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尖閣列島の領有に関する日本政府の公式的立場は、日中間において、領土に関わる係争(紛争・問題)はないというものである。
ところが、内閣(政府)のNo.2である岡田副首相が、中国とのあいだに領土をめぐって争いがあることを認めるような“重大な発言”を行ったにもかかわらず、問題なるどころか、話題にさえあまりなっていない。
原発事故報道や原発問題でも、政府と主要メディアが一体となった情報統制が問題視されているが、領土をめぐる外交や主要勢力の発言に関しても、同じような情報統制が行われているのである。
中国で起きた騒乱的“反日デモ”や尖閣列島領有権を主張する中国政府の言動を機に、中国脅威論や中国ならず者論を吹聴し、それを「日米同盟」強化政策に繋げようとする言論も数多く見られるが、漏れ伝わってくる断片的情報から水面下で動いている日中外交の内実を考えてみたい。
まず、竹島・尖閣列島・北方四島という主要な領土問題に対する立場を明らかにしておきたい。
領有権をめぐる歴史的経緯やロシアも係争状態を認めている北方領土問題はともかく、竹島と尖閣列島については、長期にわたって「平時の現状」を維持するしかないと考えている。
領土問題が噴出するたびに、領土保全を旗印に「日米同盟」強化論が浮上するが、3つの主要な領土問題はどれも、米国政府が主導した戦後処理に大きく関わっていることに留意すべきである。
「平時の現状」とは:
● 日本政府は、竹島に対する領有権を放棄しないが、韓国政府の実効支配を武力で覆す行動には出ない。韓国政府は、不断に、そのような日本政府の態度を尊重した対応をすべきであり、漁業権や海洋資源をめぐる交渉は相互の主張(メンツ)が立つかたちでまとめるようにする。
● 尖閣列島は、敗戦でレジームが変更された後も、米国統治→日本統治という経緯があり、日本政府は、その領有権や実効支配が脅かされるような事態を見逃すことはできない。台湾はともかく、中国とのあいだでは漁業権で“優遇”していることを踏まえ、中国政府は、暗黙でかまわないから、日本の実効支配を認めた対応を採るべきである。日本政府は、そのような中国政府の対応を前提に、ことを荒立てない実効支配の継続に務める。海洋資源をめぐる交渉と開発も、両国のメンツと共通利益が維持されるかたちで進める。
※ 北方領土は、ロシアの占領状態が続いている歯舞色丹諸島の返還を平和条約締結の条件とし、択捉島・国後島については、北海道に付属する島とみるのか、(サンフランシスコ講和条約で日本が放棄した)千島列島を構成する島とみるのかを議論し、経済的対価によってでも「北海道付属島論」を認めさせることかできるかどうかにかかっていると思っている。
領土問題に関係する諸政府は、領有権の主張や相手国の行動に対する批判を思いっきりぶつけ合えばいい。
しかし、竹島にしろ、尖閣列島にしろ、相手国が一線を越えた行動に出たときは、国家の存在意義を賭けて武力を伴う対応をしなければならなくなる。そのような事態に陥ることを避ける政策が関係国に課された絶対命題である。
日中韓のいずれの政府も、そのような認識を共有しているとともに、武力の行使をもって“現状”を変更することに特段の“利益”を見出していないと判断している。
領土問題は、国家を尊重する人たちにとって極めて重大なテーマであり、領土をないがしろにするような言動や政策を採る政府や政党(政治家)は支持や存在意義を失うことになる。
そのようなことから、領土問題が大きく取り上げられる(取り上げざるをえない)状況が発生すると、“騒乱”的デモも一定範囲で容認せざるを得なくなる。
武力を行使してでも解決するという意思があれば別だが、領土問題は、できるだけ潜在的レベルにおしとどめ顕在化させないことが相互の“国益”に叶うのである。
尖閣列島では、海上警察レベルで偶発的な衝突が起こりかねない状況にあり、一刻も早く「平時の現状」に戻らなければならない。
そのようにわかっていながら、どの国も、政治家やメディアは、国家という存在が大きくクローズアップされる領土問題が起きると、俄然、威勢のいい言動に走る。
