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2012年09月24日 11:59 法/政治
対米従属という合理的戦略
きのう與那覇さんとニコ生で話したことだが、最近の中韓との騒ぎには、民主党政権で日米同盟がゆらいできたという背景があるような気がする。そこでも紹介したが、孫崎享『戦後史の正体』が20万部を超えるベストセラーになっている。私は手の込んだギャグとして楽しく読んだのだが、世の中にはこれを信じる人もいるようなので、まじめにコメントしておこう。
この本は「アメリカが日本の政治をコントロールして政権を従属させ、独立派の政治家を失脚させてきた」という陰謀史観である。終戦直後については当たっている部分もあるが、ほとんどは著者の被害妄想だ。たとえば鳩山由紀夫氏や小沢一郎氏が失脚したのは、アメリカがマスコミや東京地検を使って彼らを追い落としたためだという。橋本龍太郎も細川護煕も宮沢喜一も竹下登も、すべてアメリカが失脚させたことになっているが、その根拠は著者の妄想だけだ。
こういうチープな陰謀論が多くの読者の共感を得るのは、結果的にアメリカの意志に従って日本の政治が動いてきたからだろう。その最大の原因は、GHQの決めた憲法を改正することに失敗したからだ。冷戦が始まったとき、アメリカは憲法を改正して日本に軍備をもたせようとしたのだが、吉田茂はそれを拒否した。この吉田ドクトリンの失敗が、日本の政治が根本に抱える矛盾である。
これを孫崎氏は「日本はアメリカの属国だ」と怒るが、むしろ戦後の日本の平和はアメリカの核の傘に守られてきたのだ。それが80年代に日本がアメリカのライバルになり、90年代には冷戦の崩壊で西側の橋頭堡としての戦略的重要性を失い、2000年代にはアメリカの関心が中国に移ったことから、両国関係に亀裂が入った。そのころから日本の政治が迷走し始めたのも偶然ではない。
日本が戦後60年以上も対米従属を続けてきたのは、アメリカの陰謀のせいではなく、心ならずも続いてきた対米従属が合理的戦略だったからだ。これは日本が代わりにソ連に占領されていたらどうなったかを考えれば明らかだろう。日本を共産主義に従属させるには強圧的な権力が必要だが、自由経済に誘導するのに陰謀や工作は必要ない。人々はおのずから自由で豊かな社会を望むからだ。
『「日本史」の終わり』でも書いたように、タコツボ共同体の集合である日本には中枢機能がなく、「空白の中心」としての天皇を誰かが代理する構造が続いてきた。80年代までの日本で天皇の代理はアメリカだったが、彼らが日本への関心を失ったことが、日本の政治が求心力を失って混乱している原因だ。中韓は、それを鋭く見抜いている。
次の政権が自民党主導に戻るとすると、憲法や同盟関係を見直すことが重要な問題になるだろう。安倍晋三氏も石破茂氏も憲法改正を志向しているが、現実にはまず不可能だ。自主独立の必然的な帰結は核武装だが、これも夢のまた夢だろう。私も日本は軍事的に独立すべきだと思うが、もともと平和ボケの日本人は、戦後の「アメリカの平和」の中で政治家も危機管理能力を喪失してしまった。私は彼らに命を預ける気にはならない。
対米従属を糾弾する人々はTPPも拒否し、日本は国内に引きこもって日銀がマネーをばらまけばいいと主張する。彼らは、日本の平和がアメリカの庇護によるものであることを認識していないのだ。小川和久氏によれば、日米同盟なしに日本を守るには、直接経費で9倍、後方装備を含めると今の16倍の軍備が必要だという。財政危機の日本にそんな金はないし、幸か不幸かそういう合意が成立する可能性もない。
とはいえ日本は否応なく、アメリカから「乳離れ」しなければならない。核武装は不可能だが、引きこもりの先にも明るい未来は見えない。どうすればいいのだろうか・・・といった問題を、アゴラ読書塾「民主主義と日本人」では考えてみたい。
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陰謀史観の一面の真理 - 『戦後史の正体』
池田 信夫 / 記事一覧
戦後史の正体 (「戦後再発見」双書)
著者:孫崎 享
販売元:創元社
(2012-07-24)
★★☆☆☆
