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2012年10月 6日 植草一秀の『知られざる真実』
2012年度の赤字国債発行法が現時点で成立していない。
2012年度予算は成立しているが、これは歳出予算である。
歳入について政府は、租税収入および税外収入で賄えない歳出予算の財源を国債発行で調達する。
公共事業費のような投資的経費については、財政法4条が国債による資金調達を認めている。
これを財政法4条国債、または「建設国債」と呼ぶ。
これは財政法第4条の但し書きによって認められている資金調達である。
財政法
第四条 国の歳出は、公債又は借入金以外の歳入を以て、その財源としなければならない。但し、公共事業費、出資金及び貸付金の財源については、国会の議決を経た金額の範囲内で、公債を発行し又は借入金をなすことができる。
○2 前項但書の規定により公債を発行し又は借入金をなす場合においては、その償還の計画を国会に提出しなければならない。
○3 第一項に規定する公共事業費の範囲については、毎会計年度、国会の議決を経なければならない。
第三項が定める、国会が毎年度議決する公共事業費の範囲を「公債発行対象経費」と呼ぶ。公債=国債による資金調達は、この「公債発行対象経費」の範囲内で認められる。
ところが、財政法第4条国債を限度額いっぱいに発行しても財源が足りない場合にどうするか。
このときに発行される国債が特例公債(国債)=赤字公債(国債)である。
財政法は投資的経費の財源を調達する場合以外に公債発行による財源調達を認めていない。
この規定に反して政府が、「経常的経費」の財源を公債発行によって調達しなければならなくなるとき、政府は新たに「特例法」を制定して、この「特例法」を根拠に公債を発行して財源を調達する。
この法律に基づいて発行される公債(国債)を特例公債(国債)と呼び、その内容からこれを赤字公債(国債)と呼んでいる。
特例法は財政法に基づく財政運営の「特例」であるから、この「特例」措置が必要になる年度においては、必ず「特例法」を制定しなければならないのだ。
法律の名称としては、
「○○年度の財政運営に必要な財源の確保を図るための特別措置に関する法律」
という、何とも長たらしいものになる。
毎年度必要になるなら、毎年度赤字国債を発行できるような法律を作ってしまえばよさそうなものだ。
しかし、財政運営の基本法である財政法は、条文で経常的経費の財源として国債を発行することを禁じている。そこで、毎年度赤字国債を出していても、それぞれの年度において、あくまでも「特例」として赤字国債を発行しているのだという形が取られているのである。
政府が財政運営を行うには、当然のことながら財源を調達することが必要である。赤字国債の発行は1975年度から本格化し、1990年度には一度発行ゼロを達成したが、その後のバブル崩壊不況に伴う税収減少などを背景に、恒常化して現在に至っている。
この赤字国債発行法は、税制改革関連法と並んで予算関連法の中核を占めるものであり、政府の国会対応における「肝」のひとつだ。
予算を成立させ、予算関連法を成立させることが、政府の最低限の責務である。
ところが、2011年度、2012年度は、政府が赤字国債を発行するための根拠法である「財政運営に必要な財源の確保を図るための特別措置に関する法律」(略して「財確法」)を制定するのが大幅に遅れた。
菅直人氏は、これが原因で首相を辞めざるを得なくなった。
菅氏が首相を辞めたのは8月だ。そして、9月に野田内閣が発足した。
だが、今年度はさらに深刻な事態に陥っている。
もう10月になるというのに、この「財確法」が成立していない。
野党は財確法成立に協力する条件として、早期の解散確約を求めている。
野田内閣は主権者である国民との約束を踏みにじって消費増税法案を国会に提出した。
自民党は野田氏が「近いうちに」解散総選挙を行うことを確約したことと引き換えに消費増税法の成立に加担した。
ところが、野田氏が確約した「近いうちに解散」が守られる動きが示されていない。
もともとペテン師としか言いようのない野田佳彦氏と約束すること自体に意味はないわけだが、それでも、昨年度の事例を踏まえれば、「財確法」が決め手になるはずである。
主権者である国民としては、民主主義の根幹を踏みにじる野田氏の暴走を放置してよいわけがなく、一秒でも早くに解散総選挙を実施させねばならない局面だ。
「財確保」が「てこ」の役割を果たし、早期の解散総選挙が行われるべきことは言うまでもない。
ところが、財務省が「財確法」成立無しに総選挙を先送りさせる謀議を行っている可能性が浮上している。
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