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二週間ほど前に発売された「AERA ‘12.7.2号」が、3ページを使って「消費税こんなに不公平」というタイトルを付けた特集記事を掲載した。
まず、内容はともかく、多くの主要メディアがひたすら押し隠している「輸出戻し税」や「雇用問題」(消費税による非正規労働者増加問題)を取り上げたことを高く評価したい。
アエラは、「消費税こんなに不公平」の具体的な内容として次の五つを提示し、それらの解説を行っている。
不公平@全額国庫に入らない益税
不公平A輸出企業に軒並み戻し税
不公平B意外なものが非課税
不公平C病院経営を圧迫 損税
不公平D雇用問題にまで波及
今回の投稿シリーズでは、アエラが言うところの五つの不公平を、不公平@“益税問題”・不公平A“輸出戻し税”・不公平BC“非課税取引問題”・不公平D“雇用問題”という4つに分けて検証したい。
記事は署名入りなので、アエラというよりアエラ編集部の本田靖明氏と言ったほうがいいかもしれないが、このシリーズではアエラという主体名で表現させていただく。
引用元は、すべて「AERA ‘12.7.2号」のP.20〜22である。
全文を今回の末尾に転載させていただく。
■ “益税”とされる消費税の制度とは
さて、最初のテーマは、いわゆる“益税問題”である。
“益税問題”は、消費税が付加価値に課された税であることを理解しないまま、売上で消費税を“預かっている”にもかかわらず、そこから仕入で“負担した”消費税を控除した金額を納税しない事業者がいることを問題視したものである。
まず、“益税問題”として語られる二つの制度について簡単に説明したい。
一つは、売上高を基準にした「消費税納税義務免除事業者」制度である。
国税庁でさえそれに該当する事業者を略して「免税事業者」と呼んでいるが、輸出免税のように「仕入にかかわる消費税額」が控除される仕組みではないので、混同や誤解を避けるためには、「免除事業者」ないし「特別非課税事業者」と呼ぶべきであろう。
消費税の負担を免除される基準売上高は、89年消費税導入時の3千万円から04年に1千万円へと引き下げられた。
消費税の納付が免除される条件を有していても、課税事業者を選択することもできる。1千万円以下になったのでほとんどないと思うが、輸出免税や設備投資(仕入)控除で「消費税還付金」が発生する場合は、課税事業者のほうが有利だからである。但し、後出しジャンケンはだめで、事前に課税事業者になるための届け出が必要。
もう一つが「簡易課税」制度である。
一定レベル以下の売上高である課税事業者は、自らの選択で、実際の仕入額ではなく、業種別に設定された「みなし仕入率」を用いて売上額から仕入額を算出することもできる。
消費税額は、「売上にかかわる消費税額−仕入にかかわる消費税額」で算定されることから、実際の仕入額より多い仕入額を使うことができれば、消費税額を圧縮することができる。
「簡易課税」の適用上限は、消費税導入当初の売上高5億円から97年に2億円さらに04年に5千万円へと引き下げられた。
また、「みなし仕入率」の区分も、当初の90%・80%の2区分から、91年の4区分を経て、97年以降は90%・80%・70%・60%・50%の5区分になっている。
現在は廃止されて存在しない軽減措置として、「限界控除」という制度を簡単に取り上げる。
当時の「免除事業者」になれる基準売上3千万円を超えて6千万円までの売上レベルにある事業者の消費税負担を緩和する制度である。
「限界控除」を適用できる上限売上高は、消費税導入当初の6千万円から91年に5千万円に引き下げられた。そして、97年の消費税増税を機に廃止された。
