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相変わらず大手メディアは消費増税に賛成し、デフレを促進させようとしているが、これは今日に限った話ではない。昭和恐慌時のメディアもまた、時の大蔵大臣・井上準之助たちの進めるデフレ政策に全面的に賛同していたのである。
また、日本の現状を悲観し、「日本は堕ちるところまで堕ちよ」といった意見も散見されるが、これも昭和恐慌時によく見られたものである。
しかし、こうした見解は決して日本を復活させることには繋がらない。我々のなすべきは、日本をこれ以上堕落させないよう努力することである。
タイトルは某知事の著作に対する当てこすりか?
『月刊日本』編集部ブログ「反・堕落論」より
http://ameblo.jp/gekkannippon/
最近、日本の陥っている閉塞状況について、「日本は堕ちるところまで堕ちた方がよい」といった意見を聞くことが増えているように思います。国会中継などを見ていれば、そのような意見を抱きたくなるのも致し方ありません。
同時に、こうした意見の背後には、「堕ちるところまで堕ちれば日本は復活できる」といった希望が込められているようです。坂口安吾も『堕落論』において「堕ちれ!」と叫んだわけですが、そこには復活への想いが込められていました。
こうした意見は昭和恐慌の時代にも見られたものです。弊誌7月号では高橋是清と井上準之助の論争について紹介しましたが、ここでは野口旭氏の論考「清算主義=無作為主義の論理と現実」に基づき、いかに当時の論争が現在と類似しているかを見てみます。
井上準之助のデフレ政策を擁護した代表的な人物に、慶応義塾大学教授の堀江帰一がいます。堀江は「不景気を最極点まで徹底せしめよ」(『中央公論』1925年3月号)を発表し、「我国の経済社会に不景気を徹底し、不景気をして其最極点に上らしめる」と訴えました。
野口氏も指摘しているように、そこにはマルクス経済学との類似性が見られます。ある物事を極端にまで突き進めれば、事態は反転する。ここに、資本主義を突き詰めれば共産主義が到来するという革命思想の影を見ることは難しくないでしょう。
マルクスはヘーゲル弁証法からアイディアを得て『資本論』を書いたわけですが、ここにはユダヤ教の終末論の影響も見られます。ヘーゲル弁証法とユダヤ教のアマルガム、といったところでしょうか。
今日見られる「日本は堕ちるところまで堕ちた方がよい」といった意見は、まさに当時の状況を反復するものです。世の中が煮詰まってくると終末論が流行るというのは、古今東西を問いません。
井上準之助たちが進めるこうしたデフレ政策に対して、果敢に批判を繰り返した人物がいました。石橋湛山です。石橋は次のように述べています。
…いまはなんといっても行くところまで行くしかないんじゃないかという論者があり、それだから政府の財政も収縮できないだろうというのだが、それはつまり成り行きにまかせて勝手次第なことを各個人に言わせて国家なり、会社なりを破産に陥れて、そこではじめてチェックするということです。しかしこれは非常に損害の大きい方法だ。会社が亡びるか国が亡びるかというところまで持って行ってチェックする、そんな智恵のないはなしはない。(『自由思想』「通貨の不安をどう見る?」より)
これは、戦後、大蔵大臣に就任していた頃の石橋の見解ですが、戦前のデフレ下においても当てはまるものです。要するに、行くところまで行くべきだ、という意見がいかにいい加減で無責任かを論じているわけです。
石橋湛山は昭和20年8月25日に、『東洋経済新報』に「更正日本の進路――前途は実に洋々たり」という社論を発表しました。これは終末論者たちのように、日本は敗戦により堕ちるところまで堕ちたから復活できるはずだ、といったことを主張しているわけではありません。
そこには、満洲など大して儲かってもおらず負担にしかなっていなかった植民地経営から解放され、さらには遊休資本、人口過剰という条件がそろっている日本が経済復興できないはずがない、というしっかりとした裏付けがありました。まさに経済学者・石橋湛山の面目躍如といったところです。
デフレ論者や終末論者たちが言うように堕ちきるところまで堕ちていれば、日本が今日のような大国になることはなかったでしょう。日本が急速なスピードで復興を成し遂げることができたのは、敗戦の衝撃を最小限で食い止めた、堕落を食い止めることができたからです。
現在の日本に必要なことは、堕ち切るところまで堕ち切れば復活できる、といった妄想にすがりつくことではなく、いかにこれ以上堕ちないようにするか、いかに堕落を食い止めるかを考えることです。それを学ぶためにも、今こそ石橋湛山の思想が求められています。
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