀行はインフレ目標を修正し、利上げをして消費者物価を1%以下に抑える選択を余儀なくされる。

つまり、こういうことだ。

●事前の約束:2―3%のインフレ目標、1%の低い長期金利

●事後的状況:2―3%のインフレ目標達成、長期金利も2―3%に上昇

●約束の修正:長期金利低下を目指し、インフレ目標を引き下げ

要するに、高いインフレ率と低い長期金利は相容れない。このことは消費者物価が2―3%の上昇率になった世界を考えればよい。おそらく猛烈な金融緩和によって、地価・株価・商品といった資産価格は上昇しているだろう。その場合、投資家の運用資産は、債券から値上がりする各種資産にシフトする。1%前後の長期金利はとても維持できなくなる。

多くの金融関係者は、物価上昇率が高まったとき、それに連動して長期金利の水準も上方シフトすることを知っている。もしも長期金利水準を1%程度に押しとどめたいと願うのならば、それと整合的な物価上昇率の目標値としては0―1%程度が妥当だと考えられる。

過去のデータを調べると、インフレ率の変動と長期金利には連動性があり、時代によって反応が変わっている。2000年代、90年代後半は、物価上昇率が1%動いても長期金利は0.16%しか動かない。ところが、デフレではなかった90年代前半は、物価上昇率1%に対する長期金利の反応が1.17%、80年代が1.00%と大きかった。消費者物価が2%に上昇する世界では、長期金利1%前後を維持することは極めて困難だろう。長期金利の上昇に対して、中央銀行が必死になって「長期金利は断固として低位に抑え込む」と宣言したとしても、長期金利を以前の低位には戻せない。

上記の指摘は、筆者が2004年のノーベル経済学賞を受賞したキッドランドとプレスコットの「時間非整合」のモデルを応用して考えたものだ。オリジナルのキッドランド=プレスコットのモデルでは、インフレ率と失業率の間にあるトレードオフの関係、つまり「フィリップス曲線」をベースに議論を展開している。

事前に中央銀行が極端に低い失業率を目指そうとして金融緩和を行っても、低い失業率と低いインフレ率は同時達成できずに、事後的には高いインフレ率に苦しむという議論である。筆者は、「低い失業率」を「高いインフレ率」、「高いインフレ率」を「長期金利の上昇」と変数を入れ替えて、議論を組み直している。

面倒なモデルの話はやめておいて、より重要な政策的インプリケーションの話をしたい。キッドランド=プレスコットのモデルが伝えようとしているのは、中央銀行が裁量的に高いインフレ率を追求しても、事後的には失敗を引き起こすことへの警鐘である。その失敗を回避するために、インフレ・ターゲットが有効だという。ここでのインフレ・ターゲットは、低いインフレ率目標を定めるルールを敷いて、短期的に高いインフレ率を容認してしまう誘因(インフレ・バイアス)を防止するという意味での有効なツールを指す。

経済学のモデルでは、もうひとつインフレ・バイアスを予防するために、インフレを嫌う人物を中央銀行総裁に任命して、干渉を跳ね返すことを提唱する。皮肉なことに、2008年に、福田康夫(当時)首相が任命した白川方明総裁は、理論どおり、相応しい人物だったと言える。

<日本経済は2―3%の長期金利に耐えられない>

半面、多くの経済学に精通した人々が、インフレ・ターゲットの本当の意義について話さない。インフレ・ターゲットの発想は、高めのインフレ率を追求し景気過熱を容認するような「裁量政策」の失敗を戒める仕組みのはずだ。

翻って、中央銀行に2―3%といった高めのインフレ率を設定し、政治的誘因に基づき積極的に行動させる手法には矛盾がある。現在、日銀に求められているインフレ目標論は、もともとの議論を換骨奪胎して、全く別の目的に金融政策を改造しようとしている。

しばしば耳にする「政治が高めの目標を掲げて、日銀はそれを達成する手段についての独立性を持つ」といった理屈も、本来のインフレ・ターゲットの意味合いとは違っている。インフレ・バイアスを正当化しようとする仕組みは、裁量主義が陥る失敗を繰り返すだけになるだろう。インフレ・ターゲットは、その使い方を間違えると、長期金利の上昇によって混乱を起こしかねない。その点が、致命的な弱点である。だから、目標はせいぜい消費者物価1%程度にとどめることが望ましい。

