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山口県知事選挙は今の情勢の大きな特徴をあらわすものとなった。二井関成知事の後継者とされ、自民党・公明党が推し、さらに民主党県連の幹部や連合の一部も推していた山本繁太郎が当選したが、有権者の2割ほどの得票で、自公民の政治基盤が大きく崩壊していることをさらすものとなった。選挙戦の結果がなにを物語っているか、記者座談会を持って論議した。
投票率45%で棄権党が第一党
司会 選挙結果についての有権者の反応からどうだろうか。
A 今回の選挙は初めから終わりまでシラケきっていた。盛り上がらないし、期間中も話題になることも少なかった。各所で「だれに入れたらよいだろうか?」「入れようと思う候補がいない」とどこでも語られていた。上関原発にしても米軍岩国基地やオスプレイにしても似たような主張をして、だれがどんな人物なのかもわからない。
B 選挙に行っていない人が多い。開票後の月曜日には行く先先で「今回は棄権した」という声を耳にした。期待が持てる候補がいないと共通して語られていた。ある商店主は「最近は公約破棄をへっちゃらでやる政治家ばかり。中尾(下関市長)にしても自分が市長になることだけで、次次と公約を投げ捨てていった。今月の市報には“新庁舎の建設がいよいよ始まります!”と悪びれもせずに載せていた。知事選に出た四人を見ても、入れたいと思う者が一人もいなかった」と話していた。
C 唐戸の商店主の一人は、政見放送のなかである候補者が「低所得者層」といっているのを聞いて、「どこの上目線から物事を見ているのか。世の中みんな低所得者ばかりになっているのに」と腹を立てていた。しかもほとんど陣営が回ってこないし、頭にきて今回ははじめて選挙を棄権したといっていた。別の商売人の男性は山本繁太郎が二井知事の後継者を標榜していることについて、「県財政を1兆3000億円も借金漬けにした男と同じことをされたのでは、山口県民はたまらん」と問題にしていた。
D 「白票を入れた」というのも何人かから聞いた。水産加工業者の男性は自身も自民党員で山本に投票するよう連絡を受けていた。しかし、どうしても入れる気になれず白票にしたことや、夫人も山本以外に入れたと話していた。商売柄、人を見る目だけはしっかりしているつもりと自負していて、「繁太郎の顔がどうしても生理的に受け付けなかった。落ち着きがないし、あれが知事として人の上に立つ器なのだろうか…」と納得いかない表情をしていた。「顔というのはその人間の履歴書のようなもので、人間性があらわれるものだが、どう見ても代議士連中におべんちゃらをする小役人だ」という。
E 自民党でも婦人部のなかで「下品」「品がない」という反発がかなり強かったようだ。中央官僚としてなにをしていたのかということで、「あれは耐震偽装事件にかかわっていた」とか「大蔵省のノーパン・シャブシャブ事件にも顔が出ていたのではないか」とかも語られていた。
C しかし自民党の組織戦はかなり力を入れたものだった。山本の宣伝カーでは、衆議院選を前にした安倍晋三が「安倍です。安倍です」といって声を張り上げ、山本のチラシではなく自分のチラシをまいて回っていたのが話題になっていた。陣頭指揮だ。二井知事もだが、下関では来年の市長選を前にした中尾市長が一生懸命に走り回っていたことが話題になっていた。しかし35万票を目標にしていたのが10万票も少ない25万票しかなかった。自民党は青ざめる状態だ。安倍派議員のなかには青ざめなければならないという自覚のないのもいるが。
A 投票率は45%で棄権党が第一党だったというのが第一の特徴だ。「選挙をしても意味がない」「だれを選んでも勝手なことをやる」「入れる相手がいない」というのが過半数だったわけだ。投票に行った54万人よりも多い65万人が選挙に振り向きもしなかった。山本の得票率は118万人いる全有権者の21%(25万人)に過ぎない。「2割知事」のお寒い限りだ。
B 瀬戸内海の都市部のほとんどで、山本票は他の3人の合計票より少なかった。工場の海外移転・工場閉鎖などで打撃を受けている都市部で反発が強くあらわれている。
