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政府の宣伝新聞が「文化」をいう怪 (日刊ゲンダイ)2012.10.25
今なぜ言論はデタラメ政府を許しているのか
絶望的政治状況が続き、無力な政府と吠えない野党と、チンピラヤクザ大阪市長が徘徊する異様なこの国の光景を放置傍観、タレ流しているだけの大新聞テレビ
ベテン師野田首相をなぜ支持し消費税増税法成立を後押ししたのか、増税されたらつぶれると新聞社は軽減税率を要求しているのか、中小企業への増税は容認しているのか
今月18日の読売新聞朝刊に驚きの社説が掲載された。「軽減税率の議論を再開したい」とのタイトルがつけられた記事は、〈新聞に対する税率を低く抑える軽減税率を導入すべき〉と主張したのだ。
読売を含めた大新聞は、先の消費税政局で「財政健全化には消費増税が急務」「民自公3党で成立させろ」と訴えてきた。景気が悪かろうと、消費税に制度的な欠陥があろうと、お構いなし。財務省と、財務省に洗脳された野田首相が熱望した消費増税の旗を振り、「やらないとギリシヤの二の舞い」と実現を煽った。そのくせ、いざ法案が成立すると、「オレたちは税金を払いませんよ」と逃げを打つのである。なんとも無責任な連中だ。
増税を免れる姿勢を見せているのは、同紙だけではない。今月16日に日本新聞協会が開いた新聞大会は、「新聞には軽減税率を適用するよう強く求める」との決議を採択した。その席上、朝日新聞の秋山会長は「経営を直撃する消費税の大波をどぅ乗り越えるか。進むべき道を探り出していかなければならない」と訴えている。まったく理解し難い言い分、常軌を逸しているとしか思えない。
法大教授の須藤春夫氏(マスコミ論)が言う。
「新聞メディアの主張は支離滅裂です。国の借金を減らすのが大事だと叫んでいながら、増税の影響が自分かちの足元に及ぶと反対だという。ジャーナリズムとしての見識を疑います。消費増税に対しては、一定の比率で反対意見があります。しかし、新聞メディアは、増税に賛成しているという論調を伝えるにあたり、異論や反論を組み込もうとしなかった。読者に者に多様な言論を提供せず、ひたすら政府の後押しをしてきたのです。批判には目もくれなかった。それでいて新聞社の企業利益という視点は大々的に取り上げ、税金をまけろと訴えている。ご都合主義と言わざるを得ません」
■民主主義を危うくする大新聞の垂れ流し報道
軽減税率を適用する根拠にもビックリさせられる。読売は社説で〈新聞は民主主義と活字文化を支える重要な基盤〉 〈食料品と同じような必需品〉と書いた。その上で、〈消費増税で経営が悪化した新聞社が発行をやめる事態になれば、言論の多様性は失われていく〉 〈行政への監視機能は弱まり、住民の政治への関心も薄まって、地域社会の活力低下が懸念される〉との論陣を張っている。なかなか立派なご意見だが、果たして、日本の大新聞は行政を監視してきたといえるのか。
朝日新開の世論調査によると、野田内閣の支持率は18%まで低下したという。国民の信任はまったく得られていない。政権を担うのが許されない状況だ。それでも大新聞は「野田、辞めろ」と書かない。〈政権運営は厳しさを増しそうだ〉 (朝日10月22日朝刊)とお茶を濁すだけだ。
政権与党はまったく無力で、それを倒せない野党もだらしない。目立っているのは批判的な相手を執拗に攻撃し、恫喝するチンピラヤクザみたいな大阪市長という異様な光景。この国の大メディアは、そんな絶望的な政治状況を放置し、傍観し、垂れ流している。権力を監視する機能など持ち合わせていないのだ。いくら[民主主義だ]「活字文化だ」と騒いでも、彼らには支えられない。
政治評論家の山口朝雄氏が言う。
