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(回答先: 無謬の政治家の陥穽について (内田樹の研究室) 投稿者 五月晴郎 日時 2012 年 10 月 29 日 17:17:58)
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メディアでは批判対象になることが多い公務員。公務員の中でも最上位にある霞ヶ関のキャリア官僚は、今の自分たちの待遇や政治状況、メディアでの扱い方について、どのように考えているのだろうか。
今年3月、1人のキャリア官僚が自身の給与をブログで公開し、注目を集めた。このブログの筆者は、経済産業省の若手キャリア官僚である宇佐美典也氏。先日経済産業省を退官し、「30歳キャリア官僚が最後にどうしても伝えたいこと」を上梓したばかりの元キャリア官僚、宇佐美氏に話を聞いた。【取材・執筆:大谷広太、永田正行(BLOGOS編集部)】
ブログを始めて「プラスになったことはほとんどない」
―まずは著書を出された経緯をお聞かせください。
宇佐美典也氏(以下、宇佐美):経緯は単純で、ブログを読んだ出版社の方から「本を出してみないか」と声を掛けていただいたんです。経済産業省を退職する覚悟は決めていたので、官僚というキャリアを終えるのであれば、一つの区切りをつける意味で本を書くのも良いかな、と思って引き受けました。
―ブログを始めたり、情報発信を強化することによって、職場における周囲の反応が変わったりしたことはありましたか。
宇佐美:事前にコンプライアンス規定などを読みこんで、それに抵触しない範囲でブログを始めたこともあり、人事や広報部局からは一言「やり過ぎないように気をつけてね」と注意されたくらいでした。ただ総じて、職場においてブログを始めたことがプラスに作用したことはありませんでした。あまり具体的なことを言うと迷惑が掛かるので控えますが、「ブログなんて辞めろ」と圧力をかけてくる人もいました。逆に陰で応援してくれる人もたくさんいましたが。
—同期など年齢の近い官僚の方の反応は、どういったものでしたか。
宇佐美:全体の9割が応援の声でした。「よくぞ言ってくれた!」というメールをもらうことも多かったです。あとの1割は「調子に乗るな、やめろ」というようなネガティブな意見と「そんなことして大丈夫??」といった心配の声が半々でした。
―これは著書の中でも書かれていたのですが、私たちも同世代の官僚の働き方を見聞きしていると、残業も非常に多いですし、いわゆる” ブラック企業的”な働き方をしていると思います。メディアに叩かれながらも、そうした激務に耐えていけるのは「国の為」という志があると思うのですが、文字にしてしまうと「本当かよ」と思ってしまいます。宇佐美さんご自身は、そうした厳しい労働環境の中でどうやってモチベーションを保っていたのでしょうか。
宇佐美:仕事の魅力が大きかったので多少の無理も我慢できた、という面が大きかったです。官僚という仕事の魅力は、3点ほどあると私は思っています。
一つは仕事の大きさです。私が退官する直前まで携わっていた仕事では年間数十億、数百億という単位の研究開発資金の差配を担当していました。これだけの規模のお金を30歳で任されるということは、他の仕事でなかなかないでしょう。
もう一つは、法律や税制の仕組み作りなど直接的に”権力”に携われるということです。新しい制度を作る時は、一流の研究者や会社経営者など多くの優秀な方と議論する機会が得られますし、そうした知見を活用して法律にまとめあげていく作業は激務ではありましたが大変勉強にもなり結構楽しかったです。
さらに、交渉において国を代表する誇りを味わえることです。古いようですが日の丸を背負うというのはやはり日本人冥利に尽きるという部分がありました。
―国を代表するということは、逆にストレス要因にもなりえると思います。「こんなの俺みたいな若造が判断していいのか」というようなプレッシャーは日々の業務の中であるのでしょうか。
宇佐美:ありましたね。一例を挙げると半導体業界の国家プロジェクトの再編を担当していた時には重圧で、食事が喉を通らず「なんで俺がこんな損な役回りをこなさなきゃいけないんだよ、嫌になっちゃうよ」というのが口癖になっていました。