上限5千万円をベースに説明すると、通常の算定式で求められた消費税額から、限界控除額(算定消費税額×(5千万円−課税売上高)/2千万円)を差し引けるというものである。式でわかるように、課税売上が「免除事業者」の3千万円なら乗数は1になるので、税が全額控除されて消費税を納付する必要はなくなる。売上額が5千万円に近づくほど、通常の計算で求められた消費税額に近い金額を納付しなければならなくなるという制度である。
このように、かつては、「消費税免除事業者」、「簡易課税」、「限界控除」といった諸制度を利用することで、売上規模が5億円までであれば、消費税を納付しなければならない課税事業者であっても、実際に稼いだ付加価値に税率をかけた消費税額よりもずっと少ない消費税の納付で済んだ。
89年から90年までの適用上限5億円、「みなし仕入れ率」最低80%は、ソフトウェア開発業界など人件費=付加価値のかたまりで動いている事業者の消費税負担を大きく軽減した。
(91年から96年までの適用上限4億円・「みなし仕入れ率」最低60%でも大きな負担軽減となる)
簡単に説明した軽減措置縮小の暦的経緯でわかるように、消費税をめぐる負担軽減措置は、瞬く間と言っていいほど急速に縮小された。そして、この縮小政策を正当化する論理が、“益税”の解消だったのである。
“益税”とされる制度は、消費税負担の転嫁が難しく、利益率も低く、一人当たりの付加価値額も少ない中小事業者の税負担を緩和する社会政策であると同時に、89年に消費税導入を果たすための“アメ”と言えるものである。
89年の導入時に「免除事業者」になる基準が3千万円ではなく1千万円であったなら、自民党の大票田であった中小商店主を中心とした怨嗟の声で消費税が潰された可能性もある。
(消費税が導入された89年に実施された参議院選挙で参議院の構成は野党が過半数を占めるようになり、参議院で消費税廃止法案が可決される事態にまで至った。導入時の“アメ”が現在のレベルであれば、続く90年の総選挙でも自民党が敗北し消費税が本当に廃止された可能性が高いと思っている。自民党政権は、“アメ”をなめさせることで、気づいた時は既に遅しという“ゆでガエル”状態に中小事業者を追い込んだのである)
89年の消費税導入時に当時の大蔵省が狙っていた税率は5%であった。一方、政権与党の自民党は3%に抑えておく方が得策だと考えた。
竹下首相や党税調の山中貞則会長は、「制度を作ることが先決で、小さく産んで大きく育てる」(=とにかく、エサを撒いてでも導入してしまえば、税率を含む制度変更は後からできる)という考えに立ったという。
前置きが少し長くなったが、アエラの記事を素材としながら、「免除事業者」制度や「簡易課税」制度が“益税”をもたらしているのか検証していきたい。
■ 軽減措置の制度をもって“益税”と言えるのか?
● 「消費税納税義務免除事業者」制度
アエラは、記事の冒頭で、
「「お上が納めなくてもいいって決めたんだから。不公平だって言われましてもねぇ」
東京都内で名刺のデザインや印刷を手がける会社を営む50代の男性は、創業して20年になるが、一度も消費税を納付したことがない。消費税法上の「免税事業者」だからだ。」
と切り出し、
「2011年度決算でも、売上高は800万円余りだった。では、納めずに、手元に残った消費税はいくらになるのか。
それを求める方式は「仕入れ税額控除」といい、売上高にかかった消費税から、仕入れ等にかかった消費税を差し引いて算定する。男性の会社の場合、売上高にかかった消費税が釣40万円。仕入れ費用は釣360万円で、そこに対してかかった消費税は約18万円。差し引き、約22万円が国庫に行かず、男性の懐に入ったわけだ」と解説してみせ、“益税”があったとしている。
消費税制度を財務省や消費税増税派のメディアや学者の説明通りに受け容れている人なら、“ふむふむ、その通りだ”と思うかもしれない。
しかし、消費税が付加価値に課される税で付加価値を生み出した事業者が負担し納税するものであることをわかっている人なら、“いやいや、なんとも言えない。それだけで益税云々というのは子供だましの言いがかりだね”と思うだろう。
