http://www.asyura2.com/12/senkyo133/msg/343.html
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日経新聞は、今週17日〜19日にかけて、「一体改革残された課題」というシリーズで「社会保障と税の一体改革」に関する論考を掲載した。
第1回:社会保障の姿、議論深めよ :吉川洋 東京大学教授 :「消費税10%」は一里塚 制度持続へ給付効率化を
第2回:高齢者医療の負担、公平に :河口洋行 成城大学教授 :精緻な調整方法が鍵 保険者の財政責任、明確化
第3回:年金債務分離、税で処理を:鈴木亘 学習院大学教授:現代世代の負担 限界 積み立て方式へ移行急げ
今回取り上げる吉川東大教授は、小泉内閣の経済財政諮問会議メンバーとして社会保障費を毎年2200億円抑制する政策をとりまとめ、菅内閣ではなぜか首を突っ込んできた与謝野前経財担当相のブレーンとして「社会保障と税の一体改革」の作成にあたり、「消費税増税は1997〜98年の景気後退の『主因』であったとは考えられない」というマヤカシをぶち上げた人物である。
自民党内閣でも民主党内閣でも重用されるということは、財務省御用達の学者であろう。
そうであることは、消費税増税翌98年(デフレ不況の始まり)から財務省理財局長を務め、今は自民党参議院議員となっている中川雅治氏が、参議院特別委員会の質疑で、「そのように言って消費税の増税に反対するエコノミストもいるが、97年の消費税増税が景気にそれほどの悪影響を与えたわけではないことを政府はきちんと説明すべきだ」と吠えたことからも窺い知れる。
吉川氏は、「日本はギリシャよりもひどい状況」などと、菅前首相、野田財務相、仙谷元官房長官に消費税増税を吹き込んだ主犯だとも言われている。
もちろん、国会議員で首相や財務大臣まで務めているオトナに、ダマされたというのは失礼なので、誰が何を言おうとも、判断の責任は政治家自身にある。
吉川氏の履歴と肩書きから、この秋には創設される可能性が高い「社会保障改革国民会議」の20名のメンバーの一人に選ばれると思っている。
ということで、あまり放置しておかないほうがいいと思い、取り上げた次第である。
日経新聞の7月17日朝刊に掲載された吉川氏の論考は、次の投稿で取り上げているので、批判の内容はそれでご確認いただきたい。
また、補足の説明になると思われる関連する既投稿もリストアップさせていただいた。
※ 関連投稿
「新設されそうな「社会保障制度改革国民会議」のメンバーになる可能性が高い吉川洋東大教授の妄言」
http://www.asyura2.com/12/senkyo132/msg/188.html
「C:消費税増税は「社会保障の維持」とは無関係:竹中平蔵氏「社会保障のためなら高中所得者対象の所得税増税以外にない」」
http://www.asyura2.com/12/senkyo129/msg/194.html
「B:消費税(付加価値税)と経済成長:デフレ下での消費税増税はその破壊力を生々しく実証する“経済学的社会実験”」
http://www.asyura2.com/12/senkyo128/msg/905.html
「D:「財政再建」に寄与せず逆に足を引っ張る消費税増税の論理:フロー課税の連関性だけで見えてくる消費税増税の結末」
http://www.asyura2.com/12/senkyo129/msg/198.html
吉川氏的消費税増税論については、今回の「一体改革残された課題」シリーズで「第3回:年金債務分離、税で処理を:鈴木亘 学習院大学教授」も批判をおこなっている。
今回はURLの紹介にとどめ、全文は別の機会に転載するつもりだが、社会保障と消費税の関係や景気と消費税の関係について次のように述べている。
「■実は、社会保障に全く適さない消費税
そして何よりも「消費税は社会保障財源に適している」「だから、消費税を社会保障目的税とすべき」という野田政権の主張自体、世界中で日本の財務省だけが唱えている「屁理屈」である。だいたい、他国で消費税を社会保障目的税にした前例は無い。純粋な経済学のアカデミックな世界でも、このような主張を支持する理論など無いのである。非常識とさえいえる。」
「■消費税引き上げで景気悪化しないという屁理屈
加えて、97年度の消費税の2%引き上げで、当時の景気が回復しかけていた日本経済が奈落の底に突き落とされたことからも分かるように、消費増税は景気に明らかにマイナスの効果をもたらす。GDPが3.6%もの成長をしていた当時でもマイナス効果はあれほど大きかったことを考えると、今回のデフレが続く中での5%引上げは、日本経済に大打撃をあたえるだろう。
