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消費税増税派だけが残る民主党に存在意義はあるのか。選挙で政権交代を果たしても、デモで訴えても、国民の声が政権に届かない歯がゆさを感じる。
消費税増税を含む社会保障と税の「一体」改革関連法案に反対した民主党の小沢一郎元代表が離党届を提出した。離党者は小沢氏を含めて衆院三十八人、参院十二人の計五十人に上り、近く新党を結成する方針だという。
政党を壊しては同調者だけで新党をつくる。小沢氏の「壊し屋」としての悪癖が出たとの見方が喧伝(けんでん)されるが、そうした切り口だけでは事の本質が見えてこない。
◆存在意義失う民主
小沢氏らの離党が意味するのは何か。端的に言えば、民主党崩壊の始まりであり、政権与党としての存在意義の喪失だ。
三年前、二〇〇九年夏の衆院選を思い出してみよう。当時、有権者を支配していたのは政権交代への渇望だった。
消えた年金、無駄な公共事業、対米追従、官僚依存。選挙を経ずに一年ごとに首相の職をたらい回しする自民党政治に対する不満は頂点に達していた。
それを変える処方箋が民主党マニフェストであり、実現する手段が民主党への政権交代だった。
選挙で信を得たマニフェストは国民との契約である。書いてあることは命懸けで実行し、書いていないことはやらないのが作法だ。
しかし、大部分の民主党議員はもはやそう思っていないようである。税金の無駄遣いをなくすことや社会保障の抜本改革は官僚らの抵抗に負けて早々に諦め、選挙で敵対した自民、公明両党と組んで消費税増税に血道を上げる。
手段のはずの政権交代が目的となり、官僚主導政治に同化した民主党議員には、自民党との違いを主張する資格も能力もない。
◆馬耳東風の再稼働
福井県おおい町では関西電力大飯原発3号機が再稼働し、臨界に達した。昨年三月の東京電力福島第一原発での事故後、長期停止していた原発の再稼働を「政治的に」決めたのは野田佳彦首相である。
安全性の徹底的な検証・確認を原発再稼働の条件にしながら、抜本的な安全対策を講じることなく再稼働を政治決断することに躊躇(ためら)いはないのだろうか。
原発依存からの脱却を政治決断できるとしたら、これまで政権党として原発を推進してきた自民党ではなく、民主党政権のはずだったが、その期待は裏切られた。
三月末から毎週末、首相官邸前で行われていた「再稼働反対」を訴えるデモは、再稼働目前の先月二十九日夜には主催者発表で二十万人(警視庁調べでは二万人弱)に膨れ上がった。
そのシュプレヒコールは、首相の耳にも「よく聞こえている」はずだが、再稼働の決断を覆すことはなかった。まさに馬耳東風だ。
暗澹(あんたん)たる気分になるのは、首相の決断もさることながら、消費税増税同様、首相の再稼働決定に反旗を翻す民主党議員が、小沢氏ら以外にほとんど見当たらないことである。
民主党議員は政策実現を忘れ、政権に安住してしまっているのではないか。自省を求めたい。
政権選択選挙でも、万単位のデモでも政治は変えられないのだろうか。そうした無力感に襲われても仕方がない状況ではある。
百年以上にわたり日本の政治・行政を牛耳り、政策の失敗にも無反省な官僚機構や政財官の利益共同体、既得権益層の岩盤はあまりにも厚い。
しかし、持続可能な社会保障の構築、税金の無駄遣い根絶、緊密で対等な日米関係、政治主導の政策決定など、民主党が衆院選マニフェストで打ち出した課題設定は間違っていなかったはずだ。
民主党と議員は政権に不慣れな故に、政策を実現する政治的力量、国民との契約をやり遂げる誠実さと熱意を欠いていた。国民が望む政策を実現するために力量のある政党と議員を選び直したい。
首相は消費税増税や原発再稼働など国民の望まない政策を強行するために政権にしがみつくのではなく、違憲・違法状態にある衆院「一票の格差」を速やかに是正した上で、可能な限り早く衆院を解散すべきである。
◆厚い岩盤穿つ忍耐
民主、自民、公明三党が消費税増税という税制の根幹で一致している以上、政権の選択肢は限られるだろう。「小沢新党」への期待もそれほど高くはなく、衆院選後もしばらくは政治の混迷が続くかもしれない。
とはいえ、ただ嘆き、忍従するだけでは政治は動かない。官僚機構や既得権益層の厚い岩盤を穿(うが)つのは、投票し、政党や議員を監視し、声を上げる、われわれ有権者の忍耐強い行動だと信じたい。
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