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除名処分を迫る自民党の愚かさ
http://www.the-journal.jp/contents/kokkai/2012/06/post_305.html#more
2012年6月28日 田中良紹の「国会探検」
消費税法案の衆議院通過を巡り、民主党内から70人を越える造反者が出た事について、自民党は造反者を除名処分にしなければ参議院での審議に応じないと主張している。貧すれば貪する。自民党もここまで落ちぶれたかとため息が出る。審議に応じなければ自民党は民主党のペースにはまっていくだけで民主党を利する事になる。
およそ民主主義国家の政党があらゆる政策で一致することなどありえない。政治家の仕事は選挙民の負託に答える事で、選挙民の声と政党の方針が異なった時には選挙民の側に立つのが民主主義の基本である。国民を優先するのが民主主義だから、それを勘案せずに政党が所属議員を除名追放などすれば政党は先細りして消滅する。
レーガン政権時代のアメリカには「レーガン・デモクラット」と呼ばれる民主党議員がいた。彼らは民主党議員ではあるが共和党のレーガン大統領の政策を一貫して支持した。それは自分の選挙区の有権者にレーガン支持者が多かったからである。それこそが国民主権の政治で民主党は「レーガン・デモクラット」を党から追放などしていない。
日本は議院内閣制の国だから、総理大臣は国会議員によって国会で選ばれる。従って国民の選挙によって過半数を制した政党の党首が内閣総理大臣に選出される。その選挙で政党の中から造反者が出ればそれは国民の声を無視した事になりこれは除名される。内閣不信任案に与党議員が賛成した場合も同じである。しかし政策や法案となれば話は違う。
今回の消費税法案については、選挙で国民に「やらない」と約束した政策を国民に断りもせずにやろうとしているのだから、それに対する造反者を処分するのは民主主義の筋道に反する。その事を自民党はつい先日まで主張していた。「マニフェスト違反だから解散しろ」と言うのは全く正しい主張である。そこまでは自民党も国民の側を向いていた。
ところが3党合意をした現在、「3党合意を無視して造反したのは政党間の信義に反する許せない行為だ」と自民党は言う。3党合意は国民が求めたものではない。政党の勝手な合意である。国民を無視して政党の勝手な都合を優先し、それによって国民との約束を守ろうとした議員を処分しろと言うのは恐ろしく反民主主義的な言い草である。
その自民党に迎合し、「民主党は政党の体をなしていない」などと批判するメディアも民主主義を知らない。小泉政権時代の郵政選挙を思い出せば、そんな事が言えるはずもない。「バカを言うのもいい加減にしろ」と言いたくなる。
小泉総理は「郵政民営化」を政権の最重要課題と位置づけ、それに「政治生命」を賭けた。野田総理における「消費税法案」と同様である。しかし自民党内からは轟々たる反対論が出た。衆議院の採決では自民党から反対37票、棄権14票の造反者が出たが5票の僅差で可決され、参議院では自民党から反対22票、棄権8票が出て17票差で否決された。
総理大臣が「政治生命」を賭けた法案を自民党は造反によって否決したのだから、今回の消費税に対する造反よりも造反の程度は重い。これに対して小泉総理は「国民に聞いてみたい」と言って衆議院を解散し、造反議員を公認しなかった。しかし除名などの処分を行なったわけではない。
選挙の結果、自民党は296議席を獲得する大勝を収め、国民は郵政民営化を支持した。その結果を受けて開かれた特別国会では造反議員の多くが賛成に回り、郵政民営化法案は成立する事になった。造反議員に処分が下されたのはその後で、衆議院の採決で造反が出てから3ヵ月後の事である。
選挙の前に新党を作って自民党を飛び出していた9人と、首班指名選挙で小泉純一郎氏に投票しなかった1人が除名され、27人が離党勧告、党員資格停止1年が3人、党役職停止1年が16人、そして戒告が23人であった。つまり除名は自民党を離れて別の党に所属していた議員に下された。
そして自民党はそれから1年も経たないうちに離党を勧告した議員を復党させる事にした。首班指名選挙で自民党の安倍晋三氏に投票した事などを理由に誓約書を書かせるなどの条件を課して11人を復党させた。処分は厳しすぎたという事になる。この二転三転振りを見てメディアは自民党を「政党の体をなしていない」と批判したであろうか。
さらにそれから6年が経ち、今年の4月に小泉政権の郵政民営化法案を見直す郵政民営化法改正法案が民主党政権の手で上程され自民党の賛成も得て可決された。小泉政権の最重要政策を自民党自身が葬り去ったのである。この時、自民党から造反者が4人出た。小泉政権時代に幹事長であった中川秀直氏、総務大臣であった菅義偉氏、小泉元総理の息子の小泉進次郎氏が反対票を投じ、平将明氏が棄権した。
郵政選挙で国民に民営化を訴えていた自民党議員が一転して改正案に賛成した事に「恥を知れ」と言いたくなったが、この時に造反組に対して自民党執行部が下した処分は「口頭での厳重注意」という軽いものであった。その自民党が国民との約束を守ろうとした議員を「除名しろ」と言うのは如何なる論理からなのか。
しかも小泉進次郎氏は党の青年局長という役職にあり、党議拘束に違反するなら役職を辞してから造反するのが普通である。それをお咎めなしにした事にも「恥を知れ」と言いたくなる。野田総理は処分問題について「他党からとやかく言われる問題ではない」と言ったがそれはその通りで、それを審議と絡めてとやかく言う自民党は愚かというしかない。
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