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【第256回】 2012年11月14日 山崎 元 [経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員]
野田政権「年内TPP解散」の可能性と利害得失
ここにきて増え始めた解散観測
野田政権「年内解散」はあるのか
米国では、接戦の末、現職で民主党のオバマ大統領が再選を果たした。一方、日本では、いかに選挙は水物とは言え、次の総選挙で現職の野田首相率いる民主党は接戦にはるか届かない大敗を喫すると予想される情勢だ。
民主党の多くの衆議院議員は「今解散するなど、とんでもない」と思っているだろうし、幹部の諸氏の多くも政権の座に1日でも長くいたいだろう。
また、来年まで選挙を持ち越す方が1月1日時点の所属国会議員数で決まる政党助成金の額が多いといった計算も働くかも知れない。
しかし、ここ数日、自公両党が審議に応じて特例公債法案の成立にメドが立ったこともあって、急に「年内解散」の観測が増えて来た。
首相が先週、「(解散)判断の時期が近づいている」として、党側に選挙準備の加速を指示したという報道もあるし、輿石幹事長に年内解散の意思を伝えたとの報道もある。
年内、あるいは年明けに投票が行なわれるような早期の解散は、あるのか、ないのか。
予め筆者の予想を述べるなら、早期解散は「十分にあり得る」と思う。そこにはいくつかのレベルの「合理性」があるからだ。
野田首相は、TPP(環太平洋経済連携協定)への交渉参加を18日〜20日にカンボジアで開かれる東アジア首脳会議(オバマ米大統領の参加が予定されている)で表明すると共に、次期総選挙に向け民主党のマニフェストにTPP参加の方針を明記することを検討しているという(たとえば「読売新聞」11月9日朝刊)。
民主党の党内事情を考えるなら、TPP参加方針の明確化は、党の分裂、さらには、野田内閣に対する不信任案の可決につながりかねない危険な賭けだ。民主党内には、固い持論として、あるいは選挙区の事情によって、TPP参加に強力に反対する衆議院議員が少なくとも二桁の人数はいるはずだ。
彼らは、次の総選挙を考慮した場合に、民主党公認の後ろ盾よりも、「地元のためにTPP反対」を取るのではないか。だとすれば、この状況で内閣不信任案が出ると、同案は可決する可能性が十分ある。負けることがわかっている解散と、不信任案可決による内閣総辞職と、一般論としてどちらが不名誉なのかは知らないが、野田氏は首相の座から滑り落ちる。
野田首相にとって悪くない
「TPP花道」仮説
しかし、野田氏個人の立場に立つと、TPP推進への傾斜は案外悪くない選択だ。
どのみち、遠からず彼は首相ではなくなるのだ。ただし彼は、まだ満55歳だ。政治家としては、健康でさえあれば、もう20年ぐらい「現役」期間がある。一方、民主党は当面の縮小・衰退の見通しが濃厚だし、実質的に消滅してしまう可能性すらある。
野田氏が、倒産が不可避の会社の雇われ社長のごとく、会社の延命よりも将来の自分の人生を優先する合理性は、十分存在する。
こう考えた場合、日本のTPP参加が米国の意向に沿うものだとすると、野田氏は、消費税率引き上げで財務省に対して尽くし、加えて米国にも忠義に振る舞った首相として、政治的余生を過ごすことができる。日本の実質的な二大権力である財務省とアメリカに対して、点数を稼ぐことができるのだ。
これは、キャリア、派閥の大きさ、家柄、資金力、人気などから考えられる野田氏の「政治家としての元値」を考えると、悪い話ではあるまい。
同じく、松下政経塾出身の前原誠司氏などに先駆けて首相にもなったし、政策や解散の経緯などで顔が立つなら、野田氏は「1日でも長く首相ポストにいたい」というこだわりをあまり強く持っていないのではないか。だいいち、どう見ても長期政権は無理だ。無理なものは望むまい。
だとすると、消費税の次にTPPの旗を掲げて、案外あっさりと解散する可能性はあると考えるべきだろう。
野田氏は「消費税とTPPにカラダを張った男」として花道を飾る。少々気の毒なのは、まだ十分出世していない、また次の選挙で大量に落選すると予想される他の民主党議員さんたちだが、彼らはそういうビジネスを選んだのだから、仕方があるまい。
なお、政局上のキーマンの1人であり、早期解散に反対し続けてきたと言われる民主党の輿石東幹事長にとっても、早期解散は今やそう悪くない選択肢のはずだ。野田政権を来年の、たとえば予算案成立まで引っ張ると、夏の参議院選挙とあまりに近付きすぎる。輿石氏は、もともとの牙城である参院での党勢を重視するはずだし、自らの選挙だって気になるだろう。
早期解散で総選挙に敗れたなら、野田氏は代表を降りるだろう。これは民主党にとって好都合だ。
たとえば、輿石氏のお気に入りと見える細野剛志氏のような人に代表をすげ替えて、野党として多少は攻勢を取ることができようし(今さら、それで大きな効果があるとは思えないが、野田氏の続投よりはマシだ)、場合によっては、小沢一郎氏と国民の生活が第一の旧民主党員の復党を画策する道もある。
解散戦略を考える大きなファクター
国政の勢力図を変える都知事選の重み
今回、解散戦略について考えるべき大きなファクターとして、石原都知事の「投げ出し」によって生じた都知事選がある。
