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TPP加入で風前の灯 危機的状況の国民皆保険制度 色平哲郎氏(東京新聞)
談論誘発(東京新聞)2012年10月6日 投稿 色平哲郎氏(いろひら てつろう)佐久総合病院地域ケア科医長.1960年生まれ。内科医。信州の山村で12年間、地域医療に取り組む。世界こども財団評議員。
日本医療と日本社会、その根幹を支える国民皆保険制度が「内からの制度崩壊」と「外圧」という二つの要因によって危機的状況にある。
作家の山岡淳一郎氏が昨年、「国民皆保険が危ない』(平凡社新書)で、危機の実相を「貧困という内なる危機」 「外からの市場化の猛威」との両極を通して描き出したが、その後も事態はますます悪化している。
「国民皆保険」制度については都民の関心も高く、都内で公開講座が頻繁に開かれている。だが、一般の理解とは別に、内部崩壊は法的な一線を超えた。民自公の三党合意で成立し、八月二十二日に施行された「社会保障制度改革推進法」だ。
小泉内閣を含め、歴代内閣の医療制度関連の公式文書に必ず盛り込まれた「国民皆保険制度の堅持」が消滅。代わりに*「原則として全ての国民が加入する仕組みを維持する」という文言が加わった。
法律の「原則として」は「例外」を認める表現だ。皆保険を空洞化させる恐れのある条文である。
日本福祉大学副学長の二木立氏は「過去十年間の医療制度改革論議では否決された、外来受診時定額負担制度や保険免責制等による患者負担の増大、混合診療の大幅拡大。全面解禁論が蒸し返される危険が大きい」と警鐘を鳴らす。
高齢化と経済衰退に悩む地方では、患者の負担増は 「金の切れ目が命の切れ目」を招く。今回、民主党は自民党案を「丸のみ」して法律を通したのだが、とんでもない方向転換をしたものだ。
このような状況で、医療制度をアメリカ型市場原理至上主義へねじ曲げる「TPP(環太平洋連携協定)」に日本が加入すれば、皆保険は風前の灯となろう。
TPP加入で、最も危惧されるのは混合診療の全面解禁である。医療側が言い値で値段をつけられる「自由診療」と保険点数に基づく「保険診療」の混合は、医療の利便性を高めるかのように喧伝される。しかし、経営が厳しい医療機関が高値の「自由診療」に飛びつくのはいうまでもない。結果として、一般の人が受けられる 「保険診療」枠は次第に狭められていく。
野田政権はTPP参加に慎重だともいわれるが、安閑としてはいられない。当事国政府は情報を隠したがる。医療、とりわけ国民皆保険については、日米両政府とも交渉の対象外とアナウンスしてきた。
しかし2011年9月11日、米国通商代表部は「医薬品へのアクセス拡大のためのTPP貿易目標」という文書を公表。小宮山洋子厚労大臣に知的財産権の保護を介した域内流通促進や医薬品の関税撤廃などの規制緩和を求めた。
医薬品の規制緩和は「自由診療」枠での市場流入に直結する。薬価を保険点数で決める国民皆保険の根本システムに風穴をあける要求だ。
ところが日本政府は国民には「公的医療保険制度は交渉の対象外」と説明し、薬価の規制緩和要求と国民皆保険との関係に触れようとしない。TPPと医療に関しては報道の裏側を読み解いていかねばならない。
*「原則として全ての国民が加入する仕組みを維持する」
第一八〇回
衆第二四号
社会保障制度改革推進法案
(医療保険制度)
(中略)
第六条 政府は、高齢化の進展、高度な医療の普及等による医療費の増大が見込まれる中で、健康保険法(大正十一年法律第七十号)、国民健康保険法(昭和三十三年法律第百九十二号)その他の法律に基づく医療保険制度(以下単に「医療保険制度」という。)に原則として全ての国民が加入する仕組みを維持するとともに、次に掲げる措置その他必要な改革を行うものとする。
(以下略)
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