その一方で、肝心な重要情報は、弱腰と受け止められるのを嫌う政府と手を結んだ主要メディアが統制を行うものである。
尖閣列島問題についても、“反日デモ”や領海・周辺海域を徘徊する中国艦船の動向、そして、日本の正当な領有権に関してはあれこれ報道されてきたが、重大な問題を孕む発言や微妙な言動は意図的にスルーされている。
そのような情報統制の一例として、表題に掲げた動きを説明したい。
関係する出来事として最初に気になったのは、尖閣問題に関する米倉経団連会長の主張がきちんと報じられなかった事実である。
表題に書いた「尖閣発言で米倉経団連会長を叱った岡田副首相」というのは、日経新聞が9月29日朝刊に掲載した「副総理、経団連会長を批判 尖閣発言巡り」という見出しのベタ記事がそれに当たる。
その記事の内容は、「岡田克也副総理は28日の記者会見で、経団連の米倉弘昌会長が野田佳彦首相の尖閣諸島を巡る発言を批判したことについて「国家間のシビアな交渉の問題だ。責任ある立場の人の発言は慎重であって欲しい」と述べた。米倉氏の帰国後に会って、改めて政府方針に理解を求める考えも示した」というものである。
この記事を読み、米倉氏は尖閣列島問題についてどのような発言をしたのか気になり日経サイトを探しても、具体的な内容が書かれた記事は出てこない。
ようやく、産経新聞のサイトで、らしき記事を見つけた。
「日中国交正常化40年 「不惑」の付き合い「困惑」ばかり」(2012.9.28 23:25)というものである。その記事のなかに、「「民間交渉なら、『こちらに問題はない』では通らない。相手が問題と言うなら、解決するのがトップの役割だ」 28日まで中国を訪問していた経団連の米倉弘昌会長は、現地で記者団にこう語り、関係改善に向けて、政府首脳レベルでの対話の必要性を訴えた」とある。
日経新聞も、10月9日朝刊の「経済教室」のページで、小寺彰東京大学教授の「領土問題の処理急ぐな 「紛争存在せず」堅持を」という論文を掲載した。
そのなかに、「最近、米倉弘昌経団連会長が尖閣諸島について「領土紛争」があることを認めるべきだと主張した」という記述がある。
原発問題や経済政策さらには社会保障政策についてまで、経団連の主張や意向を大々的に取り上げている日経新聞でありながら、中国の“反日デモ”の渦中で、岡田副首相がわざわざ批判を行うほどの反応を引き起こした米倉経団連会長の重大発言をきちんと報じなかったのである。
ざっと探してみたが阿修羅の投稿にもないくらいだから、尖閣問題に関する米倉氏の発言は、主要メディアのどこも、きちんと取り上げなかった可能性がある。
日経新聞が、「副総理、経団連会長を批判 尖閣発言巡り」という記事を掲載していながら、肝心な経団連会長の言い分を紹介しなかったのは、経団連会長の“非愛国的言動”で日本の大企業が批判の矢面に立たされてしまう可能性があること、経団連などの主張がそれなりの支持を得て領土問題が曖昧になってしまう恐れなどの配慮があったと推測している。
米倉氏の発言は、戦前の中国大陸で起きた“日貨排斥”運動が、成長著しい中国で広く巻き起こる恐怖を感じ取った企業経営者の思いから出たものと推測する。また、中国人旅行者が日本国内で使うお金が、消費低迷で苦しむ百貨店など高級店や旅行業界の大きな支えになっていることを考えると、損得勘定でものごとを考える企業経営者なら、中国とのあいだで大きな軋轢が生じるのは避けたいと願って当然であろう。
米倉氏がそうだとは言わないし、広言する人もいないだろうが、大企業経営者のなかには、中国での事業活動が阻害されるくらいなら、尖閣列島ごときの領有権は放棄したほうがいいと思っている人がいるかもしれない。
中国の言動の正義や正当性はともかく、そろばん勘定として考えたとき、尖閣列島の領有が、毎年数十兆円の売上が期待できる中国市場の犠牲に見合うものなのかという問題である。
(“反日デモ”以降、昔ながらの中国観や経済認識で、中国の人件費は上昇したので輸出向け製造拠点としての魅力を既に失ったとか、中国の経済成長は終わり瓦解や分裂の可能性もあると唱え、今回の衝突を機に中国からの撤退を主張するひともいるようである。しかし、中国の安価な労働力を利用するだけの段階は終わり、中国自体の需要(購買力)の大きさと今後も日本は上回る成長力を日本がどう取り込むのかという段階に入っており、中国撤退論は、米国撤退論を超えるほどの自滅策である)
