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東京電力の新しい経営計画「総合特別事業計画(総合計画)」が枝野幸男経済産業相に認定され(五月九日)、政府(原子力損害賠償支援機構)の一兆円の資本注入と実質的国有化が決まった。
総合計画では、東電の解体をにらんだ分社化の方向は示されているが、発送電分離に至る道筋は不明確で、東電をはじめ電力会社からの強い抵抗も予想される。最大の問題は、一般家庭の電気料金一〇・二八%の値上げと、新潟中越沖地震で稼働停止している「柏崎刈羽原発」(新潟県柏崎市と刈羽村)の再稼働をセットにしている点。再稼働を仮定した計画だけを示し、再稼働しない場合の具体的計画が抜け落ちていたことだ。
西澤俊夫社長は会見で「再稼働ありきの計画ではない」と強調したが、「再稼働できなかった場合の計画がないのはなぜか」という趣旨の質問が何度も出た。これに対し西澤氏は、次のような希望的観測を繰り返すだけだった。
「福島の事故を検証した最終報告書を来月中には提出し、『こういう手を打ってある』と説明します。積み重ねをしていくことで(新潟県民の方に)理解していただける道は開けると思っております」
原発再稼働に対しては嘉田由紀子・滋賀県知事をはじめ関西広域連合の知事らが反発。特に橋下徹大阪市長は、野田政権が大飯原発再稼働を決めた直後「民主党政権を倒す」と宣言した。こうした政治情勢や世論調査結果に目を向ければ再稼働できない場合の計画も作っておくのが当然だが、東電は原発事故前と同様、都合の悪い事態を「想定外」にしているのだ。
民間銀行の支援条件との矛盾も露呈した。すでに三井住友銀行などの取引銀行団は、東電への約一兆円の追加金融支援を政府の原子力損害賠償支援機構と合意しており、政府と二人三脚で東電を支える体制になっていた。だが、民間銀行の支援の条件には、原発再稼働が入っていた。であれば、東電は民間銀行に「再稼働がない場合もあります」と支援条件の変更を伝えておかないとおかしい。
しかし、この点を指摘されても西澤氏は「再稼働は総合計画に織り込んで(民間銀行に)見せている。再稼働できるように最大限努力をする」と答えをすり替えた。
東電の姿勢について、金子勝慶応大学教授はこう指摘する。
「電力会社は債務超過に陥って破綻処理(法的整理)となることを避けるため、安全無視で再稼働に邁進する傾向がある。東電はすでに債務超過となって実質的に潰れている。損害賠償費用の二・五兆円に加え一兆円の公的資金(合計で三・五兆円)が投入されることになっており、このままいけば、一〇兆円を超える税金がつぎ込まれかねない。一企業をずるずると生き延びさせる意味があるのか」
東電の延命は国民に莫大な負担を強いることに加え、再稼働によって国民生活を脅かす弊害もあるということだ。金子氏は、東電の新会長に賠償支援機構の下河辺和彦運営委員長が就任することも、問題視していた。
「公的資金注入をする原子力賠償支援機構は基本的にはレフリーであり、賠償支援機構の下河辺委員長がプレーヤーの東電の新会長となるのは非常に問題がある人事。銀行の不良債権問題よりもひどい処置体制だ」
弁護士でもある下河辺委員長に東電の新会長就任を打診したのが、司法修習生時代から昵懇の間柄とされる弁護士仲間の仙谷由人氏(下河辺氏は昵懇の間柄を否定)。
しかも原子力賠償支援機構の委員長起用も仙谷氏の抜擢人事とされる。仙谷氏自身も菅政権時代に官房副長官として、東電への公的資金の投入を可能とする賠償スキーム(通称“東電ゾンビスキーム”)の策定に尽力した。下河辺氏はまた、東電の財務状況を調べる「経営・財務調査委員会」委員長として「二〇一一年三月の財務状況は資産超過」という結論を出した。
東電延命スキームを作り原発再稼働にも熱心な仙谷氏と、債務超過ではないとお墨付きを与えた下河辺氏が牽引役となり、莫大な税金を投入しながら東電を延命させようとしているのだ。
(横田一・フリージャーナリスト、5月18日号)
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