日本の経済・財政状態を考えると、とても2―3%の長期金利に耐えられない。長期金利が急上昇すれば、財政再建は頓挫しかねないからだ。政府債務の利払い費用が増えれば、税収はそれに食いつぶされてしまう。銀行が債券含み損・実現損を出せば、貸出のリスク許容力が低下する。事業法人は、国内での資金調達が不利になり、設備投資を手控える。

日銀に求められる優先的役割は、可能な限り中長期金利を低位安定に保つことである。今の日銀は、インフレ目標など敷かなくてもよい。暗黙のうちに国債管理政策に組み入れられており、長期金利を低位にすることに力を注いでいる。

インフレ率を引き上げようとするならば、金融政策に頼らず、政府が経済活性化策を打ち出して、企業の国内投資活動を活発化させ、勤労者の賃金上昇率が高まるように促すのが本筋であろう。

*熊野英生氏は、第一生命経済研究所の首席エコノミスト。1990年日本銀行入行。調査統計局、情報サービス局を経て、2000年7月退職。同年8月に第一生命経済研究所に入社。2011年4月より現職。

*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。(here)

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情報BOX:米FRB、インフレ・失業の数値基準採用めぐる議論 2012年11月20日


02. 2012年12月06日 22:43:18 : IOzibbQO0w

第182回 ハイパーインフレと叫ぶ愚者たち 前編(1/3)
2012/11/27 (火) 12:37
 安倍晋三自民党総裁がデフレ対策について、
「やるべき公共投資をやって建設国債を日銀に買ってもらうことで強制的にマネーが市場に出ていく」
と語ったところ、
「すわ! 安倍総裁が日銀直接引き受けを言い出した! ハイパーインフレーションだ!」
 と、二重、三重の意味で愚か極まりない批判の声が、民主党の政治家を中心に沸き起こった。色々な意味で、現在の日本を象徴する「経済ニュースのウソ」であるため、本件についてしばらく取り上げたい。
 まずは基本的な事実を抑えておきたいのだが、安倍総裁は「日銀に建設国債を買ってもらう」と言っているだけで、「日銀に建設国債を直接引受させる」とは言っていない。それにも関わらず、11月18日に毎日新聞が、
「安倍総裁:建設国債の全額日銀引き受け検討 独立性懸念」
という見出しの記事を報道し、記事中で、
「安倍氏の発言は、政府から直接、国債を買い取る「直接引き受け」を念頭に置いた可能性もあるが、財政法は原則として日銀による国債の直接引き受けを禁じている。」
 と「憶測」を書いたため、いつの間にか安倍総裁が「直接引き受け」を日銀に要請しているという「虚偽情報」が既成事実化されてしまった。何しろ、ほとんどのマスコミが「安倍総裁が直接引き受けを要請する」という前提で、野田総理や日銀の白川総裁に質問を投げかけ、反論を掲載するという事態に至ったのである。
話を整理するが、日銀の国債「直接」引受は、財政法第五条により「特別な事由があり、国会の議決を経ない限り禁止」となっている。
『財政法第五条  すべて、公債の発行については、日本銀行にこれを引き受けさせ、又、借入金の借入については、日本銀行からこれを借り入れてはならない。但し、特別の事由がある場合において、国会の議決を経た金額の範囲内では、この限りでない。』
すなわち、「日銀の国債直接引受は法律で禁止されている」と言った人がいた場合、その人は「嘘つき」ということになる。何しろ、財政法にきちんと「特別の事由がある場合において、国会の議決を経た金額の範囲内では、この限りでない。」と書いてあるわけだ。毎日新聞の記事は「原則として」という言葉を入れてぼかしているが、それにしても中途半端な説明であり、読者をミスリードしたいという意図が透けて見える。
 先にも書いた通り、安倍総裁は日銀に「直接」建設国債を引き受けさせるとは言っていない。日銀の国債直接引き受けは、国会決議が必要で、面倒くさい。しかも、参議院の過半数がない以上、自民党だけでは可決することは困難だ。
 それ以前に、そもそも、
(1) 政府が国内の「銀行に」建設国債を発行し、日本銀行が「銀行から」建設国債を買入れる買いオペレーション
(2) 政府が日本銀行に建設国債を発行する直接引き受け
 の二つでは、経済的な効果は同じだ。ここで言う経済的な効果とは、デフレ脱却に貢献する政策効果という意味である(すなわち「物価の上昇」に与える影響だ)。
 経済的効果が同じである以上、わざわざ面倒くさい国会決議による直接引き受けなどしなくても、淡々と日銀に買いオペレーションをさせればいい。無論、中央銀行の独立という観点から云えば、インフレ目標を政府が指示するのはともかく、目標達成のための金融政策については日銀の好きにできる。日本政府が、
「インフレ目標○%をいついつまでに達成せよ」
 と指示し、日本銀行は「独立した手段」で目標を達成する。これが本来的な意味における「中央銀行の独立」だ。現在の日本では、政府がインフレ目標を指示しておらず、中央銀行の総裁の罷免権すら誰も持たない。すなわち、現在の日本は「中央銀行が異常なまでに独立している」事態になっているのだ。

