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暴走する安倍総裁の危険なギャンブル
日銀バッシングは「ハイリスク・ノーリターン」
2012年11月22日(Thu) 池田 信夫
突然の解散で、実質的な選挙戦が始まった。序盤は、党首討論でいきなり「16日に解散する」と表明した野田佳彦首相がリードしたが、最近になって安倍晋三氏が暴走して話題を集めている。
「日銀法を改正し、2%か3%のインフレターゲットを設定する。輪転機をぐるぐる回して、無制限にお札を刷ってもらう。建設国債をできれば日本銀行に全部買ってもらうことで、新しいマネーが強制的に市場に出ていく」
激しい日銀バッシングに対して野田首相は「財政規律を失わせる」と批判し、日銀の白川方明総裁は「日本経済をインフレのリスクにさらす」と反論した。なぜ急にこういう政策が出てきたのだろうか。
「安倍バブル」に踊る市場
安倍氏の発言を追ってみると、11月14日の党首討論で野田首相がいきなり「16日解散」を言い出し、意表を突かれた安倍氏はそれに対応できなかった。日銀叩きが出てきたのは、その後に行われた講演だ。論戦で野田氏に負けたダメージを、景気のいいインフレ政策を打ち出すことでカバーしようとしたのだろう。
野党としては攻勢をかけなければいけないが、野田氏が打ち出しているTPP(環太平洋パートナーシップ)については、自民党は支持基盤の農協との関係で思い切った方針を打ち出せず、安倍氏は「聖域なき関税撤廃なら反対」という曖昧な言い方に終始している。このため、マクロ政策で勇ましいことを言って論点をずらす狙いもあるのだろう。
安倍発言を受けて円相場は半年ぶりに1ドル=81円台になり、日経平均株価は9000円台に乗せて、「安倍バブル」とも言われるにわか景気が出現した。これに気をよくしたのか、安倍氏は全国の遊説でも日銀バッシングを繰り返し、自民党の選挙公約にも「日銀法改正の検討」が入ることになった。
インフレ目標というのは、中央銀行が物価上昇率に一定の基準を設けて、それを守るように金利を調整する政策だが、日銀もFRB(米連邦準備制度理事会)もECB(欧州中央銀行)も採用していない。これは大国に隣接する小国が、為替レートの変動を抑えるために採用していることが多い。
日米欧で採用していないのは、物価だけを目標にすると中央銀行の政策の柔軟性が失われるからだ。高い物価を下げることはできるが、低い物価を人為的にインフレにする手段はない。
国債の日銀引き受けという「禁じ手」
特に話題を呼んだのは、「建設国債をできれば日本銀行に全部買ってもらう」という発言だ。「新しいマネーが強制的に市場に出ていく」という発言からは、一部の論者の主張している国債の日銀引き受けと受け取られるため、各メディアは「日銀引き受けに言及」と大きく報じた。
しかし安倍氏は、20日夜になってフェイスブックで発言をこう修正した。
私は物価目標について、「名目2〜3%を目指す。私は3%が良いと思うが、そこは専門家に任せる」「建設国債の日銀の買い切りオペによる日銀の買い取りを行うことも検討」と述べている。国債は赤字国債であろうが建設国債であろうが同じ公債であるが、建設国債の範囲内で、基本的には買いオペで(今も市場から日銀の買いオペは行っているが)と述べている。直接買い取りとは言っていない。
これはおかしい。少なくとも新聞の報道では、安倍氏は「買い切りオペ」という言葉はまったく使っていない。そう言っていれば、各社が「日銀引き受け」と解釈するはずがない。それに「建設国債の日銀の買い切りオペ」という言葉も奇妙だ。
たぶん単に「国債を引き受けさせる」と言うとインパクトが大きすぎるので、インフラの裏づけのある建設国債だけを引き受けさせる、というつもりだと思われるが、国債はすべて同じで、発行額が公共事業費の範囲で発行される国債を建設国債と呼んでいるだけだ。その発行額は年間6兆円程度なので、日銀の保有資産150兆円の4%にしかならない。