そのときは、官民折半で研究開発費として200億円調達する枠組み作りを担当していました。企業側に100億円調達してもらわなければならないのですが、当然一社で100億円すべてを出すのは難しいので様々な調整が必要となりました。十社以上にのぼる企業の間でどのように資金を分担させるか、また外国企業と日本企業の間で知財活用ルールについて、どのように差を設けるかといった点に頭を悩ませていました。一方で政府側としても国会で予算が承認されるまでは「100億出す!」と完全には言い切れない。財務省も当然渋い顔をする。そういう状況であっても、プロジェクトで注力すべき研究開発領域もつめていなかければならない。日々ギリギリの調整でした。
—辞めるにあたって、引き止めなどはあったのでしょうか。
宇佐美:ありがたいことに、辞職の意向を人事に伝えた当初から引き止めてもらえました。自分がスタンドプレーをしていることは重々感じていたので、変なことを言うようですが、引き止めてもらえて正直嬉しかったです。「経済産業省も度量が広いな」と感じました。
メディアに登場する元官僚は霞ヶ関では「芸人枠」
—官僚というと、メディア的には悪役になることが多いと思います。経済産業省というと、今原発問題の黒幕のような書かれ方をしますし、財務省の勝栄二郎前次官といえば消費税増税を推し進める大悪党といった取り上げ方がされていました。こうしたメディアにおける官僚悪玉論について、霞ヶ関内部の人間は、どのように感じているのでしょうか?
宇佐美:あくまで私個人の見方ですが、大手メディアの官僚批判については“ビジネスなんだからしょうがない”と割り切っています。わかりやすい敵・悪い奴がいたほうが、出版物も売りやすいということなんでしょう。それに何となくマスコミが官僚を褒め称えるよりも、批判した方が世の中として健全だと思いますしね。
その意味では、私はマスコミの方々がしばしば「自分たちは社会の公器である」という風に主張することには強い違和感を感じています。大切なのは報道の自由であって、大手新聞社やテレビ局自体が大事なわけではまったくない。新聞もテレビも株式会社であり儲かるために記事や番組を作っているに過ぎないんじゃないでしょうか。だったら法律を犯していない以上、儲ける為に彼らが何をしようが彼らの勝手だと思っています。
ただマスコミに限らず官僚に関する報道一般に対して疑問を感じる点は確かにあります。本音を言えば、組織としての取材はともかく、人に対する取材においては官僚についても一般企業と同じ基準でして欲しいんですよ。新聞が一般企業を取り上げる場合、普通成功した人に焦点を当てますよね。例えば、躍進している企業の経営者や画期的な製品開発をした人などです。逆に変な報道をしたら名誉毀損で訴えられます。
それが官庁の場合、極論やトンチンカンな主張をして組織を飛び出した人がヒーローに仕立て上げられてしまう。典型的なのは古賀茂明さんで、あの人は官僚社会で決して大きな成果を上げたわけではないんですよ。「自分の理想に溺れて公務員制度改革に失敗したドン・キホーテ」。それが官僚社会における古賀さんの現実です。彼がその後やったことは非常に政治的で民主主義社会における官僚の役割をはるかに超えたものです。失敗者に焦点を当てると、悪い例をいい例と世の中の人は見なしてしまいますから、それだけはやめてほしいと思います。
—古賀茂明氏、高橋洋一氏といった元官僚の方は霞ヶ関を批判することが多いですよね。
宇佐美:彼らはそれが生活の糧ですからね。霞ヶ関がまともなことをしたら困っちゃうわけですよ。彼らが日々の収入を得る為には霞ヶ関は悪の権化でなければならないわけです。本来取り上げられるべきなのはそういったトリックスターたちではなくて、こつこつと官僚機構内で立派に成果を上げている人なのではないでしょうか。
例えば経済産業省でレアメタルの対策をしていた人たちです。彼らは平成17年の時点で、いつか必ずレアメタル危機がくると予測していました。そこで民間企業や関係省庁を集めて、レアメタルの使用状況を細かく分析してリスク評価をしています。そして、リデュース・リユース・リサイクルという枠組みで戦略を策定して、5年間に渡って準備を進めていました。そういう対策をしてきたからこそ、レアメタル危機であれだけ中国が強気にきても、それほど大きな問題にならなかった