下関の投票率県下最低 旧市自民票1万余り
C もっとも冷めているといわれていた最大の票田である下関の投票率は県下最低の37・5%だった。県全体の投票率45・32%より8�も下回っている。地域ごとに見てみると、旧市は35・5%で3人に1人しか選挙に行っていない。旧郡部では豊田町が53・73%、豊北町が50・5%だったが、それでも前回より投票率は下がっている。
菊川町が46・65%、豊浦町が44・88%だった。周防大島町や阿武町のような農漁村地域がほぼ60%台後半なのと比べても、いかに冷めていたかがわかる。
B 下関の自民党関係者が青ざめているのは、飯田が3万票、三輪が6500票、高邑が7900票とっているなかで、山本繁太郎の得票が僅か3万9000票しかなかったことだ。公明党の基礎票といわれている1万5000票を除き、連合も加勢しているのを引いたら自民党安倍事務所、林事務所の独自の票は2万票程度しかない計算になる。
A 旧郡部の投票者が1万8000人だったから、そのうちの55%・1万票が山本繁太郎に入っていたとしたら、旧市内の自民党独自の得票数は1万票余りという惨憺たる結末だ。県議一人しか出せない数となる。
E 公明党もだが、連合や自治労の一部、民主党県連の中枢も山本繁太郎陣営の裏部隊として動いていた。下関では民主党の加藤寿彦県議に「だれに入れたらよいか?」と聞いたら、「今回は山本繁太郎しかいないだろう」といわれてビックリしたと語る支援者がいた。民主党は知事選では不戦敗。はじめからドロ船沈没状態で政党としての体をなしていない。民主党は選挙がはじまったら「自主投票」といいながら奇奇怪怪な動きをしていた。二井県政与党でやってきたのの継承で、山本県政与党の道を継承したというわけだ。
B 「恥をかくために選挙があったようなものだ」と自民党内でもブツブツいっている人がいた。衆議院選につながったらたいへんだと危機感になっている。組織票固めをあれだけやって相手にされない。自民党離れが相当なものになっている。本人たちは「従来通りにやったのに…」と思っても、なぜ今回のような結果になったのかがわからない。飯田陣営に勢いがあるわけでもないのに、出口調査で僅差といわれて終盤は慌てまくっていた。
運動員は県外者ばかり 飯田哲也陣営
C 飯田哲也が18万票とってたくさん集めた形になった。選挙カーや集会で「大阪維新の会」人脈の著名人や「脱原発」関連の有名人の名前を語っては支持を呼びかけたりしていた。全県で各戸配布していたカラーチラシは相当に徹底していて、配布するメンバーは全国から来たグループだった。「相当の組織力と資金力が背後にあるに違いない」と話題にされていた。しかし動いているのは県外者であり、地元の人たちの動きは乏しかった。「飯田ブーム」は最後までまったくなかった。
D 県外から来ていた選挙スタッフが、唐戸で人力車を押して回ったり、ギターを抱えた短パン姿の男が自転車に「維新のDNA」と書かれた幟を立てて走り回ったり、「なにをしているのだろう?」と違和感が語られていた。
B 飯田がいう「維新のDNA」は大阪・橋下維新のことであって、坂本龍馬の維新すなわち幕府との公武合体路線であって、それとたたかって倒幕をした長州藩の明治維新とはまったく違っている。
C 国政隷属の二井県政と山口県民とのあいだには鋭い争点があった。上関原発の問題があり、オスプレイ配備をはじめとする米軍岩国基地への空母艦載機移転、海兵隊移転など基地増強の問題があった。さらに二井県政の県内産業破壊による経済の疲弊の問題があった。上関原発については二井知事が「10月に失効する埋め立て許可の延長は認めない」というのを山本も継承するといい、オスプレイ配備は二井知事が福田岩国市長と一緒に抗議のポーズを取って、争点として批判にさらされるのを回避した。そんなものは選挙後にはすぐひっくり返すというのが多くの受け止めだった。
