56. 2012年10月18日 16:25:27
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南アフリカ(南ア)が進めている固有安全性を有するペブルベッドモジュール型炉(PBMR)に対する詳述フィージビリティ報告書(DFR)の完成が間近となっている。 DFRが問うている質問は、PBMRの技術面、商業面および経済面での実現可能性に関するものである。PBMRの設計ベースは、熱源として高温ガス冷却炉を、作動流体としてヘリウムを使用する直接サイクルの閉回路ガスタービンである。 PBMRを採用したプラントは回収熱交換器と中間冷却器を備えた2段圧縮の換熱器を用いたブレイトン・サイクル(Breyton Cycle)である。 世界を見渡した場合、開発中の唯一の高温ガス冷却炉ではないが(たとえば、2000年12月には、中国も研究炉の運転を開始している)、南ア・プロジェクトはこの分野での先駆者と目されている。 南アの巨大電力公社であるエスコム(Eskom:南ア電力庁)、南ア興業会社(IDC:Industrial Development Corporation)、英国原子燃料会社(BNFL)および米国の電力会社であるエクセロン社(Exelon Corporation)のPBMR開発の狙いはアフリカで唯一の原子力発電所が建っているケープタウン近くのクバーグ(Koebarg)に12万kWeの実証炉を建設することにある。 専門家からなる独立チームによる審査を受けるためにDFRは、上記利害関係者の承認後、南ア政府に提出されることになっている。 利害関係者が承認し、環境影響評価が望ましい結果となり、南アの国家安全規制当局が政府の同意の下で建設許可を発給すると仮定した場合、建設工事は2002年の第2半期までに開始できる見込みである。 そうなれば、PBMRの第1号機が2005年の初めまでに完成し、2006年までに運転を開始することになる。商業運転はその約4年後にスタートすると予想されている。 その後、かなり迅速に新たなPBMRが市場に供給され、普及することになる。 背景 PBMRプロジェクトは、プロジェクトの最大投資家であるエスコム(Eskom)の特別な経済環境を背景に誕生したとみるべきである。 エスコムは世界最大の発電会社の1つであり、その総発電設備容量は約4000万kWeで、その85%が石炭火力である。 南ア唯一の原子力発電所であるクバーグ発電所(2基のPWR、各92.2万kWe)は、南アの総電力需要の約7%を賄っている。 エスコムは世界で最も安い価格で電力を供給しており、その小売電気料金はわずか2セント/kWhである。 石炭火力発電所は内陸の石炭採掘地区の近くに立地されている一方、今後の工業発展の中心は海岸地帯であると予想されることがこの数字の維持を困難にしようとしている。 クバーグ発電所からの送電を除き、ケープタウンの電力の大半は1400km離れた位置から送電されており、極めて長距離に及ぶ送電線が様々な問題を生じさせている。 南アの電力需要は現在、その設備容量を下回っているが、新規の発電設備が2008年頃までに運開する必要がある、と予測されている。 年2.5%の緩やかな需要増であったとしても、ピーク時の電力需要は2005年と2010年の間に現有の発電容量を越える結果となる。 更に、エスコムの旧式の発電所は2025年以降、設計寿命を越えてしまうことになる。 従って、南アが2025年までに2000万kWeの追加電力を生産できる能力を確保するために、あらゆる天然資源の利用が必要となる。 外部電力系統網(グリッド)の安定化のためには、需要に可能な限り近い位置に発電所を建設するのが望ましい。 一方、遠く離れた発電所への石炭の輸送はひどく高くつく。 南アでは水力発電や天然ガス発電を利用する可能性は極めて制限されている。 大型の火力発電所、原子力発電所あるいは水力発電所の場合、着工から運開までのリードタイムに最長8年を要し、経済成長率が予測と違った場合、結局、余剰設備を設置したことになる。 このような観点から、エスコムはその総合電源開発計画の一環として1993年以降、PBMRの調査を行っている。 これまでの調査によってPBMRを将来の南アの電力供給に対し可能性のあるオプションとみなすべきことが確認されている。 1995年、エスコムはプレ・フィージビリティ・スタディを開始し、1997年には技術と経済性の研究が行われた。 