こうしたレアメタル対策を仕切ってきた担当者は古賀さんとほぼ同じ年次ですが、その人はまったくメディアに取り上げられない。ちょっとおかしいんじゃないかと思わざるを得ないですよね。本当は、普通の人には見えない努力の成果を発掘して伝えることも報道機関の役割だと思うんですが、残念ながら今の報道機関の多くはそういった隠れた成果を発掘する努力をしませんよね。
—官僚も当然人間ですから、批判ばかりだとモチベーションも低下してしまうと。
宇佐美:おっしゃる通りです。全体としての官僚機構を批判することで権力の監視をしつつ、成果を上げた個々人は正当に評価する、というのが本来の報道のあり方だと思うんですよ。今は、全体を批判して、失敗した個人を褒めるという状況になっている。その上「○○省が〜という悪企みをしている」なんていう陰謀論がまことしやかに世間にながされるので、真面目に仕事すれば、メディア的には悪い奴の一員です。
給与も下がる、批判も受ける、組織から去った人がヒーロー扱いされている、官僚も人間ですからそういう状況ではモチベーションが保てませんよね。メディアに取り上げられて陰謀論を流している人は、基本的に官僚としての能力・実力がなかった人たちなんですよね。繰り返しになりますが、そういう人たちを有識者としてフィーチャーして、本質的な論点を伝える努力を怠るのは報道の本来の姿なのかということは、常々疑問に思っていました。
—「官僚としての」能力ですね。
宇佐美:そうですね。少し回りくどいですが、官僚が立案すべき政策というもののあり方について説明します。
物事に対して政治家が戦略レベルで一定の方針を決めたとします。これを政見と呼びますが、その政見を具体的なアクションに落とし込む戦術レベルの政策を立案するのが官僚の役割です。ただどんな政策を展開するにあたっても、必ず障害が生じます。
例えば、よく古賀さんが、「農業を再編するためには農家を保護せずに、もっと潰れるべき農家は潰すべし」と主張しています。しかし当然農家を潰したら失業者がたくさん生まれる。そうした失業者たち、例えば30〜40年間農業一筋でやってきた50代、60代の人達に対して、「あなたは明日から成長産業に移ってください」と言ってもそれは無理でしょう。残念ながら成長産業側が、「なぜ数十年間農業をやってきた人を我々が雇わなきゃならないのか」とお断りしてしまいます。
仮に古賀さんが「農家はもっと潰すべき」という主張をするなら、その結果路頭に迷う人の救済が円滑に進むような仕組みを併せて提案することを政策というんです。そうした仕組みを自分で考えつかないから、「それができないのは農水省が利権を手放さないからだ」といって陰謀論を唱える。そういう陰謀論者をメディアで取り上げるのは、本当はいいことではないと思うんですよ。
私は、古賀さんや高橋さんは、自分たちが体験した政策決定過程を世間にしらしめた点においては、大変価値があると思います。何故なら政策の決定過程というものを国民は知る権利があるし、それは民主主義が健全に機能する為にはとても重要なことだと思うんです。ただそれ以上のことを言うのは、おかしいと思うんですよ。政策提案能力が低いから官僚を辞めたんですから。「あなたたちはドロップアウトしたんでしょ?そんな人がテレビに出て何を偉そうなこと言ってるの??」と思います。彼らは有識者ではなく芸人の枠で捉えてほしい。芸人としてはアドリブも効くし視聴者を楽しませるし一流だと思います。
—それはある程度、霞が関の共通認識なんでしょうか。「彼らは所詮ドロップアウトした芸人枠だから」のように、どこか冷ややかに見ているんですか。
宇佐美:非常に冷ややかですね。なんでも強引に陰謀論や天下り批判に持ち込んで、そんな悪いことをしている官庁から脱した俺たちは正義の味方、という論法を毎回繰り返すので私も官僚時代はテレビの前で「また天下りか!」とツッコんでいました(笑)。
—政局報道では、「霞が関関係者」といった形で官僚のコメントが出てくることがありますよね。例えば、「あの政治家は馬鹿だから我々は…」みたいな。
