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消費税増税法案の衆議院可決を受けて、日経新聞が本日付けの朝刊で吉川洋東大教授のコメントを掲載しているが、その内容は学者としてあるまじきものと考える。
消費税増税に対する是非の判断は、個々人の価値観や利害関係で選択する問題だから自由だが、政治的な狙いが背景にあるにしろ、人々をたぶらかすような大学教授のコメントを見逃すことはできない。
(橋下大阪市長のように税金で養われているくせにとは言わないが(笑))
さらに放置できない理由は、吉川氏が、自民党政権時代に社会保障国民会議の座長を務めた経歴があることから、昨日衆院で可決された法案のなかにある「社会保障制度改革国民会議」のメンバーに選出される可能性が高いと予想できることである。
吉川洋東大教授のコメントに妥当性があるかどうかみていく。
● ドイツとの比較という目眩まし
吉川氏は、「増税による景気への影響が懸念されているが、消費税を上げても景気を冷やす作用はそれほど大きくない。(2007年1月に)ドイツのメルケル首相が付加価値税の税率を(16%から19%に)引き上げた際もドイツ経済への影響はほとんどなかった」と書いている。
まず、日本の消費税が経済に及ぼす影響を云々するのであれば、デフレ基調という日本経済の“特殊個別問題”を捨象することはできない。
「通貨ユーロ時代」に入ってから他のユーロ加盟国平均を上回るインフレ率で推移しているドイツと15年にわたってデフレ基調(総需要の縮小ないし低迷)が続いている日本を比較すること自体が“無謀”なのである。
ドイツ経済は、ユーロ導入後、「マルク高」から解放されるとともに、産業的にも金融的にも市場の拡大という大きなメリットを享受した。
輸出の増加、設備投資の拡大が他のユーロ諸国を上回るインフレの要因だが、それは、同じ通貨を使うユーロ諸国との競争で不利な要素になる。
個別の通貨を使っていれば、インフレ率の差は外国為替レートで調整されるが、同じ通貨ユーロを使っていれば、製品価格の上昇は即国際競争力の低下になるからである。
相対的に高いインフレ率でも国際競争力を維持できるよう、ドイツの勤労者の実質賃金水準は押さえつけられた。
10年からの始まった“ユーロ危機”は、02年のユーロ導入で生じた“ユーロバブル”の崩壊現象とも言えるものである。
消費税の転嫁が達成できる条件は、権力の行使もムダで、ただ一つ総需要の増加である。
総需要の増大がないまま販売価格を上げれば、販売数量が減少する。販売数量を確保しようと思ったら販売価格への転嫁を抑制するしかない。
そして、総需要の増加は、預貯金など金融資産の取り崩しや海外からの旅行者増加を除けば、給与所得と社会保障給付金の増加に依る。
(総供給量の減少である輸出の増加は、総需要の増加と同じ効果を有する)
消費税税収は物価指数やGDPの統計でプラス要素だが、それが財政支出の増大で打ち消されないかぎり、経済社会にとっての実質的GDPは、縮小したことになる。経済社会が生み出したGDPを、政治国家が税としてただ吸い上げてしまったことを意味するからである。
ドイツの実質経済成長率は、06年の3.9%から07年3.4%・08年0.8%・09年−5.1%・10年3.6%・11年3.1%という推移である。
08年以降はリーマン・ショックという金融分野の影響が強いデータになっているので、その影響を排除すると、「ほとんどなかった」と言えなくもないが、11年の勤労者の実質賃金水準が01年に較べ、4%も下落しているドイツの内実を無視することはできない。
GDPの成長に賃金の増加が追いつかいないどころか減少しているということは、経済成長の果実を勤労者以外の層が勤労者層を侵食するかたちになっているという意味である。
日本もそのような歪んだ経済成長を見せる国家の典型なのだが、先進国のなかで産業の国際競争力の高さを誇っている日本とドイツは、勤労者に負担をしわ寄せすることで競争力を維持しているとも言える。
少し古いデータだが、1997年から2007年にかけての、経済成長率と勤労者所得(雇用者報酬)増加率の関係を主要国で較べてみる。
GDP 雇用者
日本:00.4%:−5.2%
米国:69.0%:68.4%
