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国際情勢解説者の田中宇氏が最近のブログで尖閣問題について奥深い分析を行っているのでその要旨を紹介したい。
尖閣土地国有化の動きは、今年4月に石原慎太郎都知事が米国ワシントンのヘリテージ財団での講演で東京都が尖閣の土地を買収すると唐突に表明したことから始まった。この裏には石原に対し「尖閣を買収して日中対立が激化したら米国は日本を支持し日米同盟を強化できる」と入れ知恵(提案)した米政界筋の存在が見える。では一体誰が、何故そのような知恵を吹き込んだのか。それを考える前に、中国と米国の国内政治権力闘争について理解しておかねばならない。
まず米国では中道的、穏健的な外交戦略を好むリベラル派と、好戦的な軍産複合体&共和党系保守派が対立している。現オバマ政権は中道的外交を行い国防費の削減にも熱心であり、中東政策でもイラクやアフガニスタンからの撤退を進め、イスラエルのイラン爆撃計画に対しても消極的だ。9月25日、国連総会でのイランのアハマディネジャド大統領のイスラエル批判の演説に対しても席を立ったのはイスラエル代表団だけ、これまでイラン批判をしてきた米欧はどこも席を立たず、イスラエルの孤立化が浮き彫りになっている。
表舞台から追い出された軍産複合体が今回、起死回生の手として持ち出したのが、中国に対し日本やフィリピン、ベトナムが領有権を主張する尖閣と南沙群島問題である。彼らの思惑は日本やフィリピン、ベトナムのナショナリズムに火をつけ、中国包囲網を展開すると同時に最新鋭の兵器を売り込むことにある。さらにこれら同盟国を煽ることで米中対立を激化させ、国防費の削減を食い止めようとしているのである。
米政府内では、国務省の日本担当者が「尖閣は日米安保の範囲内」として日本の領有権を認める発言をしたが、先日日中を歴訪したパネッタ国防長官は日中どちらの肩も持たず中立の姿勢をとった。尖閣問題についてはどうやら日中対立を煽りたい勢力と、欧州債務危機が深刻化する中、中国との経済関係を悪化させたくない勢力との間で綱引きが行われていると考えられる。
次に中国も同様に2つの勢力の対立がある。米国との対立回避を重視してきた胡錦涛主席や温家宝首相、これから主席になる習近平らの中道派と、中道派の経済至上主義による都市と地方の経済格差や役人の腐敗に対する怒りをバックに巻き返しを図ろうとする人民解放軍や今春、スキャンダルで失脚した重慶市党書記の薄熙来などの左派である。左派は米国の覇権が弱体化する一方で中国が台頭しているのだからは米国との対決をいとわずという姿勢だ。
ところで薄熙来は逮捕され失脚したが、薄熙来を担いでいた左派の不満と党中央の中道派に対する怒りは残った。習近平がしばらく表舞台に姿を見せなかったのも、左派の巻き返しと関連があったのかもしれない。このように左派の不満がくすぶっていたところに起きたのが、尖閣問題での日本との対立激化だった。左派の人々は毛沢東の肖像画を掲げてデモ隊を率い、表向きは日本に対する怒りを表していたが、その裏にはデモを激化させ、中国国内の政治社会問題に対する国民の怒りを爆発させようとする意図があった。
このような政治的手口は中国ではよくあるので、中道派はデモ発生の当初からその危険性を知り、各地でデモが激化してくると取り締まりを強化しデモを終わらせた。だが、尖閣問題で日中が対立している限り、中国で反日デモが再発し、それを左派が国内政争の道具に使おうとする動きは続くだろう。また反日デモが激しくなった9月18日には、北京の米国大使館前で50人の市民が米国大使の車を取り囲み車を傷つける事件が起きた。この動きも米国との対立回避を重視する中道派を左派がけん制したのかもしれない。
さて政権が胡錦涛から習近平に交代する今の時期に、中国の中枢では米国の覇権が経済・政治両面で失墜する次の10年間、米国とどう向き合うか(協調か対決か)をめぐり議論が戦わされている。次の習近平政権の外交戦略が定まっていない今の微妙な状況下で、日本が尖閣国有化で中国のナショナリズムをはからずも(背後にいる米国にとっては意図的に)扇動したことは、中国政界では左派を力づけることにつながっている。
尖閣や南沙の問題で、米国と同盟諸国が中国敵視を強めるほど、中国のナショナリズムが燃え、習近平の政権は左派に引っ張られ、対米戦略を協調姿勢から対決姿勢へと転換していくだろう。日本政府や石原都知事にとって、尖閣問題で日中対立を煽った目的は、日米が共同して中国の脅威に対抗する態勢を強めること、つまり日米同盟の強化だろう。
中国の左派が尖閣紛争を逆手にとってナショナリズムを扇動し、中国の日中に対する外交姿勢が協調型から対決型に転換したとしても、米国が今後も盤石な覇権国である限り、中国は米国にかなわないのでいずれ譲歩し、日米に対して協調姿勢に戻り、日米同盟の強化は成功する。しかし米国の覇権はイラク戦争やリーマンショックによって大きく揺らいでいる。半面、中国はロシアなどBRICSや途上諸国との連携を強め、これらの諸国が集団的に米国から覇権を奪う流れが続いている。
そのため米国は国力温存と米国債購入先確保のため、中国敵視をやめて、ベトナム戦争後のように、一転して中国に対して協調姿勢をとる可能性が高い。米国の威を借るかたちで中国敵視を強めた日本は、孤立した状態で取り残されかねない。このように日本が米国に誘われて尖閣問題で日中対立を激化する策は、長期的に見ると失敗するだろう。
すでに日本政府は、特使を中国に派遣して日中関係の修復を目指すなど、早くも腰が引けている。日本は経済的に、中国との関係を断絶し続けることができないからだ。日本政府は今後、尖閣問題を再び棚上げして中国との敵対を避ける姿勢に戻るかもしれず、腰が引けているがゆえに、大したことにならないかもしれない。
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