第2に、もし海外との価格差が大きくなれば、外国ブランド車の場合、並行輸入業者が独自に輸入して販売するようになり、市場原理で価格は自動的に補正される。実際、輸入車については、過去に並行輸入の登録台数が、そこそこのパーセンテージを稼いだ時代もあった。

左ハンドルの米国仕様でよければ、実際、現在でも、並行輸入で安く購入することも可能ではないですか？　それでも多くの人がそうしないのは、右ハンドルで日本向けの設定がされた正規輸入車の価値を認めているからでしょう。

第3に、為替の変動で新車の売価をあまり変えると、それにつれて中古車価格も変動することになります。リセールバリューを安定させて、ユーザーが損をしないようにすることは、自動車メーカーの責任であり、為替変動によって下取り価格が暴落するようなブランドのクルマは、買ってもらえません。

第4に、アメリカでのクルマの販売価格は、市場規模が非常に大きいこと、そして、80年代末のプラザ合意以来、ドルの為替が一貫して安くなってきたことから、
ヨーロッパやアジア地域と比べて、安いのです。

対ヨーロッパということであれば、ギリシャ危機などでユーロの価値が下がる以前は、多くの自動車メーカーが、（オプションを含めた売価では）ヨーロッパとほぼ同じ値段をつけていました。

そもそも、自動車メーカーのほとんどは、販売台数の拡大を最大のテーマにしています。ですから、海外ブランドの多くが、今後日本での販売価格を下げていくと思われます。

しかし、ユーザー保護という見地からも、為替変動に対してあまりに敏感に反応するわけにはいかないのです。

そもそも、現在７００万円で販売されているメルセデス・ベンツを、明日から６００万円に下げて販売することに、社会的意義があるでしょうか？　ベンツじゃなくても、フォスクスワーゲンでもそうです。

値段を急激に下げれば、中古車価格が下がって既存のオーナーのほとんどが損をして、しかも、今後円高が是正されて、再値上げということになれば、値段に惹かれてそのブランドのクルマを買おうという人もいなくなります。それでは、メーカーもユーザーも、なんの得にもなりません。

また、国産メーカーについても、アメリカで安く売っているのだから日本でも値段を下げろといえば、そのしわ寄せは、下請け企業などにいって、デフレの加速に手を貸すだけです。

内外価格差ということをいうのであれば、電気料金とかガソリン価格とか、もっと公共性があって、ほかの経済分野への影響が大きいものについて問題にすべきなのであって、外国ブランド車の価格云々というのは、社会的にもあまり意味がないし、しかもユーザーメリットという点でも的外れな議論であるとわたしは思います。