また、消費税の内実や仕組みに興味がない人でも、統治や支配を知っている人なら、“有力企業ならともかく、政府が名もなき有象無象の事業者に“益税”をもたらすような制度設計をするはずがないだろ。消費税で中小事業者が“税苦”に陥ることがわかっているからこそ、負担の軽減措置を講じたのさ”と説明するだろう。
ある制度をもって“益税”と呼べる必要条件は、その事業者が消費税と適用制度を通じて利益を得ていることである。
個々の売上で消費税を預かり、仕入で消費税を負担しているから、差し引きは?といった「算数ごっこ」ではなく、消費税制度で事業者の利益(マージン)がどうなっているのかという視点で考えなければこの問題は見えない。
アエラのように、「消費税法では、消費者は税の負担者だが、納税義務を負うのはあくまで事業者。とはいえ、買い物をするたびに「税金だから仕方ない」と思って払ってきたお金が、業者の手元に残って自由に使われている、というのは釈然としない」というように、“公式の説明”にダマされているような人は、“益税問題”も見えてこないだろう。
財務省官僚や学者のデタラメもしくは“期待を込めた”説明や解釈はともかく、“消費税法に消費者は税の負担者”という規定はない。
“益税”と呼ぶからには、追加された税負担(消費税)が軽減されているというレベルにとどまらず、消費税制度を通じた儲けがなければならない
税負担の軽減措置そのものは、法人税でも数多くある租税特別措置法と同じ話であり、“益税”ではない。
アエラは、次のような取引内容を基礎に、「差し引き、約22万円が国庫に行かず、男性の懐に入った」と捉え、“益税”が生じたと認定している。
※ 示すデータは、記事にある“約”とか“余り”といった形容句を外したもの。
売上:800万円:売上にかかわる消費税額:40万円
仕入:360万円:仕入にかかわる消費税額:18万円
課税事業者であれば納付すべき消費税額:22万円
アエラは、単純な算数ごっこで、「売上にかかわる消費税額40万円−仕入にかかわる消費税額18万円」をもって、課税事業者の消費税額に相当する22万円が男性の懐に入ったと認定しているのだ。
しかし、この事業者が消費税負担の軽減を受けていることは事実であっても、このデータだけで“益税”があると認めることはできない。
“益税”かどうかは、マージンの増減がどうなったかを確認した上で決まる問題だからである。
実例のマージンは、仕入の消費税と売上の消費税を考慮して、440万円である。
“益税”と言える最低レベルの条件として、このマージンが、消費税導入前もしくは97年の消費税増税前より増えていなければならず、そうでなければ、“益税”とは言えない。
仮構の話になるが、消費税がなければ、同じ物の仕入額が348万円で済み、同じ印刷物の売上が790万円だとすると、得られるマージンは442万円となる。
実例の事業者にこの仮構が適用できるのなら、消費税が導入された経済社会で「消費税免除事業者」になっていても、マージンは2万円減少しているのだから、“益税”が生じているとは言えない。
実例で800万円の売上が802万円になっていれば、マージンは442万円になるから、消費税がないときと同じである。このケースなら、売上が802万円を超えていなければ、“益税”とは言えないのである。
さらに言えば、マージンの2万円減少は、仕入れで転嫁された消費税と売上で転嫁できなかった消費税の差額に起因しているのだから、“益税”どころか、「消費税免除事業者」なのに消費税を“負担”しているとも言える。
(それは違うという人は、輸出免税に伴う消費税還付制度も疑わなければならない)
実例の事業者は、年間売上が800万円ほどしかないから零細事業者といっていいだろう。