1998年半ばまでに、このプロジェクトは実規模のエンジニアリング設計フェーズに入るまでに至っている。 2000年4月に南ア政府がゴーサインを出したプロジェクトのフェーズ1は、詳細なフィージビリティ・スタディ、環境影響評価(ETA)および公衆の参加プロセスを含むものである。 技術 PBMRは、180年代半ばにドイツにおいて成功裏に開発された高温ガス炉(HTR)で得られた基礎開発研究成果、すなわち、ユーリッヒ高温ガス実験炉(AVR:1.5万kWe、1969年運開、1988年12月閉鎖)およびトリウム高温原子炉(THTR:30.8万kWe、1987年運開、1989年9月閉鎖)をベースとした後継炉である。 1.5万kWeのAVRは、ペブルベット概念に基づくHTRの特性を実証するために建設された研究炉であった。 異なる種類の燃料設計と燃料装荷およびHTRの安全特性が試験され実証された。 初めてのプロトタイプであったにもかかわらず、AVRは21年の運転期間を通して約70%の稼働率(utilization rate)を達成した。 この種の小型HTRの固有の安全性が十分理解されたのは、米国のTMI事故以降であった。 30万kWeのTHTRがこの種の最初の発電炉として建設された。この原子炉は、プラントの利用度(アベイラビリティ)と保守性に特に重点を置き、副系の異なるハードウェア設計の能力を実証することを目的として建設された。 したがって、設計の重点は、40年の運転寿命と80から90%の稼働率(availability)を達成することに置かれた。THTR-300の後、商業炉THTR-500の建設が続く予定であった。 1986年のチェルノブイル事故がきっかけとなり、ヨーロッパ全土を反原子力の嵐が席巻した。 当時の西ドイツ政府は、原子力発電所の閉鎖を開始すべきとの厳しい圧力にさらされた。 同時に、原子炉ユニットの悪い経済性能(これは検討が十分でなかった供給契約のために更に悪化したが)のために請求額を支払う電力会社は当該ユニットに愛想が尽きていた。 より重要なことはおそらく、PWRとBWRの原子炉ベンダーがドイツの市場に深く浸透しており、高温ガス炉の技術メリットがたとえいかに優れていたとしても、第3の原子力技術がその市場に入り込む余地が全くなかった点である。 PBMR(Pty)Ltdは、今日その状況はまったく違っていると確信している。 ガスタービン技術は著しく改善され、PBMRの設計ではガスタービン単独との組合せが可能で、(米国の高温炉であるピーチボトムやフォートセントブレインを含む)古い設計の高温ガス炉を悩ませた蒸気系が不要となっている。 PBMRが採用することになる設備構成は新しく、PBMRにぴったりのもので、(保守の少ない電磁軸受の使用といったような)更なる開発が必要とされるが、採用される技術の多くと用いられる多くの機器は近年、船舶の推力設備用に開発されているものと同じものである。 したがって、PBMRはドイツの知見に大きく依存するものであるが(主要技術のライセンスの譲渡についてはオリジナルの設計者であるABBとシーメンスとの間で交渉され1991年に譲渡された)、PBMRプロジェクトではユニットのサイズを制限し原子炉系以外の設備を簡素化することによって、ドイツが遭遇した運転上のトラブルを回避しようとしている。 PBMRの原子炉圧力容器は、鋼製の縦置き円筒状で直径が6m、高さ約20mである。 その内面には厚さ100cmの黒鉛レンガが層状に張られており、これは反射体およびパッシブな熱伝導媒体として機能する。 黒鉛レンガの内張りには垂直に穴があけられ、その中を制御棒が通る。 PBMRは大きさがテニスボールくらいの燃料球、すなわち、ペブルを使用するが、燃料球は濃縮酸化ウラン粒子を熱分解炭素とシリコンカーバイトでコーティングしたものを黒鉛のカプセルで包んだものである。 ヘリウムは、冷却材および閉サイクルのガスタービンと発電機システムへエネルギーを伝える媒体として使用される。 通常運転中、PBMRの炉心には44万個の球が存在し、その内の33万個は燃料球である。 残りの球は原子力グレードの黒鉛球であり減速材としての機能を果たす。 その構造上の特性と中性子のスピードを核反応を起こすに必要な値に落とす能力ゆえに黒鉛が用いられている。 核反応によって発生した熱を除去するために、冷却材であるヘリウムは、約500℃の温度と70バールの圧力で原子炉に入り、熱い燃料球の間を通過し、約900℃まで加熱された状態で原子炉底部を後にする。 