もともと東京都知事というポストには、「首相未満、閣僚以上」というくらいの影響力と重みがある。これまでの石原流の「後出し戦術」が浸透した結果か、11月29日告示、12月16日投票とスケジュールだけ決まっていて、まだ立候補者がはっきりしないが、今回の都知事選は、東京の行政の長を決めるということ以外に、国政レベルの勢力図を決める上で大きな意味を持っている。
ご本人の確言がない中で先を決めつけた予想をするのは心苦しいが、石原慎太郎氏が後継者に指名した猪瀬直樹副知事は、出馬するだろうし、その場合、本命候補だろう。
本命の猪瀬氏には十分勝算がある
「第三極」が結集し勝利する可能性も
猪瀬氏が出馬するとどうなるか。
同氏は、これまでの経歴と主張から見て、利権と結びついた官僚制度と中央集権的な日本の統治機構に対する改革(以下「官僚機構改革」と総称する)を訴えて、知事選を戦うことになるだろう。
ここで、メインになる選挙カーの壇上を想像してみよう。
猪瀬氏を指名した石原慎太郎氏は、当然応援演説に駆けつけるだろう(ご高齢故に、回数は少ないとしても)。加えて、官僚機構改革を看板に掲げる日本維新の会の橋下徹代表、みんなの党の渡辺喜美代表も、猪瀬氏の応援に回って演説することになろう。いわゆる「第三極」の結集として、ビジュアルにもインパクトのある光景だし、猪瀬氏には十分な勝算がありそうだ。
これはつまり、都知事選を通じて、現在はバラバラに見える、いわゆる「第三極」(日本維新の会、みんなの党、石原新党など)は、(1)大同団結のために共通のスローガンを得て、(2)共通の敵と選挙戦を戦い、(3)実際に勝利を得る、という経験を手にする可能性が大きいということだ。
こうして、第三極の大同団結成功モデルが成立すると、この動きは、国政レベルで加速する可能性がある。野田政権を実質的に支えている官僚機構とその共栄者たちにとって、これは悪夢のシナリオだろう。
以下は筆者の推測だが、最近になってメディアが、石原慎太郎氏の隠し子問題をことさらに取り上げたり、第三極間の対立が執拗に報じられたりするのは、彼らの警戒感の表れではないかと考えている。
また、橋下徹氏が、昨今他の第三極勢力との政策の差を強調し、連携に冷水を浴びせているように見せているのは、都知事選に第三極結集のピークを持ってくるために、鮮度が落ちないように時間調整しているのではないか、とさえ思える。
TPP参加を強調した
早期解散シナリオに合理性
野田政権(実質的には官僚機構)側としては、どうすればいいか。まずは、都知事選で猪瀬候補を潰すことを考えるだろうが、これが上手く行かない場合のダメージ・コントロールを考えなければならない。
こう考えたときに、TPP参加を強調した早期解散シナリオには一定の戦略的合理性がある。
1つには、第三極の連携と選挙準備が整わないうちに総選挙を戦っておく方がより安全だという読みだ。
第三極側の最大の弱点は、候補者の「タマ」が十分に揃っていないことだ。加えて、目下選挙協力の合意と調整ができているようには思えない。だがこれらは、成功事例としての都知事選があれば急速に進展する可能性がある。
ならば、第三極の人的主導権争いと政策的な対立が解決しないうちに、都知事選にぶつけるくらいのタイミングで総選挙を仕掛けることには戦略的な合理性がある。
特にTPPは、石原新党(「太陽の党」という名になるらしいが)の母体と目されるたちあがれ日本と、日本維新の会及びみんなの党との間での対立が明確なテーマだ。次の総選挙を「TPP解散」と位置づけて、メディアを使ってもっぱらTPPに焦点を絞った話題作りで選挙戦を戦うと、第三極側の政策的な不一致を強調できる可能性がある。
早期解散の場合、投票日はいつになるだろうか。民主党としては、1月1日時点の在籍国会議員数で決まる政党助成金を考えると、年内解散、来年1月投票、くらいにしたいところだろうが、投票が後ズレするほど第三極側の体制が整い、彼らの勢力が伸びるリスクが(民主党側には)ある。
官僚機構改革には親和性あり
安倍・自民党はどう出るか?
都知事選を巡る不確定で重要な要素の1つは、安倍晋三新総裁の下で自民党がどう出るかだ。
自民党の都議と猪瀬副知事とは折り合いが良くないと伝えられており、自民党の都議団を中心に、舛添要一氏を都知事選の候補者として担ごうとする動きがあるとも報じられている。
一方、小泉政権で道路公団の改革に参加した猪瀬氏と、全く未達ながらも、第一期安倍政権当時、渡辺喜美氏を使って官僚制度改革に挑んだ安部氏は、「官僚機構改革」に関しては、路線的な親和性を持っているはずだ。
自民党としては、第三極の結集前に猪瀬氏に乗る戦略が最も賢いように思われるが、都知事選に対する自民党の対応は、次期総理の下馬評の高い安倍新総裁の官僚機構に対するスタンスと、党内での指導力を測る上で、注目すべきテスト・ケースと言える。
正直なところ、「また、政局か」というげんなりした気持ちも抑えがたいのだが、流動的な政治情勢から目を離せない。焦点は、あくまでも官僚機構に対して政治がどのように関わることになるかだ。
http://diamond.jp/articles/print/27863
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