インクや紙の仕入先も自分のところより大手で、印刷物の納入先も自分のところより大手だと推測できる。そうであれば、仕入ではしっかり相手事業者から消費税負担分を転嫁され、売上では値切られて自分の消費税負担をあまり転嫁できないと考えることができる。
そのような取引実態が付加価値(マージン)を減少させているのである。
どこにでもあるような町中の零細印刷事業者が、厳しい競争環境のなかで、消費税の負担を納品先に転嫁するのは困難であり、「免除事業者」であっても消費税の打撃を受ける可能性が高いのである。
実例は、年間売上が800万円だからまだ救いがある。売上が1200万円といった事業者なら、04年の改正で課税事業者になっている。そのような事業者なら、マージンは減少した上に、その減少したマージンに税率を乗じた消費税をきっちり納付しなければならないのである。
むろん、印刷会社が特殊な印刷技能を持っており、利幅も大きいという場合もある。
このような「免除事業者」印刷会社が消費税を利用して価格を引き上げれば、マージンが増えるので、消費税制度に伴い“益税”が生じたと言える。
また、生産性の高い印刷機を導入してコストダウンを達成することでマージンを増やすこともできる。しかし、このケースは、設備投資という企業努力が奏功したという話で、消費税の“益税”でマージンが増えたとは言い切れない。
年間売上1千万円以下の事業者のなかにどれほどいるのかという問題はあるが、価格が認可で決まるものや寡占的商品を扱っている「免除事業者」は、消費税の転嫁がスムーズにできるので、“益税”を手にすると言える。
ともかく、原則として自由経済の日本では、販売価格(物価)が統制されているわけでも、マージン率が定められているわけでもない。
価格を構成する「原価・税金・マージン」の割合は、自由で様々なのである。
負担する税金の転嫁はぎりぎりまで抑え、その代わりにマージンをびっくりするほど上乗せしても、それで売れるのならOKなのである。(むろん、マージンの増大は、消費税の負担増大に直結する)
仕入や買い物をするひとは、あるものの対価として支払う金額に占める原価・税金・マージンの割合を知る由もない。
消費税の課税論理から言って、売値の5/105や本体価格の5%の消費税を負担していると考えるのは錯誤でしかない。それは、外税方式であっても同じである。外税方式は、事業者が転嫁しやすい仕掛けに過ぎず、実際の消費税額を意味するわけではない。
仕入原価のみが控除の対象であればそう言えなくもないが、様々な経費が仕入れとして認定され、売上にかかわる消費税額から控除できるからである。
本体価格の5%が消費税だと錯誤しているから、“益税”というトンチンカンな話がもっともらしく聞こえるのである。
消費税制度自体が、たばこ税とは違って、消費税の転嫁を保証する仕組みになっていない。
「売上にかかわる消費税」は、“預かり”の有無に関係なく、「売上×5/105」が消費税額としてはじき出されるものである。
「仕入にかかわる消費税」も、“負担”の有無に関係なく、「仕入×5/105」が控除できる消費税額として認定されるというものである。
このようなことから、「消費税納税義務免除事業者」制度に伴う“益税”問題は、「算数ごっこ」レベルの判断でどうこう言える話ではないことはご理解いただけたと思う。
アエラではなく財務省の問題になるが、アエラの記事のなかに、「これが、いわゆる「益税」だ。この仕組みは事業者免税点制度といい、1989年の消費税導入時から「温存」されてきた。取引ごとに請求書や領収書を管理し、消費税を計算するのは膨大な事務作業の連続。人手が少ない中小の事業者には負担が大きく、特例措置が必要というのが財務省の説明だ」という説明がある。
これもデタラメな話で、法人税や個人事業者所得税についてなら、取引ごとに請求書や領収書を管理し、税を計算するのは膨大な事務作業の連続と言えるが、消費税は、法人税算定の準備ができているのなら、電卓であっという間に算定できる。
