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アメリカからの自立を主張する内閣は短命に終わる、あるいはマスコミから叩かれるという法則がある。鳩山政権しかり、小沢一郎、亀井静香しかりである。
アメリカはありとあらゆる手を使って情報操作を行い、場合によっては直接手を下す。なぜ、かの石橋湛山政権が短命に終わったのか、今日改めて考えてみる必要がある。
『月刊日本』8月号
「米国と提携するが、向米一辺倒にはならない」より
http://gekkan-nippon.com/?p=4141
我が国が独立を回復してから四年八カ月後の昭和三十一年十二月十四日、鳩山一郎総裁の後継者を決める第三回自民党大会が開かれた。立候補したのは岸信介幹事長、石橋湛山通産相、石井光次郎政調会長の三人。第一回投票では本命の岸が第一位だったが、過半数に達せず、第二回投票が行われた。石橋二五八票、岸二五一票。僅か七票差で石橋が新総裁に選ばれ、首相に就任する。岸が勝利すると確信していた米国の失望は大きかった。
石橋湛山は戦前、『東洋経済新報』主筆として、軍部に対し毅然たる言論戦を挑んだ。昭和五年のロンドン軍縮会議に際し、兵力量の決定は天皇の統帥大権だと主張する軍部に対し、「統帥権なるものは今日の時世において許すべからざる怪物である」と、堂々と批判する論陣を張った。
戦後は吉田内閣の蔵相として入閣、財閥解体に反対しただけでなく、占領軍駐留費の削減を強硬に要求し、GHQの不興を買い、公職追放される。石橋は米国の要求に唯々諾々と従う、柔な政治家では決してなかった。
石橋は首相就任直後の記者会見で、「アメリカの言うことをハイハイと聞くことは、日米両国のために良くない。米国と提携するが、向米一辺倒にはならない」と昂然と言い放った。
東京を訪れたロバートソン国務次官補に「日本は中国について、米国の要請に自動的に追従していた時代は終った」と言明している。石橋は自主独立外交によって、米国だけでなく、中ソとの友好関係樹立を目指した。
在日米軍問題と中国問題は、現在でも、日本にとって踏んではならない米国の「虎の尾」だが、石橋は堂々と、しかも確信を持ってこの虎の尾を踏みつけたのだ。
『ニューズウイーク』誌は「石橋は米占領軍によって蔵相の地位から追放された個人的屈辱を決して水に流してはいない。彼は日米関係の全面的な建て直しを図るだろう」との論評を掲げた。米国は明らかに石橋内閣の登場を警戒し、機会があれば、石橋政権を葬り去ろうと考えていたに違いない。
同年十二月末、パーソンズ米国務省北東アジア部長は、英国外交官宛の秘密電報で本音を洩らしている。
「石橋が米国の政策、とりわけ対中国輸出規制に対する国民の不満を利用するのは確実だ。石橋は有能だが強情だ。我々がラッキーなら石橋は長続きしない」。
彼の予測はズバリ的中した。石橋は首相就任から僅か二ヵ月後、病気で辞任するのだ。
年が明けて昭和三十二年一月二十三日、石橋の母校早稲田大学で総理就任祝賀会が行われた。野外の祝賀会場はかなり寒かった。しかし、石橋は二十四日の日程を難なくこなした。
翌二十五日、異変が起きた。秘書官から官邸の官房長官石田博英に電話が入った。「総理は風邪で、今日の閣議には出席できません」
梅子夫人によれば、石橋は毎朝入浴しながら髭をそるが、何故かこの日に限って剃刀を持つ手が動かず、床に入って大きな鼾で熟睡しているとのことだった。主治医村山は、石橋の言葉が不明瞭なのが気になったという。
二月二十二日、自宅で療養中の石橋を診断した沖中東大医学部長、橋本聖路加病院長ら四人の医師団は、「目下回復の途にあり」としながらも、「向後約二ヶ月の静養加療を要す」との診断結果を発表した。一方、村山主治医は「肺炎以外の病気は心配ない。体重の異常な減り方は理解しがたい」との談話を発表する。身体頑強だった石橋に何らかの工作が為された可能性も決して否定できない。
だが、石橋の決断は早かった。翌二十三日午後二時、石橋内閣は臨時閣議を開き総辞職を決めたのだ。総理就任以来六十三日目だった。二日後、副総理の岸信介が首班に指名され、岸政権が石橋内閣の全閣僚を留任させてスタートする。私邸を見舞った石田官房長官が眼にしたのは、静かにアメリカの経済原書を読む石橋の姿だった。
米国の強い反対を押し切り日中国交回復に踏み切った田中角栄も、米国の「虎の尾」を踏み、米国発のロッキード事件で憤死した。石橋湛山、田中角栄は敢然と対米自立に挑んだが、米国の厚い壁に阻まれ、我が国はいまも対米隷属のなかで呻吟を続けている。対米自立、独立自尊の実現は極めて困難である。
だからこそ、我が国が尊厳ある国家を望むなら、対米自立は身命を賭して為さねばならぬ課題なのだ。
それにしても、石橋の病気は一体何だったのだろうか。
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