宇佐美:「霞が関ではこんなことが言われている」という類の記事は、誇張はありますが7割くらいは本当だと思います。残念ながら実際に大臣としての資質が伴わない人もいますから、そういう記事が上がってきた時はむしろありがたいですよね。変な人が大臣で居続けるのは国民にとって不幸ですから。
民主党になって良くなったことは、「ほとんどない」
—やはり法令作成など基本的なスキルに関してはどう考えても官僚のほうに一日の長がある。であれば、政治家に求められるのは、大きな方向性を示すことだという理解でいるのですが、官僚と政治家の関係というのは、そういう理解で問題ないでしょうか?
宇佐美:そうです。方針を示してくれると動きやすいですね。
—であれば、政治家が方針を示さないから、業務が進まないといった事態を経験したことがありますか?
宇佐美:私は直接仕事で深く携わったことはないので詳しいことはわかりませんが、民主党政権下において、ある経済産業大臣は「聞いていないぞ大臣」と呼ばれていたようです。自ら方針を示さないにもかかわらず、政策の実現に向けて動きを進めると「オレは聞いていないぞ」とすぐに怒っていたようです。当時官房にいた同期は悩んでいました。でも経済産業省はしっかりした人が大臣になる傾向が強いと思います。
また、他省庁ですが長妻(長妻昭・元厚生労働大臣)さんは圧倒的に評判が悪かったですね。聞くところによると朝のワイドショーの司会者やコメンテーターのコメント次第で指示をコロコロ変えるといったことがあったようです。当時は厚労省の友人に会うと、長妻さんに対する愚痴ばかり出てくるという状態でした。それはそれで、ある意味頑張ったというか凄いことですよね。
-そうした視点で言うと、よく「自民党から民主党になって官僚の使い方が下手になったからダメなんだ」といった意見がありますが、そうした実感はありましたか。
宇佐美:民主党は、政治家と官僚の役割分担というものを、ちゃんと考えていなかったと思います。考えてはいたけれど的外れだった、というのが正確な表現かも知れません。だから政官の関係について民主党政権に代わって良くなった点をあげるのはとても難しいですね。ただ一つ確実に言えるとしたら、事業仕分け等を通じて天下りOBとの不透明な関係がある程度精算されたということは、とてもよいことだったと思います。
-宇佐美さんから見て、大臣、政治家が果たすべき役割というのはどのようなものでしょうか。
宇佐美:官僚機構も基本的には会社機構と変わりません。大企業の事業部門長が現場の業務にあれこれ口を出すのはおかしいでしょう。サラリーマンが自分の所属する部署の部門長には期待するのは、他の部門や他企業との交渉といった部分だと思います。
それと同じで省を代表して、一元的に意志決定できる人というのは、大臣しかいません。ですから大きな方針の確定や他の省庁・他国政府との連携といった部分が、本来政治家に期待される役割だと思います。民主党政権はそれとは逆で、大臣や副大臣や政務官が省庁内部の細かい意志決定に関わろうとした結果、大きな国際戦略の議論や外との関係が軽んじられていくことになってしまいました。その結果、縦割りでガラパゴスになってしまった、というのが民主党政権の特徴だと思いますね。
—やはり、ご自身の経験を通して、政策、法案づくりについては官僚が最もよく知ってるという自負があるのでしょうか。
宇佐美:そうですね。それは能力の問題というより専門的な細かい知識や政治背景はその業務に専念する担当者でないと把握できない、ということだと思います。一つの省庁で政治家は5人程度ですが、官僚は数百人・数千人いますからね。ある法律の改正にあたって、そもそもどのような経緯でその法律が作られ、個別の条文・規制に関してどのような法学的論点があって、それがどのような既得権益と関係していて、一方でこういう主張があって…という複雑な事情は担当者以外知りようがありません。政治の根本は権力闘争ですから、そうした事情を理解しない生半可な知識で練られた政策決定は結果として機能しませんよね。マニフェストが破綻した理由もその辺にあるのではないでしょうか。
―例えば年金問題でも、賦課方式から積立方式にすべきだ、という議論がありますが、その制度変更には相応のコストが必要ですから、そこを抜きにした提言というのは霞ヶ関の人間からするとナンセンスということでしょうか?
