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東京第五検察審査会(以下、第五検審)、小沢事件を2回審査し、それぞれ「起訴相当」の議決をして強制起訴へと持ち込んだ検察審査会である。これから書くのはその第五検審にメスを入れ、解体、腑分し、その暗部を白日の下に晒そうというものである。
まず、はじめに小沢事件が第五検審で審査に至った背景はどのようなものであったか、時系列で見て行くことにする。
外為法違反事件から始まった小沢事件
平成21年1月14日、西松建設の元海外担当副社長らが1億円の裏金を海外から持ち帰ったとされた外為法違反事件を発端に一連の小沢事件は始まった。東京地検は総額10億円と言われる裏金の政治家ルートの調査を始める。しかし、思うような成果は上がらない。そこで東京地検は西松建設の2つの政治団体、「新政治問題研究会(平成7年11月設立)」と「未来産業研究会(平成11年6月設立)」に目を付ける。この2つの団体は実体がなく西松建設のダミー団体であり、これらの団体の政治献金は西松建設による迂回献金で政治資金規正法に違反するという見立てである。
2つの政治団体は、平成18年の解散までに、会費と資金集めパーティーであわせて約5億9千万円を集め、約4億7千万円を政界に流したとされる。収支報告書では小沢一郎が3,100万円、自民党では、尾身幸次元財務相が2,080万円、加藤紘一元幹事長が1,400万円、森喜朗元首相500万円などとなっている。
東京地検は3月3日、衆議院議員選挙を半年後に控えていた民主党代表の小沢一郎の公設第一秘書、大久保隆規を西松建設社長とともに逮捕する。これがいわゆる「西松建設事件」である。
見え隠れする事件の政治的側面
この「西松建設事件」について3月5日、漆間巌官房副長官が記者団との懇談の席でオフレコであったが「自民側は立件出来ない」と語り、それが報道されてしまう。もともと、麻生内閣が官房副長官に漆間を起用した理由は警察OBであり、現役警官からの情報が得られ、小沢一郎民主党代表の持病である狭心症の状態や、民主党大物議員石井一のマルチ商法スキャンダルを調査させるという目的であったことが取りざたされていた。
この発言を受け、3月10日、民主党の西岡武夫参院議院運営委員長が「党執行部と相談した上で樋渡利秋検事総長の証人喚問を考えたい」とコメントする。すかさず、3月13日、森英介法相が「検察官を証人として国会に出頭させることは、検察官の独立性と公正性の保持の観点から悪影響を及ぼす」として反対を表明するなど応酬があった。
実はこの森法相、のちに平野元参議院議員によって次のような話が暴露される。上杉隆の「ニュースの真相」に出演した22年5月18日、平野元議員が、5月13日に数人の財界人から呼ばれ話をしたがその席で、財界人の一人が、森大臣が酒の席で「大久保逮捕は自分が指示してやらせた」と言ったのを聞いたというのである。このあまりの爆弾発言に司会の上杉隆がドギマギしている様子がそのまま流れている。
政治的・社会的影響が大きい案件は検事総長、東京高検検事長、東京地検検事正らが一同に会する「検察首脳会議」を開催するのが慣例になっていたが捜査当局はこれを無視し、秘書逮捕に突入したとされるが、法務大臣による指揮権発動であれば、これらの経緯がすんなり理解できる。この後、3月24日、大久保秘書と西松建設社長は起訴される。
これと前後して、大阪地検では「凛の会」の障害者団体の証明に、虚偽の証明書が使用されたとして6月14日、村木 厚子社会・援護局障害保健福祉部企画課長(当時)を虚偽公文書作成、同行使容疑で逮捕する。民主党の政治家、石井一が口添えをしたとされたが、その日は千葉でゴルフをしていたと自分の手帳を基に証言、石井は難を逃れる。このため、検察は石井のマルチ商法スキャンダルへの糸口を失うこととなる。
この2つの事件は衆議院選挙を控えて、東京の小沢、大阪の石井で国民の支持が高まりつつあった民主党を潰すための国策捜査であったという見方がある。「村木事件」で逮捕された大阪地検の大坪元特捜部長が、民主党が政権を取りそうになった頃、最高検の幹部がその大坪に「最高裁幹部と民主党潰しを画策している。大阪特捜部は石井一議員周辺を捜査する。東京特捜部には小沢氏を捜査させるが、起訴は難しいから、最高裁が検察審査会を利用して起訴する」と話したことが知られている。
この「西松建設事件」により、小沢一郎は5月11日、民主党代表を辞任、後任に鳩山由紀夫が就任する。しかし、その検察の思惑にもかかわらず、8月30日、第45回衆議院議員選挙で民主党は308議席を獲得して圧勝、9月16日には鳩山総理・小沢幹事長の民主党政権が誕生する。自民党は181議席を失い、1955年の結党以来はじめて衆議院第一党から転落することとなった。