インフレ目標を「物価目標」と呼ぶのは間違いだし、「名目2〜3%を目指す」というのもおかしい。名目と実質の違いはインフレを織り込むかどうかなので、インフレ自体に名目インフレ率というのはない。率直に言って、安倍氏は金融実務も経済学も理解しないで発言していると考えざるをえない。
日本経済を巻き込む危険な賭け
ただ安倍氏は経済学の専門家ではないのだから、ある程度はしょうがない。本質的な問題は、安倍氏の提唱する政策に効果があるのかということだ。
インフレ目標を設けただけでは、インフレにはならない。金利もゼロに貼りついているので、残る手段は日銀がマネタリーベース(通貨供給)を増やし続ける量的緩和しかない。
政府が「目標が達成されるまで無制限に緩和しろ」と日銀に命令すると、何が起こるだろうか。安倍氏は通貨の量に従って物価が徐々に上がっていくと思っているのだろうが、そう簡単ではない。物価に影響するのは日銀の供給するマネタリーベースではなく、市中に流通するマネーストックであり、後者は日銀が直接コントロールできないからだ。
日銀が市中銀行から短期国債を買って現金を供給すると、それが企業への貸し出しに使われればマネーストックは増えるが、資金需要がないと現金が流通しない。このため図のように2002年には日銀は量的緩和でマネタリーベースを前年比36%も増やし、2011年には22%も増やしたが、マネーストックは増えず、物価も上がらなかった。これは金利がゼロに貼りついて動かない流動性の罠に入ったためだ。
マネタリーベース(緑)とマネーストック(赤)の前年比(日銀調べ)
それでも日銀がマネタリーベースを200兆円、300兆円・・・と徐々に増やしてゆくと、何が起こるだろうか。ゼロ金利のうちは何も起こらないが、そのうち資金が海外や実物資産に逃避すると、国債の長期金利が上がり始める。
すると日銀が民間銀行に払う金利が上がるので、日銀は保有資産を売却しなければならない。これによって長期金利が上がる・・・という悪循環が始まると、国債が暴落する。さらに資産逃避で円が下がると輸入物価が上がり、インフレが加速する。
もちろんこれは1つのシナリオであり、そうならない可能性もある。安倍氏が考えているように、徐々に通貨供給を増やしていけば、どこかで日本経済がデフレを脱却し、2%程度のマイルドなインフレが起こって長期にわたって続く可能性もゼロではない。
しかし、それにどういうメリットがあるのだろうか。安倍氏の頭には、漠然とデフレ=不況、インフレ=好況というイメージがあるものと思われるが、デフレは不況の結果であって原因ではない。同様に景気がいいとインフレになるが、その逆は必ずしも成り立たない。
白川総裁も言うように「国民が望んでいるデフレ脱却は、単に物価だけが上昇する事態ではない」。賃金が変わらないのに物価だけが上がると、労働者は貧しくなる。長期金利が上がると、財政危機が深刻化する。銀行も大量に国債を保有しているので、大きな含み損を抱え、金融危機が起こるだろう。
インフレのメリットは、実質賃金や実質債務が軽減されて企業経営が楽になることだが、2000年代のデフレは企業の行動に織り込まれて実質賃金も実質債務も下がっており、デフレの悪影響はほとんどなくなった。残るのは「デフレだと何となく不景気な感じがする」という気持ちの問題ぐらいだろう。
それに対してハイパーインフレが起こって金融資産が消滅した場合は、財政も崩壊する。人為的インフレ政策は成功しても大した意味はないが、失敗すると日本経済が崩壊する「ハイリスク・ノーリターン」の賭けである。
安倍氏が責任を取れるなら自由に賭ければいいが、無謀なギャンブルに全国民を巻き込まないでほしいものだ。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/print/36607
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