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http://blogs.yahoo.co.jp/jrfs20040729/23339856.html
◆ トヨタ社長より高い 庶民の実質税負担
武田知弘(元大蔵官僚、経済ジャーナリスト)
庶民には“酷税”の国だが、金持ちには天国。それが今の日本の税制である。「財源がない」など聞いて呆れる。金持ちの負担率を庶民並みにすればいいだけなのだ。
日本の場合、制度の表面上は金持ちの税金は高く見える。所得税の税率だけを見るなら、累進課税制度があり、高額所得者ほど税率は高くなるように設定されている。しかしこれには数字のトリックが隠されている。実質的には安くなっているのだ。
◆ トヨタ社長約21% 平均的会社員35%
われわれが負担している税金は所得税だけではない。住民税も負担しているし、消費税も負担している。また社会保険料も義務として払わなければならないものだから実質的な税金である(注)。これらの税金を総合的に勘案しないと、本当の税負担というのは見えてこない。
そして税金を総合的に勘案した場合、日本では金持ちの負担額は非常に低く、中流以下の負担額が非常に大きくなっているのだ。
わかりやすい例を示したい。
トヨタの社長と平均的な会社員の税負担率を比較したのが〈表〉である。
信じがたいことかもしれないが、年収三億数千万円のトヨタ社長の税負担率は、平均的な会社員よりもはるかに低いのだ。
トヨタの社長、豊田章男氏の二〇一〇年の収入は約三億四〇〇〇万円。そして彼が負担する所得税と社会保険料の合計は五四三八万円である。住民税を含めても約二一%にすぎない。
これに対して、二〇〇八年の会社員の平均年収は約四三〇万円。彼らが負担している税金と社会保険料の合計は約一四九万円。収入に占める割合は実に約三五%である。
つまり年収三億四〇〇〇万円の社長よりも平均的な会社員の方が、負担する税率は高くなっているのだ。なぜこんなことになっているのか?
◆ 証券優遇と社会保険料の掛け金上限制度
金持ちの税金は、名目上は高く設定されているが、さまざまな抜け穴があり、実質的な課税が低くなっている。
具体的に言えば、まずは配当所得に対する優遇税制である。現在、配当所得は証券優遇制度のために、どんなに収入があっても所得税、住民税合わせて一律一〇%でいいことになっている。これは、配当所得を優遇することで、経済を活性化させようという小泉内閣時代の経済政策によるものだ。
豊田社長の収入の三分の二は、持株の配当によるものである。この配当収入に対して所得税、住民税はわずか一〇%で済んでいるのだ。
そしてもう一つの要因が社会保険料の“掛け金上限制度”である。現在の社会保険料は、事業者負担、本人負担合計で約三〇%となっている。しかし、社会保険料の掛け金には上限があり、だいたい年収一〇〇〇万円程度の人が最高額となる。それ以上収入がある人は、いくら多くてもそれ以上払う必要はないのだ。
だから年収一〇〇〇万円を超えれば、収入が増えれば増えるほど社会保険料の負担率は下がってくるのだ。おおまかに言って年収一億円の人の社会保険料率は、普通の人の一〇分の一となり、年収三億円の人は三〇分の一となる。
そのため、豊田章男氏の社会保険料負担率はわずか○・四%となっているのだ。それやこれやでトヨタ社長の税負担率は、平均的な会社員よりもはるかに低くなっているのだ。
「金持ちの税金には高い税率を課す」というのは、近代社会においては当然の考え方である。ほとんどの先進諸国において、そういう制度を敷いている。金持ちが他の人よりもより多くの社会的責任を負うのは当然であり、また富の再分配(社会保障)の意味でも、金持ちに高い税率を課すのはごくまっとうな方法である。
しかし、今の日本の税制では、実質的に逆進課税となっているのだ。こんな国は、先進国ではあまり例がない。
新自由主義の本家・米国の金持ちでさえ日本よりはるかに多くの税金を払っているのだ。日本は金持ち天国と言っていいほどである。
そして、収入が低い人たちや毎日生活するのがやっとという人たちには、世界的に見ても高い税負担を課しているのだ。
これでは格差社会ができて当たり前と言えるだろう。現在の格差社会というのは、国民が富と貧に二分されているというものではない。国民全体の生活レベルが下がり、ごく一部の国民だけが多くの富を占めているというものである。
こういう状態は、経済をもっとも停滞させるのだ。
国民全体の生活レベルが下がれば、それだけ社会全体の消費が減る。消費が減れば、経済は縮小し、さらに景気が悪くなる。金持ちの収入が増えても貯蓄に回されるから、社会全体の消費は増えない。だから富の一極集中が進めば、消費はどんどん減ることになるのだ。
実際に日本のこの十数年の経済状態を見れば、その通りのことになっている。そして、その根本の要因が、金持ち優遇税制なのである。
◆ 道義的にもおかしい金持ち天国の税制
考えてみてほしい。三億円と言えば、普通の人なら一生の生活費としてもおつりがくるほどの金額だ。
それを毎年毎年もらえるのである。本当なら八○%の税金を払ったって罰は当たらないはずだ。それでも手元には億に近い金が残る。普通の人より何十倍ものお金をもらっているのだ。
にもかかわらず、わずか二〇%しか税金を課していないのだ。
天文学的な収入を得ている者に対して、たったこれだけの税金しか課さないで、どうやって国が保てるのか?財政的にも、道義的にも、この国の税制はたんは破綻しているとさえ言える。
しかもこれはトヨタの社長一人のことではない。今の日本では、億万長者が激増しており、数万、数十万人のトヨタの社長がいるのである。「億万長者を潤すために、国民全体が我慢している」それが今の日本の税制なのだ。
しかし、日本の税制は昔からこうだったわけではない。
ほんの二〇年前には、金持ちの税金は今よりはるかに高かった。概算でも倍以上の税金は払っていたのだ。
その時代の日本は一億総中流と言われ、格差とは程遠い国だった。そして、経済も今よりはるかに活気があった。
今、日本の税制がしなくてはならないことは明白である。金持ちからまともに税金を取ることである。少なくとも、トヨタの社長の税率は、平均的な会社員の倍以上になるくらいにはするべきである。
(注)社会保険料は名目上は本人負担分と事業者負担分に分けられているが、現実は事業者が全部払っている。しかし事業者は従業員の仕事の対価として社会保険料を払っているので、結局は社会保険料はすべて従業員本人が負担しているのである。
(たけだともひろ)
『週刊金曜日』(2012.6.1 897号)
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