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[検証]復興予算、想定内の「流用」
拡大解釈・防災名目、与野党の思惑一致
東日本大震災の復興予算が被災地と関係の薄い事業に使われていたことが明らかになった。「流用」を生んだのは復興基本法の拡大解釈と、防災を名目にした各省庁の便乗要求だ。予算獲得を最優先する省庁と地元への利益誘導を狙う議員に歯止めをかけられない、野放図な予算編成の実態が浮かび上がる。
復興予算は2011年度から5年間で総額19兆円。11年度に4度にわたって補正予算を編成したほか、12年度以降は特別会計を設けて執行を管理している。主な財源は復興増税。所得税・住民税を長期にわたって増税するほか、法人税減税も実施を先送りした。
本来、震災復興に使われるはずの予算が被災地と関係の薄い事業に使われていた理由を検証すると、ふたつの「抜け道」が浮かびあがる。ひとつは中央省庁による復興基本法の拡大解釈だ。
「無理筋」認める
毎年度の当初予算では、政策経費の一律10%カットなど厳しい削減目標が各省庁に課せられる。これに対し、補正予算や特別会計は査定が甘くなりがち。一般会計では新規の予算要求や継続が難しい事業に「復興」の看板を掛けることで便乗を狙った事例が多い。
例えば経済産業省は11年度第3次補正予算で、海外のレアアース(希土類)鉱山の買収資金に80億円を計上した。資源エネルギー庁は「中国への調達依存から抜け出さないと、国内の自動車産業の競争力が弱まり、空洞化が加速しかねない。被災地には自動車部品業も多く、復興に役立つ」と説明する。だが、レアアースの調達先が広がる恩恵を受けるのは、被災地の企業だけではない。
農水省は調査捕鯨の支援経費として23億円を計上。「捕鯨基地がある宮城県石巻市の復興につながる」というのが表向きの理由だが、実際には事業主体である財団法人「日本鯨類研究所」に18億円が回った。
反捕鯨団体「シー・シェパード」による妨害活動で鯨の捕獲頭数が目標に達せず販売収入が激減、同財団が債務超過に陥ったためだ。農水省幹部は「無理筋だったかもしれないが、調査捕鯨を続けるためにやむを得なかった」と釈明する。
もうひとつの抜け道が「全国防災対策費」。首都直下地震や東南海地震など将来の災害に備える名目で、道路や橋、岸壁の整備や庁舎改修など被災地以外の防災事業にも予算を回す制度だ。5年間で1兆円超を充てる予定だったが、12年度当初予算までにほぼ枠を使い切った。
国税庁は昨年度3次補正予算で全国の税務署の耐震改修費として12億円を計上した。首都圏など被災地以外の税務署も含まれる。
財務省査定甘く
予算を査定する財務省側も総額19兆円という数字の積み上げに腐心した面がある。復興増税という特別な財源が用意されたこともあり、結果として通常の予算に比べて甘い査定になった面がある。「便乗要望」が国会での予算審議の対象になった形跡もない。
防災を名目にした全国での公共事業の積み増しは、与野党双方の国会議員が働きかけた結果でもある。復興予算の「流用」を批判する野党に対し、政府・民主党は「自民党や公明党から被災地に限定しないで全国で予算を使えるようにすべきだとの議論があった」(蓮舫・元行政刷新相)と反論する。
復興予算で焦点となったのは財源を捻出する復興増税。被災地に限らず、所得税や住民税を増税する枠組みへの野党の理解を得るために、全国に予算をばらまけるよう政府・与党が法案段階で復興基本法に修正を施した事実は否めない。
(経済部 粟井康夫)
基本法そのものに問題
財源の大半を復興増税でまかなう政府の支出を被災地の復旧・復興と関係ない事業に使ったことに対し、野田政権に心から反省している様子はみえない。首相は先週、衆院本会議での所信表明演説でこう述べた。
「予算の使途にさまざまな批判が寄せられた」「被災地が真に必要な予算はしっかりと手当てし、それ以外は厳しく絞り込む」
みずからの非にはふれず、思わぬ批判が出たのでこれからは真面目にやる、と言っているようなものだ。
責任回避の姿勢がつよいわけは、2011年6月施行の復興基本法にある。目的をさだめた1条は、復興推進とともに「活力ある日本再生」を挙げている。2条の基本理念は「地域文化の振興、地域社会の絆強化、共生社会の実現」に役立つ施策を推進するとある。
11年度に菅、野田両政権が4度にわたって編成した補正予算のうち、とくに大盤振る舞いが目立つ3次補正は、これらの条文を忠実に具現させた。首相にしてみれば法にしたがったまでだ、と言いたいに違いない。つまり、すでに国会で成立させた予算に組み替えの余地は残っていないわけだ。12年度補正や13年度の当初予算も、基本法を改正でもしないかぎりは皮相的な絞り込みに終わる心配がある。
政権がすべきはなにか。まず、復興に総額19兆円が必要だとはじいた政府試算の検証だ。同時に「概算要求基準を当初予算にだけ適用するやり方から、復興のための特別会計を連結させた決算で基準を守るしくみ」(財務省出身の田中秀明・明治大教授)に変えるのが有効だろう。
民主党政権になって3年あまり。この期におよんでも被災者と被災地の切実なねがいに十分に応えられないのは、経済・財政運営の司令塔を不在にさせたまま予算編成をつづけてきた当然の帰結である。
(編集委員 大林尚)
[日経新聞11月4日朝刊P.13]
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