その後、高温となったガスは直列に置かれた3基の内の最初のガスタービンに入る。 最初の2基のタービンは圧縮機を駆動するもので、最後のものは発電機を動かすものである。 最後のタービンを出るときのヘリウムの温度は約530℃、圧力は26バールである。 その後、ヘリウムは再圧縮、再加熱され、原子炉に戻る。 用いられるプロセスサイクルは、閉サイクルの水冷式の中間冷却器と前置冷却器を装備した標準のブレイトンサイクル(Brayton cycle)である。 タービン発電機の下流には熱エネルギーを回収するために高効率な回収熱交換器が設置されている。 回収熱交換器で熱を奪われた低エネルギーのヘリウムは、前置冷却器、中間冷却器、そして回収熱交換器を経由して炉心に戻る。 ヘリウム冷却材が高温高圧であることの重要性は、その優れた熱効率にある。PBMRとは対照的に、軽水炉用の蒸気タービンは低温低圧で運転され、温度と圧力が数倍高い化石燃料発電所用のタービンよりも建設費が高い上に生産性が劣っている。 代表的なLWRの熱効率は33%であるが、PBMRの基本設計では40%以上の熱効率が期待されている。 より高い運転温度へと導く燃料性能の向上によって50%の効率も夢ではない。 運転を行いながら燃料交換できる点がPBMRの特徴の1つである。 この原子炉では、使用された燃料を底部から取り出す一方で、原子炉頂部から新燃料や再利用の燃料が連続補給される。 燃料ペブルは残っている核分裂性物質の量を決定するために測定される。 ペブルに有用な量の核分裂物質が残っているならば、更なるサイクルのために原子炉の頂部に戻される。 1回のサイクルは約3ヶ月である。 規定された95%の設備利用率(capability factor)を達成するために、6年に一回の割合で計画運転停止を行うことになっている。 運転停止期間は行われる保守の内容によって変化し、30日から50日の間である。 寿命の中間時点に炉心の反射体を交換することが計画されており、このための運転停止期間として180日が予定されている。 運転停止は専門家からなる運転停止組織によって計画実施され、常勤の運転停止スタッフは不要である。 計画運転停止中に行われる活動は、ターボ圧縮機といった大型機器の交換や通常運転中に容易に近づくことができない機器や構造物の検査や試験に重点が置かれる。 三重被覆燃料(Triso fuel) PBMRの燃料は、性能や品質が実証済みのドイツの成型黒鉛球と三重被覆粒子(Triso)をベースとしている。 基本的に、燃料要素は濃縮ウランと様々な形態の炭素からなる多層球である。 製造工程において、濃縮UO2製の小粒のビーズが落下され微細球(microsphere)が形成され、その後、微細球は、ウラン燃料「ケルネル(kernel:核)」を作るためにゲル状にされ、か焼される。 ケルネルは、一般に温度が1000℃のアルゴン雰囲気の化学蒸着装置(CVD)を通される。 この装置によって、精度の高い厚さでもって特定の化学物質の層が蒸着される。 PBMR燃料の場合、ケルネルに蒸着される最初の層は多孔質炭素である。 この物質は、被覆した燃料粒を過圧することなしに核分裂生成物(FP)の収集を可能とする。 次いで熱分解炭素(密度が非常に高い熱処理された炭素)の薄い層が被覆される。 続いてシリコンカーバイド(強力な耐火性を有する物質)が被覆され、その上に再度、熱分解炭素が被覆される。 多孔質炭素は、燃料の寿命中に酸化ウラン粒子が受ける機械的変形を吸収する。 熱分解炭素とシリコンカーバイドの層は、燃料と核反応から生じる放射性崩壊生成物を封じ込めるよう設計された貫通不能なバリアを提供する。 現在のところ、直径が約1mmの燃料粒子の内の約15,000個は、その後、黒鉛フェノールパウダーと混合され、直径が50mmのボール状に圧縮成型される。 続いて、非燃料ゾーン(”non-fuel” zone)を形成するために、厚さが5mmの純度のかなり高い炭素層が被覆され、次いで、硬度と耐久性をもたせるために圧縮、か焼、焼きなましされる。 最後に、燃料要素は機械加工され直径が60mmの球形となる。 各燃料球には9gのウランが含まれている。このことは、炉心に装荷されるウランの総量は2.97トンであることを意味している。 1個の燃料球の重量は210gである。 連鎖反応を維持させるために、PBMRぺベルのU-235は平均で8%まで濃縮される。 なお、天然ウランのU-235の含有量は0.7%である。 燃料球の燃焼度が80,000MWD/tに達した時点に炉心から取り出され、使用済燃料貯蔵施設へ送られる。 