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今回で、2008年7月8日に前連載「政局LIVEアナリティクス」をスタートして、通算100回目の論考となる。これからも通説に捉われず批判精神を持って、国内外のさまざまな出来事を斬っていきたい。よろしくお願いいたします。
小沢一郎氏「復権」で、消費増税の対立軸が鮮明化:
政界再編の千載一遇のチャンス
政治資金規正法違反事件で東京地検から無罪判決を受けた小沢一郎元民主党代表の党員資格停止処分解除が決定した。消費増税に反対している小沢グループが勢いづくのは確実だ。ますます存在感を増す橋下徹大阪市長率いる「維新の会」とともに、小沢グループが野田佳彦首相の目指す消費増税実現の「最後の不確定要素」(第30回を参照のこと)として浮上してきた。
野田首相は、「消費税率当面10%」を掲げている自民党の協力を期待している。だが、自民党はバラマキ4K(「子ども手当」「高速道路無料化」「高校無償化」「戸別農家の所得補償」)など民主党のマニフェスト政策の撤回、全額税方式の最低保障年金創設の撤回、幼保一体化の撤回、後期高齢者医療制度の維持などを強硬に主張している。また、石原伸晃幹事長が「野田首相が『小沢一郎元代表を斬るので協力してくれ』と言って党内をまとめれば消費増税法案に賛成できる」と発言した。野田内閣に無理難題を吹っかけて、一挙に解散総選挙に追い込もうとしているようだ。
だが、野田内閣は自民党の無理難題を躊躇なく受け入れるだろうし、政権交代のリスクが高い解散総選挙にも迷いがないだろう。野田首相、岡田克也副総理、前原誠司政調会長らは、小沢グループや旧社民党系が作成した「欧州社会民主主義的」なマニフェスト政策に特段の思い入れはないし、「一内閣、一仕事」を政治信条とする野田首相は、自らの「一仕事」として消費増税が実現するなら政権の座に固執する気もないからだ(第33回を参照のこと)。
自民党も、野田政権に無理難題を吹っ掛けているようにみえて、実は消費増税だけには反対していない。自民党と財務省が水面下で協議を始めているのも明らかだ。近いうちに野田内閣と自民党が協力できる条件が整う。小沢元代表の「復権」は、消費増税を巡る対立軸を鮮明にした。「増税VS反増税」の政界再編へと、一挙に進む可能性が出てきたといえる。
この連載では、現行の小選挙区制・二大政党制下での「政界再編」実現の困難さを指摘してきた(第1回を参照のこと)。現行制度下では、大政党からの離脱は即、選挙での落選リスク増大となるので、政治家の多くが大政党の公認候補の座にしがみつき、政策ごとに政治家が集まる動きは広がらなかった。しかし、「剛腕」小沢一郎復権で、これまで二大政党の枠の中で、些細な違いを争い、足を引っ張り合ってきた政治家が「本当の敵」に気付く時が来た。「政界再編」の千載一遇のチャンスが到来したといえる。
旧態依然の自民党が
政界再編実現のネックとなっている
「政界再編」実現のネックとなるのは、一見有利な立場の自民党だろう。自民党の石原幹事長、茂木敏充政調会長、石破茂前政調会長らは、野田首相、岡田副首相、前原政調会長らと同世代で、政策志向も基本的に一致している、いわば「野田世代」だ。しかし、石原幹事長らは、党内の主導権を完全に掌握していない。民主党が、野田内閣誕生で「世代交代」を成し遂げた一方で、自民党はまだ「世代交代」が完了していないのだ。
自民党を支配するのは、谷垣禎一総裁を取り巻く派閥領袖などのベテラン政治家だ。自民党は政権を失った後、「政権交代のある民主主義」に対応する政党へ脱皮すべきだった(前連載第31回を参照のこと)。だが、民主党政権の失策の数々もあり、ベテラン政治家が一刻も早く政権復帰したいと考えてしまった。その結果、「世代交代」による抜本的な党改革は抑えられ、政策もベテラン政治家の「利益誘導政治」への強いノスタルジーを反映して旧態依然としたままとなった。
