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企業・経営>ヤバい政治学 データで分かる政治のウラ表
「政治不信が高まると投票率が低くなる」は本当か
第1回 詳細なデータ分析から浮かび上がる意外な事実
2012年6月6日 水曜日 福元 健太郎、堀内 勇作
今年は「選挙の年」だ。選挙や政治に関するニュースが、新聞の政治面、国際面、さらには経済面や社会面まで賑わす今こそ、政治を巡る様々な問題について、改めてじっくりと考える必要がある。しかしこの連載は、従来の政治や選挙をめぐる記事や論評とは、ちょっと異なるアプローチを試みる。
世界の現代政治学のフロンティアでは、様々な数量データと統計的手法を使った研究が盛んに進められている。だが国内の報道では、そうした切り口から政治が論じられることは極めてまれだ。そこでこの連載では、主に筆者自身の研究を紹介しながら、政治に関する「ヤバい」問題や、「ヤバい」議論を指摘していきたいと思う。
今回のテーマは、投票率である。年内、あるいは、遅くとも来年には実施される総選挙の前に、「投票所に行くか否か」という、極めて基本的な、全ての有権者が判断しなくてはならない問題について考えてみたい。
低い投票率は政治不信の表れ?
まず何より筆者が「ヤバい」と思っているのは、投票率の要因、特に投票率の「低下」の要因に関するメディア、政党リーダー、及び一部有識者の言論である。国政選挙、地方選挙を問わず、投票率が低くなると、「低い投票率は政治不信の表れ」と指摘される傾向がある。また、政治に対する不信が高まるような事件や政治的発言があると、投票率が低くなるのではないかと懸念されることが多い。
この点について、ファクティバという世界中の新聞や雑誌の記事が膨大に蓄積されているデータベースを使って確認してみた。具体的には、「投票率」及び「不信」という2つのキーワードで過去2年間の記事を検索してみたところ、336件もの記事が出てきた。例えば「今回の統一選は、(中略)政党不信など様々な要因が投票率の低迷を招いたとみられる」(読売新聞・地域版、2011年4月26日)というように、投票率が低くなったことを政治不信のせいにしているような記事が多い。
前回(2003年総選挙)に比べて7.7%ポイントも投票率が上がった、2005年9月11日の「郵政民営化解散総選挙」の投票日と、その前後一日の記事も検索してみた。その結果、投票率に関する記事は449件も出て来た。投票率が大幅にアップしたので、メディアが注目したのは当然であろう。しかし、その中に、「政治に対する信用が高まった」とか、「不信が解消された」というような記事は、予想通り、全く無かった。
投票率が低くなれば「政治不信が高まった」と騒ぎ、投票率が高くなった時には政治に対する信用には一切言及しないというのは、全く筋が通らない議論だろう。
投票所に行くことは、馬券を買うようなもの
日本における投票率をめぐる報道機関の論調は、「投票率が高くなるのも低くなるのも、全ては、首相、政党、或いは候補者次第」という、暗黙の前提を置いていないだろうか。政党が魅力ある政策を提案すれば投票率が上がる、政党が政策の必要性を有権者に誠実に説けば投票率が上がる、政党のリーダーや候補者が信用に値する人物であれば投票率が上がる、といったように、投票率の高低の理由を「他人のせい」にしていないだろうか?しかし、投票率に関する膨大な数の統計的研究によれば、投票率が低いのは、かなり自己中心的な「有権者のせい」なのである。
実は、選挙で特定の候補者に投票するか否かという行動は、競馬で特定の馬に賭けるか否かという行動によく似ている(だからこそ、候補者は「出馬する」というのかもしれない)。競馬で特定の馬に賭ける時、いくら儲かると予想するか。それは、「賭けた馬が勝った時の賞金額(ステーク)」×「その馬が勝つ(と思う)確率」−「賭けた金額」である。投票するか否かも、「自分が投票した候補者が当選した場合に得られる便益」×「自分が投票するか否かが、投票した候補者の当落を左右する(と思う)確率」−「投票するコスト」という値が0より大きいか否かで決まるのである。この「合理的選択モデル」で説明できる、日本の投票率に関する研究結果を紹介しよう。
横浜市立大学の坂口利裕准教授と和田淳一郎教授は、投票所単位で集計された詳細な選挙データ、国勢調査の町丁字等別集計データ、更には地形や駅の位置などの地理情報データを活用して、横浜市における投票率を詳細に分析した。その結果、実に興味深い事実が浮かび上がってきた。
投票所が遠いから投票しない
2004年7月実施の参議院議員選挙における、横浜市の投票率は55.7%であり、横浜市全域で635の投票所が使われた。その中に一つだけ75.7%という、他の634投票所の記録と比べても極端に投票率の高い所が見つかった。坂口准教授と和田教授が詳細に調べたところ、その投票所は、横浜市西区みなとみらい4丁目のMMタワーズという3棟あるマンションのミーティングルームに位置していることが分かった。この投票区における有権者は、同マンションの住民であり、3棟の真ん中にあるミーティングルームは、住民にとって極めて便利なところにあった。そのため、投票日当日の外出の際に、住民が簡単に投票することができたのだ。「合理的選択モデル」に基づいて解釈すれば、「投票するコスト」が極めて低いことで投票率が高くなったといえる。
坂口准教授と和田教授は更に興味深い分析結果を、最近発表した。2007年統一地方選挙において、この投票所は、約250メートル離れたパシフィコ横浜というコンベンションセンターのハーバーラウンジBに移された。その結果、何が起きたか。2004年7月の参議院選挙で635投票区中1位であった投票率が、2007年統一地方選挙では、639投票区中558位(投票率は44.1%)まで急落したのである。有権者の多くが、「ちょっと遠くなったから面倒くさい」といった程度の理由で、棄権したのだろう。
町村議会議員選挙の投票率はなぜ高い?