各燃料ペブルはその寿命中に原子炉を約10回通過し、原子炉ではその設計寿命中に10回から15回燃料装荷が行われることになる。 燃料球の寿命は約3年、黒鉛球の寿命は約12年である。 濃縮ウランの減損は従来の原子炉よりもPBMRの方が多く、それゆえに、減損したPBMR燃料から抽出できる核分裂性物質は極わずかである。 このことと、使用済燃料球を覆っているバリアを壊すために必要な技術レベルと費用とが相俟って、PBMR燃料による核拡散や他の転換利用の可能性を著しく低くしている。 燃料は空圧を利用した燃料取扱い装置によって原子炉建屋内の使用済燃料貯蔵施設へ移送される。 使用済燃料貯蔵施設は10基のタンクから構成され、各タンクの直径は3.2m、高さは14mである。1基のタンクに5万個の燃料球が貯蔵できる。 貯蔵は常時、乾燥状態で行われ、崩壊熱は自然対流によって除去される。 プールやポンプは不要であり、汚染水の発生はない。 過去にクバーク原子力発電所用の燃料棒を製造した南アフリカ原子力会社(NESCA)は、PBMRプロジェクトチームとの間で、ドイツで確立された技術を用いPBMR用の燃料製造技術を開発する契約を結んでいる。 安全特性 どの高温炉(HTR)の利点も改善された熱効率にあったが、PBMRを開発する推進力はその安全性にある。 現存するすべての発電炉において、その安全目標は、プラントに合わせあつらえたアクティブな安全系によって達成されている。 これとは対照的にPBMRはその設計、使用される材料および物理現象の結果として固有の安全性を有している。 このことは、万一、最悪のシナリオが起きたとしても、短期あるいは中期的に人的な介入を必要としないことを意味している。 原子力事故は、連鎖反応がストップした後に核分裂生成物(FP)の放射性崩壊が原因で発生する残留熱によって主に引き起こされる。 崩壊熱が除去されないならば、燃料が加熱され、最終的にFPを保持する燃料が劣化し、燃料内部の放射能が放出される。 従来の原子炉において、熱の除去はアクティブな(動的な)冷却設備によって達成されており、熱伝達流体(たとえば、水)の存在にかかっている。 これら設備は故障する可能性があるために、冗長性を与えるべく複数の系列から構成されている。故障が招く結果を緩和し、かつ、放射能の放出に対するさらなるバリアを提供するために、格納容器建屋といった別の設備も提供されている。 PBMRにおいて、崩壊熱の除去は、原子炉冷却材の状態に関係しない。放射、伝導および対流によって達成される。炉心の出力密度が極めて低いこと(PWRの出力密度の30分の1)と燃料(個々に独立した数十億個の)耐熱性が優れていることが優れた安全性につながっている。 炉心から発電用ガスタービンに熱を伝達するために使われているヘリウムは、化学的および放射線学的に不活性である。 ヘリウムは他の化学物質と化合せず、不燃性であり、かつ炉心を通過しても放射能を帯びない。 一次系に空気は入らないので、原子炉内のグラファイト(黒鉛)は腐食されない。 炉心内で達するピーク温度(最も厳しい条件の下で1600℃)は、燃料を損傷させる可能性のある温度を十分下回っている。 核反応によって発生するFPが高温特性の優れたシリコンカーバイドの層に取り囲まれているおかげである。 核反応を停止し、炉心の崩壊熱を除去するよう設計されたアクティブな設備が故障したとしても、PBMRの場合、自然に核分裂が停止し炉心を冷却するようになっている。 これは、強力な負の反応度温度係数および対流と伝導による固有の熱除去メカニズムによるものである。 チェルノブイルタイプの原子炉である黒鉛減速軽水冷却炉(RBMK)は高出力領域で強力な負の反応度温度係数を有していたが、低出力領域では正の反応度温度係数を有していた。 チェルノブイルでは低出力の状態の下で事故へと導いた実験が行われた。 温度が上昇すればするだけ、多くのエネルギーが生産され、その結果、暴走反応に至った。 PBMRの炉心は表面積対体積比が高いものである。 このことは、その表面を通って失われる熱(紅茶を入れたカップが冷めるのと同じプロセスを経て)が炉心内のFPの崩壊によって発生する熱よりも多いことを意味している。 従って、PBMRの原子炉は、燃料の重大な損傷を招く温度に達することはない。 起きる可能性のほとんどない一連の事象によって原子炉の入口と出口のガス配管が万一破断した場合、空気が炉心内を循環するようになるまで約9時間かかる。 