民主党政権が樹立されたことにより、検察は追い込まれ、より一層、危機感を持つ。総務省の鈴木康雄次官が更迭され、国土交通省では本保芳明観光庁長官が民間人と交代させられる。小沢一郎が検事総長の人事に介入してくることを恐れたのである。のちの小沢裁判で証人に立った前田元検事は東京地検に応援に行った捜査初日に主任検事から「この件は特捜部と小沢の全面戦争だ。小沢をあげられなければ、(特捜部は)負けだ」と言われたと証言している。
「陸山会事件」による検察の再始動
その後、しばらく動きのなかった東京地検が11月4日、市民団体「世論を正す会」が起こした小沢一郎秘書3人に対する政治資金規正法違反容疑の告発をきっかけに再び動き出す。小沢一郎の資金管理団体である「陸山会」が東京都世田谷の土地を16年に購入した際、実際は10月に購入したものを登記せず、翌年1月に登記し、政治収支報告書に虚偽記載(期ズレ)したというものである(「陸山会事件」)。この市民団体「世論を正す会」についてはまったく実体が分かっていないが、この告発を受け、東京地検は22年1月15日、石川知裕衆議院議員と池田私設秘書を逮捕(「陸山会事件」)する。しかし、このとき、検察は重大な危機に直面していたのである。
「西松建設事件」の消滅
2日前の1月13日、「西松建設事件」の第2回公判で、西松建設元総務部長が「(献金していた)当時は、政治団体がダミーとは全く思っていなかった」と証言したのである。政治団体についても「OBがやっていて、届け出もしている、と被告に説明したと思う」と述べ、西松と政治団体の関係を質問した裁判官に「事務所も会社とは別に借りて、資金も別だった」と証言したのである。しかも、この証人は検察側証人であったので検察の狼狽ぶりはいかばかりであったろう。このまま無罪となり、政権交代前の不当逮捕を糾弾されるのを恐れた検察は、虚偽記載の範囲に同じ平成16年の「陸山会」における虚偽記載のものを入れるよう申立てる。いわゆる「訴因変更」である。
「訴因変更」とは、起訴状に訴因として書かれているもの以外では被告人を有罪にすることはできない。このため、当初の訴因では有罪が見込めないとき、検察は訴因の変更を求める場合がある。ただし、いかなる変更も許されるわけではない。裁判所は検察官の訴因変更が公訴の同一性を有すると認められる範囲においてのみ変更を許している。ただ裁判員制度の導入から公判前整理手続きを行うため、この訴因変更は認められにくくなっている。このケースでは同じ平成16年の政治収支報告書の虚偽記入という罪において一部は大久保被告の単独犯、一部は秘書3人の共犯というちぐはぐな構図になってしまったが、1月21日、東京地裁はこの訴因変更を認める裁定をしている。1月16日の大久保秘書の逮捕はこの訴因変更に合わせた急遽の再逮捕であったため、石川氏らの逮捕と1日ずれてしまっている。
検察と協働する怪しい市民団体
続いて、別の市民団体「真実を求める会」が陸山会による土地購入の虚偽記載に関与した容疑で小沢一郎を告発する。小沢一郎に対するこの告発こそが、のちに小沢一郎を法廷の場に立たせるものであった。東京地検は3人の秘書の逮捕にあわせ、小沢にも任意の事情聴取を要請しており、小沢もこれを了承していたが、突然の告発により、その任意の聴取が被告発人としての聴取にすり替わってしまった。
告発は受理されない場合や受理されても捜査開始が半年から1年後となる場合もあるが、これが任意聴取の2日前に出され、それが即座に正式受理されていることから「真実を求める会」と検察の連携プレーだったと言われている。小沢一郎を告発した「真実を求める会」について、代表者は元産経新聞のジャーナリストで山際澄夫と言われているが、「世論を正す会」と同じく実体は不明である。この2つの市民団体は告発の手際の良さや検察の受理のスピードなど、どちらも検察との深い関係が疑われるが、まず秘書を逮捕することでマスコミを煽り、次の小沢一郎に対する告発が自然なものに見えるよう、周到に計画されていたのではないだろうか。
「水谷建設事件」を捏造するマスコミ
秘書3人を逮捕した直後の1月27日、TBSの「朝ズバ」が今度は「水谷建設による石川議員への裏金、5,000万円の受け渡しを目撃した男性が核心証言」との報道を開始する(「水谷建設事件」)。しかし、目撃男性は石川議員を長身といい、人目に付く全日空ホテルの喫茶店で紙袋に入った現金5,000万円の受け渡しを目撃と言っていたことから、すぐ、その証言のいかがわしさが指摘された。