国と地方を合わせた消費税は、総売上と総仕入がわかれば、「総売上×5/105−総仕入×5/105」で算定できるからだ。
「人手が少ない中小の事業者には負担が大きく、特例措置が必要」と言えるのは、消費税ではなく、法人税や個人事業者所得税のほうなのである。
● 「簡易課税」制度
続いて、「簡易課税」制度が“益税”を生じているか考えてみる。
すでにお気づきとは思うが、「簡易課税」制度も、その適用ができることをもって“益税”と決めることはできない。
「簡易課税」制度は、納付義務を負う課税事業者の消費税軽減措置なので、「消費税納税義務免除事業者」よりさらに“益税”という話から遠いものである。
確実に言えるのは、「簡易課税」制度があり、それを選択したのだから、消費税の負担が軽くなったということだけだ。
アエラは、意図的か偶然かわからないが、「簡易課税」制度の実例として、なかなか微妙な業態の事業者を持ち出している。
「だが、益税を生んでいる仕組みはこれだけではない。
「大きな声では言えませんが、『恩恵』 は毎年、相当なもの。消費税さまさま、です」
そう話すのは、ある保険代理店の経営者だ。恩恵をもたらしているのは、「簡易課税制度」という別の特例措置だ。売上高が5千万円以下の事業者を対象に、業種に応じて売り上げの50〜90%を機械的に仕入れ額と「みなす」というものだ。
この代理店の場合、11年度の売上高は釣3800万円。これに保険業の「みなし仕入れ率」として決められている60%を乗じ、仕入れ額を2280万円とはじく。売上高から仕入れ額を引き、5%を乗じた釣80万円が納税額、と簡単に算定できるわけだ。ただ、実際には仕入れ額は約1400万円だった。本来ならば納税額も約120万円になるはずだったのが、約40万円も浮いた計算だ。」
保険代理店であれば、寡占的な保険業界の恩恵を受けて、消費税負担増加分を上乗せした手数料を受け取っている可能性が高いからである。
そうであれば、消費税導入以前よりも消費税転嫁分だけマージンが増加したにもかかわらず、「簡易課税」制度で納付消費税額を縮小できることから、「大きな声では言えませんが、『恩恵』 は毎年、相当なもの。消費税さまさま、です」と言いたくなる気分かもしれない。
実例の保険代理店が黒字決算で法人税を納めているのなら、消費税の“益税”分は、法人税で少し削られることにはなる。
「簡易課税」制度は、一般論で言えば、売上規模が5千万円以下の事業者に限って適用されるものなので、消費税の負担を転嫁しにくい事業者の負担軽減措置と考えたほうが実態に即しているだろう。
いずれにしても、“益税”が生じているかどうかは、個々の事業者の経営実態を精査した上でなければ判断できない。
● まとめ
アエラが、「消費税こんなに不公平」のトップに持ってきた「消費税納税義務免除者」制度と「簡易課税」制度だが、「財務省では、免税点と簡易課税の両制度で発生する益税は年に3千億円ほどとみている」という。
制度がなければ納付させることができる消費税額が3千億円ということだから、課税ベースの付加価値額は、国税分(4%)と考えると7兆8千億円、地方分も合わせると(5%)6兆3千億円と推定できる。
消費税の課税ベース全体はおよそ340兆円と推定できるから、徴税漏れの付加価値が全課税対象付加価値に占める割合は、1.8%〜2.3%ということになる。
“益税”がまったくないとは言わないが、あってもごく稀な話であろう。
それよりも、マージンが440万円の最初の印刷会社の実例をもう少し考えたほういい。
あの印刷会社は、消費税と法人税をまったく負担しないとしても、440万円から地方法人税均等割り分や自動車諸税さらに事務所費など諸経費を払ったあとの残金から、自分一人もしくはせいぜいもう一人と思われる従業員と給与を分け合っているはずである。
そして、その給与のなかから、課税最低限を超えていれば所得税を負担し、社会保険料も支払う。そのような現実のほうが、消費税の“益税”よりずっと深刻な問題だと思うがどうだろう。