万一、この事態が起きたとしても一日当たり放出される放射能量は炉心内の放射能のわずか10-6未満であり、このことは、この極めて厳しい状況の下で(なお、復旧可能ではなるが)、24時間の間に放射される放射能の量が所外緊急時対応措置を必要とする量の約1万分の1であることを意味している。 ガス配管の2カ所での破断を回避するために、配管は破断する前に漏洩するよう設計されており、従って減圧は徐々に起こり、破断を招くことはない。 PBMRのこの固有の安全設計により従来の原子炉に対し必要とされる安全グレードのバックアップ設備と所外緊急時計画のほとんどの項目が不要となっている。 他のプラント設計において努力することによって達成された費用低減を、PBMRではこの安全設計により何の苦労もなく達成できる。 燃料およびその移送モードの特徴に適合するよう修正されることになるが、燃料の移送に関係したプランは必要である。 PBMRの原子炉概念は、21年間稼動し、その間に十分試験されその性能が実証されたドイツのユーリッヒAVRに基づいている。 AVRの安全設計は、公開され、かつ記録としてフィルムに納められた安全試験によって証明された。 この安全試験では、炉心への冷却材の流れがストップされ、制御棒は引き抜かれたままとされた。 2、3秒以内に炉心での核反応が自然にストップすることが実証され、続いて、燃料にいかなる劣化も起きていないことが証明された。 これによって、炉心のメルトダウンは起こり得ないことが、また、固有の安全性を有する原子炉設計が達成されたことが証明された。 考えられる最悪の事故シナリオにおいて、プラント敷地外の人が事故中ずっとそこにいたと仮定した場合、その人が受ける外部被ばくの追加分の最大値は、自然放射能から1日にあびる量の1日分である。その線量はささいである(trivial)のみならず、プラントから400m以上はなれた場合、いかなる追加も受けないことになる。 モジュール概念 PBMRの原子炉はモジュール方式で設計されている。 この設計の場合、需要に応じるためにモジュールを増やせばよいことになる。 モジュール方式の場合、水力発電や化石燃料発電所よりも設置位置の影響を受けない。 より高価になるが、乾式の冷却設備(蒸発することなく復水器の水を冷却する)は立地点の選択の余地を更に拡大する1つのオプションである。PBMRのプラントはベースロード発電所や負荷追従発電所としても利用できるし、電力供給先のコミュニティの規模に適合したサイズに設計することもできる。 もう1つの魅力は淡水化の用途に極めて適している点である。 PBMRの設計は、新世代の原子炉は小型であるべきとの考えに基づいている(PMBKのモジュールは約12万kWeの発電を行えるサイズである)。 モジュール方式は地元のニーズに合わせ小型の原子力発電所をまず建て、その後、需要の増加に応じ規模を拡大することを可能とする。 出力の負荷追従性 モジュール設計と各モジュールの両方にとっての特徴の1つは、発電出力をグリッド(外部電力系統網)の要求に、また、日々の負荷パターンの両方に合わせる上で極めて優れた自由度を有している点である。 (負荷追従に用いることは出来るが、ベースロード用ユニットとして全出力で運転するよう設計されている)軽水炉と異なり、PBMRにとって負荷追従は容易に可能である。 個々のモジュールレベルでは、タービン翼のピッチ調整が可能であり、出力をすばやく、適当に変えることが出来る。 より重要なことは、冷却ループのヘリウム量を増減させることによって、出力レベルをより劇的に変化させることが可能であり、(温度と共に)タービンを横切るヘリウムの量を変化させることによって炉心の反応度を変える必要がない点である。 長期の反応度は新燃料の追加速度を変えることによって変更することができる。 フレキシブルな出力設計基準は、各ユニットに対し出力を全出力から半分の出力へ、またその逆へ変えることを可能ならしめることを要求している。 単一モジュールが可変であることと複数ユニットの組合せによって、PBMRをガス火力ユニットで可能な負荷追従用途に利用することが可能となる。 モジュール方式の採用は、市場への浸透の点で極めて重要である。 日本、北アメリカおよび北ヨーロッパといったような大規模な外部電力系統網(big grid)においても、送電設備が乏しい地域は常に存在する(たとえば、米国において地域間の送電線の連結が相対的に弱い個所があることが新規ガス火力発電ユニットの建設ブームの理由1つになっていると共に、電気料金の地域格差の主要原因の1つとなっている)。 