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【第52回】 2012年11月15日 高橋洋一 [嘉悦大学教授]
12月16日総選挙決定!景気後退下のいま本当に争点とすべきこと
特例公債法案について、民自公3党が合意し成立が確実になった。これで、予算切れによっ
て日本版「財政の崖」が回避できたのは評価できるが、その過程で、国会できちんとした「交
渉」ができないことが浮き彫りになった。
特例公債騒動で得をしたのは誰?
合意内容は3党の幹事長・政調会長の確認書にあるが、その中で、「……公債発行額の抑制
に取り組むことを前提に、……2015年度までの4年間は特例公債法の発行を認める」とある。
この前提をどのように担保するかが問題であるが、それには言及されていない。「財政の崖
」を一時的に凌ぐために、今年度予算書では資金繰り債20兆円の発行が書かれているが、財務
省はそれを財政規律の観点から財政法上一切認めなかった。その一方で、地方交付税交付金の
抑制をしたため、地方公共団体では財政運営に支障が出るため、民間からの一時借入で凌がざ
るを得なかった。
ただ、よく考えてみれば、財政関係法律は、国と地方で基本的には同じである。財務省が根
拠とする財政法と同じことが、地方自治法にも地方自治体の一時借入金について「その会計年
度の歳入をもって償還しなければならない」と書いてある(235条の3)。
このように特例公債法案では、財務省の横暴ばかりが目立つ。それを唯一抑えるのが、国会
での予算修正だ。
ところが、民自公の3党合意では、2015年度までの4年間は赤字国債の自動発行が認められた
。特例公債法は、それを通すかわりに政府予算案(=財務省原案)を修正するという、国会の
予算審議のために使うべきものだ。海外では国会での予算修正は当たり前だ。ところが、自動
発行が可能になった3党合意は、「予算は財務省原案に指一つふれさせない。だから、国会で
政府予算案を修正させない」という財務省の思惑にまんまと乗せられたことになる。
景気後退期の総選挙に
いずれにしても、特例公債法案が成立するので、政局は、年内解散に向けて急速に動き出し
た。14日の党首討論で、野田首相が16日解散を明言して、12月16日投開票、都知事選とのダブ
ル選挙と決まった。しかも、「TPPを争点に」ということだ。
野田首相が消費税を上げないと言って上げた「ウソつき」が発端であるものの、TPPが争
点ということで、民主党内から野田おろしが起こるが、野田首相としてはそこで負ければ政治
生命が終わり、解散権は首相にあるので、首相が勝つ。ただ、離党者が増える。もっとも年内
解散は、第三極の準備不足のうちに選挙するという財務省のシナリオだ。
解散はいいが、この時期である。ただでさえ、年末は資金繰りなどで苦しいところも多くな
る。とくに、昨今の景気減速である。
内閣府が12日に発表した7〜9月期の実質国内総生産(GDP)は前期比マイナス0.9%、年
率換算マイナス3.5%と、景気後退が鮮明になっている。9月の鉱工業生産は前月比4.1%低下
し、低下幅はリーマンショックと大震災以外では最大の落ち込みだ。
この景気減速は、自動車と自動車関連業界の落ち込みによるところが大きい。自動車業界の
売上高は輸出依存が高いので、為替レートに連動しているように思える。たしかに、リーマン
ショックの2008年10〜12月期まではそのとおりで、自動車業界の売上高と為替レートの相関係
数は7割と高い。ところが、2009年1〜3月期以降は、その関係が崩れ、ほとんど相関がなくな
る。これはエコカー減税やエコカー補助金が導入されたからである。エコカー減税・エコカー
補助金の威力は大きく、20兆円以上の売上の下支えをしただろう。
政府・日銀は円高を放置した代わりに減税・補助金で自動車業界を支えていたわけだが、こ
こに来て、財政支援ができなくなり、円高の影響をもろに受けて、失速気味になっているわけ
だ。ちなみに、本コラムの読者であれば、円高が金融政策の失敗であることもご存じだろう(
11月1日付け本コラムなど)。
こうした円高放置による弊害は、家電業界ですでに出ている。マスコミ、エコノミスト諸氏
は、シャープ、パナソニックの経営不振を経営の失敗と捉えているが、これは「木を見て森を
見ず」の典型だ。実は、家電業界の売上高と為替レートをみると、最近まで相関係数は8割に
なっている。売上高と損益には関係があり、業界全体の損益分岐点の売上高に対応する為替レ
