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「引きこもり」するオトナたち
【第110回】 2012年6月8日
池上正樹 [ジャーナリスト]
不正受給問題であたかも犯罪者扱い!?
生活保護受給者が脅える凄惨な仕打ちと悲惨な日常
大震災を機に、ちっぽけな見栄とか私利私欲といったものよりも、命や安全といったものを大切にしていかなければいけないと、みんなで気づいたはずだった。
しかし、それがいつのまにか、原発にしても、今回の生活保護騒動にしても、“巻き戻す力”が働いているように感じられる。
「生活保護受給者が外へ食事に行った」「うちの子はゲームを買っていないのに、あそこの子は買った」など、ある役所では、そんな通報を奨励し、適正かどうかの確認に行っていたという。
もちろん、生活保護の不正受給者が、一部に存在しているのも事実。しかし、役所は、明らかに受給者が不正受給かどうか、暴力団が関係しているかどうかなど、見分けがつくはずである。
本来、セーフティネットは、命を守るためにつくられた制度のはずなのに、いつから「あいつは、けしからん」と、生活保護受給者や家族の生活のちょっとした“楽しみ”まで妬んで、告げ口を奨励するような世の中に逆戻りを始めたのだろう。
「迷惑をかけたくないから…」
受給を躊躇する“真面目な人たち”
一連の騒動を見て、本来、家庭の事情などから受給しなければ生活できないのに、他人に迷惑をかけたくないと気遣う真面目な気の弱い人たちほど躊躇してしまっている。これは「引きこもり」状態の人はもちろん、いまは会社に勤めているサラリーマンにとっても他人事ではない。
「まるで魔女狩りですよ…」
こう脅えるのは、40歳代の当事者のAさん。人気お笑いタレントの河本準一さんの母親が生活保護を受給していたとして『女性セブン』が報じたのを皮切りに、駅の売店で『夕刊フジ』が「“生活保護”モラル崩壊!若者が不正受給でグーダラ生活」という見出しを掲げ、受給者の現状を無視した記事を掲載。テレビでは、ワイドショーなどの番組が、連日のように偏見や誤解を煽るような生活保護受給者に対するバッシングを続けていた。
「ちょっとテレビをつけると、たいてい生活保護の話を長々とやっている。あ〜、もう生活保護の報道番組を見るのが怖くて…。でも、気になって、つい見てしまい、眠れなくなるんです」
バッシングとともに、Aさんからは、そんな不安に駆られたメールが次々に送られてくるようになった。
Aさんは15年ほど前、体調を崩して、会社を退職。以来、就職がうまくいかず、アルバイトを転々としたものの、次第に仕事に就くことができなくなり、実家で母親が細々ともらう年金を頼りに、引きこもり状態の生活を送ってきた。
しかし、家族は日々の生活費に追われて、少しずつ貯金を切り崩し、困窮状態に。Aさんは家の中に居づらくなって、「働いて、自立したい。でも、どうすればいいのかがわからない」と悩んだ。
そこで、当初は「他人に迷惑をかけたくないから」と、生活保護の受給に及び腰だったAさんと母親を筆者が説得。Aさんが貧困な環境にある親元を離れてアパートを借り、新たな仕事先が見つかって生活が軌道に乗るまでの間、生活保護を申請することに、ようやく決心がついたところだった。
テレビ、ネットが怖い!