第182回 ハイパーインフレと叫ぶ愚者たち 前編(2/3)
2012/11/28 (水) 12:28
 というわけで、安倍自民党は政権交代を実現した場合、
「中央銀行にインフレ目標2%を指示し、定められた期限までに独立した手段をもって達成させる。達成できなかった場合、総裁に説明を求め、説明が不十分だった場合は辞めてもらう」
 という、いわばグローバルスタンダードな「中央銀行の独立」のスタイルに、政府と日銀の関係を引き戻そうとするだろう。無論、現在の日銀法では「総裁に辞めてもらう」が不可能であるため、必要であれば日銀法改正にも踏み込まざるを得まい。
 さて、グローバルスタンダードな「中央銀行の独立」の場合、政府側は中央銀行側に「国債を(銀行から)買いオペレーションで買い入れて欲しい」と要請するべきではない、という話に「原則的」にはなる。何しろ、インフレ目標を達成するために用いる金融政策について「自由にできる」というのが、本来の中央銀行の独立の概念だ。
 とはいえ、政府側が「インフレ目標」の指示をするのみで、手段について全く口を出せないかといえば、もちろんそんなことはない。自民党が政権を握った場合、国土強靭化の公共投資を推進するに際し、少なくとも十兆円を超える建設国債を発行することになるだろう。現在のデフレが継続している限りにおいて、日本の銀行が毎年十兆円超の建設国債を引き受けることは、特に問題がない。とはいえ、デフレ脱却後も継続的に国債を購入できるかと言えば、さすがに金利が上がってしまう可能性を否定できない。
 そのため、政府と日本銀行がアコード(合意)を結び、協調して金利と物価上昇率を管理していく必要があるわけだ。日本政府が「建設国債を発行するが、金利上昇を引き起こさないように調整して欲しい」とアコードに基づき日本銀行に要請した場合、日銀側は普通に建設国債を(銀行から)買いオペで購入することで対応することになる。
 要するに、中央銀行の独立は国民経済の「目的」ではないのだ。国民経済の目的である「所得の拡大」を達成するために、最も適切な手段を政府と「政府の子会社」である中央銀行が採るべき、というのが真の「原則」である。中央銀行の独立を錦の御旗として掲げ、アコードを締結したにも関わらず、政府からの要請を一切合財拒否し、国民経済を困窮に陥らせるのでは、まさに本末転倒という話だ。
 いずれにせよ、正しいデフレ対策である金融政策と財政政策のパッケージは、政府と中央銀行が協調し、フレキシブルに政策を遂行していく必要がある。
「中央銀行に国債を買い取らせれば、全て解決!」
「いや、そんなことをするとハイパーインフレーションになる。中央銀行の国債買い取りは一切合財ダメだ!」
といったシンプルな話ではないのだ。
とはいえ、現在はマスコミ、民主党の政治家、それに財務省&日本銀行の意を受けた証券マンたちまでもが「正しいデフレ対策」である自民党の「日銀の建設国債買入&財政出動」について、
「そんなことをすると、ハイパーインフレーションになる!」
「日銀が国債を買うのは禁じ手だ! 制御不能な悪性インフレになる!」
 と、大々的に批判を展開している有様だ。何というか、思考停止も甚だしい。
 特に悪質というか、むしろ笑ってしまうのは、「日銀が国債を買うのは禁じ手だ!」と、民主党の政治家たちが繰り返していることである。何しろ、民主党政権にしても、この「禁じ手」を普通に実施していた。
【図182−1 日本銀行が保有する国債・財融債・国庫短期証券の残高(単位:億円)】

