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申請窓口に
警官OB配置
六月一一日、反貧困ネットワークが別掲のように緊急声明を発した。一人のタレントを週刊紙、TVメディアが人身御供として実に浅ましくバッシングすることを通して、生活保護があたかもとんでもない不正の温床のような空気を作り出し、それをテコに生活保護の締め付けに道をつけようとの動きが、にわかに、しかも具体的な措置に踏み込む形で強められたからだ。
しかし実のところ生活保護は、声明も言う通り、貧困が広がる一方の現在の日本社会では、「最後のセーフティーネット」としての役割を極めて不十分にしか果たしていない。その一方で、貧困の深刻化の重大な要因である非正規雇用の蔓延や極度に低く抑えられている最低賃金などには、実効性ある対策がほとんどと言ってよいほど講じられていない。それは、派遣法の抜本規制が無惨なほどにずたずたにされたことをあげるだけで十分だ。このような状況で生活保護制度を改悪することなどとうてい許されることではない。
しかも今回のバッシングを「好機とした」厚労省の動きは、実に悪辣だと言わなければならない。というのも、生活保護への締め付けは、実は今回のバッシング以前に水面下で進められていたからだ。それを端的に示すものが、生活保護申請窓口への警官OB配置策動だ。
今年三月一日、厚労省が「社会・援護局関係主管課長会議」の中で、「警察官OB等を福祉事務所に配置すること」の積極的な検討を各自治体に指示したことが判明した。貧困問題やDV問題などに各地で取り組んできた運動体が驚き急いで調べてみると、北海道から沖縄県までの全国七四自治体が、すでに同趣旨の措置を実施していたことが分かったのだ。
警官OBが生活保護実務に何らかの専門知識や見識をもつわけではないこと、またほとんど確実にむしろ適性を欠いていることは、誰が考えても明らかなことだ。そして警官OB配置に期待されていることが、いわゆる「不正受給」申請の「摘発」にあることも容易に想像できる。しかしそれは、申請者を始めから不審者と見なす対応を暗示するものであり、生活保護を必要としている人々を申請窓口から事実上追い返す、いわば新手の「水際作戦」と言われても仕方がない。現に後述の集会では、大阪府豊中市の福祉事務所で起きた、嘱託職員として採用されていた警官OBによる人権侵害事件が報告されている。
「水際作戦」の
一層の徹底化
しかも先の厚労省指示は、本来は貧困問題への対処に当てられるべき国家予算「セーフティーネット支援対策等事業予算補助金」の、警官OB雇用への流用を組み込むことを含めた指示だ。予算の適性執行という点でも重大な疑問があると言わなければならない。
この厚労省指示に対しては三月一二日に、「生活保護問題対策全国会議」と「全国公的扶助研究会」が連名で要望書を提出している。その骨子は、
・警察官OBの福祉事務所配置は社会福祉関係法に違反する
・ますます保護行政から住民を遠ざけ、「餓死・孤立死」を増やす
・不正受給の実体を冷静に見る必要がある
・不正受給対策は別の方法によって行うべき(ケースワーカーの増員など)
というもの。最初の項目について少し解説すれば、社会福祉法が、「現業を行う所員」について「社会福祉主事でなければならない」と規定していることを始め、さまざまな要件を定めていることに反している、との指摘だ。そして四月六日には、何が起きているのかを確かめ合いそれを止めさせるためにどうするのかを探ろうとの集会が、東京大田区で開かれている。
貧困の深刻化は日本社会で現実の重大問題だ。繰り返すが、そこに生活保護が十分機能していないこと、しかもその責任がかなりの程度行政の対応にあることも今では広く知られている。「水際作戦」と称し、さまざまな難癖をつけて申請者を窓口で追い返し、申請そのものを出させないという対応が繰り返されてきた。その対応の問題を明るみに出し、「水際作戦」にブレーキをかける上で大きな役割を果たしたのが、反貧困ネットワークの運動であり、それとも連動した日比谷年越し派遣村だった。
ところが今まさに、それを再び巻き返し、以前の「水際作戦」をさらに徹底させようとの動きがあらわになっているのだ。加えて、行政の対応も改まっているわけではない。現に今年に入って、困窮の果ての孤立死、孤独死が立て続けに報道された。札幌で起きた姉妹の死などは明らかに、札幌市による典型的な「水際作戦」に大きな責任があった。厚労省が水面下で進めてきたこのような一連の動きと照らし合わせた時、今回のバッシング騒ぎにもまた、仕組まれたものとの疑いはぬぐいきれない。