『生活保護』の文字に震える日々
そんなときに降りかかったのが、今回の騒動。そのきっかけとなったのが、片山さつき参議院議員、世耕弘成参議院議員ら自民党の「生活保護に関するプロジェクトチーム」のブログやツイッターなどによる実名を挙げての追及だ。
こうした空気に乗っかる政治家が表れて、小宮山洋子厚生労働相は、生活保護受給者の親族が受給者を扶養できない場合、親族側に扶養が困難な理由の証明を義務づけるという、扶養義務を厳格化する生活保護法改正を検討する考えまで示唆した。
Aさんが電話の向こうで、こう縮こまる。
「今日もテレビを見ていて、さすがに、怖くなりました。どこかの局で、誰かが“生活保護は、生きるか死ぬかという人がもらうものだ”と言っていたけど。僕が生きるか死ぬかという状態なのかというと…。父親は、僕が生活保護を受けることについても、ずっと知らん顔なんです」
家の中でも居場所がなくなり、追い詰められているAさんは、つい先日まで「父親を刺しかねない」と、さんざん明かしていた。
そこまで我慢して、生活をギリギリまで切り詰めた揚句、何かの拍子に爆発する。孤立死も餓死も殺傷沙汰も、Aさんのような貧困家庭では、同じ延長線上で起き得る他人事ではない問題だ。
しかし、そういう人たちのためのセーフティネットは、生活保護しかない。
「司会の女性アナウンサーが淡々と、“はい、次に(生活保護受給者を)いじめたい人は?”って、コメンテーターを指してるように聞こえて、体が震えるんです。タイミング的に、きついですね。途中でテレビを消しましたが、どういう結論になったのか、気になります」
一連の報道は、周囲の偏見や誤解ばかりを煽って、本当に困窮している人たちを追いやるだけで、受給者が増える社会の構造的な背景については、一切触れられていない。
そんな中で、5月27日付けの『デイリースポーツ』によると、元国会議員でタレントの杉村太蔵は、テレビ番組の中で「国会議員なら、不正受給よりも、役所の不正支給のほうを追及すべきだ」などと、同じ小泉チルドレンだった片山議員を批判したというが、まさにその通りだろう。
「かなり落ち込んでいるのは事実ですが、考えても仕方がない。しばらく、テレビやネットは一切見ないようにしています。日本人は飽きやすいし、そもそも、今回の騒動の発端となった河本さんのお母さんは、すでに生活保護の受給をやめている。その上、謝罪会見もしたからには、これ以上河本さんの件そのものは発展…というか継続報道しても、解決も何もないから…。一部の週刊誌も、世間の食いつきが悪かったら、もう騒がないだろうし…。あと3日くらい我慢すれば、テレビ番組表から『生活保護』という文字は消えるはず…。いまはじっと我慢です」
荒れ狂うバッシングの嵐の中、Aさんは必死に自分を言い聞かせるかのように、そんなメールをせっせと筆者に送ってきた。
一連の報道をきっかけに
より生活保護が利用しにくい世の中に
都内で当事者たちの居場所「Necco cafe」を運営する金子摩矢子さんは、こう話す。
「世界からみれば、日本の生活保護率は低い。なのに日本古来の“恥ずかしい”“みっともない”という風潮をさらに広げようとしている。家族の形態も変わってきているのに、おかしいですね。実際、家族には知られたくないからと、受給を拒んでいる人は、身近にも何人もいるんです。困っているときはお互い様なんだから、一時、脛をかじっても、元気になったら、また恩返しをすればいい。困っている人をさらに叩いて、本当にヘンな世の中ですよね」
5月30日には、「生活保護問題対策全国会議」の弁護士や支援団体代表らが記者会見を行い、「一連の報道は、厳しい雇用情勢の中での就労努力や病気の治療など、個々が抱えた課題に真摯に向き合っている人、あるいは、苦しい中で、さまざまな事情から親族の援助を受けられず、孤立を余儀なくされている高齢の利用者など、多くの生活保護利用者の心と名誉を深く傷つけている」などという緊急声明を出した。
また、「生活困窮者は、DV被害者や虐待関係者も少なくなく、家族との関係が希薄化、悪化、断絶している」として、扶養義務を課す法改正を行えば、「ただでさえ利用しにくい生活保護制度がほとんど利用できなくなり、餓死や孤立死などの深刻な事態を招くことが明らか」だと指摘している。
「人のお金で飯くってる人は雇わない」
生活保護受給者を“犯罪者”扱いする行政
「個人的に、報道をみて、出来レースだと感じました。自民党の(生活保護費)10%削減案が、あまりにもタイミングがよすぎて、出来レースだと…」
生活保護を受給している埼玉県在住の50歳代の男性は、そんな思いを明かす。