後から日刊ゲンダイがこの人物にインタビューした2月6日の記事には、16年10月15日に見たのかの質問に「だいたい5,6年前のことを覚えている人はいないでしょう。1週間前の夕食さえ覚えていないのに」と答え、石川議員を本当にホテルで見たのかとの質問には「(別の)グランドパレスホテルで見たことがある」と答え、5,000万円を見たわけでもなかったことが書かれている。
もともと、この10月15日の5,000万円の金の受け渡しは、その金が陸山会による土地購入資金の一部になったという検察の見立てであったが、検察はこの「水谷建設」の裏金によって石川議員を立件し逮捕することはなかった。結局、マスコミがこの捏造報道で世間を煽っただけであった。この水谷建設の事件は西松建設における検察の大失態を隠ぺいするため、慌てて検察がリークしたやらせであったと思われる。その検察の思惑通り、世間ではこの西松建設事件の消滅を知る者はほとんどいなかった。
また、先の「陸山会事件」にしても収支報告書に4億円といった高額の金が飛び交うものであったが、そもそもこの事件は政治資金収支報告書に記載された時期がズレているだけで、東京地検が自ら手を出して捜査できるようなしろものではなかった。怪しい市民団体の告発の手助けにより、はじめて検察が捜査して秘書を強引に逮捕、起訴することが出来たのである。
検察審査会の組織改正と選定くじソフトの導入
一方、検察審査会の動きに目をやると平成21年4月1日、全国の検察審査会の組織改正があり、東京では第一から第六までの審査会が設置される。このとき新設された第五検審で小沢案件は審査されるようになる。また、平成21年5月21日、検察審査会改正法が施行され、2回の起訴相当議決で自動的に強制起訴されるようになった。この改正法により2回の「起訴相当」議決を受けた小沢は強制起訴されることになる。また同じ5月に審査員選定くじソフトが全国の検察審査会に導入され、運用されるようになった。
小沢事件に関わった審査員は1回目が平成21年第4群(任期21年11月〜22年4月末)と平成22年第1群(同22年2月〜7月末)、2回目は平成22年第2群(同22年5月〜10月末)と平成22年第3群(同22年8月〜23年1月末)(7月期については第1群が審査)で全てこの選定くじソフトによって選ばれている。この選定くじソフトは森ゆうこ参議院議員が実際の選定くじソフトを使って動作テストを行っているが、欠陥だらけのソフトであることが分かっている。仕様では暗号化された選挙人名簿しか読み込めないようになっているが、外部からエクセルデータなどで直接、名簿を登録することが出来る上、審査員を恣意的に選べることが明らかになっている。
最高検の幹部が大坪元特捜部長に「最高裁が検察審査会を利用して小沢を起訴する」と話した時期は民主党がまだ政権を取っていない時期(衆議院議員選挙は8月30日)である。一方、小沢案件を審査する最初の審査員、平成21年第4群が選ばれたのは9月25日であった。はたして、この審査員の選定に小沢一郎の起訴をもくろんでいる最高裁の意思が働くことはなかったのだろうか。
検察審査会へ持ち込まれた小沢事件
「陸山会事件」の捜査の結果、検察は2月4日、秘書3人を起訴するが、小沢一郎については嫌疑不十分で不起訴とする。これを受け、小沢一郎の告発者である「真実を求める会」が不起訴を不服として第五検審に申立てる。不起訴に対する不服申し立ては誰にでも出来るものではなく、申立権を有する者しか出来ない。告発者はこの申立権を有するのである。そして、この不服申立ては2月12日に受理される。
この2月は一回目の2つの群の審査員が揃う月である。まさに検察審査会の体制が整ったとき、検察はタイミングを図ったように不起訴の決定をしたのである。もともと不起訴をこの時期に合わせるように逆算して市民団体に告発をさせたとも考えられ、11月まで検察が動かなかったのはそのタイミングをじっと待っていたからではないだろうか。
コラム「佐藤優の眼光紙背」に「特捜検察の預言」という22年4月28日の記事がある。2月1日に石川氏を取り調べた吉田副部長が「小沢先生が不起訴になっても、検察審査会がある。そして、2回起訴相当になる。今度は弁護士によって、国民によって小沢先生は断罪される」と石川氏に語ったということが書かれてある。
3月9日、小沢一郎に対する「政治と金」の大バッシングの報道の真っただ中でこの小沢一郎の審査は始まり、その検察の預言通りに話は展開していくのである。
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