著者は元外交官だが、「アメリカ陰謀論者」として知られる。本書も「戦後の日本の外交・経済政策はすべてアメリカの陰謀で決まり、それに逆らった首相はすべて失脚した」というトンデモ史観だが、終戦直後については当たっている部分もある。対米従属に徹した吉田茂が長期政権を維持した一方、GHQに抵抗した片山哲や芦田均などの政権は短命に終わった。しかしこれは占領時代なのだから、ある意味では当然だ。
安保条約の本当の目的は、条約そのものより同時に締結された日米行政協定(現在の地位協定)にあったという。これは日本国内の基地を米軍が自由に使用でき、日本が撤退を求めても撤退しなくてよいこと、米兵の裁判は米軍が行なうことなどを定めた協定で、その米軍の権益を守るのが安保条約だった。最初の条約は米軍の駐留を認める一方で日本を防衛する義務のない不平等条約だったが、それを改正したのが1960年の新安保条約である。
著者は、安保を改正した「自主独立派」の岸信介が反政府デモで退陣したのはアメリカの陰謀だというが、この理論は残念ながら、岸がCIAから多額の資金援助を受けた工作員だったという事実と矛盾する。ロッキード事件が日中国交を進めた田中角栄を倒すアメリカの陰謀だったという話も、逆にCIAの失敗だったことがCIA文書で明らかにされている。CIAが日本の政権をあやつろうとしたことは事実だが、彼らは著者の信じているほど全知全能ではないのだ。
それ以降の話に至っては支離滅裂な憶測ばかりで、特に著者が経済政策を理解していないのは重症だ。対米従属派の筆頭とされる小泉純一郎氏の行なった郵政民営化は「ゆうちょ銀行に米国債を買わせるためだった」というが、同じページに「ゆうちょ銀行の資金運用の8割は日本国債」と自分で書いている(p.349)。TPPもアメリカの陰謀だというが、私が去年、討論会で「陰謀をめぐらしている具体的な根拠を示せ」と言ったら著者は何も答えられなかった。実際にはオバマ政権はTPPを無視しており、議会は日本の参加に難色を示している。
しかし著者の陰謀史観は、一面の真理を含んでいる。戦後の自民党政権も官僚機構も財界も、対米従属だったことは事実である。特に80年代までは、外圧で政治が動くことが多かった。しかし例えば日米構造協議でアメリカの外圧と見えたのは、通産省がUSTRに垂れ込んだ話だった。日本の官僚機構は、大きな変化の梃子にアメリカの力を利用してきたのだ。自民党にはろくな経済政策がなかったが、アメリカの言う通りやっていれば大きな間違いはなかった。
90年代以降、日本の政治が迷走し始めた一つの原因は、冷戦が終わって日本が戦略的重要性を失い、アメリカが関心をもたなくなったからだろう。自民党政権の最高意思決定は実質的にワシントンで行なわれていたが、民主党政権はそれを自前でやろうとして大失敗した。日本は戦後67年たってもまだアメリカから独立できないという著者の主張は、ある意味で正しいが、それはアメリカが中枢機能を欠いた日本の政治の「実質的な中心」として機能していたからなのだ。
関連記事:
http://agora-web.jp/archives/1478036.html
2007年09月04日 23:56 本
CIAと岸信介
NYタイムズで20年以上、CIAを取材してきた専門記者が、膨大な資料と関係者の証言をもとに、その歴史を描いたもの。全体として、CIAが莫大な資金とエネルギーをつぎ込みながら、肝心のオペレーションではほとんど失敗してきた(最新の例がイラク戦争)ことが明らかにされている。日本についての記述は少ないが、第12章では、終戦後CIAがどうやって日本を冷戦の前線基地に仕立てていったかが明らかにされている。
CIAの武器は、巨額のカネだった。彼らが日本で雇ったエージェントのうち、もっとも大きな働きをしたのは、岸信介と児玉誉士夫だった。児玉は中国の闇市場で稀少金属の取引を行い、1.75億ドルの財産をもっていた。米軍は、児玉の闇ネットワークを通じて大量のタングステンを調達し、1280万ドル以上を支払った。
