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2012.08.29 橋下徹言説に対する徹底批判
書評 森田実著『「橋下徹」ニヒリズムの研究』(東洋経済新報社)〔リベラル21〕
半澤健市 (元金融機関勤務)
本書は森田実(もりた・みのる)による橋下徹(はしもと・とおる)論である。
一方は40年のキャリアをもつ政治評論家。一方は次代リーダー候補として注目されている若手政治家。勝負の結末はどうなるのか。
《『橋下語録』を繰り返し読んだ著者》
御用とお急ぎの読者のために、先に森田の結論を書く。それは、橋下徹の言説のもつ虚妄と欺瞞への徹底批判、これである。
著者は、ユニークな方法で対象の解剖を行う。それは『橋下語録』(産経新聞出版、12年4月刊)というテキストの周到な読み込みである。著者は「橋下徹氏に関する数々の文献に目を通しましたが、第一級の資料といえるものは『橋下語録』だけだと、私は思います」と書いている。
森田は橋下の言説に内在する。そして橋下の論理のもつ、平和的でないもの、民主的でないもの、人間的でないもの、価値的でないもの、を暴き出すのである。無論、森田は、学者のような言説分析をするだけでない。政治評論家としての眼が、橋下の思想・言説が、政治の現場でどのように具体化されているかを観察する。また、小泉の新自由主義を批判した森田が発言の場を奪われ、地下メディアと海外メディアでしか―は少し誇張だが―発信できないという事実によって日本のマスメディアの体制化を語るのである。
されば橋下言説の内容とその特徴は何か。
《橋下徹は何を言っているのか》
私(半澤)なりに森田の言葉を整理すると、橋下政治学の原理は次の5つになる。
1.新自由主義または競争原理主義である。
2.「戦後政治の総決算」路線である。憲法改正論を含む。
3.独裁的英雄待望論である。選挙で勝てば独裁も可とする理屈である。
4.感情的反官僚の理論である。中央官庁へのドレイ的従属の脱却で全てが解決する。
5.創造よりも破壊である。何でもぶっ壊せばよいと言う「ニヒリズム」の精神である。
これに対決する森田実の立脚点は何か。博覧強記の著者は日本古今の古典を引用する。私流にそれを言い換えれば、近代に人類が獲得した叡智、すなわち「平和と民主主義の日本国憲法、国連憲章、世界人権宣言」のことを言っているのである。その上に「中庸」といった東洋的な穏健なリアリズムを提示している。
森田は、新自由主義はリーマンショックで退潮に入ったという。世界大の格差拡大と長期不況は、新自由主義・競争原理主義の結末である。社民主義が対立軸とならねばならない。「新自由主義と社会民主主義との対立が現代資本主義における最も基本的な対立軸です」(21頁)と明快に述べている。
《「国のかたち」への展望がない》
1932年生まれの森田の戦争体験からみれば、平和憲法は死守すべき原点である。
そもそも橋下の思想には真の民主主義がない。現に市職員の政治活動に関する思想調査、入れ墨調査、国歌斉唱時の口元監視といった異常で非民主的な行政が行われている。中央からの地方政治の独立をうたうが、その論理展開は乱雑で現実性を欠いている。反官僚論は、人間心理を無視しており官僚のモーティベーションの衰退だけが進むだろう。ニヒリズムは、大メディア幹部の心情にも存在しており、両者が一体化してニヒリズムが進んでいる。最大の問題は橋下徹の理念・政策には「国のかたち」の展望がないことである。「維新八策」などは無内容だとする。
森田の橋下批判の核心部はこれで出そろったが、大阪人気質に関する観察が面白い。大手メディアからの発信を封じられた森田は、この4年半ほど「関西テレビ」の「スーパーニュースアンカー」出演している。毎週金曜日に大阪へ行きフィールドワークに至る。その経験から大阪人気質を随分学んだという。阪神タイガースと橋下徹の悪口は絶対に言ってはならない。同時に、大阪人の「反中央」「反東京」「反権力」意識についても手厳しい言及がある。
《支配層は「日本の救世主」を期待》
さて橋下徹の存在は、21世紀10年代のいま、日本政治にとってどういう意味をもつのか。日本の支配層は、新自由主義が世界的に退潮に入ったことを認識していない。彼ら―大メディアを含む日本の権力層―からみると、橋下徹は期待すべき「日本の救世主」なのである。「最後の切り札」と言ってもいいだろう。「救世主」になる可能性について森田は明確な予想はしていない。しかし、まず大阪市長としての成果にすら期待していない。政権奪取した日本の民主党政権への失望が、大阪市政において再現されるだろうという。そして橋下はサルコジと同じ運命になろうと予想している。
以上でベテラン評論家による橋下徹批判を紹介したつもりである。橋下の人間性を明示している文章を掲げて私の文を終わる。読者はこういう「似非リアリスト」を自国のリーダーに相応しいと感じられるであろうか。これは、今は絶版となった橋下徹著『まっとう勝負!』の一節だそうである。森田書の43頁に載っている。
《あなたはこういう人物をリーダーにしたいか》
「政治家を志すっちゅうのは、権力欲、名誉欲の最高峰だよ。その後に、国民のため、お国のためがついてくる。自分の権力欲、名誉欲を達成する手段として、様々国民のため、お国のために奉仕しなければならないわけよ。・・・別に政治家を志す動機付けが権力欲、名誉欲でもいいじゃないか!・・・ウソをつけないヤツは政治家と弁護士になれないよ!嘘つきは政治家と弁護士のはじまりなのっ!」。
■森田実著『「橋下徹」ニヒリズムの研究』、東洋経済新報社、12年7月刊、1500円+税
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