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ハマコー死す
http://www.the-journal.jp/contents/kokkai/2012/08/post_310.html#more
2012年8月 6日 田中良紹の「国会探検」
浜田幸一元衆議院議員が死んだ。私はこれまで数多くの政治家を見てきたが、心に残る政治家となるとそれほど多くはない。しかしハマコー氏には日本の政治構造について様々な意味で教えられた気がする。
若い頃ヤクザの世界に身を置いた事から、永田町では特異な目で見られてきた。優等生タイプの政治家や官僚にとっては苦手の存在だったかもしれない。歯に衣着せずにズバリと本質を突くところがあった。
自民党を「自ら眠ったまま起きない党」と批判し、「自民党に権力などない。、本当の権力者は霞が関だ」と言い、「日本は国家の体をなしていない。村のレベルの政治だ。これでは世界に太刀打ちできるわけがない」と嘆いていた。「みんなで決めて、みんなで守る、みんなのための政治」というのが口癖で、民主主義政治の本質を掴んでいた。
私がハマコー氏を知ったのは30年ほど前、自民党三役の一人である総務会長の「番記者」をしていた時である。ラスベガス賭博事件で議員辞職したハマコー氏は返り咲きを果たしたが、どの派閥からも敬遠されていたため、金丸信総務会長の部屋に常駐するようになった。
総務会長の部屋の前にたむろする「番記者」に混じって待機し、金丸氏がトイレに立つたびにお絞りを持って待ち受けるなど、忠勤を励む毎日を続けた。若い「番記者」にも気さくに声をかける親しみ易い人物だったが、ハマコー氏を苦手とする中曽根総理はハマコー氏を「猛獣」、金丸氏を「猛獣使い」と呼んだ。
そのハマコー氏が初めて予算委員会で質問に立つ事になり、質問内容について相談を受けた事がある。ハマコー氏は財布から1万円札を取り出し、「日本の年間予算を1万円にたとえて、教育費、社会保障費、防衛費などの割合を説明すれば、国民に国の構造を分からせる事が出来るのではないか。どう思う?」と聞いてきた。
確かに予算額何兆円とか何千億円と言われても国民にはピンとこない。しかし千円とか百円の世界になれば国民にも分かり易い。大衆の心を掴む政治とはこれだなと相談を受けながら逆に感心した覚えがある。
そのハマコー氏が大問題を起こしたのは予算委員長に就任した時であった。竹下内閣が誕生して入閣を希望したハマコー氏は願いをかなえられなかった。代わりに与えられたのが予算委員長のポストである。無論、予算委員長は軽いポストではない。閣僚経験者がやるような重いポストなのだがハマコー氏には不満だったようだ。そのためか異例の委員会運営を始めた。
予算委員会初日の午前の審議は社会党の山口鶴男書記長が質疑者だった。ところが山口氏が質問をしている最中に浜田委員長は休憩を宣した。野党が猛反発して陳謝を要求すると、ハマコー氏は「NHKの放送に合わせた」と言って陳謝を拒否した。NHKは国会中継を正午で打ち切りニュースに切り替える。ハマコー氏はそれに合わせたと言ったのである。まるでNHKが主体で国会はそれに従属しているかのような口ぶりだった。
翌日、今度は共産党の正森成二衆議院議員の質問の最中に質問をさえぎるようにして、「殺人者である宮本賢治君を国政に参画せしめるような状況を作り出した時から、日本共産党に対して最大の懸念を持ってきた」とメモを読み上げた。NHKが国会中継を打ち切る夕方の時間をにらみ、放送に入るように計算された読み上げだった。
前代未聞の出来事に野党は浜田委員長の更迭を要求した。するとハマコー氏は「辞めるときは野党幹部を道連れにする」と凄んだ。それは国対政治の裏側をばらす事をほのめかしていた。誰もハマコー氏の首に鈴をつけられなくなり、辞任まで6日間も審議が空転した。
「55年体制」の国会では野党が予算委員会で自民党のスキャンダルを追及し、審議を拒否して予算を通さなくする戦術が繰り返された。予算が通らなければ国家の機能は麻痺し、国民生活に多大の影響が出る。そこで与党は審議を正常化するため裏舞台で野党にカネを渡した。はじめは懐柔策であった裏金が、次第に野党から要求されるようになり、野党は与党からカネを取る為に審議を止めるようになった。ハマコー氏はそれを「ばらす」と言ったのである。
こうした国対政治を可能にしていた道具の一つがNHKの国会中継であった。NHKは「慣例」と称して20以上ある委員会の中から予算委員会しか中継しない。それも最初の2,3日だけを中継してそれ以後は中継しない。野党は限られた中継の中で国民受けするスキャンダル追及のパフォーマンスを目一杯やるようになる。そして中継が終わると決まって審議拒否に入る戦術が繰り返されてきたのである。
政治家がテレビを意識するためにまともに議論しなければならない問題がパフォーマンスに摩り替えられてしまう。ハマコー氏の「暴走」は、私に「政治とテレビの関係」を考えさせるきっかけとなった。
世界の議会中継のあり方を調べるうち、先進民主主義国では議会のテレビ中継を認めていない事が分かった。戦後すぐからNHKが国会中継を行なってきた日本は、先進民主主義国から「政治家を大衆迎合的にさせ、ポピュリズムを生み出す」と批判されてきた事を知った。
しかしベトナム戦争に敗れたアメリカが「ポピュリズムを生み出さない事」を条件にテレビ中継を認め、その影響でイギリス議会もテレビ中継を検討するようになっていた。そのアメリカとイギリスを取材するうち、私はアメリカの議会中継専門テレビ局と提携して日本にも国会中継専門テレビ局を実現させようと考えるようになった。私が22年間勤務したTBSを辞めたのはそのためである。
ちょうど冷戦が終る頃で、アメリカは「ソ連に代わる日本経済」を最大の仮想敵と見ていた。そのアメリカ議会審議を日本に紹介する事業を私が始めると、最も賛同してくれたのがハマコー氏であった。自民党広報委員長をしていた事から、私が作るアメリカ議会の審議ビデオを買い上げてくれ、国会議員はもとより地方議員にまで配ってくれた。
本人は「政治家だけでなく子供にもこういうビデオを見せて世界を知らせる必要がある」と語っていたが、自民党の大半は「見たって意味がない」と冷ややかであった。ハマコー氏が広報委員長を辞めると、自民党はアメリカ議会の審議ビデオを買わなくなった。
ハマコー氏がテレビで活躍するようになってからは疎遠になったが、今、3党合意で消費増税法案に賛成しながら、一方で内閣不信任案や問責決議案を提出しようとする自民党を見て何と言うかハマコー氏に聞いてみたかった。自民党はハマコー氏が言ったように「自ら眠ったまま起きない党」を続けているのだろうか。
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