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2012.07.22 丹羽大使の発言は正しい
――八ヶ岳山麓から(38)――
阿部治平(もと高校教師)
日本政府の尖閣問題に対する姿勢は間違っている
丹羽宇一郎駐中国大使が、6月1日北京で行われた「フィナンシャル・タイムズ」紙とのインタービューで東京都の石原慎太郎知事が進める沖縄・尖閣諸島の購入計画について、「実行された場合、日中関係にきわめて深刻な危機をもたらす」旨の発言をしたことが7日明らかになった。丹羽大使は石原氏らの尖閣購入計画は、日中国交回復以来、構築してきた関係を危機にさらしかねない、日本のビジネスの関係にも影響すると述べた。
「産経」(2012・6・8)によると、丹羽氏は5月にも、訪中した横路衆院議長と習近平国家副主席との会見に同席し、同趣旨の発言をしていることがわかった。日本国内で購入計画を支持する人が多数を占めることについて「日本の国民感情はおかしい」などと発言したことがあるという。
これに対し、日本のマスメディアはほとんどが丹羽大使批判をし、政府与党も藤村官房長官、前原政調会長が「政府の立場を表明したものではない」とか、「大使の職権を越えている。……東京都よりも国が(尖閣諸島を)買うべきだ」などと真っ向から大使の発言を否定し批判している。
これらの発言は挑発的であり、極めて危険である。2010年10月の尖閣諸島事件の教訓は何もなかったのか。
互いに無知のまま
私の12年の中国滞在中、普通の中国人は尖閣諸島についての日本の主張をほとんど知らなかった。帰国してみると、日本でも中国の言い分を国民につたえることがまことに少ない。このため日本人も中国人もほとんど相手が何を根拠としているかわからぬまま、尖閣諸島を自国領だと思いこんでいる。領土問題は支配層にとっては社会矛盾から目をそらさせるには格好の材料だが、いずれの国においても相手側の主張を国民に知らせずことを煽るのは愚行である。
中国の主張は、すでに明朝において琉球王国への冊封使の記録に「赤尾嶼」を目印に航海したとか、「赤尾」が境界だとした記録があることとか(1534年・1562年)、さらに清朝に至っても釣魚島が台湾の附属島であることを明らかにしていることとか、日本が台湾を領有していたときの日本の裁判所でも釣魚島は台湾の管轄としていることなどを根拠としている(ウィキペディア)。台湾管轄下ならば尖閣諸島は当然中国領となる。
日本政府は、明治政府が尖閣諸島の領有状況を1885年から日清戦争が終わる1895年まで調査し、清国などいずれの国にも属しないことを慎重に確認したうえで、閣議で決定し沖縄県に編入したことを国際法上の根拠とする。ところが中国政府は、明治政府の尖閣領有は、内密におこなわれ、領有の事実を国際的に宣言することがなかったものだから、国際法上は無効だというのである。
おとしどころを明らかにしない政治指導者たち
2010年の事件では民主党内閣は先の見通しなしに船長を逮捕したから、その後の中国の強硬姿勢に苦しみ、クリントン米国務長官から尖閣諸島は日米安保の対象であるという発言をしてもらったうえに、沖縄地検検事の判断に頼るというみっともない幕引きを迫られた。
いま中国共産党は18回党大会と政権交代をひかえて党内の矛盾が高まり緊張している。もし東京都か国が尖閣買収を強行するなら、中国は前回以上の強硬手段で対応し、最悪の場合、中国軍の強行上陸もある。7月20日、最近の台湾「中国時報」と中国「環球時報」の合同世論調査の発表が伝えられた。そこでは大陸の91%が尖閣での武力行使を支持するとしている(産経ネット2012・7・20)。この発表は中国の尖閣上陸の可能性を暗示している。党内矛盾と世論に押されて穏健な対応を考える指導者も強硬路線をとらざるを得ない場合がある。
尖閣諸島を買取るといっている日本の政治家は、尖閣周辺にどんな事態がうまれるか、それをどう始末するか、いままじめに語らなくてはならない。とくに前原氏はじめ民主党内閣は前回事件の責任者だからその義務がある。
アメリカはあてにならない