「棄民策」に対
して反撃しよう
見てきたような厚労省のまさに「棄民策」とも言うべきたくらみに強力な反撃が求められている。今回発表された反貧困ネットワークの声明に応え、非正規雇用抜本規制や最低賃金大幅引き上げの闘いをも一体として、生活保護制度の改悪など絶対許さない広範な団結を共に作り出そう。
なおマスメディアが好んで騒ぎ立てる「不正受給」だが、実は「不正受給」と分類されているものの多くは手続きの間違いや勘違いなど、本来「不正」とは言えないものであり、また件数も金額も全体に占める比率は微々たるものだ。近年急増しているというわけでもない。前述の「要望書」によれば、その実態は表のようになる。
これを見れば、生活保護行政にとって警官OB配置という措置がどれほど的外れか明白だ。だからその的外れぶりはむしろ、この措置の真の目的が困窮している人々を生活保護に向かわせないようにすることにある、ということを照らし出す。 (神谷)
表
不正受給件数と不正受給総額(上記要望書より)
( )内は、生活保護支給全体に占める比率
件数 額
2007年度 15,979件(1.44%) 91.8299億円(0.35%)
2008 18,623件(1.62%) 106.1798億円(0.39%)
2009 19,726件(1.54%) 102.1470億円(0.33%)
2010 25,355件(1.80%) 128.7425億円(0.38%)
※09年度と10年度での件数増大には、「全ケースに対する徴税検査」の徹底が影響したということを、厚労省自身が認めている。
バッシングを利用した生活保護制度の改悪を許さない声明
反貧困ネットワーク(代表 宇都宮健児)
2012年6月11日
タレントの家族が生活保護を受給していたことに端を発して、全般的な扶養義務の強化など生活保護制度の改悪の動きが広がっている。現在の社会情勢や市民の生活実態が無視され、一時のムードで将来に禍根を残すような改悪が進められようとしている。
しかし、扶養義務の強化はこれまでの世界的な流れに逆行する。近代的国家においては、たとえ成人した親子間でも扶養義務を課さないのが通例である。すなわち、扶養できるだけの能力のある人は、その分、税金をたくさん納めることで責任を果たし、政府が所得の再分配を行って市民の生活を支えることになっている。
いまの日本では、生活保護を受けられるはずの人が利用できず、実際に保護を受けている人の割合はせいぜい20%台と言われている。扶養義務が強化されると、ますます生活保護が利用できなくなり、餓死や孤立死が増えることは火を見るより明らかである。
扶養義務の強化によるしわ寄せは中・低所得者世帯に集中し、これまでかろうじて貧困に陥らずにいた世帯まで貧困化することになる。とくに、少子高齢化のもとで扶養義務を負うのは若い世代である。政府は子育てを応援すると言うが、子どもの教育費などでギリギリの生活をしている世帯が親の扶養まで強いられることになり、貧困の連鎖がさらに加速することになる。
生活保護を利用せざるを得ない人たちは家庭環境も複雑な場合も多い。扶養の強要によってこれまで以上に家族関係がこじれ、いっそう孤立させることになる。それだけでなく、DV被害者や虐待を受けてきた人たちが加害者の扶養を強要されることになったり、加害者の影に怯える彼ら彼女らに生活保護の申請を諦めさせたりすることになる。
「美しい家族主義」は幻想にすぎない。家族が互いにいたわり合うためにこそ、生活保護をはじめとする社会保障の充実によって市民の生活を支えることがさらに重要になっている。
今回の一連の騒動で、生活保護を現に受けている人たちも不安な日々を送っている。今こそ「声なき声」に耳を傾けて欲しい。生活に困窮し、生存を脅かされている人たち、社会から孤立させられている人たちがたくさんいる。生活保護の役割を大きく評価し、さらに使いやすい制度にして、この人たちに憲法25条で保障されている生存権という人権を行き渡らせることこそ、いま求められている。
私たちは、誰もが人間らしい生活ができる社会を目指す皆さんと手をつなぎ、生活保護に対するバッシングを許さず、生活保護制度を改悪させないために行動する決意である。
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