このようなマージンしか稼げない事業者から付加価値税(消費税)を徴収するほうが酷と言えるのではないだろうか。
当時の大蔵省が、「免除事業者」や「簡易課税」という負担軽減制度を造った事実こそが、消費税が転嫁される間接税ではなく、事業者が付加価値から負担する直接税だという何よりの証左であろう。
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「AERA」‘12.7.2 P.20〜22
税率アップの前にただすべき五つの問題点
消費税こんなに不公平
「平等でシンプルな我」といわれてきた消費税。だが実際には、不平等で複雑な、問題だらけの税制だ。税率アップの前にやるべきことは多い。
編集部 本田靖明
「お上が納めなくてもいいって決めたんだから。不公平だって言われましてもねぇ」
東京都内で名刺のデザインや印刷を手がける会社を営む50代の男性は、創業して20年になるが、一度も消費税を納付したことがない。消費税法上の「免税事業者」だからだ。
その要件は、@売上高が1千万円以下か、A資本金1千万円未満で設立2年以内であること。男性が該当するのは@で、2011年度決算でも、売上高は800万円余りだった。では、納めずに、手元に残った消費税はいくらになるのか。
それを求める方式は「仕入れ税額控除」といい、売上高にかかった消費税から、仕入れ等にかかった消費税を差し引いて算定する。男性の会社の場合、売上高にかかった消費税が約40万円。仕入れ費用は約360万円で、そこに対してかかった消費税は約18万円。差し引き、約22万円が国庫に行かず、男性の懐に入ったわけだ。
不公平@全額国庫に入らない益税
これが、いわゆる「益税」だ。この仕組みは事業者免税点制度といい、1989年の消費税導入時から「温存」されてきた。取引ごとに請求書や領収書を管理し、消費税を計算するのは膨大な事務作業の連続。人手が少ない中小の事業者には負担が大きく、特例措置が必要というのが財務省の説明だ。
消費税法では、消費者は税の負担者だが、納税義務を負うのはあくまで事業者。とはいえ、買い物をするたびに「税金だから仕方ない」と思って払ってきたお金が、業者の手元に残って自由に使われている、というのは釈然としない。なかには、免税点制度のAを「悪用」し、零細な子会社の設立と解散を2年ごとに繰り返し、課税逃れを図る業者もいるという。
だが、益税を生んでいる仕組みはこれだけではない。
「大きな声では言えませんが、『恩恵』 は毎年、相当なもの。消費税さまさま、です」
そう話すのは、ある保険代理店の経営者だ。恩恵をもたらしているのは、「簡易課税制度」という別の特例措置だ。売上高が5千万円以下の事業者を対象に、業種に応じて売り上げの50〜90%を機械的に仕入れ額と「みなす」というものだ。
この代理店の場合、11年度の売上高は釣3800万円。これに保険業の「みなし仕入れ率」として決められている60%を乗じ、仕入れ額を2280万円とはじく。売上高から仕入れ額を引き、5%を乗じた釣80万円が納税額、と簡単に算定できるわけだ。ただ、実際には仕入れ額は約1400万円だった。本来ならば納税額も約120万円になるはずだったのが、約40万円も浮いた計算だ。
みなし仕入れ率は「卸売業」で90%、「小売業」で80%、「サービス業等」で50%と異なるが、ほとんどの業種で実態との乖離が大きいという。同様に消費税を導入する欧州先進国では、例えばドイツが簡易課税の対象を年間売上高650万円以下の企業とするなど、日本より範囲をぐっと狭めている。財務省も今後、仕入れ率の引き下げなどを検討するというが、ある会計事務所の幹部は、
「中小の業界団体は、見直しに待ったをかけるよう政治家に強く要望していると聞く。どこまで踏み込めるかは未知数」とみる。
財務省では、免税点と簡易課税の両制度で発生する益税は年に3千億円ほどとみている。
