23. 2013年5月24日 17:19:53
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キラキラネームとリスクマネジメント マキァヴェッリ先生ならこう考える(49) 2013年05月24日(Fri) 有坪 民雄 何年か前から、いわゆる「キラキラネーム」が世間の話題に上ることが多くなりました。 日本にはない名前を子供に付けたいと、名前に当て字を使うことは過去にもありました。筆者の知る、最も古い例は森鴎外の子供の名前です。鴎外は自分の本名である林太郎がドイツ留学時になかなか覚えてもらえなかったため、子供には外国人に覚えやすい語感の名前を付け、漢字を当てたと言われています。 損失を最小限に食い止められる道を選ぶ (「書簡」マキァヴェッリ全集第6巻、松本典昭、和栗珠里訳、筑摩書房) 1514年、マキァヴェッリはフィレンツェの教皇庁大使になっている友人のフランチェスコ・ヴェットーリと何度も手紙の交換をしていました。 教皇がヴェットーリに相談したのでしょうか。ある日、マキァヴェッリはヴェットーリから教皇庁の政策に対する助言を求める手紙をもらいます。政変によってフィレンツェ政庁をクビになって2年。サンタンドレアの別荘に引きこもって「君主論」や「ディスコルシ」を書いていた頃です。 自分の能力が求められていると喜んだマキァヴェッリは、長い手紙を書いて懇切丁寧に教皇庁はどうすべきかを説明します。当時の教皇庁は、ヨーロッパ世界の3大勢力のうち、どこに味方すればいいのか、それとも中立を選べばいいのか分からなかったのです。3大勢力とは、以下の3つの勢力です。 (1)フランス、イングランド (2)ヴェネツィア (3)スイス、スペイン、神聖ローマ帝国 ミラノを取ったフランスにヴェネツィアが挑もうと画策し、スベインはフランスがヴェネツィアに気を取られている隙を見てフランスを叩こうとしている状況でした。そしてフランスがヴェネツィアを叩く隙にスベインが悪さしようとしたらイングランドがスペインを叩きに来ることが予想されるなど、国際関係は複雑な状況でした。そんな中、教皇庁にとって最もよい選択は、マキァヴェッリ曰く「フランスにつけ」でした。 その理由は、これまでの連載で紹介してきたマキァヴェッリの意思決定のノウハウが手紙のあっちこっちに顔を出していて紹介しきれないほどなのですが、一言で言えば「最悪の事態を想定し、どうすれば損失を最小限に食い止められるか」を意思決定の基準にせよ、ということです。 具体的には、この3大勢力のうちどの勢力が勝っても負けても、一番教皇庁にとって問題が少ないのがフランスだとマキァヴェッリは判断したのです。なぜなら、当時、教皇庁はローマとフランスのアヴィニョンに拠点があったからです。 フランスが勝った場合を考えましょう。教皇庁がフランスについていたら問題は何もありません。しかし、もし教皇庁がフランスに敵対していてフランスが勝てば、アヴィニョンもローマも取られてしまうかもしれません。 逆にフランスが負けた時、教皇庁が勝った敵勢力についていたらこれも問題ありませんが、ついた勢力が勝つかどうかは分かりません。しかしフランスの味方をしていたら、他勢力が勝ってローマをとられることになっても、アヴィニョンは残っているのです。 当時最強の陸軍国と目されていたフランスは、たとえ戦争に負けるとなってもなくなることはないし、引き続き強い勢力を維持し続けるだろうと予想できる。ならば、最悪ローマを追われた場合でもアヴィニョンを残せるフランスにつけということです。 名前で親の教養がうかがい知れる? 個人も企業も国家も、できるものなら危機に陥ることなくやっていきたいものですが、実際はそうもいきません。しかし、危機に陥る原因を減らすことはできます。例えば他国から侵略されたくないなら、強い軍隊を持っていれば敵はおいそれと攻めてはきません。 子供の名前ひとつをとっても、将来危機を招くかもしれないような名前を付けるのは、親が注意すれば避けることができます。 キラキラネームの場合、他者が何より困るのは、名前が読めないことです。ふりがなを打たなければどう読んでいいか分からない名前だというだけで、この子の名付け親は、他者が名前を読むのに困ることなど考えていないと判断されても仕方がありません。 さらに、子供にどんな名前を付けるのかで、親の知性を推し量る人もいます。親が教養人として有名なら、それで通用することもあるでしょう。森鴎外の場合は、まさにそれですし、鴎外の時代はまだそうした名前を付ける人は少なかったでしょうから、珍しい名前だと思われていた程度ですんだでしょう。しかし現在のように数が多くなり、しかも親が鴎外のような教養人ばかりでもないとなると、人々の態度は変わります。 企業の人事担当者の立場に立って考えると、明らかに優秀だといった場合は別として、同じくらいの水準で甲乙つけがたい学生数人のうち半分を落とさなければならないとなった場合、キラキラネームを持つ学生をまず落とすなんてこともあり得るでしょう。理由は、子供にどんな名前を付けるかで親の知性が判断でき、子供は親に似ることが多いだろうからです。 キラキラネームを付ける親の立場に立ってみれば、本人たちは子供の幸福を願って付けているのでしょうが、キラキラネームを持つ子供の将来リスクは、キラキラネームを付けなければ防げます。ならば、付けないのが正解なのです。 |