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無罪復権!?小沢の時代はもう終わっている
http://president.jp/articles/-/6173
PRESIDENT 2012年6月4日号 飯島 勲 「リーダーの掟」
■小沢は、シロでなくグレーでもなく、クロ
小沢一郎が無罪になった。
東京地裁は4月26日、資金管理団体「陸山会」の土地購入をめぐる事件で、政治資金規正法違反(虚偽記載)罪で強制起訴された小沢に対して、無罪を言い渡した。無罪判決を聞いた「小沢チルドレン」たちが涙を流して喜んだという話も聞こえてきた。本人はすっかり免罪符を得たつもりで消費税法案での大量造反をほのめかし、政権への揺さぶりを始めている。永田町も小沢の“復権”で浮き足立ってきたようだが、これは茶番でしかないと思う。
通常、政治家がカネの問題などで被告となった場合、事前に「有罪」という感触をつかめば、裁判を長引かせる。逆に「無罪」であると確信すれば早期決着を図ることが多い。小沢のケースでは、先に秘書3人に対して執行猶予つき有罪判決が下されてから、小沢の公判の日程が変更になり、当初は3月中と見られていた裁判が4月末までずれ込んだ。これは間違いなく小沢の弁護側も「有罪」を予期していた証左だろう。しかし、判決は「無罪」。
しかし、私は声を大にして言いたい。裁判所が何と言おうと、自民党幹部が「小沢は限りなくクロに近いグレー」と言おうと、小沢はクロだ。
「無罪」とは言うものの、判決要旨をよく読めば、無罪になったのが不思議なほど、小沢の“罪”が詳しく認定されている。小沢の供述の変遷や「収支報告書は見ていない」という証言が「およそ信じられるものではない」と断じられ、「たとえ直接証拠がなかったとしても、4億円の簿外処理について、石川らの秘書が小沢に無断でやることはなく、小沢が関わっていたことは状況証拠で認定できる」とまで言われている。それでも「無罪」とされたのは、「共謀罪」について問われた裁判だったからだ。検察役となっていた弁護士が「ほとんど有罪じゃないか」と憤っていたが、その無念はよく理解できる。
私がクロだというのは、小沢はかつて不動産をめぐる民事裁判では完敗したことがあるからだ。2006年、「週刊現代」が、今回の事件と同じように、小沢本人のカネか陸山会のカネかをあいまいな状態にして、都心の一等地に多くの不動産を所有していたことを指摘した。小沢側は週刊現代を発行している講談社を名誉棄損で訴えたところ、一審の東京地裁も、控訴審の東京高裁も「記事の重要な部分は真実」と講談社側の主張を全面的に認めた。政治資金団体を利用して資産を増やす仕組みは、法に違反しているという“判例”があるのだ。
カネをめぐる事件では、裁判所は小沢のような有名政治家に対して甘い判決を下す一方で、民間人に対しては極めて厳しい。政治とカネとめぐる事件が起きるたびに、私はある事件を思い出す。
02年、経団連の会長も務めた元新日鉄社長の斎藤英四郎が90歳で亡くなった。2年後、長男で新日鉄常務だった斎藤英樹が約16億円分の相続税を脱税していたとして国税庁に告発された。英樹はすぐに修正申告を行い、重加算税分も含めて全額を納付。全面的に罪を認めたことから在宅起訴で済ませ終結したはずだった。
ここまではよくある話だ。しかし、数年後に突然検察は悪質な相続税脱税犯だとして斎藤英樹を逮捕。懲役1年8カ月、罰金1億6000万円の実刑判決を食らってしまう。新日鉄の常務まで務めた人間が社会から抹殺されてしまったのだ。
形式犯として扱われることの多い政治資金規正法違反と、脱税では問題が違うという人もいるかもしれない。しかし、民主党には、斎藤と同様に親から贈与(斎藤家の場合は相続)された巨額資産を隠して脱税しながら、罪には問われなかった鳩山由紀夫元首相という例もある。何年にもわたって、母親から毎月1500万円という信じられない額の「子ども手当」をもらい続けながら、修正申告だけでおとがめなしとなった。実刑となった斎藤の例と比べてみれば、あまりにも理不尽だ。
■三流政治家、涙の茶番にいつまでつきあうべきか
小沢はこれまで「政治家だから検察に狙われた」と主張してきたが、まったく逆だろう。民間人なら許されないことも、仕返しの怖い与党政治家だからと甘い基準ですり抜けた可能性がある。しかし、いまの小沢にどれほどの力が残っているのか。
私は、11年の菅首相に対する不信任案決議で小沢の影響力低下を感じた。前日までグループに所属する議員など80人近くを集めて会合を開いて実力を誇示したものの、採決当日に腰が引けて自主投票となった。小沢本人は本会議欠席という情けない結果に終わった。鳩山に至っては、前日の会合から2人しか集められなかった。結局、簡単に不信任案は否決され、菅の延命を許して国民を苦しめることになった。小沢も鳩山も「菅に騙された」と自分の実力の凋落を覆い隠すのがやっとだった。今回、小沢のために涙した議員も、自分の選挙に不利となれば平気で小沢を裏切ってきた過去がある。
これから民主党が生き残るにはどうするか。野田政権にとって、小沢が党内にいることのメリットは皆無だ。小沢の政治姿勢が権力を手に入れること、その一点にしかないので、将来共存できる見込みもない。小沢グループと小沢を分断したうえで、小沢だけを除名するのが政権にとっての最高のシナリオとなる。
もし、小沢が消費税法案に反対するならば、除名への大義名分ができる。そしてグループの小沢チルドレンたちに「除名された小沢についていって選挙のプラスになるのか」と聞いてみればいい。小沢について党を出ても、新党ができなければ無所属候補となり、圧倒的に不利になる。新党を立ち上げるには資金が必要だが、いまの小沢に潤沢な資金が準備できるかは微妙。あの豊富な不動産を売却するのなら別だが、そこまでするとは思えない。
小沢を排除できれば、自民党と手を組んで念願の大連立も可能になる。参院も多数派となり、政局も安定する。実際に水面下では「野田総理、谷垣副総理」のシナリオが進んでいる。誰が考えても、小沢を切り捨てて自民党と握手したほうが利口だろう。有罪判決が出ていれば、野田総理も吹っ切れたのだろうが、結果は無罪。やりにくいことはわかるが、今後も小沢を無視し、キレさせて出ていかせるのが一番正しい選択だ。選挙に弱く、お金もない小沢グループの議員が小沢と命運をともにすることはない。
解散の可能性についても触れておく。
12年9月に民主党代表選挙、自民党総裁選挙が行われる。野田総理が8月中に総選挙を行い、現状の政党支持率とそう変わらないままで投票日を迎えるとすれば、定数480の衆議院で、自民党が200議席を切るものの比較第一党、民主党も同等の勢力、維新の会などの中間勢力が80議席超を獲得することになる。もし小沢グループが集団で離党しても、第三極を担える可能性は極めて低い。
野党提出の不信任案に、小沢グループが同調しても、自民党・公明党が総選挙後に小沢グループと連立を組む可能性はない。大義名分がないのだ。
涙まで流す三流政治家の茶番をテレビで観て、小沢復権の印象を受けたかもしれないが、これまで述べたように小沢の時代はもう終わっている。
(文中敬称略)
※すべて雑誌掲載当時
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