ートは1ドル=80円だ。つまり、今の為替レートでは、まともに経営していても、潰れるとこ
ろがかなりの数になってしまう。
例えてみると、今の円高は平均点が20点しか見込めない難しい試験を出して、真面目に勉強
した人でも20点しか取れず、不出来だと言われているようなものだ。円安にすれば、平均点70
点の試験で、らくらく70点が取れるのに、である。
先日あるマスコミから取材されたが、今の為替レートは購買力平価で見れば高くない、実質
実効為替レートで見れば高くないなどと言われた。記者は不勉強なので、こうした用語の正し
い意味を知らないようだった。そんなものは基準点の取り方次第でどうとでも言える。輸出関
係の現場でそうした意見を言って、反応をみたほうがいいと言っておいた。
この時点での解散・総選挙もいいが、せめて、円高くらいは直してくれと言いたい。円高を
是正するという程度の話は、30〜50兆円の金融緩和をするだけなので、現政権がその気になれ
ばすぐできると、小泉・安倍政権における筆者の経験から言える。もしやらなければ、それも
選挙の争点にしたらいい。
TPPは総選挙の争点になるか
それにしても、「TPPを争点に」というが、本当に争点になるのだろうか。本来は、消費
税の「ウソつき」を争点にしたいところだ。今の段階で言えるのは、「TPP交渉への参加」
だけであり、TPPの中身がわからない以上、「TPPそのものへの賛否」は言えるはずがな
い。
筆者はテレビ番組でTPP交渉への参加について、合コンに行くようなモノだと発言したこ
とがある。行かなければどんな男性、女性がいるかもわからず、その後のつきあいも結婚もで
きない。ある政治家は、「この合コンに行くと結婚しなければいけない」と言っており、国際
交渉なんて建前で協定締結が前提と言うが、実のところ中途退席は自由だ。もし不都合なら最
後にやめればいい。初めから締結するなら、交渉なんて意味がない。
TPPそのものについては、2011年2月10日付け本コラムで書いたように、日本も海外も
win-winの可能性が高い。だから「合コン」に参加するわけだ。
なお、貿易交渉の「合コン」は、TPPの他にも「日中韓FTA」、「ASEAN+」から
発展した「RCEP」、「日EUのEPA」等他にもあるが、それらには参加する。にもかか
わらず、なぜTPPだけ特別扱いなのかさっぱりわからない。
こう考えると、「TPP交渉への参加」は当たり前で、選挙の争点にどうしてなるのか、筆
者としては疑問に思っている。
国際交渉をしたことがある人ならば知っているが、交渉が進んでいけば、必ず交渉は国内法
の改正という形で目に見えてくる。その時に国民は反対すればいい。逆にいえば、国民が反対
するような交渉はその前に止める。
しかし、「TPPの反対」の人は、今の段階では「TPP交渉への参加」に反対だから、T
PP交渉に日本が必ず負けるという前提に立っている。他の貿易交渉については文句を言わな
いようだから、他の交渉では必ず日本が勝つという前提なのだろうか。
TPPに反対するのは「国を愛する保守系」ということになっているが、かなり内弁慶な人
で、国内でひたすら反対スローガンを叫んでいるだけの人たちだろう。どこか、竹島や北方四
島問題で、日本の固有の領土と叫んでいるだけで満足している人々と似ているところがある。
第三極団結の突破口
最後に、選挙となると、第三極の動きがどうなるのか。筆者は、第三極の人たちと近いとい
われ、その取材も多い。
橋下徹(日本維新の会)、石原慎太郎(太陽の党)、渡辺喜美(みんなの党)の各氏は、政
治家として人間関係はうまくやっていけるだろう。ただ、維新の会とみんなの党の政策は似て
いるが、太陽の党とは違うとされている(この党名は、関西人には「太陽の塔」を連想させる
。関西人への配慮か〈笑〉)。選挙区調整もまだまだともいわれている。
ただ、そのブレークスルーはあるかもしれない。石原氏の後継として猪瀬直樹東京都副知事
の名前がでている。自民党も推薦するようだ。猪瀬氏が都知事選に出馬する場合、この3党は
選挙協力できる可能性がでてくる。実は、橋下氏、渡辺氏、猪瀬氏の関係者には共通する人が
多く(筆者も小泉政権時代に道路公団民営化、郵政民営化や地方分権改革でその一人)、地方
分権、脱官僚などで政策はかなり似通っているからだ。
これが一つの突破口になって、これら3党が協力連携関係になる可能性はあるだろう。
http://diamond.jp/articles/print/27950
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