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「尖閣諸島購入」問題の陥穽
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> ―なぜ3島なのか?―
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> 豊下楢彦(関西学院大教授)
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> 石原東京都知事が、尖閣諸島のうち個人所有の3島を都として購入する方針を明ら
> かにしたことで、その狙いや賛否をめぐり議論百出の状態である。しかし、問題の本
> 質をえぐった議論は提起されていない。
>
> 石原氏は購入の対象として魚釣島、北小島、南小島の3島を挙げている。しかし、
> 同じく個人所有の久場島については全く触れていない。なぜ久場島を購入対象から外
> すのであろうか。その答えは同島が、国有地の大正島と同じく米軍の管理下にあるか
> らである。海上保安本部の公式文書によれば、これら2島は「射爆撃場」として米軍
> に提供され、「米軍の許可」なしには日本人が立ち入れない区域になっているのであ
> る。
>
> それでは、これら2島で米軍の訓練は実施されているのであろうか。実は1979年以
> 来30年以上にわたり全く使用されていないのである。にもかかわらず歴代政権は、久
> 場島の返還を要求するどころか、高い賃料で借り上げて米軍に提供するという「無駄
> な行為」を繰り返してきたのである。ちなみに、1昨年9月に中国漁船が「領海侵犯」
> したのが、この久場島であった。それでは事件当時、同島を管轄する米軍はいかに対
> 応したのであろうか。果たして、米軍の「抑止力」は機能していたのであろうか。
>
> より本質的な問題がある。それは、他ならぬ米国が尖閣諸島の帰属のありかについ
> て「中立の立場」をとっていることである。久場島と大正島の2島を訓練場として日
> 本から提供されていながら、これほど無責任な話があるであろうか。なぜ日本政府
> は、かくも理不尽な米国の態度を黙認してきたのであろうか。
>
> 言うまでもなく日本政府は一貫して、「尖閣諸島は日本固有の領土であり、領土問題
> などは存在しない」と主張してきた。ところが米国は、1971年に中国が公式に領有権
> を主張して以来、尖閣諸島について事実上「領土問題は存在する」との立場をとり続
> けてきたのである。しかも中国は、こうした日米間の亀裂を徹底的に突いてきている
> のである。
>
> とすれば、日本がなすべき喫緊の課題は明白であろう。尖閣5島のうち2島を提供し
> ている米国に、帰属のありかについて明確な立場をとらせることである。米政府をし
> て、尖閣諸島が「日本固有の領土である」と内外に公言させることである。これこそ
> が、中国の攻勢に対処する場合の最重要課題である。これに比すならば、「3島購
> 入」などは瑣末の問題にすぎない。
>
> しかし、仮に同盟国である米国さえ日本の主張を拒否するのであれば、尖閣問題が事
> 実として「領土問題」となっていることを認めざるを得ないであろう。その場合に
> は、日中国交正常化以来の両国間の「外交的知恵」である「問題の棚上げ」に立ち返
> り、漁業や資源問題などで交渉の場を設定し妥結をめざすべきである。いずれにせ
> よ、石原氏が打ち上げた「尖閣諸島購入」という威勢の良い「領土ナショナリズム」
> は、結局のところ、「中立の立場」という無責任きわまりない米国の立ち位置を覆い
> 隠す役割を担っているのである。
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