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いつまで続く民主党の「消費税」対立――「小沢切り」と「民・自連携」は可能か
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2012.06.04 文芸春秋編 日本の論点PLUS
*このコーナーでは、『日本の論点』スタッフライターや各分野のエキスパートが耳寄り情報、マル秘情報をもとに、政治・経済・外交・社会などの分野ごとに近未来を予測します。
■2回目の野田vs.小沢会談も物別れに
国会の会期末(6月21日)が迫った6月3日(日)、野田佳彦首相と小沢一郎元代表、輿石東民主党幹事長による第2回目の3者会談が、民主党本部で開かれた。かねて現時点での消費税率引き上げに反対の立場を明らかにしてきた小沢元代表、あくまでも今国会の消費増税法案を成立させたい野田首相、「党内融和」を盾に一本化をはかりたい輿石幹事長――第1回目と同じ構図だった。席上、野田首相は小沢元代表に対して、重ねて消費税増税を柱とする社会保障と税の一体改革関連法案についての協力を求めたが、小沢氏は「改革はいずれやるといって、大増税を先行させるのでは国民が納得しない」と、前回に続いて拒否。事実上会談は決裂した。
「今日の財政事情、とくに少子高齢化の問題にかんがみて、消費税の増税は待ったなし」というのが、かねて野田首相の主張で、これに対して小沢元代表は、(1)国の統治の仕組みを中央集権から地方分権に変える改革が途上にある、(2)年金や後期高齢者医療など民主党ビジョンが掲げた社会保障改革が進まないのに、消費増税だけが前面に出ている、(3)日本経済がデフレを脱却できていない現時点での増税は経済政策として納得できない、という3つの問題点を挙げ、「13兆円に近い大増税なので、消費増税に賛成か否かと問われれば、賛成というわけにはいかない」と反論、首相の協力要請に応じなかった。
小沢氏の翻意はむずかしいと見た首相は、小沢氏に、「野党との修正協議をしっかり進めさせていただく」と自民への協力要請をおこなうことを告知。自民党がかねて要求していた2閣僚(田中直紀防衛相、前田武志国交相)の更迭を含む内閣改造をおこなうことを決めた。
■解散・総選挙→民主壊滅、自民退潮、維新躍進→政界再編
消費税増税について、じっさい国民はどう考えているのか。有力な世論調査では、国民の「半数以上が反対」だ。ということは、「本音では自民、民主とも、できれば選挙前に増税法案を審議未了にしておきたいはず」というのが永田町ウォッチャーの一致した見方だ。小沢グループだけでなく、中間派も含めて野田・小沢「再会談」を希望したのも、“消費税劇場”の舞台で選挙区に言い訳ができるような落としどころ(激論の末に審議未了)を見せてほしかったからだというわけである。
しかし、執行部にしてみれば、消費税増税の党内議論は2011年6月に「政府・与党社会保障改革検討本部」による消費税率を2015年までに現行の5%を10%に引き上げる旨の決定、同年12月には野田内閣が「社会保障・税一体改革」についての原案を決定。さらに2012年3月の民主党政策調査会合同会議の決定と、3回にわたって党議決定しており、いまさらひっこめるわけにはいかず、それを見越して反対する小沢氏に対しては、「党人として許せない」という思いがある。前原誠司・党政調会長が、5月29日の記者会見で「総理自身が政治生命をかけると言っており、妥協の余地はまったくない。それほど何度もやる話ではない。まさに一発勝負でやっていただきたい」と発言。岡田克也副総理が「乾坤一擲と言われている。一度でしっかり結果を出したいのが総理の思いだ」と、何度も会談を重ねることに、強く難色を示したのも、そうした思いがあるからだ。だが、次回選挙であやういところにいる若手議員に、そうしたことは通じない。
自民党の協力はどうか。大島理森・副総裁は、5月25日、TBSの番組収録で、今国会で消費増税法案を成立に協力するには、野田首相が(1)衆院解散・総選挙の確約、(2)参院の問責決議を受けた2閣僚の交代、(3)法案に反対する小沢一郎民主党元代表との決別、(4)マニフェストの撤回、(5)法案審議に必要な国会会期の延長、の5条件が必要だとし、谷垣総裁との党首会談については、「五つの問題に明確な首相の回答があったら堂々と表でやったらいい」と、述べた(毎日新聞5月25日付)。
ところが、自民党内には「解散・総選挙」の条件をつけず、消費増税法案の成立に協力すべきだ、という勢力も存在する。古賀誠元幹事長や森喜朗元首相ら派閥領袖クラスのベテラン議員、そして引退後もなお隠然たる影響力を保持する青木幹雄・元参院議員会長らOB議員である。「消費税はもともと自民党が導入した税。その私たちが今回の法案をつぶすわけにはいかないわね…」(青木元参院議員会長、産経新聞5月30日付)というのがその根拠で、解散を条件にする谷垣総裁とは、ミゾが深まりつつある。当落線上にいるベテラン議員は、本心ではやはり早期の総選挙を望んでいないのだ。谷垣氏にしてみれば、総裁就任以来、これら派閥領袖たちの意向に沿わない人事をおこなってきた“弱味”があって、消費税関連法案が成立してしまうと、領袖たちから「総裁をお役ご免にされかねない」との不安がある。ことさら解散を叫ぶのも、そうした勢力への牽制だ、というのが事情通の見方だ。
