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秘密裏に着々 次の主戦場はTPP 政府のネット規制
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9月30日 東京新聞「こちら特報部」 :「日々担々」資料ブログ
インターネットの利用者と、ネット規制を強める政府や著作権者との対立が目立っている。先の国会では、違法ダウンロード刑罰化を盛り込んだ改正著作権法と、偽造品取引の防止に関する協定(ACTA)の締結承認案が反対論をよそに成立した。加えて、野田首相が交渉参加表明を急ぐ環太平洋連携協定(TPP)では、さまざまなネット規制策が取り沙汰されている。 (佐藤圭)
「違法ダウンロード刑罰化とACTAは、政府や一部政党の手によって秘密裏に準備され、いきなり表に出てきた。ネット利用者からすれば、自分たちの知らないところで作られたルールで管理されることになる」
新書「『ネットの自由』VS著作権」を最近出版した福井健策弁護士は、政府などの秘密主義的な手法をこう批判した。
通常、著作権法を改正するとなれば、文部科学相と文化庁長官の諮問機関である文化審議会が内容を取りまとめる。
だが、違法ダウンロード刑罰化は今年六月に突如、音楽業界などの陳情に応じた自民、公明両党の議員立法で提出された。衆院では実質審議ゼロ、参院では四時間のみ。ネット利用者たちの猛反発とともに、日本弁護士連合会(日弁連)も「立法手続きに大きな問題があった」と非難した。
一方、ACTAでは、広範囲なネット規制につながりかねない条文が議論を呼んだ。その代表例が「非親告罪化」だ。
現在は著作権侵害が疑われる事例があっても、著作権の権利者が告訴しなければ起訴されないという親告罪の扱いだ。
これが非親告罪化されると、権利者の告訴なしに検察官は起訴できることになる。その結果、原作をもじったストーリーを展開する同人誌や、同人誌を集めたコミックマーケットの活動が狭められかねない。
さらにACTAでは参加国の交渉は極秘裏に進められた。それでも、欧州では「ネット上の検閲を許す」と不安視され、大規模な反対デモが頻発した。このため、欧州議会の本会議は今年七月上旬、圧倒的大差で批准案を否決した。
一方、日本では八月三日の参院本会議で、参院先議のACTA締結承認案を賛成多数で可決したものの、その前後からネット上で反対論が急速に拡大した。首相官邸前では抗議デモも起きた。
しかし、民主党は八月三十一日の衆院外務委員会で、野党欠席のまま単独で可決。会期末の九月六日の衆院本会議でも、野党の大半と、民主党の一部も棄権する中、賛成多数で可決、成立させてしまった。政府は近く締結を閣議決定する。
外務省は「正当なネットの利用を制限する規定は含まれていない」「非親告罪化を義務付けるものではない」と反発の沈静化に躍起だが、ネット利用者たちの不信感は払拭(ふっしょく)されそうにない。
違法ダウンロード刑罰化とACTAに反対した斎藤恭紀衆院議員(きづな)は「監視社会のきっかけになりかねない」と警戒感をあらわにする。
ただ、違法ダウンロード刑罰化とACTAがネットの規制強化に直結するか否かという点については、専門家の間にもさまざまな見方がある。
違法ダウンロード刑罰化は十月一日に施行。音楽や映像の海賊版をそれと知りながらダウンロードする行為には、二年以下の懲役または二百万円以下の罰金、あるいはその両方が科せられる。
何百万人ものネット利用者を摘発するのは不可能だ。だが、みせしめ的な摘発が横行すれば、ネット利用が萎縮しかねない。福井弁護士は「実際には、今回の規定抜きでも立件できるような悪質行為の摘発が中心になるだろう」と予測する。
ACTAは日米や欧州連合(EU)など十の国・地域が署名済みだが、このうち六カ国が批准・承認をしなければ発効しない。日本以外で早期の批准・承認の見通しが立っているところはなく、発効時期は不透明だ。
むしろ専門家がそろって警戒するのが、TPPの知的財産分野だ。福井弁護士は「TPPはネット規制を相当に強める。
今後のネットの主戦場はTPPだ」とみる。
米国は知財・情報項目をTPPの重要分野と位置付けている。コンテンツとITは、米国最大の輸出産業だからだ。
TPPも徹底した秘密交渉が貫かれているが、知財分野では米国の条文案がNGOなどを通じて外部に流出している。
その流出文書には、(1)著作権保護期間の大幅延長(2)著作権・商標権侵害の非親告罪化(3)法定賠償金制度の導入−といった要望の柱が並ぶ。
著作権の延長は「ミッキーマウス」などの古いコンテンツで稼ぐ米国としては、長ければ長いほど都合が良い。世界の著作権保護期間は米国などの「死後七十年国」と、日本などの「死後五十年国」が拮抗(きっこう)している。
法定賠償金の導入は、著作権侵害に伴う損害賠償についてだが、日本では通常、権利者などが被る実損害分しか賠償を求めることができず、弁護士費用にも足りないケースが少なくない。
これに対し、法定賠償金では実損害の有無にかかわらず、裁判所がペナルティーも含めた金額を決めて賠償金の支払いを命じることができる。米国での相場は、故意の侵害で一作品当たり一千万円強にも上るという。
日本に法定賠償金が導入されれば、知財訴訟が激増する可能性がある。ネット使用者からすれば、ツイッターのアイコンにアニメのキャラクターを使うような軽微な著作権侵害でも訴えられやすくなるわけだ。
福井弁護士は「日本人は裁判が苦手だ。訴訟国家の米国のルールを急に持ち込めば、日本社会が混乱する可能性がある」と指摘する。
こうしたTPPの大波に対し、どう向き合っていけばいいのか。
斎藤議員は「ツイッターは、脱原発デモで大きな役割を果たしている。ACTAでは、市民がネット上で情報を発信し、政治家が問題点に気が付くことがあった。TPPでも市民と政治家、専門家が連携していくことが大切だ」と説く。
福井弁護士は「TPPの知的財産分野は、過去に日本国内で激論を招いた政策ばかりだ。国内では容易に実現できないものを秘密交渉で逆輸入しても、国民が受け入れるとは思えない。万人が当事者である知財・情報のルール作りは、どんなに大変でもオープンに議論するしかない」と主張している。
<デスクメモ> 原発政策も含め「米国の圧力」説が流行している。否定はしないが、もう少し深読みしたい。つまり「米国の圧力のせいにすれば、抵抗を抑えられる」という手法が日本側にあるように見えるのだ。米国は広く、多様である。一部の意見を主流とみては危ない。踊らされぬよう独自の情報収集が必要だ。(牧)
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