出典:日本銀行「資金循環統計」
 図182−1の通り、日本銀行が保有する国債、財融債、国庫短期証券の残高は、民主党政権下でむしろ増えている。ちなみに、国庫短期証券の残高が急拡大しているのは、民主党政権が円高対策として為替介入を実施したためだ。
 いずれにせよ、民主党政権下でも日本銀行の買いオペレーションによる国債購入は「普通に」行われていたのである(ついでに書いておくと、償還時期が来た国債については、日本銀行は直接買い入れすらも行っている。これは国会で白川総裁も認めた事実である)。

第182回 ハイパーインフレと叫ぶ愚者たち 前編(3/3)
2012/11/29 (木) 12:40
 先にも書いた通り、買いオペレーションだろうが直接引受だろうが、経済的な効果は変わらない(間に銀行を挟むか否かという、技術的な違いでしかない)。現実に民主党政権は、彼らが言う「禁じ手」を使い続けたわけだが、物価はハイパーインフレーションになるどころか、むしろ下がり続けた。すなわち、デフレが継続した。
 ところで、ハイパーインフレーションとは具体的に何%のインフレ率を意味するのだろうか。一般の日本国民が「ハイパーインフレ」あるいは「激しいインフレ」「制御不能なインフレ」と聞くと、何と言うか、
「パンを買うのにリヤカーに札束を詰めていく」
 世界を想像するだろう。もちろん、そのイメージは正解である。「ハイパーインフレ」「制御不能なインフレ」と口にする全ての人たちは、日本国民の心の中に「パンを買うのに・・・・」というイメージを植え付けるべく、これらのセンセーショナルな言葉を繰り返しているわけだ。
ハイパーインフレーションとはフィリップ・ケーガンにより、「インフレ率が毎月50%を超えること」と定義されている。毎月のインフレ率50%が継続すると、一年後には物価が130倍に上昇することになる。すなわち、インフレ率13000%である。
 というわけで、自民党の金融政策と財政政策のパッケージという「正しいデフレ対策」を実施すると、我が国は一年で物価が130倍になるそうである。ハイパーインフレーションといったセンセーショナルな用語を使う人は、本当に不真面目だ。
 不真面目な人の代表株が、野田総理大臣である。
『2012年11月19日 NHK「首相"政権枠組み選挙戦見極め判断"」
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20121119/t10013616051000.html
(前略)このほか、自民党の安倍総裁が、デフレからの脱却が最優先の課題だとして、公共事業の財源に充てるために発行される建設国債を日銀が引き受けることを検討する考えを示していることについて、野田総理大臣は「借金を積み重ねて、ばらまきの公共事業をやるやり方は財政規律を守らないということだ。加えて日銀に直接引き受けさせることは、戦後の日本のハイパーインフレなどの教訓があって、日銀の独立性が知恵として出てきたのにそういう禁じ手まで使う。二重の意味であってはならない経済政策だ」と改めて批判しました。』
 まさか、総理大臣自ら、この言葉を使う日が日本に来るとは思いもしなかった。しかも、野田総理の発言は、安倍総裁が「日銀の直接引き受け」を検討しているという、マスコミのミスリードに基づくものであるわけだから、呆れた話だ。安倍総裁は、単に買いオペレーションという「普通の金融緩和」の話をしたに過ぎない。
 恐らく、安倍総裁の「建設国債を日銀に買ってもらう」を聞いた野田総理は、発言が意図するところを勝手に「直接引受」と歪曲し、一方的に断定することで、自民党に対する批判のネタに使えると考えたのだろう。
一般の日本国民は、「直接引き受け」と「間接引き受け」の違いなど理解していない。発言の主旨を歪めることで、正しいデフレ対策である自民党の「金融政策と財政政策のパッケージ」の信用を落とし、ひいては上記の政策を繰り返す安倍総裁の信頼性をも揺らがせる。なかなか巧い手ではある。極めて卑怯極まりない、という問題は残るが。
先にも書いた通り、日銀の国債買入が「全て禁じ手」というのであれば、民主党政権はひたすらこの「禁じ手」を使いまくったことになる。自分たちの過去は説明せず、政敵の発言の主旨を歪め、正しいデフレ対策の価値が落とす。これを総理大臣自らやってくるわけだから、現在の日本は、冗談でも何でもなく「情報戦争」の最中にあることが分かるだろう。