その後も、中国とのあいだの「領土紛争」の存在を認めるべきという米倉発言は俎上に乗せられることはなかったが、一昨日23日午後3時から放送されたNHK−BS1のワールドニュースアジアのなかで、中国中央テレビが、トップの扱いで、「日本の岡田副首相が、21日の講演で、釣魚島(尖閣列島)に関して日中のあいだに議論があることを認めた」と報じた。
国内メディアでそのような報道を見ていなかったので探すと、産経新聞のサイトに、「岡田副総理が「都の購入計画間違い」 和歌山市で講演」(2012.10.21 19:08)という見出しの記事があり、「岡田克也副総理は21日、和歌山市で講演し、沖縄県・尖閣諸島の国有化の背景に石原慎太郎東京都知事による購入計画があったことに触れ「都が尖閣問題に乗り出したのは間違いだった。都は外交問題の責任を取れない。結果的に中国から非常に厳しい反応が返ってきた」と批判した。
同時に「『都よりは政府が持った方が安定的』と中国側に伝えている。尖閣は領土問題ではないが議論があることは事実で、対話を通じ今の状況を鎮めないといけない」と指摘した。」という記事があった。(日経新聞も、本紙では掲載していないが、WEBでは同様の記事を掲載)
和歌山市で行った講演がどのような人たちを対象にしたものかは知らないが、副首相という枢要なポストにある岡田氏が、政府の公式見解に違背する「尖閣は領土問題ではないが議論があることは事実」と発言したのである。
ふだんは国家主義的論調を売りにしている産経新聞が、“とんでもない”岡田発言をただの事実報道で済ましているところは、ほほえましい限りである。
そして、日経新聞10月24日朝刊に「外務次官が先週末訪中 尖閣巡り中国側と協議」 という記事があり、「河相周夫外務次官が先週末に上海を訪問し、沖縄県の尖閣諸島問題を巡って中国側と協議したことが23日、わかった」と書かれている。
さらに、NHKオンラインニュースは、「25日午前6時半ごろ、尖閣諸島の南小島の南南東およそ22キロの海域で、中国の海洋監視船3隻が日本の領海に侵入したのを、警戒に当たっていた第11管区海上保安本部の巡視船が確認しました。
さらに、午前7時半ごろには、別の海洋監視船1隻も領海に入りました。
領海に入ったのは、中国・国家海洋局所属の「海監51」、「海監66」、「海監75」、「海監83」の4隻です。
午前11時現在、4隻は領海内で航行を続けているということで、海上保安本部は、無線などを通じて領海の外に出るよう警告しています」と報じている。
講演会での岡田発言・外務省事務次官の訪中・中国艦船の領海侵犯をつなぎ合わせると、次のような勝手な推測ができる。
日中の外務省次官が混迷した事態の正常化するための“手打ち”として、日本政府が、「日中間に領土問題がある」と認めることで合意した。
岡田副首相は、その合意を受け、和歌山市での講演を利用して、「日中間に領土問題がある」と認めたように解釈できる内容の発言をした。
しかし、中国政府は、“せっかく”の岡田発言が国内でほぼ無視され、日本国民が「日中間に領土問題があること」を認識するような役割を果たさなかったことに不満を抱いた。
その意思表示が、25日に起きた中国艦船の領海侵犯活動である。中国政府は、日本国民も、「日中間に領土問題があること」を認識するような政府見解の表明を求めたのであろう。
日本の主要メディアは、領土問題で中国に譲歩した(と言える)岡田氏が“非愛国者”や“対中弱腰政治家”と糾弾されることを危惧して報道しなかったと思われるが、それが“仇”になったようである。
中国中央テレビの報道ぶりから、中国政府は、「尖閣は領土問題ではないが議論があることは事実」という曖昧なレベルの発言でも好意的に評価しているように思われる。
経団連も中国政府と同じ考え方であることから、野田内閣は、近いうちに、より国民にも伝わるかたちで、「尖閣は領土問題ではないが議論があることは事実」に沿った発言をすることになるのだろう。
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