独国:26.8%:16.6%
仏国:49.6%:49.5%
英国:68.5%:73.4%
GDP成長率と雇用者報酬増加率の伸びがパラレルになっている米国やフランスそして雇用者所得のほうが上回っている英国は、特定の産業を除くと産業の国際競争力が低下し、金融分野が大きな比重を占めるようになっている。
日本やドイツで現在進行形の“勤労者所得に対する侵食”が、既に行われてしまった国々と言える。これ以上の“侵食”や所得の低迷は、厳しい政治問題につながりかねない。
違った言い方をすれば、日本やドイツは、現在進行形で、古くは英国そして70年代以降は米国が見せてきた“勤労者所得に対する侵食”が進んでおり、このまま放置すれば、米国や英国そしてフランスのような階層構造になる可能税が高いということだ。
「世界一の社会主義国家」と言えるドイツでこのような事態が進行しているのは、日本の政治状況と同じように、勤労者に目を向けたリベラル派(中立左派)と目される社民党政権が、ハルツ法改革で労働市場の規制緩和を大きく推進したからである。ドイツの勤労者は、日本の勤労者が民主党に裏切られたように、社民党に裏切られたのである。
下らん話だが、政治の鉄則は、「何かを成し遂げたいのなら、イメージされている信念や政策からはやりそうにない政治勢力にそれを行わせる」というものである。
ごりごりの反共主義者で自由主義者と思われていたニクソンだったからこそ、ニクソン・ショックで「物価と賃金の統制」を政策としたり、共産主義国家中国との国交回復の道を歩み始めることができたと思っている。
同じ政策をリベラルで容共的な大統領がやろうとしていたら、非難の嵐が巻き起こっていただろう。
● 97年消費税増税と景気
吉川氏は、「日本では1997年に消費税を(3%から5%に)引き上げた後景気が悪化したが、主因は金融危機だと分析している」と述べている。
この問題についてはこれまでの消費税関連投稿で何度か触れているが、「主因は金融危機」という割り切りは、学者として恥ずかしすぎる。
「主因は金融危機」であるのなら、金融問題がクリアされた後は、経済成長に向かうハズである。03年までには、バブルにからむ金融問題さえ解消されている。
さらに、02年から08年夏までは、戦後最長の好況期を経た。それでも、日本のGDPは成長軌道に乗らなかったのである。
学者としての怠慢は、何より、「主因は金融危機」と言っていながら、自然現象ではない「金融危機」の原因を説明していないことだ。
アジア通貨危機と重なるかたちで97年秋の日本の金融危機が勃発したため、国外問題と結びつける人もいるが、アジア通貨危機で日本の金融機関が受けた影響は小さい。
アジア通貨危機の影響は主として、98年以降のアジア諸国景気低迷がもたらす外需の低迷として現れている。
主因が「金融危機」というのなら、消費税増税が企業に与える債務の加重化問題を避けて通ることはできない。
稼いだ付加価値から支払う利子や元本は、消費税が増税されると大きな影響を受けることになる。
それまで、10億円の付加価値を稼げば、消費税・人件費その他の経費を賄い債務の履行も続けられたという企業も、消費税が2%上がることで、それまでより2千万円多く付加価値を稼がなければならなくなる。10億円の2%である2千万円が、納付しなければならない消費税額として上乗せされるからである。
07年の秋に勃発し08年まで続いた金融危機の原因は、増税で負担が増加した消費税の納付でキャッシュフローが行き詰まり、債務を抱える企業の一定割合が債務不履行に陥ったことである。
金融危機が“追い貸し”を不能にする一方で“貸し剥がし”も横行する事態を招き、それらが引き起こす内需低迷と外需低迷がさらに債務不履行を増加させたわけだが、金融危機の発端は、ただでさえ厳しかった債務不履行を不能にまで陥れることになる消費税の増税なのである。
● 吉川氏の妄言
吉川氏は、「増税に反対する人のなかには、低所得層ほど税負担感が重くなる逆進性を指摘する向きもある。むしろ増税を避けて、結果的に財政破綻につながってしまった場合に厳しい逆進性が生じるというべきだろう。98年の金融危機のように中小企業の倒産が相次ぐことになるかもしれない」と書いている。