第183回 ハイパーインフレと叫ぶ愚者たち 後編(1/3)
2012/12/04 (火) 14:00
 前回も書いた通り、安倍総裁の建設国債「日銀直接引き受け」説は、一部のマスコミによる「捏造」もしくは「誤報」である。ことの始まりである2012年11月17日、安倍総裁は熊本市内で行った講演で、
「やるべき公共投資をやって、これは、国債を発行しますが、建設国債、これはできれば日銀に全部買ってもらう、という買いオペをしてもらうことによって、新しいマネーが。いわば強制的に市場に出て行きます。景気には、いい影響がある」
 と語ったのである。筆者はテレビで上記の安倍総裁の発言を確認したわけだが、テロップでもきちんと「買いオペ(買いオペレーション)」と打たれていた。それが新聞紙面に載る際に、なぜか「買いオペ」の部分が消え失せ、あたかも安倍総裁が日銀直接引受を要求したという記事に「書き直されて」しまったのである。
 前回は毎日新聞の「誤報」を紹介したが、「買いオペ」ではなく「直接引き受け」を示唆する報道をしていたのは、他紙にしても同じである。
 例えば、日本経済新聞は、講演当日である11月17日時点で、
「自民党の安倍晋三総裁は17日、熊本市内で講演し、衆院選後に政権を獲得した場合、金融緩和を強化するための日銀法改正を検討する考えを重ねて表明した。「建設国債をできれば日銀に全部買ってもらう。新しいマネーが強制的に市場に出ていく」と述べ、日銀が建設国債を全額引き受けるのが望ましいとの考えを表明した。(2012/11/17日本経済新聞「建設国債、日銀が全額引き受けを 自民総裁」より)」
 と、見事なまでに「買いオペ」という単語をカットした形で報道している。
 さらに、共同通信は上記安倍総裁の講演の記事において、
「やるべき公共投資をやり、建設国債を日銀に買ってもらうことで強制的にマネーが市場に出ていく』と述べ、政権復帰した場合、建設国債の日銀引き受けを検討する考えを示した」
 と、そのままズバリ「日銀引き受けを検討する」と配信したのだ。買いオペという単語を省くどころか、勝手に「日銀引き受け」という用語を追加しているのである。捏造報道もここに極まれり、という感じだ。
 前回も書いたが、日本銀行の国債直接引受と買いオペレーションとでは、経済的効果は変わらない。もっとも、日銀直接引き受けは、財政法五条により「特別な事由があり、国会の議決を経ない限り禁止」と定められている。
『第五条  すべて、公債の発行については、日本銀行にこれを引き受けさせ、又、借入金の借入については、日本銀行からこれを借り入れてはならない。但し、特別の事由がある場合において、国会の議決を経た金額の範囲内では、この限りでない。』
 というわけで、日銀直接引受について「法律で禁じられている」と書いた新聞があったとしたら、それもまた間違いだ。「特別な事由があり、国会の議決を経ない限り禁止」という表現が正しい。
 それにしても、財政法が日銀直接引受について「条件付きで禁止」していることは間違いない。というわけで、安倍総裁の「買いオペレーションで」という単語を省き、日銀直接引き受けを要求したと報じることで、
「安倍総裁は『法律で禁止されている』日銀直接引き受けについて発言した」
 という印象操作を行うことは、自民党に対するアンチ・プロパガンダの一つになるわけである。というよりも、これだけ多くの新聞が「同時に間違えた」以上、何らかの「意志」が働いたとしか思えない。新聞社の一つくらいは「買いオペレーションで」と正しく報道しても良さそうなものだが、現実には一紙もなかった。