不公平A輸出企業に軒並み戻し税
ただ、優遇されているのは中小業者ばかりではないようだ。輸出で稼ぐ大手企業もしかり、という摘摘もある。
「あまり知られてはいないが、消費税は輸出品の売り上げに対してはかからない。ゼロ税率です。そこで輸出業者には、仕入れ時に払った消費税が還付されているんです」
税制に詳しい静岡大学元教授の税理士、湖東京至さんは言う。
自動車メーカーを例にとって、その仕組みを説明したのが右下のチャート(※引用者注:チャート省略)だ。
下請け企業から部品を105万円(部品価格100万円+消費税5万円)で仕入れ、完成した車の本体価格を300万円にしたとする。だが、輸出先では、その価格に日本の消費税の15万円を上乗せして売ることはできない。その国の税制に従う必要があるからだ。
ただ、それだとメーカーは、仕入れ時にかかった消費税分(この例だと5万円)を損することになるため、税務署がその分を還付する(払い戻す)制度がある。還付金は、「輸出戻し税」とも呼ばれている。
湖東さんが各社の有価証券報告書をもとに推計した2010年度の「還付金上位10社」をみると、トヨタ自動車の2246億円を筆頭に、経団連を代表する輸出企業がずらり。10社の還付金稔額は、釣8700億円にものぼっている。
輸出戻し税の上位10社[2010年度]
1.トヨタ自動車 2246億円
2.ソニー 1116億円
3.日産自動車 987億円
4.東芝 753億円
5.キャノン 749億円
6.ホンダ 711億円
7.パナソニッック 633億円
8.マツダ 618億円
9.三菱自動車 539億円
10.新日鉄 346億円
※ 税理士の湖東京至さんが2010年度の有価証券報告書(キャノンは12月期決算のため2010年のもの)をもとに推計した。
制度の建て付け自体に異論はない。だが、「ちょっと待て」だ。
この制度は看過できない問題をはらんでいる。大企業が本当に下請け企業に消費税分を払っているのか、という点だ。
日本商工会議所のアンケートでは、97年に消費税率が3%から5%に上がった時、増税分を上乗せ(転嫁)できたかという問いに、売上高5千万円以下の中小企業の6剖が「転嫁できなかった」と答えた。
大手業者との力関係で、納入価格の維持を迫られ、消費税分を泣く泣くかぶっている中小業者の姿が浮かぶ。
「下請けには、大企業に還付されるだけの消費税が、実際は払われていないのでは。だとしたら、還付金は大企業向けの輸出補助金でしかない。財界が消費増税に前向きなのも、還付金の増加が見込めることが一因ではないか」(湖東さん)
これに対し、企業側は「コンプライアンスへの目線が厳しくなる中、下請けたたきなどするはずがない」(自動車メーカー広報)と反論する。
政府は増税に向け、中小業者が増税分を価格に転嫁しやすくなるよう「転嫁カルテル」を認める方向だ。企業が価格を話し合って決めるカルテルは独占禁止法で禁じられているが、増税分の値上げは業界団体などで話し合って公正取引委員会に届ければ、認めるという。ただ、「反発し、大手から取引を外されたら路頭に迷う。筋を通せる業者がどれだけいるのか」という見方は少なくない。
不公平H意外なものが非課税
消費税は、国何で商品を買ったりサービスを受けたりして代金を払う時、すべてにかかっていると思われがちだが、「例外」もある=21ページ左の表(引用者注:リストを書き写し)。
社会政策として大切な福祉や医療、教育、住宅などの分野が多いが、サラリーマンにとって身近な取引でも課税、非課税は入り組んでいる。
消費税がかからない主な取引
マンションなどの家賃
土地の売買
学校の授業料や入学金など学費、教科書代
健康保険が適用される医療費
生命保険などの保険料
介護保険によるサービス利用料
株や国債など有価証券の売買
助産費
預貯金や貸付金の利子
埋葬・火葬料
国や自治体に払う手数料