仙谷政調会長代行が、5月30日のTBSのテレビ番組で「いま永田町に総選挙を避けたいという雰囲気が広がっている」とコメントした。背景には、民主党、自民党ともに政党支持率の低下がある。時事通信が5月10〜13日に実施した世論調査では、野田内閣の支持率は危機ライン(20%)直近の23.3%。政党支持率では、民主党が前月の9.5%から9.0%に、自民党が13.4%から11.9%に低下した。消費税増税に国民の多くが反対する現在、総選挙に突入すれば、民主、自民ともに惨敗する可能性があるのだ。
■野田首相はなぜ「小沢切り」をしないのか
野田首相が解散を覚悟できないもうひとつの理由は、かりに野田首相が除名処分を含む、完全「小沢切り」をやってのけ、消費増税成立へ自民党の協力を得たとしても、採決で小沢グループ約82名が、デフレ下の消費増税に反対を唱えるみんなの党や、自民党の一部、社民、共産党を糾合して反乱を起こせば、かすかな可能性だが否決という事態もあり得なくもない。そうなれば、野田首相は否応なく、解散・総選挙に打って出るしかなくなる。もしそんなことにでもなれば、「維新の会」を軸に政界再編が大きく浮上――民主党の退潮は必至だ。
そうしたリスクを考えると、野田首相が完全「小沢切り」を選択するには、「民主党解体やむなし」という相当の覚悟が必要になる。そのうえ、衆院解散から総選挙までの期間は最長40日間。かりに会期末の6月21日に解散するとして、投票日は7月の22日か、29日で、ロンドン・オリンピックの開催期間(7月22日〜8月12日)に重なってしまう。オリンピック期間中に総選挙を実施した例は過去にない。すでにマスコミには、「首相はまさか五輪ムードの中に選挙を持ち込むことで、消費税問題、そして大躍進も予想される橋下徹・大阪市長率いる『大阪維新の会』の存在をかすませるなんて姑息なことは、お考えではないだろう」(産経ニュース・高木桂一編集委員5月26日付)と、釘をさされている。
総選挙の時期について、民主党の輿石幹事長は、すでに5月11日、所属議員との会合で、来年夏の衆参ダブル選挙を示唆している。輿石幹事長の頭の中には、消費増税法案を今国会では審議未了とし、消費税についての結論は9月の総裁選のときに得るか、できれば来年夏の選挙まで引き延ばす――自民党とて同じ気持ちだろう、との考えがあったのではないか。
「首相が『小沢切り』をしなければ、自民党との修正協議は進まない。首相も困り、首相に抱きつこうとしている自民党も困る。輿石氏の高度な戦術だ」(小沢氏の側近、読売新聞6月4日付)。したがって、自民党が要求する衆院解散を野田首相が約束する可能性は限りなく薄くなった。
絶壁に立つ小沢氏もそれは同じだ。自ら党を割れば、グループはジリ貧、自身の命運も尽きる――5月30日、第1回3者会談が物別れに終わった日の午後9時、小沢氏はNHKの看板ニュース番組に出演、全国民に向かって、消費税増税に反対の理由をとうとうと述べた。にらみ合いが得意の小沢氏がめずらしく“先手勝負に出た”のである。
第1回目の3者会談を終えて小沢氏は、野田首相の「消費税増税は待ったなし」について、「私はまだ少し時間があると思う。本当に待ったなしなら、円は大幅に下落し、日本国債も暴落するはずなのに、そうなっていない(中略)、消費税増税の前にまだやることがある。マニフェストで約束した『無駄をなくし、生活第一の政治を取り戻す』それこそが“政権交代”を望んだ国民の声だ」と結んだ。
このガチンコ勝負、膠着状態のまま、少なくとも9月の代表選、自民党総裁選までもつれ込むと見た。
なお、6月4日におこなった内閣改造は次のとおり。参院で問責決議を受けた田中直紀防衛大臣を更迭、民間人の森本敏・拓殖大学大学院教授を充て、公職選挙法違反の疑いありとして、同じく問責決議を受けた前田武志国土交通大臣も更迭、羽田雄一郎・民主党参院国対委員長を充てた。また、弁護士報酬をめぐるトラブルや国会内で競馬中継を観ていた小川敏夫法務大臣に代えて滝実・法務副大臣を、スパイ容疑のある中国大使館の元一等書記官との関係が問題視された鹿野道彦農林水産大臣に代えて郡司彰・元農水副大臣を任命した。さらに国民新党からの申し出により、自見庄三郎・郵政改革・金融担当大臣を同党の松下忠洋・復興副大臣に。輿石幹事長ら党執行部は、国交相に任命された羽田氏を除き、全員続投の方針だ。
(山口哲男=やまぐち・てつお 『日本の論点』スタッフライター)
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