これら電力供給が完備していない地域近郊に小型のLWRを建設することは現実的でないかもしれないが、PBMRであればこの要求に十分適合する。 費用効率 総出力が約120万kWeの10基のモジュールから構成される商業規模のPBMRプラントに対する建設費の目標額は1kWe当り約1,000ドルである。 この値は南アで新規に建設される石炭火力発電所の900ドル/kWeに匹敵する。 この目標が達成されたならば、PBMRの発電コストは南アの海岸に近い石炭火力よりも当然安くなり、世界の平均発電コストである3.4セント/kWhよりもはるかに低い値となる。 参加企業 組織上、PBMR(Pty)社は現在、独立した法人化されていない研究開発会社であり、エスコムが同社の株式の30%を持っており筆頭株主である。 他の株主としてIDC(25%)、BNFL(22.5)およびエクセロン(12.5%)がおり、残る10%は黒人権利委任投資のためにリザーブされている。 ペコ・エナジー(Peco Energy)とユニコム・コーポレーション(Unicom Corporation)が2000年10月に合併してできたエクセロンは米国で最大規模の電力会社の1つであり、約500万の顧客と120億ドル強の年間売上高を有している。 同社の事業分野はエネルギー生産、エネルギー輸送および非規制事業の3つの柱からなる。同社はまた、異なる様々な発電形態の組合せで発電を行っている電力会社の1つであり、その形態は原子力、石炭火力、ガス火力、石油/ガス火力、揚水、水力からなり、総発電設備容量は2250万kWeである。 BNFLは、世界中の原子力産業に対し様々な製品とノウハウを提供している。 同社の事業は燃料加工と原子炉サービス、発電、使用済燃料の管理および廃止措置とクリーンナップ(浄化)と多岐に渡っている。 この2年間にBNFLは、WH社およびABB社の原子力部門の買収によって英国を基盤として企業から世界企業に大きく変貌した。 今日、BNFLは世界15カ国出事業を展開しておりその従業員数は23万人強である。 エスコムは発電、送電、配電事業を行っている国営企業である。 所有する3,900万kWe強の発電設備の内、約93%が石炭火力であり、それらはすべて石炭採掘地近郊に建設されている。 原子力発電所(クバーグ発電所)は1ヶ所で2ユニットのPWRからなる。 同発電所はエスコムの供給量の6%を賄っており、最も近い火力発電所から1,400km離れている西部ケープ地区に電力を供給している。 エスコムは世界で最も安い電力を供給しており、その発電コスト(overall bus-bar cost)は約1セント/kWhである。 南ア興業会社(IDC)は様々な事業体に対してローンおよび株式金融を提供している国有の株式会社である。 1940年の操業からほぼ一貫して黒字であり、無借金経営を行ってきている。 その任務は、健全事業原則に従って持続可能な競争力のある産業および(観光事業や農業プロジェクトといった)他の企業に融資することによって南アフリカ開発コミュニティ(SADC)の経済成長を促進することである。 IDCのすべての投資は、包括的なリスク−便益分析を受ける必要がある。 この分析には、当然のことであるが、IDCの投資利益を守るためだけでなく、国家環境目標の達成に貢献するための環境リスク分析も含まれている。 環境影響評価 公衆の参加も含む環境影響評価(EIA)は2000年6月にスタートした。現時点におけるEIAに関する南ア議会の議決の目標日は2002年2月である。 環境面での最大の課題は使用済燃料の処分である。 南アにおいて放射性廃棄物はバールプッツ(Vaalputs)に処分できる。 同処分場は廃棄物処分に適した花崗岩層である。 ウランのまわりを覆っている安定したシリコンカーバイトの層は数百万年以上耐えることが出来ることと石炭に似たグラファイト(黒鉛)自体が地下や流水中で劣化しないことを考えた場合、PBMRの球形燃料は、それ自体が理想的なコンテナである。 使用済球形燃料は単にその取扱いのためにコンテナに入れられて処分されることになるが、従来の燃料に対し法律によって義務付けられている空間のわずか6分の1を必要とするだけである。 なお、使用済球形燃料の総体積は従来の燃料の10倍である。
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