これに対して、財務省は97年度の景気急落は、97年の夏から始まったアジアの通貨危機や、北海道拓殖銀行や山一証券の倒産といった金融危機が原因だと主張し、消費税引き上げは景気に影響を与えていないと主張している。それを証明した経済学の学術論文もあるという。
しかし、私がそういった論文を読むと、せいぜい言えることは、97年夏の景気急落は、その前の消費税引き上げの影響が続いているのか、アジア通貨危機や金融危機の新たな効果なのか、同時に起きていることなので「識別不可能である」ということだと思う。消費税引き上げの効果が、アジア通貨危機や金融危機が起きる前の3ヶ月間に「出つくした」と仮定した議論をしている論文もあるが、これは理論的にも実証的にも明らかにおかしい。
だいたい、アジア通貨危機や金融危機が不況の真の原因で有れば、それが解決すれば景気や税収は元に戻るはずではないか。しかしながら、97年度を境に、景気も税収も元に戻らず、15年もたった未だに低迷を続けている。こうした恒常的なショックをアジア通貨危機や金融危機で説明することには無理がある。むしろ、税率引き上げのようなものこそ、恒常的ショックの原因としてふさわしい。」
※ 引用元:
消費増税閣議決定に思う:私が消費税引き上げに断固反対する理由(上)
http://blogs.yahoo.co.jp/kqsmr859/36217404.html
消費増税閣議決定に思う:私が消費税引き上げに断固反対する理由(下)
http://blogs.yahoo.co.jp/kqsmr859/36217457.html
吉川氏の「消費税増税妥当論」は、少し考えれば、おかしいとすぐわかる説明がざくざくというレベルである。
失礼で不遜な言い方になることは承知しているが、消費税の増税に反対するひとは、吉川氏の論レベルは乗り越えていただきと思っている。
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一体改革残された課題
(上)社会保障の姿、議論深めよ
吉川洋 東京大学教授
「消費税10%」は一里塚 制度持続へ給付効率化を
<ポイント>
○消費税はほぼ比例的で所得再分配効果あり
○財政破綻リスクの芽は早く摘むのが正しい
○年金支給開始年齢の一段の引き上げ検討を
消費税率を2014年4月に8%、15年10月に10%へ引き上げる消費税関連法案が6月26日、民主・自民・公明3党の賛成多数により衆院で可決された。採決では民主党から多数の反対、棄権、欠席者が出た。その後7月2日には小沢一郎元代表らが離党し、11日に新党が結成された。
連日連夜の報道の中で、われわれの目はとかく目先の政治の動きに奪われがちだ。しかし、今こそ「社会保障と税の一体改革」という日本の経済社会にとって最大のテーマについて、事の本質を理解するよう努める必要がある。
「消費税が上がると生活が苦しくなる」といった声を聞く。いつの時代、どこの国でも増税そのものが歓迎されることはない。しかし消費税は社会保障の対価だ。社会保障が先細りになってよい、と考える人は少ないだろう。
現行の皆年金・皆保険制度は1961年にできたが、それ以前の50年代初め、日本の平均寿命は男59.6歳、女62.9歳で、先進国グループ中最も短かった。それが今では男79.6歳、女82.9歳と、世界一の長寿国になった。これは戦後の日本の経済社会が成し遂げた最大の成果といえる。経済が安定し、1人あたりの所得が順調に伸びたことに加え、医学の進歩・医療関係者の努力ももちろんあった。同時に、皆年金・皆保険も大きな役割を果たした。
社会保障というと、問題点だけが強調されがちだ。しかし綻びがあるとはいえ、いまだに大きな貢献をしている社会保障制度の意義を確認するところから出発しなければならない。実際日本では、皆年金・皆保険を中心とする社会保障の意義に関しては社会的・政治的なコンセンサス(合意)がある。だからこそ、今回の消費税関連法案についても与野党が歩み寄れたのだ。
社会保障と税の改革を必要としている国は日本だけではない。背景となっているのは先進国共通の少子高齢化だ。社会保障は年金だけでなく医療・介護など高齢者を対象にした給付が大きい。一方、そうした給付をファイナンス(資金繰り)する保険料や税金は、企業も含めた現役世代が主として負担する。少子化で現役世代の数が減る一方、高齢化が進めば、社会保障の財政が苦しくなるのは当然だ。世界中どこの国もこの問題に悩んでいるのである。