宇佐美:「賦課方式から積立方式にすべきだ」というのは、政策ではないんですよ。会社に例えるなら、「柱となる事業を、製品づくりからシステムづくりに変えるべきだ」と言っているのと同じで、具体的な政策提言ではない。
―メディアでは、そうした「政策提言」が多いように思います。
宇佐美:そうですね。原発論議でも「脱原発すべきだ」というのは、政策じゃないんですよ。「どうやって脱原発すべきか」というテーマについて、経済界も市民も技術者も参加して議論できる枠組みを考えて、具体的なロードマップを作り上げてこそ政策です。
官僚の人材流出は危機感を持つべきレベルになっている
―昔前は、「官僚は超トップエリート」というイメージでしたが、現在では「官僚の質が落ちてきている」という言説も耳にします。上や下の世代を見ていて、宇佐美さんにそうした実感はありましたか。
宇佐美:全体を議論できるほど世の中が見えているわけではないので、事例を上げます。私より5歳ほど上の先輩で、「このポストに行けば確実に出世する」というような花形ポジションにいた人が外資系金融機関に引きぬかれました。出世確定のポジションにいる人が、「日本の未来に希望が見えない」といって辞めてしまう、これは結構衝撃的なことです。
私の同期にもいましたが、突然燃え尽きて辞めていく優秀な若手が増えており、それは組織として危機感を覚えるレベルです。一昔前なら辞めていくのはあくまで亜流派の人だったんですが。
―よく公費で海外留学して、帰ってきた人がそのまま退職してしまうといった報道もありますが、そういう報道を見ると、「タダで行けてやった!」といって、逃げるようにやめていくように見えてしまうんですけど。
宇佐美:これは言いづらいのですが、公費で留学するような人は、官僚でない他のキャリアを選んでいたとしてもきっと留学できているんですよ。僕の同期であれば、ゴールドマン・サックスやマッキンゼーの内定と経産省を比較するような人間です。彼らは別に外資系コンサルというキャリアを選んでいても留学できているはずです。ですから別に、初めからタダで留学できることを目的に入ってきていない。
そういう人たちは常に魅力的な職場から「うちに来ないか?」といった誘いがあるわけで、今の霞ヶ関はエリート層に取ってモチベーションを維持できるような職場環境ではない。問題の本質はそこなんじゃないでしょうか。「やる気がないのに残れ」というのも違うでしょう。やる気がないのに残ったら、それこそ税金泥棒です。それくらいだったら外に出るほうがいいと思いますね。
―では官僚のモチベーションを支えるには、どうしたらいいのでしょうか。お金で報いることは現状では難しいでしょう。かといって、みんながみんな国のためという思いだけでは続かないのも現実です。仕組みとして、官僚のモチベーションを維持することはできるのでしょうか。
宇佐美:公正な報道や評価がキーポイントだと思います。自分が頑張った成果を、メディアが公正に取り上げて世間に評価してもらえるのであれば、それはモチベーションにつながるでしょう。しかし、何をしても批判されたら当然やる気なくなりますよね。
人のモチベーションは、お金だけではありません。私がブログで給料を公開したのは、自分の給与が低いと思っているからではありません。「俺たちも給料減らされれば辛いし、政治に不満を持っていたり、ももクロ応援したり、酒飲んだりする普通の人間なんだぜ」ってことなんですよ。メディアでは官僚はそれこそ妖怪みたいに扱われている。「妖怪財務官僚」「妖怪外務官僚」「妖怪経産官僚」みたいな感じになってしまっていますから。
―「官僚は世間知らずだからもっと民間の血を入れるべきだ」という言説もありますが、官民交流などは、もっと積極的にやるべきだとは思いますか?
