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小沢幹事長起用という危険な誘惑
http://www.chuokoron.jp/2012/06/post_134.html
永田町政態学 第4回 〜「中央公論」2012年7月号掲載
消費増税を掲げる野田首相を、民主党の小沢一郎元代表が幹事長として支える──。
小沢氏に近い議員の間でこうした奇策が取りざたされている。カギを握るのは消費増税への対応だ。増税反対を掲げて野田政権を揺さぶりに揺さぶり、最後に「幹事長で処遇するなら賛成する」と助け舟を出す。側近議員の一人は「小沢氏は何が何でも消費増税に反対ではない。小沢氏なら党内をまとめられる」といい、瀬戸際戦術に自信を見せる。
「総理は消費増税に政治生命をかけるというが、それなら何でもできるはずだ。でも、何もしてないじゃないか。おれが竹下内閣の官房副長官だったときは、死ぬ思いで反対議員を説得して消費税を導入したんだ」
小沢氏はたびたび周囲にこう語る。若手議員は「消費増税法案を通したいなら俺に頭を下げろという意味だろう」という。小沢グループは今も一二〇人近い。野党の賛成がない場合、小沢グループが造反すれば消費増税法案は衆院通過さえできない。
陸山会事件裁判の控訴後、消費増税を巡る小沢氏の発言には微妙な変化がうかがえる。
五月十二日、熊本市のホテルで開かれた民主党衆院議員の会合。小沢氏は控訴後初めて公の場に立ち、こう訴えた。
「税制のいろいろな議論を否定しているわけではありません。国の仕組みを根本的に変える。無駄を省いて当面の新規政策の財源にあてる。そういう努力の後で、財源が社会保障関係に足りない場合に初めて消費増税の議論をするんだ」
つまり、「今のままでは消費増税に反対だが、何らかの改革を約束すれば賛成できる」(周辺)というメッセージだ。小沢氏が消費増税賛成に含みを持たせるのは、野田政権への全面対決路線に展望が見えないからにほかならない。
小沢氏は四月二十六日、陸山会事件で無罪判決を勝ち取った。判決前に描いたシナリオは、無罪により党内で復権し、世論の同情も得て九月の代表選に自ら出馬するというものだった。
しかし、検察官役の指定弁護士が控訴したことで戦略は狂った。高裁でも無罪判決が出るはずだという楽観論はあるが、刑事被告人の立場が続くことは変わらない。世論調査は依然、小沢氏に厳しい見方を示している。
小沢氏は、橋下徹大阪市長率いる「大阪維新の会」をはじめとする「第三極」新党との連携にも意欲を見せてきた。しかし、中心人物の一人、石原慎太郎東京都知事は「小沢と手を組むなんて死んでも嫌だな」と公言しており、小沢グループの連携相手となる可能性は低い。
小沢グループの弱みは、当選回数の少ない議員や比例選出の議員が多く、逆風下で衆院解散・総選挙を迎えれば落選が相次ぐのは避けられないことだ。内閣不信任決議案が可決した場合、首相が衆院解散を選べば、最もダメージを受けるのが小沢グループとみられている。
それだけに、選挙資金の差配と衆院選の公認、とりわけ比例選の名簿順位に強い影響力を持つ幹事長ポストの魅力は大きい。
小沢氏と首相のパイプをつなぐのは、輿石幹事長と目されている。消費増税法案の衆院審議が進む中、党内では「輿石氏は法案の採決を先送りする代わりに、九月の代表選で首相の再選を保証しようとするのではないか」との見方が浮上している。
九月には民主党代表選と自民党総裁選が予定される。消費増税法案の成立を急がず、秋以降、野田首相──小沢幹事長体制で自民党の「ポスト谷垣」と協力すればよい、との見立てだ。
首相にとって、「小沢幹事長」は危険な誘惑だ。最大勢力を味方にすれば挙党態勢には近付くが、のみ込まれてしまい、政権運営の主導権を失う危険性もある。
民主党歴代首相にとって、小沢氏の起用法は政権運営上の難題であり続けてきた。小沢氏に依存して失敗したのが鳩山政権であり、小沢氏を排除して失敗したのが菅政権である。
野田首相が鳩山、菅両氏と異なるのは、自民党と協力する選択肢があることだ。首相が自民党をカードに使いながら、小沢氏の瀬戸際戦術にどう対処するか。政権の行方はそこにかかっている。(倉)
(了)
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