「第三の権力と呼ばれるメディアには、権力をチェックし批判する使命があります。ところが、新聞テレビの報道姿勢は必ずしもそうなっていません、なかなか辞めようとしなかった田中前法相に対しても、もっと厳しく批判しておかしくなかった。辞任後に、ああだこうかと論評しても遅いのです。しかも、国会審議を形骸化する3党の野合に対しては、批判どころか高く評価する始末。感覚が狂っています」
■政府の世論操作を支える広報機関
むしろ大新聞の存在が民主主義を危うくしているのだ。
ニューヨークータイムズ東京支局長のマーティンーファウラー氏は、近著「『本当のこと』を伝えない日本の新聞」 (双葉新書)で、〈一番の被害者は日本の民主主義そのものだ。「権力の監視」という本来の役割を果たしていない記者クラブメディアは、権力への正しい批判ができていない〉と書いている。
ファウラー氏はかつてニュー『ニューヨークータイムズ紙で「日本のメディアはまるで官僚制度の番犬のようだ」と主張していた。新聞の了見違いは、だれが見たって明らかなのだ。それなのに「民主主義や文化のために新聞の税金を安くしろ」と大マジメに展開する。政治状況と同じぐらいに絶望的だ。
元NHK政治部記者で評論家の川崎泰資氏が言う。「日本の新聞は権力の横暴を暴くのではなく、権力に迎合している。政府や役所の言い分をすべて聞き入れ、代弁者として報じるだけ。ジャーナリズムでも何でもありません。政府が世論操作するための広報機関に成り下がっている。本来、伝えるべきことは、国民が豊かになる情報です。だが、彼らは何を伝えなければならないかを考えて
いない。普通の民間企業と同じです。利益を上げて生き残るために、権力と結託した格好。日本の文化だ何だと言つでも、相撲と同じように八百長が横行している。本当に情けない限りです」
大新聞が消費増税に肩入れしたのも、国家財政を考えてのことなのか、極めて怪しい。政府の方針に逆らわず、「増税すべし」と訴えていれば、成功した暁にお目こぼしがもらえる。そんな密約を疑われても、文句は言えまい。
言論の皮をかぶぶり、正義の味方を装いながら、金儲けをたくらむ不逞の輩。これが日本の大新聞の正体ではないか。
■国民をリードするという驕りが招いた読者離れ
増税の影響を受けるのは、何も新聞社サマだけではない。増税分を取引先に要求したり、消費者に転嫁したりできない中小企業には致命傷になる。
東京商工リサーチによると、今年上半期の都内の倒産件数はり、リマンーショツク前の水準に戻ったという。もっとも、これは中小企業円滑化法の効果が大きく、法案が期限切れを迎える来年3月以降は、事業を断念せざるを得ない中小企業が出てくる可能性が大きいと警告している。
それでも大新聞は消費増税に賛成し、自らは安全地帯に逃げ込む構えだ。こんなデタラメを平然とやってのけようとしているインチキな企業は、真っ先に潰れるのが日本のためである。
「新聞は再販制度の対象として法的に優遇されてきました。言論メディアは、一般的な会社と違って独自の有意性があると認められてきたのです。残念ながら、今の新聞は、優遇に値する働きをしていません。原発問題にしても、6割を超える反対の声があり、官邸デモに駆け付ける人たちもいるのに、反原発には耳を貸さず、自分たちの論調だけを読者に伝えた。我々が国民をリードしているという驕り以外の何ものでもないでしょう。
昨今の新聞離れは、メディアの技術革新のせいだけではありません。多くの読者=国民が、新聞は自分たちの側に立つメディアではない、と思い始めている。新聞社はなぜ読者にソッポを向かれているのか、しっかりと自覚すべきです」 (須藤春夫氏=前出)
権力に寄り添って生き残ろうとすればするほど、読者は離れ、経営は危うくなる。それは大新聞にとっても本意ではないだろう。
そろそろ新聞メディアは生まれ変わらなければダメだ。彼らが政府の宣伝新聞から脱しない限り日本に本当の民主主義は根付かないのである。
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