宇佐美:官民交流に関しては、大企業との間ではあまりすべきではないと思います。何故なら、既得権益を強めるからです。ベンチャー企業や人材が不足している企業への出向を推進すべきと個人的には思っています。これだけ赤字国債が積上るとこれからは、ビジネスを通じて社会問題を解決するという方向に全省庁が移行せざるを得ない。その時官庁とベンチャー企業が連携して、新たなソーシャルビジネスを生み出していくエコシステムを作る為の手段として官民交流を位置づけるべきだと思います。そこで企画された事業に対して、補助金を出すのもいいでしょうし、最終的にそういう会社に” 天下り”するということがあってもよいと思います。
―そもそも官僚という一部のエリートが国を引っ張っていくという国の在り方そのものに疑問を呈すこともできると思います。法律関係の知識は専門家にある程度任せるにしても、やっぱり一部のエリートに任せっきりの政治でいいのか、という言説もあると思うのですが、この点については、どのようにお考えですか?
宇佐美:これは自民党時代を含めて言えることですが、少なくとも私が入省してから官僚に政治を任せっぱなしにしていた政権というのはありません。 特に小泉政権時代は完全に官邸主導でした。経済財政諮問会議で毎年「骨太の方針」という方針が出され、そこに記載された政策は優先的に実施されるということが制度化していました。だから官僚機構はどうやって諮問会議の委員を説得して、骨太の方針に政策を取り上げてもらうか、ということに日夜奔走していたんです。政治主導の一つの形だったと思いますよ。
あえて「官僚主導」というとしたら、今この瞬間だけです。それは政治がまともに機能しないから、官僚が自分で判断せざるを得ないことが増えてきているというのが実情なのではないでしょうか。
民主主義において生まれた政治状況は国民の「自己責任」
―そうした状況で官僚機構の業務がストップすると、私たちの日常社会にはどんな影響が出てくるのでしょうか?
宇佐美:「今」がまさにそういう状態です。政治が動いていないから、現在は官僚機構もまともに動いていない。大事なことが何も決められない状態。これがもしあと半年くらい続いたら大変なことです。財源が40兆円不足しているので、年金の支給が止まります。医療保険も止まるでしょうし、地方交付税も配分されないので自治体によるごみ収集がなくなるといったことも考えられるでしょう。
―そういう日常のインフラレベルの問題が起きる。
宇佐美:そうです。それこそ現在のギリシャやイタリアのような状態になる。官僚機構が止まる=行政サービスに支障が出るということですから、自分が困っても誰も救ってくれない状態になります。例えば失業や怪我により収入がなくなった場合に備え、生活保護や失業保険といったセフティーネットがありますが、そうした制度が止まれば、「あなたは仕事が無いんですか。じゃあ死んでください」といった状態になってしまう。
―そうした行政の仕事の役割や意義よりも、批判の方が大きく取り上げられることが多いと思います。
宇佐美:そこは学校教育の問題というよりは、報道の問題だと思います。日本に欠けている点は、義務教育というよりも社会教育ではないでしょうか。「今現在の政治状況は国民自らが生み出したものであり、それを誰かのせいにするな」ということです。民主主義というのは、世の中が良くなることをまったく保証していない。よくなろうが、悪くなろうが、その責任は国民に帰するように制度設計されている。報道機関には、その原則をきちんと伝えることを貫いて欲しいんです。前回の選挙で民主党議員を選んだのは、まさに国民自身です。別にそれが良いとも悪いとも思いません。ただ、その結果としての現状は自己責任であるというだけです。
―確かに政治批判というのは、少なからず「天に唾する」という部分はあるでしょう。