A 飯田事務所に応援に来た福岡県の1人は、「脱原発だがTPPは賛成なのでがっかりした」といっていた。山口県では豊北原発、上関原発など一基も原発をつくらせなかった全国最高の実績があるが、それはよそ者が来て応援団で騒ぐというのではなく、地元で生産をし生活をする漁民、農民をはじめとする町民、県民が主体になった運動だったからだ。脱原発というが、飯田のそれは原発を阻止した山口県民の運動の質とは別物だ。
B 飯田は安倍晋三夫人を連れて祝島に行ったことがある。飯田、大阪維新の会と安倍代議士は仲良しのようだ。脱原発というが、オリックスとかソフトバンクのようなもっと親米型のソーラー発電で一もうけしようという勢力の姿がちらつく。しかし、自民党を見限った票が、自民党県政批判の意味で、「今回は飯田に入れた」という人が多かった。消去法だ。
E 「入れようと思う候補がいない」といわれるのは、対立候補だった3陣営についても期待が持てなかったことをあらわしている。高邑は現首相の野田グループ出身のようだが、早早と民主党に見切りをつけて出馬に至った。「反松浦陣営に抱えられて次の防府市長を目指しており今回の知事選はいわばアピールの場なのだ」ともいわれていた。組織力や動員力は乏しかった。
もっと泡沫候補と見られていた三輪は、開票時間にシャツ姿で扇風機にあたってくつろいでいるテレビ中継を見た有権者のなかで「当選するつもりがないのにどうして出馬したのだろうか」と不思議がられていた。だれ一人いない郡部の漁港で一人でマイクを握っていたり、不思議な光景が期間中も頻繁に目撃されていた。
政治斗争の情勢訪れる 独立の課題鮮明に
A 自民党の組織票が大崩壊しているのが最大の特徴だ。民主党の方は候補を立てるどころではないもっと崩壊だ。既存の政党が信用をなくしていることをさらしたのが特徴だ。かれらから見たら、県民がどう動くのか不安におののく状態だと思う。安倍晋三や中尾が走り回って下関では3万9000票しかなかった。大音量の街宣車で「安倍晋三です! 安倍晋三です!」と叫んでだれの選挙かと思わせていたが、これは次期衆院選や市長選で大激震が走ることを予感させるものだ。安倍派議員たちも威張っているが立っている足下は砂上の楼閣だ。
B みんなが痛感しているのは、自民党がダメだから民主党にいれたら、選挙の約束はみなひっくり返して自民党野田派のようになっている。政治の信用がまったくなくなっているのだ。下関は県下最低の投票率だったが、国政で野田がやっているのと市政で中尾がやっているのがかぶさっている。公約などクソくらえでうそつき政治が平気で横行する。安倍、林代議士支配の下関で、全国先端の新自由主義モデル市政がやられて聞く耳のない暴走政治が続いてきて、政党政治への信頼がなくなっているからだ。
D 衆議院選が危ないと思ったのか、安倍代議士が各地の盆踊り大会や行事に頻繁に顔を出し始めていることも話題になっている。前回衆院選がやられた夏にちょうどそんな感じだったが、SPや市議連中を連れて回っている。夜は襲われたら危険ということで、なるべく夕方や陽が明るいうちを心がけているのだと話題になっていた。有権者が恐ろしいみたいで、選挙区を歩くのにも相当に用心しているみたいだ。
A かつてない既存政党への不信があらわれた。山本繁太郎も当選したからといって有権者の2割しか得票はない。上関原発や米軍岩国基地問題など簡単には暴走できない県民世論に縛られている。支持基盤ははじめから脆弱だ。
E 「選挙で入れる者がいない」という話のなかで、とくに話題になっているのは「だれが首相になってもアメリカがいる限り、そのいうことを聞くようになる。問題は日米安保だ。日本の独立を問題にしなければどうにもならない」ということだ。これに対して「かつての安保斗争のような大衆の熱気がいる」と話が弾む。戦後社会を見直して、大きな政治斗争の情勢が訪れていると思う。
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これで少しは次期衆院選の動向が分かるのではないか。
オリーブの木なんていらない。
必要なのは国民の声を代表すること
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