 挙句の果てに、前回も触れたように野田総理、日銀総裁、経団連会長、さらには民主党の有力政治家たちまでもが「誤報」である直接引き受けを引合いに出し、安倍総裁の「金融政策と財政政策のパッケージ」という正しいデフレ対策を批判する。結果的に、総選挙後の政権が正しいデフレ対策を実施できない場合、我が国は相変わらずの所得縮小に悩まされることになり、新聞を始めとするマスコミ各社の社員の給料も減る。
 今回のプロパガンダが悪質だと思えるのは、
「そもそも、安倍総裁の発言から『買いオペレーション』という用語を省いた」
「日銀直接引き受けの財政法上の位置づけについて、正しく解説しない(単に「法律で禁止されている」と書く)」
 に加え、国家の行政責任者(内閣総理大臣)までもが「ハイパーインフレーション」という言葉を「定義せずに」使っている点だ。前回もご紹介したように、野田総理は11月19日時点で、
「日銀に直接引き受けさせることは、戦後の日本のハイパーインフレなどの教訓があって、日銀の独立性が知恵として出てきたのにそういう禁じ手まで使う。二重の意味であってはならない経済政策だ」
 と語っている。
 というわけで、野田総理の言う「戦後」の物価上昇率の状況を見てみよう。折角なので、全国よりも物価上昇率が大きい東京の消費者物価指数について、戦前から戦後にかけてのデータをグラフ化してみた。
 1920年の大正バブル崩壊以降、日本では現在同様にデフレ状況が続いていた。しかも、デフレ期の前半に関東大震災(1923年)、後半に昭和三陸地震(1933年)と、二度の大震災を経験している。加えて、金本位制への強引な復帰による過度な円高、不景気による政治的混乱、毎年のように変わる内閣総理大臣と、まさに現代と瓜二つな環境が継続していたところに、1929年にアメリカでNY株式大暴落が発生。世界大恐慌が始まった。
 失業率が二桁を越え、東京小売物価で見た物価「下落率」が、何と15%近くにも達する(1930年)超デフレ状況を打開するため、高橋是清が犬養内閣の大蔵大臣として再登板(1931年末)し、各種の「デフレ対策」を打っていった。まずは諸悪の根源であった金本位制から早々と脱退し、さらに「日銀の国債直接引き受け」により調達した資金で果敢な需要創出策を打っていく。結果的に、日本の物価変動率はプラスに向かい、36年には完全にデフレから脱却することに成功する。
 日本がデフレ脱却を果たしたことで、高橋是清は一転、今度は緊縮財政という「インフレ対策」に乗り出したわけだが、36年2月26日に蜂起した青年将校たちにより殺害されてしまう。いわゆる、226事件である。
【図183−1 東京小売物価指数変動率(対前年比)1923年−45年】
http://www.gci-klug.jp/mitsuhashi/20121203a.PNG
出典:消費者庁
 高橋是清の死後、支那事変が始まったこともあり、日銀の国債引き受けによる資金調達が増えていく。さらに、太平洋戦争が勃発するに至り、日本のインフレ率は恒常的に10%を上回るようになってしまった。とはいえ、逆に言えば国民経済が需要を全く満たせなくなってしまった敗戦直前の1945年ですら、我が国のインフレ率は(東京小売物価指数で)47%に過ぎなかったのである。

