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7月10日(ブルームバーグ):野田佳彦首相が政権の最優先課題に掲げる消費税増税は民主、自民、公明の主要3政党の合意で衆院を通過し、9月8日までの今国会中で成立する公算が高まっている。民主党は小沢一郎元代表らの集団離党で分裂したが、そうした代償を払ってもなお増税に執念を燃やす首相の背後に、財務省の影響を指摘する有識者や政治家もいる。
「これから参議院で審議をしてもらうことになるが、これまで以上に政府、与党が一体となって一日も早く成立させること、そのことをもって責任を果たしていきたい」−。野田首相は9日の衆院予算委員会で消費増税を柱とする社会保障・税一体改革関連法案の早期成立にあらためて決意を示した。
増税法案に反対した小沢氏らは「増税の前にやるべきことがある」と指摘。民主党を離れ、11日に反増税を掲げた新党を結成する。小沢氏は2日に発表した民主党離党声明で民主、自民、公明の3党を「官僚の言うがまま」に増税先行を押し通そうとしていると批判した。
財務省出身の高橋洋一嘉悦大学教授は増税の必要性を説く首相の言動について、「財務省は『増税を避ける政治家は逃げている政治家で、誠実ではない』と政治家によく言うが、野田首相はそれをまともに受けているのではないか」と分析。みんなの党の江田憲司幹事長も3月に出版した「財務省のマインドコントロール」(幻冬舎)で、野田政権は「財務省支配政権」と断言する。
これに対し、野田首相は6月11日、衆院の一体改革に関する特別委員会での江田氏との質疑で「何で私がそんなコントロールにかからなければいけないのか。それは全く根拠のない話だというふうに思っている」と反論する。
政治主導
09年夏の衆院選の結果、政治主導を掲げて自民党から政権を奪取した民主党。最初の鳩山由紀夫政権は増税論議を封印したが、その鳩山氏の辞任で財務相から首相に就任した菅直人前首相は消費増税の必要性を主張した。11年1月の内閣改造で自民党時代に消費増税の具体的な提言をまとめた与謝野馨元財務相を一体改革担当相に起用して議論を開始。野田政権がこれを法案として結実させた。
なぜ民主党は増税路線に転換したのか。高橋氏は菅前首相、野田首相が財務相を経験したことが政策の変質につながったと指摘する。「財務相になるとかなりの人は籠絡(ろうらく)される。自分の信念がないと秘書官が朝から晩までずっと隣にいて、財務省の考え方に洗脳され、マインドコントロールされるようになる」という見立てだ。
菅前首相のグループに所属する津村啓介元内閣府政務官は民主党内の消費増税論議は「財務省の官僚にどうこうというよりは、菅前首相が財務相時代に国際政治の場で欧州危機が非常に深刻に議論されていることに強い印象を受けたこと」がきっかけと説明する。
津村氏は、菅前首相が10年の参院選で消費増税に言及したことについても「財務省からすればちょっとやりすぎだと思うので、逆に言えば菅前首相の独自の判断だった」と強調する。
これに対し、民主党の結党時からのメンバーである小沢鋭仁元環境相は、菅、野田両氏が「財務省に行くまでは『消費税アップをしなければいけない』といった話は一回も聞いたことがない」と指摘する。
小沢元環境相は財務官僚について「本当にまじめで頭もいいけれど一言で言うと視野が狭い。自分の仕事の範囲内でしかものを考えられない」と述べ、「財政再建至上主義」に陥っているとの認識も示した。消費増税は「全体の経済政策の中の一つとして考えていかないといけない」と問題提起している。
谷垣氏
増税法案の採決に棄権した民主党の宮崎岳志衆院議員は「3党協議は大蔵省の同窓会」と揶揄(やゆ)するが、3党合意には民主党の藤井裕久元財務相、自民党の宮沢洋一参院議員、加藤勝信衆院議員、衆院特別委理事の伊吹文明元財務相ら大蔵官僚から政界に転じた議員が重要な役割を担った。
さらに、自民党の谷垣禎一総裁が小泉政権下で03年から06年にかけて約3年間も財務相を務め、消費増税の必要性を当時から唱えていた「財政再建派」だったことも増税論議の前進につながっている。谷垣氏は「ポスト小泉」を争う06年の自民党総裁選に立候補。消費税率の10%への引き上げを掲げていた。
谷垣氏は9日の衆院予算委員会で、自民党が3党合意に加わった理由として日本の厳しい財政状況や社会保障制度を安定させることに加え、「国際的な金融情勢、財政状況の中で日本の政治も財政規律に対してはきちんとやっていくんだというメッセージも出す必要がある。これは野田首相とも共通の認識だと思う」と説明した。
日本に消費税が導入されたのは竹下登政権下の1989年4月。当初は3%でスタートしたが、橋本龍太郎政権の97年4月に5%へ引き上げられた。増税法案が成立して計画通りに実行されれば、2014年4月に8%、15年10月に10%へと段階的に引き上げられることになる。
記事についてのエディターへの問い合わせ先:大久保義人 yokubo1@bloomberg.net;Peter Hirschberg phirschberg@bloomberg.net
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