「月に20〜30回くらい、ハローワークに通って、紹介された企業と面接できたのは1回だけ。生活保護を受けているというだけで、あたかも犯罪者のように言われて断られた。バッシングされて、私のような就労を求めている人の出口が、さらに狭くなるのではないか。私だけでなく、探している人の思いを考えると、かなり追い詰められる。偏見が大きくなるのではと、危惧している。たった1社面接を受けられた会社でも、最後に、“人のお金で飯くっている人は、雇わない”と言われました」
男性の元には、今回の騒動以降、40歳代前半の知り合いから連絡があった。
その知り合いは、河本の報道以来、引きこもっていて、「私は表に出られないから、代わりに買い物に行ってきてくれ」と、お願いされたという。
男性は、こう続ける。
「私は、親の介護がきっかけで、路上に出ることになりました。路上に出たとき、生活保護を受けるという選択肢は頭の中になかったんです。いま、生活保護を下回るギリギリの給与水準で暮らすような境界の人たちからのバッシングには、返す言葉がありません。
生活保護を受けていくことを自問自答している人たちが多い。仕事がなくて苦しんで、いったい自分はこれでいいのか。どこで折れてしまうか、わからない。経済的な自立より、心の自立が大切だと思います」
「だったら身体で稼げばいい」
DV被害者が受けた非情な嫌がらせ
一方、首都圏在住の40歳代の女性は、DV被害者で、昨年まで受給していたという。
彼女は、こう声を震わせる。
「仲間は、“生活保護どう思いますか?”と質問をしていたテレビ番組を見て、具合が悪くなり、外出できなくなりました。現在、東京に住む単身者の支給額はでだいたい8万円。8万で、電気、ガス、水道、インターネットのプロバイダー料で3万円くらい。残った5万円で、食料、洗剤、Tシャツを買います。Tシャツなんて、3ヵ月悩んで、シーズンが終わる頃に買うのが普通。靴下は、穴があいていたんです。3000円財布の中にあれば、“よし、今週は何とか食べていける”と思っていました」
メディアは、ホームレスが列を作って並んでいる映像を流すことはあっても、毎日、どんな暮らしをしていたのか、これまで聞かれることがなかったという。
「本当に、私たちの暮らしを知っていただかないと、今のような誤解の垂れ流しでは、当事者が町を歩けるようにはならない。受給者は、だれも好きでそうなったのではないのに、最高に打ちのめされた結果になりました」
自民党が掲げる「現物給付」についても、「暮らしてみたら、あり得ない」という。
「例えば、1才、2才のお子さんを抱えていたら、どんどん大きくなるし、しかもひとりひとり違う。人が毎日暮らしていくことが、どういうことか分かっているのであれば、現物給付はありえない。私たちが、支給された服を着ていたら、囚人のような差別を受けてしまう。私たちも、心があるし、傷つきもする。自分の暮らしをあしたに繋ぐように、必死で生きている人たちに対する、怒りを感じます」
こう彼女は涙ぐんだ。
申請する前は、「(夫に)扶養の照会をしなくてもよい」と聞いていた。しかし、実際、役所に行くと、「まだ離婚をしていないうえ、相手には収入があるので…」と言われて、扶養の照会をされてしまう。
「どこに住んでいるかも、私が生活に困窮しているといういちばん知られたくないことも、相手に知られてしまう。しかも、ケースワーカーに子どものドラえもんの貯金箱まで取り上げられそうになりました。
嫌がらせのような資産調査で、手を突っ込まれ、かき回される経験をして、こんなことなら路上で死ねば良かったと思いながら、決定通知を待ったんです。生活保護の申請ができないと、女性に向かって、“身体で稼げばいい”というケースワーカーも少なくないんです。それなら暴力のところに留まらなければいけないとか、命を絶つという選択しかありません」
小宮山厚労大臣や片山議員は、同じ女性として、こういう思いをいったいどう受け止めているのだろうか。
彼女は、生活保護受給者たちに、こうメッセージを伝える。
「“それでもあなたたちは悪くない!”と言いたいですね」
歪んだ“正義”が
孤立死、餓死を生み出す
現在、一部の不届き者による生活保護の不正受給ばかりが注目されている。しかし、問題なのは、水面下で申請しようとしない、本来、救済されるべき人たちであり、彼らを追い詰めることによって、孤立死や餓死などを生み出しているのだ。
他人ごとなのに「けしからん」と思うと、自分の“正義”を他人にも強要しようとする。そういう思いがあるのなら、まず自らが模範となる生き方を実践していくことが大事なのだと思う。
なお、6月9日(土)、10時〜19時、生活保護“緊急”相談ダイヤルが設けられている。
http://diamond.jp/articles/-/19744
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