宇佐美:陰謀論で民主主義の原則を曲げるような報道が多すぎると思っています。よく消費増税で「財務省が裏で糸を引いている…」というようなことが言われていますが、報道されている時点で陰謀とはとても言えませんよね。意思決定しているのは政治家なんです、やっぱり。財務省は根回しやブレーンを勤めているだけです。そもそも「本当の陰謀」というものがあるなれば、そんなものは外に出ません。
例えば、レアメタルやメタンハイドレードといった海底資源に対して、アメリカや中国など、いろんな国から圧力がかかっていると思うのですが、そうした圧力の実態を知っているのは、経済産業省の中でも本当にごく一部の人間です。私も全然分からない。それはほとんど表沙汰にはなりません。こういう世界で行われていることを本当の” 陰謀”というのではないでしょうか。
―とはいえ、官僚機構に問題があるのも事実だと思います。今後、どのような改革が必要だと思いますか。
宇佐美:本にも書いたのですが、組織のミッションと世の中の問題がずれてきた結果、官僚機構の歪みが大きくなってきていると感じています。経済産業省のミッションは、「経済の発展」となっているのですが、「本当にそういう時代なのか」と官僚時代から疑問に思っていました。経済成長自体を目標にするより、経済を通して何か社会課題を解決するといった方向に転換するべきと個人的には思っています。
農水省も、「食料自給率の向上」を目標に掲げていますが、「それ本当にできるの?」という部分がある。であれば、食料の安全保障といった観点から考えた方がよいのではないでしょうか?例えば、日本の農業生産技術は非常に素晴らしいので、日本の農業技術を東アジア諸国に移転して安全な食料を輸入できるような協定を結べたら、WIN−WINの関係が成立します。日本は中国産の危険な野菜を食べなくて済みますし、発展途上国にしてみれば新たな産業が生まれるわけです、それで何がいけないんでしょうか?
このように、そろそろ組織のミッションを見直して、省庁再編をすべきだと思います。それは官僚にできることではない。政治家にしかできないことです。本来政治家はこういう官僚にはできない大きな問題を中心に取り扱ってほしい。
―これからはまた新たなキャリアを積んでいくことになると思うのですが、今後得るであろう知識や経験が、霞ヶ関でも生かせるのであれば、その時はまた官僚に戻ろうという思いはありますか。
宇佐美:私のように一度辞めた人間が重要なポストにつくというのは、内部の人間に対して失礼だと思います。ただ、私が今後のキャリアの中で特殊な知識をつけて、その特殊な知識を霞ヶ関が求めているとなれば、それはもう喜んで行きます。
―最後に、同世代の官僚、あるいは官僚を目指していこうみたいな若い世代に向けて、メッセージはありますか?
宇佐美:官僚を目指す人に対して言いたいことは、「官僚はあくまで黒子である」ということです。黒子として日本のために働くことにやりがいを感じる人にとっては最高の職場だと思います。仕事の内容は面白いですし、社会的な意義も大きいです。ただ世間から認めてもらうとか、お金がほしい、といった個人的欲求はなかなか満たされません。人生に何を求めるかを改めて自分に問うて、覚悟を決めた上で官僚になってほしいと思います。応援しています。
―本日はありがとうございました。
宇佐美典也(うさみ のりや):1981年、東京生まれ。東京大学法学部を経て経済産業省へ入省。企業立地促進政策、農商工連携政策、技術関連法制の見直しなどを担当。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)への出向を経て退官。
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