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【第21回】 2012年10月25日 山田厚史 [ジャーナリスト 元朝日新聞編集委員]
米国、中国、そして日本
暴走世論が政治家を引きずり回す
11月は世界の転換点になるかもしれない。6日に米国の大統領選挙があり、8日からは中国共産党全国代表大会が開かれ指導者が替わる。米国はオバマかロムニーか、どちらが大統領になっても深刻な赤字財政を抱えながら「米国の威信回復」を求められる。
貧富の差をアメリカンドリームというキャッチフレーズに塗り替えて、成長路線をひた走ってきた米国は、金融資本主義が行き詰まり、膨脹路線の手じまいが迫られている。深刻さは中国も同じだ。「豊かになれる人からどんどん」の先富政策が耐え難い格差を生み、共産党支配にひび割れが生じている。
11月から始まる米中新体制の助走期間は要注意だ。
米国と中国に共通する
「トリクルダウン社会」
アメリカと中国に共通するのは「トリクルダウン社会」であること。トリクルダウンとはしたたり落ちる、という意味で、社会の上層部である経済強者(優良企業や高額所得者)が儲かれば、富は巡りめぐって貧しい人たちにも滴(したた)り落ちる、という手法だ。分かりやすい例が「富裕層への減税」。消費性向の高い金持ちが潤えば消費が刺激され、生産が拡大し、雇用が増えるという連鎖を期待する。大企業への規制緩和も同様だ。増えた利益が新たな設備投資や就業機会を生み経済は拡大する。
効率の悪い零細企業や個人を応援しても経済効果は小さい。運と能力に恵まれた先頭集団を元気にすることが、社会全体に恩恵をもたらす、という経済思想である。新大陸という自由競争社会に生まれたアメリカンドリームは、強者が牽引するトリクルダウン社会を生み、今も「ドリームの呪縛」から逃れられない。
ケ小平が唱えた先富政策も成功者が全体を引っ張る、というトリクルダウンの発想だ。毛沢東革命がもたらした「等しく貧しい社会」に見切りをつけ、儲ける自由で成長を牽引する政策に転換した。改革開放は30年で中国を世界第2位の経済大国に成長させた。
「走資派」と批判された経済強者を優遇する劇薬のような政策は、「格差による社会の分断」という副作用をもたらした。
略奪に発展した反日デモが象徴するように、人民の欲求不満に火がついた暴動は、今の中国で日常化している。中国メディアが報じないので分かりにくいが、警察への抗議や労働争議が引き金となる暴動は、年間40万件ぐらい起きている、ともいわれる。
13億の民を養う中国は、秩序を保つため高い成長率を必要としてきた。権力周辺の企業や事業家を優遇し、許認可や資金を投入することで地域経済を活発にしてきた。先頭集団をひきあげることが特権を生み、格差と腐敗を蔓延させた。1%の強者が富の大半を握るという格差社会は、米国と中国に共通する社会構造だ。
栄光への郷愁が捨てきれない
有権者に配慮する大統領候補
米国の大統領選挙で共和党のロムニーは、富裕層の減税継続などトリクルダウンに固執している。医療保険の拡充など低所層への配慮より、投資効率のいい強者に資金を配分することが景気回復の早道と考えている。
民主党のオバマは、格差を煽るトリクルダウンは治安悪化など社会コストの増大につながるとみて、底上げ型の政策運営を模索している。だが社会保障費の増加は、巨額の赤字を抱える米国財政に重くのしかかる。盛りを過ぎた米国経済が、年間おおよそ6000億ドルにものぼる軍事費を抱えながら、その重荷を背負えるか、となると事態は深刻だ。
米国は中国の2倍のGDPを稼ぐ、ず抜けた経済大国だが、国際収支は慢性赤字の累積債務国でもある。世界の治安を一手に引き受ける財政力はとっくになくなっている。それでも「世界に君臨する」というプライドを捨てられない。国民も指導者に「強いアメリカ」を求め、候補者はその期待に縛られる。ロムニーが「就任したその日に中国を為替操作国に指定する」など強気の発言をするのも、栄光への郷愁が捨てきれない有権者に配慮したものだ。
軍事費削減に取り組むオバマでさえ、アジアで中国を抑え込む軍事予算は削れない。戦略的に米国債を買うチャイナマネーに赤字財政の穴埋めをしてもらいながら、軍事的には中国を牽制するという綱渡りがいつまで続くのか。選挙のテーマにない「ドル危機」こそ、次の大統領が抱える最大のテーマである。
金融資本主義の化けの皮を剥いだリーマンショックは、世界はアメリカを中心に回るという幻想をうち砕いた。だが民意は「アメリカの栄光」を捨てきれない。国力に相応しい国際的関与へと段階的に撤退するしかない指導者は、民意の呪縛を超えることができるだろうか。
共産国家の
共産革命!?
より深刻なのは中国だろう。格差、腐敗、政治不信が蔓延し、農村から始まった暴動が都市に波及した。胡錦涛政権は「和偕社会」という標語で歪みを是正する方針を掲げたが、効果はなかった。耐え難い格差を縮めようと景気にブレーキを踏めば失業が増え、アクセルを噴かせば貧富の差が広がる。
「共産革命が一番起こりそうな国は中国」と揶揄されるほど、中国共産党は危うい状況になっている。
地位を剥奪された薄熙来・元重慶市長の事件には、毛沢東主義を掲げて中央政府への不満を足場に勢力拡大を謀(はか)った、との嫌疑がかけられている。反日デモに毛沢東の肖像が登場する過激な復古主義に、党中央は警戒を強めている。外交カードとして反日を容認した咎めが制御不能の暴動を誘発し、党が人民を指導する限界を露わにした。
外務省の河相周夫事務次官が密かに上海に入るなど日中関係の修復が模索されているが、扇動が招いた世論の暴走は中国政府の冷静な対処を妨げかねない。
安倍が首相となれば
日中関係を改善できる?
中国は、習近平が次期国家主席になる段階で、日本の次の首相との間で関係を修復する意向、ともいわれる。「右派と見られている安倍晋三が首相になれば、対中強行派を抑えられると期待している」と、中国のメディア関係者はいう。
中国側は小泉純一郎の靖国参拝で険悪化した日中関係を修復した安倍に、「右派としての力量」を期待する。氏が早々に靖国神社参拝したのは、首相になってからは参拝しない、というサインと見ている。
安倍がその思惑通りに動くかどうかは分からない。「尖閣で中国に1ミリたりとも妥協しない」などという強気の発言で、安倍は自民党総裁の座を射止めた。総選挙になれば、米国の大統領選挙と同様、有権者に媚びる発言になびくだろう。尖閣では中国の横暴を印象づける報道や政治家の発言があいつぎ、日本の世論は愛国主義に傾斜しつつある。右派の期待を一身に集める安倍が、対中関係の融和に乗り出すことを、偏狭なナショナリズムが許すだろうか。
熱烈な支持者の期待を裏切って、冷静な選択をする胆力が安倍にあるだろうか。
竹島を訪れた韓国の李明博大統領が、冴えない表情で碑の前に立つ映像を記憶している人は少なくないと思う。好きでこんなことをしているのではない、といわんばかりの表情に、世論に引きずられる政治指導者の苦悩を感じた。
世界に蔓延する不況と格差の中で、暴走する世論が政治家を引き回し、国家がいがみ合う。そんな時代がやって来そうな予兆。それぞれの国で社会の成熟度が試されている。
(文中敬称略)
http://diamond.jp/articles/print/26834
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