投票率は、「自分が投票するか否かが、投票した候補者の当落を左右する確率」からも影響を受ける。このことを筆者(堀内)は、博士論文をベースにした著書の中で、実際のデータを用いて示した。
欧米の民主主義においては、国政選挙の方が地方選挙よりも投票率が高いことが「定説」となっている。しかし、日本の人口規模が小さい自治体(町村)では、衆議院議員選挙の投票率は70〜80%である一方、町村議会議員選挙の投票率は80〜90%となることがある。中には98%という記録もある。筆者(堀内)が住んでいるオーストラリアでは義務投票制が採用されているが、そのオーストラリアにおける国政選挙よりも高い投票率が、投票することが義務ではない日本の地方選挙で、記録されることがあるのである。
このような特異現象を、「日本固有の文化」で説明しようとする試みもある。小さい町村には伝統的な共同体意識が残っているため、みんなで一緒に投票するという文化がある、という議論だ。しかし、政治文化が重要であるならば、何故、村議会議員選挙で98%もの高投票率を記録する一方、同じ村における衆議院議員選挙の投票率が70〜80%になるのか?
その理由は、「自分が投票するか否かが、投票した候補者の当落を左右する確率」の違いにあると筆者(堀内)は説明した。既に本誌(オンライン版)の「気鋭の論点」(2011年12月8日号)で説明した通り、1つの自治体が1つの選挙区を構成し、10数人から100人近くの候補者の中から有権者が1人だけを選ぶという、日本の地方議会で採用されている選挙制度は、世界的にも稀である。その選挙制度の下では、町村のように自治体の有権者数が少ないほど、候補者間の得票差も小さくなる。従って、「自分が投票するか否かが、投票した候補者の当落を左右する確率」が高くなる。
実際、最下位当選者と最上位落選者(次点)との票差が一桁であることはざらであり、中にはゼロということすらある(その場合はくじ引きで当選者を決める。負けた側が開票結果に異議を唱えて法廷での争いとなることも珍しくない)。その結果、「ステーク」×「確率」のうち、仮に前者は国政選挙の方が高くても、後者は地方選挙の方が高いのであれば、掛け算した結果は地方選挙の方が高くなる。だから小さな町村では、国政選挙よりも地方選挙の投票率が高くなるのだ。
筆者(堀内)は、このモデルを、国際比較データ、自治体ごとに集計された選挙結果データ、世論調査データ、更には佐賀県杵島郡北方町(現・武雄市の一部)における現地調査で検証した。その結果、「自分の投票が、投票した候補者の当落を左右する確率」の差で、投票率の差をうまく説明できることが分かった。
投票率はかなり自己中心的な理由で決まる
ある候補者に投票するか否かを、ある馬に賭けるか否かにたとえるなど、不謹慎と感じる読者もいるであろう。しかし、政党や政治家を信用しない有権者ほど棄権するという仮説よりも、有権者が自己中心的で合理的な計算に基づいて投票するという仮説の方が、データが示す実態にフィットするのである。つまり投票率は、投票所がどこにあるか、投じたい候補者が当選しそうか否かなど、有権者のかなり自己中心的な態度によって決まっているということである。
さて次回(2012年6月13日掲載予定)は、投票所に行くかどうかという判断だけでなく、どの候補者に投票するかという判断でも、有権者がかなり「ヤバい」判断をしているという筆者(堀内)の最近の研究成果を紹介する。
参考文献
坂口利裕・和田淳一郎、“GISを活用した投票率の分析”「公共選択の研究」48号18ページ〜33ページ。(2007年)
Yusaku Horiuchi, 「Institutions, Incentives and Electoral Participation in Japan: Cross-Level and Cross-National Perspectives」, London and New York: Routledge.(2005年)
ヤバい政治学 データで分かる政治のウラ表
低投票率は、政治不信が原因なのか?有権者は、政党や候補者の政策に基づいて投票しているのか?一票の格差は、過疎地と過密地の権利の問題なのか?「ねじれ国会」は議案が通らなくて困るのか?――。
政治や選挙を巡るメディアの報道は、ステレオタイプの「政局報道」ばかりが目立つ。だがそこに、データを駆使した統計分析の手法を持ち込むと、全く違った現実が見えてくる。日本だけでなく世界の政治学界を舞台に研究活動を続ける気鋭の政治学者である筆者たちが、日本の政治に隠れた真実を、アカデミックかつスマートにあぶりだす。
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福元 健太郎(ふくもと・けんたろう)
学習院大学法学部教授。1972年生まれ。1995年東京大学法学部卒業。同助手、米ハーバード大学客員研究員などを経て現職。博士(東京大学、法学)。専門は政治学方法論、立法政治、日本政治。著書に『日本の国会政治』『立法の制度と過程』など。ホームページはこちら。http://www-cc.gakushuin.ac.jp/~e982440/
(写真:陶山 勉)
堀内 勇作(ほりうち・ゆうさく)
オーストラリア国立大学クローフォード公共政策研究大学院准教授。1991年慶応義塾大学経済学部卒業。1995年米エール大学経済学修士、2001年米マサチューセッツ工科大学(MIT)政治学博士(Ph.D.)。2012年7月から米ダートマス大学政治学部三井冠准教授。専門は比較政治学、計量政治学。
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