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週刊ポスト2012/07/20-27号 :来栖宥子★午後のアダージォ
「小沢を殺った!」とハシャぐ背広を着たもののけたち
国民の付託をコケにした狐狸妖怪議員「妄言」「暴言」「開き直り」全記録
週刊ポスト2012/07/20-27号(2012年7月9日Mon. 発売)
永田町も霞が関も大メディアも、「やっと小沢一郎を政権から追い出せた」と万歳三唱している。
目論見通りに民主党を分裂に追い込んだ自民党は、「民主党はまさに学級崩壊」(茂木敏充・政調会長)と大はしゃぎ。民主党で一番喜んでいるのは元祖・言うだけ番長の前原誠司・政調会長だろう。小沢新党の動きを
「反増税、反原発だけで選挙に勝てるというのであれば国民をバカにしている」
と批判したが、八ッ場ダム建設中止をはじめ、言葉だけで大臣にまでなって実行しなかったのは誰か。党分裂で野田政権は瀕死の状態に追い込まれた。「もうすぐ代表の座が転がり込んでくる」と思い込んで、浮かれまくっている。
新聞・テレビも、小沢新党の参加者が2人減った、また1人減ったと連日大きく取り上げ、〈小沢新党、内閣不信任案は提出できず〉(7月2日付朝日)とまるで鬼の首を取ったように報じる。小沢氏とともに離党したのは衆院37人、参院12人の49人。後に衆院1人が加わったが、不信任案提出には衆院51人以上が必要だから足りないという論理だ。こちらは足し算ができないらしい。亀井静香・代議士が算数を教えてくれた。
「増税法案に反対票を投じた新党きづな(9人)や新党大地・真民主(3人)、田中康夫氏ら志を共有する無所属議員7人を合わせると55人になる。内閣不信任案提出に必要な数を軽く上回る。官邸は衆院で40人近い小沢新党が怖くて仕方がない。これが本音だ」
政治ジャーナリスト・野上忠興氏は、むしろ造反組の半数が民主党内に残ったことで政権運営が一層困難になったと指摘する。
「官邸や党執行部は造反組を切り崩して離党者を最小限にとどめたことで大勝利のつもりだ。新聞もそう報じるが、それは戦略上の失敗です。野田首相が党内を増税路線で固めて自公との大連立に進むなら、造反組全員に離党を勧告すべきでした。政策的にもわかりやすいし、民主党が過半数を割っても自公を合わせれば圧倒的な与党になれる。だが、30数人の造反組を無理に党内に抱え込んだことで、再分裂の火種が残った」
「小沢の乱」第2幕は民主党に残る反乱軍を巻き込む内閣不信任案の攻防だ。
野田首相はこれまで解散権をチラつかせて民主党内の増税反対派を恫喝してきた。総選挙になれば、マニフェストを破り、大増税を掲げた裏切り者の民主党議員たちは枕を並べて討ち死にする。反対派は選挙が怖くて増税に渋々従うはずだとタカをくくっていたのだ。
ところが、増税法案に民主党から73人(反対57人、危険6人)もの造反者が出たことで攻守は逆転した。次のヤマ場は参院での消費税増税法案採決の前に予想される、小沢新党による内閣不信任案提出だ。
不信任案の成立には、自公を含めたオール野党と民主党からのさらなる造反が必要だが、成立の可能性は日に日に高まっている。
カギを握る自民党内では不信任案への同調論が主流だ。菅義偉・元総務相は本誌前号で「増税法案を捨てても小沢氏の不信任案に乗るべきだ」と言い切ったが、参院自民党からも、「谷垣禎一総裁は不信任案に適宜適切に判断するといっている。(同調は)十分あり得る」(山元一太・前政審会長)という声があがる。
谷垣氏に近い自民党3役経験者もこういう。
「増税派の長老議員たちは9月の総裁選で谷垣さんをおろして民主との大連立を進めたい。だから谷垣さんにとって小沢新党の内閣不信任案が野田首相を解散・総選挙に追い込んで総理になるラストチャンス。乗る以外の選択肢はない」
