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2012.10.05 ビジネスジャーナル
41年間にわたり裁判官を務め、現在は慶応義塾大学大学院法務研究科で教鞭を執っている原田國男氏の著書『逆転無罪の事実認定』(勁草書房)が話題になっている。
原田氏は、裁判官時代、主に刑事裁判を手がけ、東京高等裁判所部総括判事時代の8年間で、20件以上の逆転無罪判決を出したことで有名である。1審で有罪判決が下された事件の控訴審で、無罪判決が出ている割合はわずか0.3%。全国の裁判所の全事件をかき集めても、せいぜい年間20件くらいしか出ていないというのが、日本の刑事裁判の現状だ。
その原田氏に、
「知られざる裁判、法廷、そして裁判官の実態」
「えん罪や、検察による調書ねつ造が生まれる理由」
「判決を出すということの難しさと重さ」
などについて聞いた。
――まず初めに、原田さんが検事や弁護士ではなく、裁判官になられた理由をお聞かせください。
原田國男氏(以下、原田氏) そうですねえ。これといった決定的な理由があるわけではありませんが、強いて言えば、修習で裁判官と接してみたら、それまで抱いていたイメージとはいい意味で大きく違った、ということくらいですかね。私は親戚にも知り合いにも一切裁判官はいませんでしたから、修習で初めて生身の裁判官と接したわけですが、「融通が利かなくて暗い、冷たい、勉強ばかりしている人たち」というイメージを漠然と持っていたのに、実際に接してみたら極めて普通だった。人柄もいいし、明るい、ざっくばらんで魅力的な人たちでした。
――裁判官は、司法修習生の中で、特に成績がいい順に裁判所から声をかけられてなるものだというのは、本当でしょうか?
原田 昔はそうでしたけど、今は変わってきていますよ。昔は修習期間が長かったですし、大規模な弁護士事務所が優秀な修習生を狙って青田買いに動く、なんてこともありませんでした。ですから、修習の最後に受ける試験の結果を見て、成績優秀者に裁判所が声をかける時間的余裕もあったんです。
でも、今は修習へ行く前に就職先を決めてしまう修習生もいますから、最後の試験の成績を見てから声をかけるなんて悠長なことは裁判所もやってられません。もちろん成績は大前提ではありますから、司法試験の点数くらいは見ていますが、人物を見るウェイトは、昔よりもはるかに高まっていると思いますよ。
――裁判官は法廷で名前も顔も、被告やその家族に知られます。逆恨みをされて嫌な思いをされたりすることなどはありますか?
原田 被告から脅迫状めいたものをもらったことはありますよ。
●批判されやすい無罪判決
――足利事件の菅家利和さん、厚労省の村木厚子さんの事件などで、えん罪は社会的にも注目されていますね。
原田 裁判は証拠で争うものです。「証拠から合理的に判断すると、この被告は犯人じゃない可能性がある」と裁判官が思うような立証しか、検察ができていないのであれば、無罪にしなければいけません。つまり、「合理的疑いを差し挟む余地がない」だけの立証を検察ができないのであれば、有罪にしてはいけないのです。無実の人に刑罰を科すことは、同時に真犯人を野放しにすることにもなります。
ただ、無罪判決を出しやすい裁判官は、批判の対象になりやすいんですよ。「言い逃れをする被告人を、きちんと有罪にしてほしい」という思いが社会には根本的にありますから、社会の敵を野放しにしていると見られてしまうのです。菅家さんのような悲惨な例が出てきて初めて、えん罪の存在を社会は知るのです。無罪判決が多い裁判官は変人扱いですよ。
――日本の刑事裁判の有罪率の高さから考えると、確かに原田さんは異色の裁判官と見られるかもしれません。平均より多くの無罪判決を出すことで、どこからか不当な圧力をかけられたりということはありませんでしたか?
原田 実は世間の人が思うよりも、はるかに裁判官は自由なんです。民間企業のサラリーマンなら指揮命令系統がはっきり決まっていて、上司の許可がなければ、ものごとを判断できませんよね。検察もそうです。でも、裁判官は違います。新人といえども、上司の指導を仰ぐことはあっても、判断は自分でします。所属する裁判所に対して、判決内容の事後報告すらしません。裁判官は本当に政治からも捜査機関からも、そして他の裁判官からも完全に独立した存在ですから、不当な圧力がかけられるということはありません。
――厚労省の村木さんの事件では、検察調書のねつ造が問題になりましたね。検察調書がねつ造されたものかどうかというのは、裁判官にはわかるものなのでしょうか?
原田 検察官が自分の意見を押しつけているな、という印象を受ける調書は確かにありますね。被告に有利な重要な証拠を1審で出さず、控訴審になって、裁判官から要求したら出してきた、ということもあります。ただ、私が逆転無罪にしたケースは、やっぱり被告本人が無罪を主張しているケースが多いんですよ。最初から一貫して無罪を主張しているケースもあれば、自白調書を取られているのに、控訴審から無罪を主張し始めたケースもあります。前者は自白調書すらない。後者は自白調書はあるけれど、やっぱり自分はやってないと主張している。そうなると、どちらにしても客観証拠の問題になるんです。
――一方、前出の菅家さんの事件では、被告である菅家さんは、自分が犯人ではないのに、犯人だと言ってしまっていました。こうしたケースはよくあるのですか?
原田 ごく普通に生活している人にとってはピンとこないかもしれませんが、警察、そして検察の取り調べを受けると、多くの被告は極限状態に追い込まれます。そうなると、被告は自分に不利なことでも事実と異なる証言をすることがあるのです。
「いくら事実を話しても検察が取り合わず、検察の作文で作成された調書への署名を強要されて反論する気力を失う」
「絶望する」
「執行猶予が付くことは確実だから、認めてさっさと終わらせたい」
などなど動機はさまざまです。弁護士すら自分の無実を信じてくれず絶望する、ということもあります。でも、そのままでは真実は闇から闇に葬られてしまいます。
そもそも裁判官と被告人は最もコミュニケーションを取ることが困難な関係にあるのですから、少しでも被告が法廷で真実を話す環境づくりができれば、より真実に近づけるんじゃないかと。
被告のウソを見破る
――被告が、自分が犯人ではないのに犯人だとウソをついているというのは、どのように見破るのですか?
原田 ある裁判で、権利告知をしたら、被告はあっさり「自分は犯人である」と認めました。でも、席に戻ろうとする被告人ののど仏が異常に上下するのを見て、不審に思いました。そこで、もういちど証言台に戻らせて本当に犯人なのかと聞いたら、しばらく黙っていたけれど、犯人ではないと言いだしたことがありました。
そのときの弁護人は国選だったんですが、弁護人もびっくりですよ。だからあらためて期日を入れ、審理を尽くした結果無罪になり、検察側の控訴もなく確定しました。この事件は詐欺事件で、凶悪犯罪ではなく、執行猶予が付くことはほぼ確実でしたので、被告人は安易に認めてしまったようです。このときまでは、私も、「あなたには黙秘権、つまり自分に不利だと思う質問には答えないでよいという権利があります」と告げる権利告知に特別神経を使うということはしていませんでしたが、この事件で権利告知の重要性を痛感しました。
(構成=伊藤歩/金融ジャーナリスト)
※後編に続く
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