例えば交際費。顧客をバーで接待するとその代金は課税されるが、そのあとに渡した「お車代」や「祝い金」は非課税だ。
用途ではなく、対価性があるかどうかで判断されるためだ。
これらを区別せずにすべて交際費として計上したら、消費税の正確な額が分からず、余分に納税してしまう可能性もあるので注意が必要だ。このほか、慶弔費も「香典」は非課税だが、送った花代は課税。通信費は国内の電話とファクス代は課税だが、国際電話は非課税だ。
人生最大の買い物、「マイホーム」も複雑だ。一戸建ての場合、建物は課税されるが、土地は非課税。マンションも価格のうち土地部分にはかからず、建物部分に課我される。中古住宅は伸介による個人問の取引なら非課税。また、家賃が非課税なのは「居住用」として借りた場合だ。事務所など「事業用」として借りると課税される。
不公平C病院経営を圧迫 損税
負担する側には、非課税の方がありがたいが、そのしわ寄せに頭を抱えている現場もある。医療や介護の業界だ。「消費税負担が病院経営を圧迫し、医療の後退を招いている」
関西の私立病院の幹部は憤る。
原因は、健康保険が適用される医療費が、非課税であることだ。患者が病院に診療代を払う時に消費税はかからない。だが、病院で使うガーゼや注射器などの医療品、診断装置などの医療機器を病院が買う時には消費税がかかる。病院は医療品などの消費税は払う一方、患者から消費税はもらえないので、その分は自らかぶっているということになる=上の図(引用者注:図省略)。一般の会社なら、それを埋め合わせるために製品価格を上げることもできる。だが、患者が払う診療代は、政府が定めた「診療報酬」に基づいて計算するので、病院が勝手に値上げできないのだ。この構図は介護も同じだ。
介護サービスを手がける、ある医療法人の消費税負担は年に約1500万円。増税法案通りに税率が15年10月から10%に上がったら、この負担は倍になる。
「看護師の採用や施設の改築費用を捻出できるか今から心配だ」と、事務長は気をもむ。
全国の医療機関が負担している消費税は、年問で総額2千億円を超えている。なかでも、負担感が強いのは地域医療を担う民問稔合病院という。精密な検査に使う医蕪辞は高額で、その分、費担も重くなるからだ。かといって、大学病院のような体力があるわけではない。
「医療業界にとって、消費税はいわば『損税』。放置すれば、地域医療の衰退は加速する。輸出企業のように消費税を還付する仕組みを整えるべきだ」(医療ジャーナリスト)
不公平D雇用問題にまで波及
また、政府税制調査会の専門家委員も務める青山学院大学の三木義一・法学部教授は、「消費税は企業の人事政策にも影響を及ぼす可能性がある」 と指摘する。
具体的には、企業が直接雇用する正社員の採用が抑えられ、間接的に雇う派遣社員の導入が拡大する、というのだ。
繰り返しになるが、納税額は売上高から仕入れ費用を引き、そこに税率を乗じて算定する。
計算上、納税額を減らすには、仕入れの値を大きくすればいい。その点、社員の「給与」は該当しないが、派遣会社に支払う派遣料は仕入れに計上できる。
もちろん、基幹人材の育成などの点から、派遣社員の導入が性急に進むことはないだろうが、「労働力の外注化を意識する経営者はじわりと増えていくのではないか」(三木さん)
実際、建設現場では、聾税が5%に上がった97年以降、個人事業主の「一人親方」が増えた。不況による収益悪化で社会保険料負担が苦しくなっていたところへ、消費税がのしかかり、建設会社が従業員を一人親方として独立させ、請負契約を結んで仕事を外注するようになったのだという。一人親方の労災保険を運営する東京土建一般労働組合の井澤智・常任中央執行委員は、「無年金、無健保という一人親方も多い。消費税は社会保障の充実のため、というが、明らかに逆行しています」
これもまた、消費税が生みだした偽らざる現実だ。
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