そうなうと、前出の野上氏が指摘したように、野田首相にとって離党を思いとどまった造反組が不気味な存在になる。6カ月の党員資格停止という事実上の離党宣告を突き付けられた鳩山由紀夫元首相、2か月停止の福田依理子氏ら約30人がグループを結成。野田不信任に慎重な議員もいるが、多くは、「参院での法案採決を見極めたい」(山田正彦元農水省)という離党予備軍だ。18人が賛成すれば民主党は過半数を割る。
さらに別の造反部隊もひかえている。
増税法案賛成に回った中間派の有力議員が語る。
「採決でやむをえず賛成したのは9月の代表選で野田総理に退陣してもらい、自民党との大連立の動きを阻止することを優先したからだ。しかし、小沢グループの離党で敵が減ったと見て総理が続投するつもりになったのは誤算だった。政権交代の功労者の鳩山さんを見せしめにして重い処分にするのも常軌を逸している不信任案。不信任案に賛成してでも総理を退陣させなければならないと考える議員が私を含めて少なくとも10人はいる」
そうなれば、仮に自民党の一部や不信任案公明党が不信任案を棄権しても野田内閣は倒れる。
■次の総理は選挙の顔の細野
攻防の舞台となる参院の消費税増税法案の審議は大幅に遅れている。小沢新党が結成されるまで委員長交代や特別委員会の設置などができないため、審議入りは7月中旬以降、採決は早くても8月中旬以降になる。
しかも、与野党逆転の参院では衆院以上に波乱が起きる。自民党の参院執行部は、「総理が3党合意で最低保障年金などマニフェストを撤回したと表明しなければ採決に応じない」と突きつけており、もし野田首相が正式にマニフェスト撤回を宣言すれば、再び党内に造反の嵐が起きて今度こそ民主党はもたない。ライバルを潰したいだけで増税に賛成した自公を味方と思った野田執行部のオメデタさは政治史に残ることだろう。
そして参院でも小沢氏は強いカードを持っている。離党を決断した後、なぜ輿石東民主党幹事長と3回も会談したのか。そこで参院で増税を潰すための「埋伏の毒」が仕掛けられた。
「参院民主党には小沢系が20人以上いるが、19人が離党したら第一党の座を失い、参院議長のと議運委員長を自民党に渡さなければならず、国会運営の主導権を握られる。輿石さんはそれを避けたかったし、小沢さんも自民党に議長を渡すのは本意ではない。そこで離党者を12人にとどめて民主党に在籍部隊を残し、いつでも離党させるというカードを握った。顔を立ててもらった輿石さんは、増税法案の採決を会期末ギリギリまで引っぱって成立させずに継続審議の道を探らなければならなくなった」(民主党に残った親小沢派参院議員)
輿石氏が参院離党者に処分なしという甘い対応を取ったのも、そうした取引があったとすれば辻褄が合う。
延長国会の会期末は9月8日。通常国会は再延長できない。参院での審議が大荒れで継続審議になれば、増税は事実上つぶれる。
まだまだ増税は「決まったこと」ではないのである。
確かに、自公が不信任案に同調しない方針に転じれば増税法案は成立する可能性が高まる。が、その瞬間、野田政権は終わる。
前原グループの若手議員さえこんな話をするのだ。
「野田総理には法案が成立すればそれを花道に退陣して戴く。次の総理は選挙の顔。前原さんでは勝てないから細野豪志原発相を担いで解散・総選挙に臨む戦略を立てて若手の賛同者を募っている。
誰を「顔」にしても結果に大差はないだろう。なにせこれだけ国民に背を向け、バカにし、搾取を続けたのだ。別掲(略=来栖)の発言録をじっくり読んでいただければ、誰が国民の敵か、何が正論かはすぐにわかる。人の皮を被った妖怪たちには、首筋の寒い夏が待っている。
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