社会保障の給付の総額はおよそ100兆円だが、そのうち保険料で賄われているのは60兆円、残りの約40兆円は税金(公費、国30兆円、地方10兆円)が投入されている。これが国・地方の財政を圧迫している。例えば、国の一般会計90.3兆円から国債費と地方交付税交付金を除いた政策経費51.8兆円のうち、5割を超える26.4兆円が社会保障関連の支出だ。文教・科学技術・公共投資など他の予算はすべて削減が続く中で、社会保障関連の予算だけが年々1兆円以上増え続けている。
日本の財政赤字は、社会保障制度が抱える赤字と同じコインの表裏の関係にある。各国ともリーマン・ショック後の金融危機と世界同時不況の下で、財政支出を増やしたことが財政赤字拡大の原因となった。しかし長期的には高齢化による社会保障関連経費の増大こそが最大の問題であることは、広く認識されている。
とはいえ、なぜ消費税なのか。法案では消費税を社会保障目的税とすることになっているが、高齢化の下で増大し続ける社会保障関連経費は、不況になったからといって減るわけではない。従って、景気の動向に左右されにくい安定した財源が必要だ。また現役世代だけでなく、すべての世代で負担する。こうした点で消費税が最も適している。
消費税は逆進的(貧しい人の負担が相対的に大きくなる)といわれる。しかし1年ではなく一生涯を通してみると、人は稼いだ所得を(遺産として残す分は別にすれば)消費すると考えられるから、消費税はおおむね「比例的」だ。かつ消費税収は社会保障給付に充当するのだから、両者を合わせて考えると、豊かな人から貧しい人へ大きな所得再分配効果が生まれる。
消費税は景気に悪影響を与えるのではないか。多くの人がこう主張する。念頭にあるのは97年4月に消費税率が3%から5%へ引き上げられたときの経験である。97年秋から98年にかけて日本経済は深刻な不況に陥った。しかし97年には消費税が上がっただけではなく、夏以降タイ、韓国などアジアの通貨危機、さらに北海道拓殖銀行、山一証券などの破綻による金融危機が起きた。投資や輸出の落ち込みが大きかったことからしても、不況の主因は消費税ではなく金融危機とアジアの通貨危機であったと考えられる。
ドイツでもメルケル首相の下で、07年、日本の消費税にあたる付加価値税が16%から19%へ引き上げられたが、経済への影響はなかった。
97年の最大の反省は、消費税引き上げではなく、不良債権処理を先送りし金融危機を起こしたことだ。当時も不良債権処理を進める前に「まずは経済成長を」といっていた。経済成長は重要であり、成長戦略を迅速に進めることは正しいが、「まず成長」という言葉は、問題先送りの掛け声にすぎない。財政破綻という大きなリスクの芽は、できるだけ早く正面から摘んでおくのが正しい政策対応だ。
消費税を上げるにしても、今回の法案は社会保障改革抜きの「増税先行」ではないかという批判もある。しかし、これまでは国の消費税収はいわゆる「高齢者3経費(基礎年金、老人医療、介護)」に充当してきたが、今回初めて出産や子育てをする若い世代への支援も消費税収の使い道としての「社会保障給付」の中に明確に位置づけられた。これは画期的なことだ。
日本の社会保障は、欧州各国と比べて相対的に高齢者に手厚く、現役世代への支援が手薄だ。しかし少子化対策は、日本の将来にとって最大の課題ということもできる。少子化対策へ向けての第一歩を踏み出したことは評価されてしかるべきだ。
消費税率10%への引き上げは、財政再建と社会保障の改革にとって越えねばならない一里塚だ。しかし、消費税を上げるのと併せ、これから社会保障の給付についても効率化を進める必要がある。どの先進国もそうした努力をしている。
例えば、高齢化が進む下で年金の支給開始年齢を65歳から67歳に引き上げる、といったことも検討しなければならない。実際、日本より平均寿命が短い米国では67歳に、ドイツでも67歳に支給開始年齢を上げることになっている。
医療保険については、大きなリスクを支え合うという「保険」本来の役割からすると、月々の自己負担に上限を設ける「高額療養費制度」こそが日本の皆保険制度の柱である。比較的少額の医療費の自己負担率である「3割負担」にこだわらず、少額の医療費の自己負担率は少し上げる。その一方で、そこで浮いた財源を現在保険適用外になっている抗がん剤など高価な薬に適用する、慢性的な高額療養費の月額上限を下げる、といった改革に投入すべきだ。
社会保障の改革に残された課題は多い。少子化・高齢化への対応は時間との競争だ。「国民会議」などの場で様々な政策提言を幅広く検討したうえで、時間を区切って議論を終え、その後は速やかに改革を実行に移さねばならない。
よしかわ・ひろし 51年生まれ。エール大博士。専門はマクロ経済学
[日経新聞7月17日朝刊P.17]
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