第183回 ハイパーインフレと叫ぶ愚者たち 後編(2/3)
2012/12/05 (水) 13:32
戦争中、アメリカ軍に日本の国土の多くの部分が焼け野原にされ、工場や流通は崩壊した。結果的に、日本のインフレ率は1946年に東京小売物価指数で500%超とピークを打った。インフレ率500%とは、物価が一年間で六倍になるという話である。
 確かに凄まじいインフレ率ではあるのだが、1946年の日本経済は、戦争の敗北により国民経済の供給能力が著しく毀損していた。当時の統計によると、46年時点の我が国の供給能力(潜在GDP)は、戦前と比べて二割にまで落ち込んでいたとのことである。
 戦争により供給能力の八割を失ったにも関わらず、我が国は定義上のハイパーインフレーション(インフレ率13000%)には全くならなかった。確かに1946年のインフレ率こそ跳ね上がったものの、その後の日本経済は瞬く間に供給能力を回復し、50年には早くも物価上昇率がゼロを切ってしまったのである。
 
【図183−2 東京小売物価指数変動率(対前年比)1946年−61年】
 
出典:消費者庁
 先にも書いた通り、野田総理は戦後の、
「焼け野原にされ、供給能力が八割消滅したがゆえの高インフレ」
 をハイパーインフレーションと呼び、さらに日銀の国債引き受けと結びつけて安倍総裁の発言を批判している。そもそも安倍総裁は「買いオペレーション」と言ったわけで、日銀直接引き受けなどとは一言も言っていないにも関わらず、である。
 しかも、戦前の「焼け野原」の日本ですら、最も物価高騰が著しかった東京でインフレ率500%「程度」であったわけだ。ハイパーインフレーションとは、フィリップ・ケーガンにより、「インフレ率が毎月50%を超えること」と定義されている。毎月のインフレ率50%が継続すると、一年後には物価が130倍に上昇することになる。すなわち、インフレ率13000%である。戦後の東京の場合、一年間で物価が6倍になっただけであり(これはこれで大変なインフレ率だが)、ハイパーインフレーションとはインフレ率が二桁も違う。
 上記が「事実」であるにも関わらず、野田総理は安倍総裁の経済政策について、
「日銀に直接引き受けさせることは、戦後の日本のハイパーインフレなどの教訓があって、日銀の独立性が知恵として出てきたのにそういう禁じ手まで使う。二重の意味であってはならない経済政策だ」
 と、捏造を下に相手を貶めようとしたわけだ。一国の総理大臣として、許しがたい愚行である。野田総理の言葉を借りれば、「二重、三重の意味であってはならない発言」である。マスコミの虚偽報道に踊らされただけと言い訳したいのであっても、その旨を公表し、安倍総裁に謝罪しなければならないはずだ。
 興味深いことに、新聞社の中に上記の「誤報」について認め、訂正報道をするところが出てきた。
『2012年12月2日 東京新聞「週のはじめに考える 「日銀引き受け」論争の真実」
http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2012120202000113.html
 金融政策のあり方が衆院選の焦点に浮上しています。それはメディアの「誤報」が発端でした。政権を選ぶ選挙で、あってはならない事態です。

第183回 ハイパーインフレと叫ぶ愚者たち 後編(3/3)
2012/12/06 (木) 13:35
金融政策に大きな注目が集まったのは、自民党の安倍晋三総裁が先月十七日、熊本市内の講演で語った次の発言がきっかけでした。「建設国債をできれば日銀に全部買ってもらうという買いオペをしてもらうことによって、新しいマネーが強制的に市場に出ていく」
 この発言について、多くのメディアは「買いオペ」の部分を省いて「安倍総裁が建設国債の全額日銀引き受けを検討する考えを示した」といった調子で報じました。
◆買いオペは普通の手段
 一見、どこがどう違うのかと思われるかもしれません。ところが、実は大違いなのです。
 買いオペとは、政府が発行した国債を日銀が金融市場で買う操作をいいます。日銀にとっては、市中に流通するお金の量を調節する重要な手段になっていて、毎月のように実施しています。
これに対して「日銀引き受け」は政府が市場を通さずに直接、日銀に国債を買わせてしまう取引をいいます。安倍総裁が言ったのは「買いオペを通じて」ですから、引き受けには当たりません。
ところが、報道が独り歩きしてしまう。日銀の白川方明総裁は二十日、一般論と断りながらも「中央銀行による財政ファイナンスあるいは国債引き受けはIMF(国際通貨基金)の途上国への助言で、やってはならない項目リストの最上位」「通貨の発行に歯止めが利かなくなる」と強く批判しました。
さらに経団連の米倉弘昌会長も「世界各国で禁じ手となっている政策は無謀にすぎる」と日銀に加勢しました。こうなると大物同士のけんかですから、メディアはますます派手に報じます。
●根拠のない空中バトル
しかしもとはといえば、安倍総裁の発言から「買いオペ」の言葉を削除し、記者が勝手に「日銀引き受け」と解釈を付け加えたのが始まりでした。いわば根拠のない空中戦のようなバトルなのです。
本紙は二十二日付で安倍総裁が「日銀が直接買うとは言っていない。市場から買うということだ」と発言を修正したと報じました。しかし本当は、全体として報道の側が正確さを欠いていました。
いまは衆院選を控えて、国民がそれぞれの政党や政治家が何を訴えているのか、目を凝らし耳を澄ませて見極めようとしている時期です。野党総裁の発言を誤って報じては国民の目を曇らせてしまう。政策の是非や賛否は別にして、こうした事態はあってはならないと思います。メディアの一員として深刻に受け止めます。(後略)』
 上記の通り、東京新聞は「誤報」について報道の側が正確さを欠いていた」と、率直に認めている。記事中にもある通り、まさに事実上の選挙戦の最中にこの種の誤報が独り歩きしてしまうのは極めて問題だ。ある意味で、民主主義の破壊である。
 東京新聞以外の各紙が本件についていかに対応するのか、あるいは頬っかむりを続け、無かったことにするのか、読者も注目して欲しい。


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