「98年の金融危機のように中小企業の倒産が相次ぐことになるかもしれない」とのことだが、98年の倒産増加は“財政危機”で引き起こされたわけではない。
因果関係が異なることを持ち出して、自説を補強するような愚はみっともない。
その前の文章で、「財政破綻につながってしまった場合に厳しい逆進性が生じるというべきだろう」と述べているが、何をもって逆進性と言っているのか定かではない。
文脈から言えば、「中小企業の倒産が相次ぐこと」になるが、それは、“消費税増税”を契機に引き起こされたものである。
しないが仮にするとして、財政が破綻しても、国家は国民を見殺しにするわけにはいかな。そのため、ある程度のハイパーインフレになることを承知で財政出動する。そして、インフレの亢進を抑えるため、高中所得者から低所得者に所得を分配する税収を追及することになる。
もっとも過酷な状況に置かれるのは社会保障受給者を含む低所得者だが、負担という意味では、担税納税力がある高中所得者の割合が増加するのである。
そうしなければ、それこそ、国家社会構造がひっくり返ってしまうからである。
● 最後に
吉川氏は「社会保障の給付をどう効率化するのか具体的な議論は進んでいない。そもそも年金のような問題をたった数カ月で決めるのは不可能だ。拙速に決めるよりは、大事な問題なのだから今後1年程度かけてしっかり議論すべきだろう」と進言しているが、民主党は、09年の総選挙で「最低保障年金」の実現などを掲げて勝利して政権の座についた。
それから3年、大震災や原発事故があったとは言え、社会保障の給付をどうするかという議論をする時間はたっぷりあった。それをサボタージュしてきたのが、自民党や民主党なのである。
吉川氏は、その来歴から、参議院でも法案が可決されてしまえば新設される「社会保障制度改革国民会議」のメンバーに選出される可能性が高いだろう。
私に言わせれば、選挙で選出されたわけでもない人が“有識者”という訳のわからない“権限”で、国民の生活にかかわる社会保障改革を成案化していくことこそが問題である。
メンバーの陣容は、国会での数の論理で規定される。端的には、吉川氏のような消費税増税推進派がメンバーの多数派を占めることになる。
そうでありながら、その会議で得た成案は、あかたも学識豊かな人たちが政治的に中立で知恵を絞ったものであるかのような包装紙にくるまれる。
むろん、最終的には国会での採決が鍵を握るわけだが、メンバーの選出過程から言っても、国民向けにもっともらしく見せるための仕掛けであり、国会議員の責任放棄と断ずる。
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消費増税はあくまで一里塚 吉川洋・東大教授に聞く [日経新聞]
衆議院本会議で可決された社会保障と税の一体改革法案は、正しい方向への重要な一歩として評価したい。消費税ばかりに関心が集まっているが、税率の引き上げはあくまで一里塚にすぎない。社会保障の給付の効率化を含めて、これから改革を進めていかなくてはいけない。
増税による景気への影響が懸念されているが、消費税を上げても景気を冷やす作用はそれほど大きくない。(2007年1月に)ドイツのメルケル首相が付加価値税の税率を(16%から19%に)引き上げた際もドイツ経済への影響はほとんどなかった。日本では1997年に消費税を(3%から5%に)引き上げた後景気が悪化したが、主因は金融危機だと分析している。
増税に反対する人のなかには、低所得層ほど税負担感が重くなる逆進性を指摘する向きもある。むしろ増税を避けて、結果的に財政破綻につながってしまった場合に厳しい逆進性が生じるというべきだろう。98年の金融危機のように中小企業の倒産が相次ぐことになるかもしれない。
社会保障の給付をどう効率化するのか具体的な議論は進んでいない。そもそも年金のような問題をたった数カ月で決めるのは不可能だ。拙速に決めるよりは、大事な問題なのだから今後1年程度かけてしっかり議論すべきだろう。
吉川洋氏(よしかわ・ひろし、東京大教授)2008年1〜11月、自民党政権で社会保障国民会議の座長を務めた。
[日経新聞6月27日朝刊P.3]
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