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2012年10月26日 田中良紹の「国会探検」
石原東京都知事が突然辞職した事でメディアが大騒ぎしている。まるで私の言う来年夏までの「大政局」を操る中心人物になると見ているかのようだ。一体日本のメディアはどこを見て何を判断しているのだろうか。「尖閣購入」という「茶番」を演じて行き詰まった政治家が、先の見通しもないまま次なる茶番に突き進んでいるだけではないか。
昨年4月に石原氏が4期目の東京都知事に当選した時、私は「石原東京都知事当選の憂鬱」と題するコラムを書いた。「立候補する事は150%ない」と言ったにもかかわらず、自民党幹事長を務めていた息子への自民党内からの批判をかわすため、政治に対する意慾より家庭の事情で都知事選に立候補したからである。
従って当時の石原氏は既に政治家として「プッツン」していた。見識を疑わせる発言を繰り返している。3月11日の東日本大震災に対し「我欲に縛られた日本への天罰」と発言した。「文学者か評論家ならいざ知らず、未曽有の災害を前にした政治家の言葉とは思えない」と私は書いた。
次に石原氏は「花見の自粛」や「つましい生活」を提唱した。震災が日本経済に打撃を与えている時、経済を収縮させるような発言を政治家はすべきではない。石原氏は政治家と言うより情緒や感情に流される「ただの人」にすぎなかった。「ただの人」を東京都知事に選んだことは日本の不幸だと私は思った。
それから1年、石原氏は「尖閣諸島を東京都が購入する」という発言を日本ではなくアメリカで行った。尖閣諸島は日本が実効支配しており日中間に領土問題はないというのが日本国の立場である。それまで尖閣諸島に中国や台湾の漁船が来れば日本の海上保安庁が追い返していた。昨年の漁船衝突に際しては船長を逮捕して司法権が及んでいることも示した。そこに波風を起こさせる必要はなかった。
東京都が島を購入するかどうかは国内問題である。それをわざわざ国際社会に出向いて発言した。その発言に中国が反発して紛争になる事は容易に想像がつく。それは領土問題の存在をアピールしたい中国の狙いにまんまと乗る事になる。ところが石原氏は日中間に領土問題が存在する事を国際社会に注目させようとした。政治家としてまるで賢明とは言えない。
また二元外交を嫌う外務省が日中関係を東京都に左右させないため国有化に踏み切る事も容易に想像が出来る。もとより石原氏は東京都が買う事など考えてはいなかった。手続きが面倒だからである。むしろ国有化させる事を考えていた。ところが善意の国民から14億円を超える寄付金が集まってしまった。そのため国はそれを上回る20億5千万円の税金を使って地権者から島を買い取る事になった。石原氏は結果的に値段のつり上げに利用された。そして予想通り中国の反日運動に火がついた。
私の知る右翼民族派は石原氏の行為を「許せない」と怒っている。尖閣購入のために献金をした愛国者を裏切り、自民党総裁選挙で尖閣問題を息子の援護射撃に利用させたからだと言う。だから民族派は本命だった石原伸晃氏が総裁になる事を阻止するため安倍総裁実現に全力を挙げた。彼らは石原氏の尖閣購入をただの「愛国ごっこ」に過ぎないと言う。だとすれば「ごっこ」のために日本企業は襲撃され日本経済もマイナスの影響を被る事になった。
しかし石原氏の願いは外れ息子は自民党総裁になれなかった。すべてが狂い出したのである。「愛国ごっこ」のつけは大きい。このままでいるといずれ集中砲火の攻撃を受ける可能性がある。「尖閣購入で国益を損ねた石原」のイメージを塗り替える必要がある。それが今回の都知事からの転身である。そこで昔のように「中央集権打倒の石原」のイメージに塗り替える事にした。
そのためには大阪維新の会の橋下市長を頼るしかない。私の見るところ石原氏は懸命に橋下氏にすがりつこうとしている。橋下氏は表向きつれないそぶりも出来ないだろうが、本当に提携する事になれば橋下ペースでの提携にならざるをえないと思う。それでは石原氏にこれからの政局を動かす力など出せるはずがない。
石原氏は17年前に国政を捨てた。「すべての政党、ほとんどの政治家は最も利己的で卑しい保身のためにしか働いていない。自身の罪科を改めて恥じ入り、国会議員を辞職させていただく」と本会議場で大見得を切った。小泉総理の政治指南を務めた故松野頼三氏は石原氏のことを「後ろ足で砂をかけていった男が永田町に戻れるはずがない」と語っていたが、永田町には同じ思いの政治家が多いはずだ。
永田町に戻っても都知事時代のような振る舞いが出来ない事は石原氏も良く知っているはずである。しかし石原氏は戻らざるをえないところに追い込まれた。すべては去年出るつもりのなかった4期目の都知事選に「息子の事情」で出馬し、そして今年の自民党総裁選挙で「息子を総裁」にするために尖閣問題を利用したところにある。それは政治と言うより我欲の世界の話ではないか。
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