しかし児玉は、情報提供者としては役に立たなかった。この点で主要な役割を果たしたのは、岸だった。彼はグルー元駐日大使などCIA関係者と戦時中から連絡をとっていたので、CIAは情報源として使えるとみて、マッカーサーを説得して彼をA級戦犯リストから外させ、エージェントとして雇った。岸は児玉ともつながっており、彼の資金やCIAの資金を使って自民党の政治家を買収し、党内でのし上がった。
1955年8月、ダレス国務長官は岸と会い、東アジアの共産化から日本を守るための協力を要請した。そのためには日本の保守勢力が団結することが重要で、それに必要な資金協力は惜しまないと語った。岸は、その資金を使って11月に保守合同を実現し、1957年には首相になった。その後も、日米安保条約の改定や沖縄返還にあたってもCIAの資金援助が大きな役割を果たした。
CIAの資金供与は1970年代まで続き、「構造汚職」の原因となった。CIAの東京支局長だったフェルドマンはこう語っている:「占領体制のもとでは、われわれは日本を直接統治した。その後は、ちょっと違う方法で統治してきたのだ」
岸がCIAに買収されたのではないかという疑惑は、私も以前の記事で書いたように、昔からあったが、本書は公開された文書と実名の情報源によってそれを実証した点に意義がある。
http://ikedanobuo.livedoor.biz/archives/51292925.html
2007年09月27日 12:50 法/政治
CIAが「統治」した戦後の日本
9/4の記事で紹介した「CIAと岸信介」の話を今週の週刊文春が追いかけている。日本も、ブログがマスメディアの情報源になる時代が来たのだろうか。
岸がCIAのエージェントだったのではないかという話は、当ブログでも書いたように、昔からあり、アメリカの公文書公開審査に立ち会ったマイケル・シャラーの『日米関係とは何だったのか』(pp.219-220)にも少しだけふれられている。シャラーは週刊文春の取材に対して、CIAの未公開文書に「1958年にアイゼンハワー大統領の命令で、自民党の選挙資金として1回について20万〜30万ドルの現金が何度もCIAから岸に提供された」と書かれていた、と証言している(当時の30万ドルは、当時の為替レートで約1億円、現在では10億円ぐらい)。
岸だけでなく、佐藤栄作も1957年と58年にCIAから同様の資金提供を受けたという。その後も、4代の大統領のもとで少なくとも15年にわたって自民党への資金提供は続き、沖縄に米軍が駐留できるように沖縄の地方選挙にまで資金提供が行なわれたが、その出所は岸しか知らなかった。彼は自分でも回顧録で「資金は入念に洗浄することが大事だ」と語っている。
おもしろいのは、ロッキード事件との関係だ。これをCIAの陰謀とみる向きも多いが、逆にこれはCIAにとっては、児玉誉士夫や岸への資金提供が明るみに出るかもしれないピンチだったという。しかし検察は本筋の「児玉ルート」を立件せず、児玉は任侠らしく秘密をもって墓場に入ったが、彼と中曽根氏との関係から考えると、CIAの資金が(直接あるいは間接に)中曽根氏に渡っていた可能性もあるのではないか。
だから安倍前首相が否定しようとしていた非武装・対米従属の「戦後レジーム」をつくったのは、皮肉なことに彼の祖父だったのである。岸は「自主憲法」の制定を宿願としていたが、それは「対米独立」という表向きの理由とは逆に、日本が独自の軍備を増強してアメリカの「不沈空母」となるためだった。核の持ち込みについても、「秘密協定」があったことをライシャワー元駐日大使が明らかにしている。
保守合同から安保条約をへて沖縄返還に至るまで、何億円もの資金を自民党がCIAから提供されていたという事実は、岸個人の問題にはとどまらない。岸・佐藤兄弟というCIAのエージェントが日本の首相だったというのは、元CIAのフェルドマンがいうように、日本がCIAに「間接統治」されていたようなものだ。これはイギリスのフィルビー事件や西ドイツのブラント首相を辞任に追い込んだ「ギョーム事件」に匹敵するスキャンダルである。民主党は、参議院で得た国政調査権を使って、この疑惑を解明してはどうだろうか。
http://ikedanobuo.livedoor.biz/archives/51292947.html
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