2010年10月事件のときも本欄で発言したが、日本ではほとんどの人が「アメリカがついている」、ことが起きても「アメリカが中国に負けるはずがない」とかと思っている。だがアメリカは、1970年代の米中交渉にみるように必要とあれば日本の頭越しに対中外交を展開してきた。尖閣諸島問題ではこれを領土紛争地域と見なし、とくに日本の味方をするわけではない。
たしかに日米安保条約は相互防衛の義務を日本の施政下の領域を対象としているから、文言の上では尖閣諸島を侵略されれば米軍が出るはずだと誰でも思う。だが中国軍が占領したら、尖閣は日本の施政下ではなくなる。米軍の出動義務はない。前記のクリントン発言もこの「ただし書き」が付いたものである。はやくも1980年代に、駐日大使だったモンデールが「尖閣諸島の中国による奪取が米軍の軍事介入を強制するものではない」と発言している(孫崎享『不愉快な現実――中国の大国化、米国の戦略転換』)。
日本の地位は低下した
矢吹晋横浜市大名誉教授は、冷戦後の日米の仮想敵を中国とするならば、日米安保は時代遅れであるという。かりにアメリカが中国を敵視しても米軍は中国人民解放軍とは戦えない。中国が持つ米国債を売りに出すというだけでアメリカ経済は破綻するからだ。それどころか氏は2010年の「米中戦略・経済対話」に示されるように、米中接近が既成事実であることを明らかにしている。アメリカは「中国か、日本か」を迫られたとき、間違いなく中国を選ぶというのである(矢吹晋『チャイメリカ』)。
元外務省国際情報局長・元防衛大学教授の孫崎享氏も前掲書のなかで、尖閣諸島が占拠された場合、日米両軍が制空権、制海権を瞬時に確保できるかといえば、それは不可能だ、と言っている。なぜなら中国は対台湾用の戦闘機330機・駆逐艦16隻・通常動力潜水艦55隻を尖閣諸島に向けることができる。自衛隊にはとてもこれに対抗できる力はない。「尖閣諸島近辺で日中間の軍事衝突が起こった時に日本が勝つシナリオはない」と断言する。
さらに孫崎氏は「ワシントン・タイムズ」(2010・11・14)の「(中国は)80の中・短距離弾道弾、350の巡航ミサイルで在日米軍基地(嘉手納・横田・三沢)を破壊できる」という記事を引いて、「(総力戦ではなく)極東地域で、限定された在日米軍しか使えないという制約のもとでは、米軍のほうが不利である」と判断している。
日本人は現実を直視しなければならない
アメリカは「チャイナ・イズ・ナンバーワン」として、中国とのG2関係構築に動いている。この背景には中共中央がかじ取りを間違わなければ、今後10年足らずで中国のGDPは国家レベルではアメリカを追い抜くという冷厳な現実がある。日本内閣府も似た予測をしている。軍事的には中国の進歩はさらに著しい。すでに中国はアメリカの大都市数十を壊滅させる大陸間弾道弾をもち、中・短距離弾道弾や巡航ミサイルは沖縄と日本本土の米軍基地を短時間に使用不能にする力がある。だからこそ米海兵隊のグアム移転がある。
日本政府は尖閣に領有問題はないとしているが、アメリカにしてみれば係争地にすぎない。オバマ大統領が対中国関係を犠牲にして尖閣諸島で中国と衝突することはありえない。日本人の多くの人には受け入れがたいだろうが、これが日本が置かれたいやおうなしの現実である。
双方の利益をはかる道
武力衝突となれば双方の損害は計り知れない。早い話が中国は年間1800億ドルの輸出市場を失い、日本は最大の輸出市場と投資市場を失うのである。この意味でも丹羽大使の発言は正確である。
尖閣諸島から日中両国がともに利益を得る方法はある。まずは領土問題は棚上げにして、尖閣周辺資源の共同開発を交渉することである。そのためには双方とも譲歩の覚悟が必要で、民族主義を交渉の道具に使っては話にならない。紛争を避けるための措置が日中(台湾)漁業者に損害をもたらすときは適宜賠償をおこなって、「外交窓口」に時間の余裕を与え、ゆっくりと領土問題の交渉に向かえばいい。
中国の政権は一党独裁から必然的に生まれる腐敗を危険因子として抱えているが、経済力と軍事力、国際的権威の伸長によって中国人民のおおかたの支持を得ている。とくに対日政策に関してはそれは一層明らかである。
権力が非民主主義的・権威主義的であるからといって毛嫌いするような脆弱な精神では、13億のお客様をみすみすアメリカとEUにとられ、アジアで日本の生きる道はない。
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