社会保障政策では、年金抜本改革を掲げる民主党との違いを際立たせようとしている。だが、それは年金制度を基本的に現行制度のままとした上で、無年金、低年金対策を改めることが柱とした政策だ。しかし、自民党政権時代に「100年安心」と主張した現行制度は、完全に国民の信頼を失ってしまったものだ。
また、次期衆院選の「マニフェスト原案」では、「TPP参加問題」や原子力発電の方向性を中心とする「エネルギー政策」などで曖昧な記述が目立っている。TPPについては「聖域なき関税撤廃を前提にした交渉参加に反対」としている。TPP反対を訴える族議員が、かつて自民党と共に自由貿易を推進してきたはずの財界代表に、罵声を浴びせ続けている。
原子力政策に関しては、「今後の原子力の未来を決める10年に国民的議論を行い、結論を出す」としている。しかし、議論の時期も方向性も明示されず、「10年先送りするのか」と批判されている。言うまでもなく、かつて自民党政権は原発推進だった。だが、福島第一原発事故後、どのように政策を転換するのか、いまだに方向性が固まっていない。いずれも、族議員による反対の大合唱を抑えて、大所高所から政策を決断してきた、かつての自民党の姿はどこにも見られなくなってしまっている。
自民党にとって最も深刻な
「沖縄基地問題」
そして、自民党にとって最も深刻なのが「沖縄基地問題」だ。2年前、鳩山由紀夫内閣が、「普天間基地移設問題」を決着できずに退陣した。だが筆者は、中長期的に見て、「決着先送り」は必ずしも民主党政権に不利ではないと論じた(第49回を参照のこと)。鳩山首相の動きで、自民党など「現行案」の見直しに反対してきた勢力に、都合が悪い状況が生じ始めていると考えたからだった。それは、沖縄基地問題の本質が「普天間基地移設」だけではなく、「沖縄全体の負担をどう軽減」するかに変質してしまったことだ。
鳩山内閣が退陣せず、6月以降も交渉を継続させて、沖縄県の負担軽減への努力を続けていれば、「現行案がベスト」の一点張りの自民党は、沖縄県民に無為無策ぶりを批判されて、次第に追い込まれてしまっていただろう。鳩山内閣は政権を投げ出さず、もう少し粘り強く取り組めばよかったのにと、今でも思う。
だが、野田政権で沖縄基地問題は遂に動き出した。日米両政府が、在沖縄海兵隊のグアム移設や嘉手納以南の米軍施設の返還を、普天間基地移設から切り離し、沖縄の負担軽減を優先する方針を決定したのだ。一方、自民党はいまだに「現行案堅持」以外に政策がない。このままでは、いずれ沖縄の怒りは自民党に向いてしまうだろう。2年前に指摘した、自民党にとって深刻な状況が出現しつつあるのだ。だが、自民党は参院で問責を受けた田中直紀防衛相の続投で、在日米軍再編計画見直しの委員会審議自体を拒否してしまっている。
「野田世代」に対する
国際的な評価が高まっている
沖縄基地問題が前進し始めた背景には、米国側の事情がある。軍事的な台頭が著しい中国のミサイルによるリスクをできるだけ避けるため、在沖縄米軍の中核といえる海兵隊の多くをグアムなど「近すぎず遠すぎない」場所に引くとともに、分散させる必要があるのだ。また、米議会が凍結しているグアム移転経費解除を狙う意図もある。だが、これら米国側の事情に加えて、米国が野田内閣を「話ができる相手」と評価したという側面もある。特に、野田首相の財政再建への断固たる姿勢、TPP推進の強い意思表示が、諸外国に好印象を与えていると考えられる。
大型連休中には、バラク・オバマ大統領と野田首相の日米首脳会談が行われた。共同声明では、安全保障を重視し、「動的防衛力の構築」が明記された。これは、自衛隊と米軍によるグアムや米自治領・北マリアナ諸島のテニアン島での共同訓練や施設の共同使用によって、警戒監視や偵察活動を強化し、緊急事態への対処能力向上を目指すものだ。
また、共同声明ではTPP参加問題にも触れ、日本の交渉参加に向けた米国との事前協議の推進を目指すことが明記された。その他にも、アジア太平洋地域の貿易・投資に関する高水準のルール作りの主導、再生可能エネルギー源の開発や原子力エネルギーの安全・安心利用に関する協力、エネルギー安全保障に関する協力なども打ち出された。安全保障・経済の両面で日米が共同歩調をとり、中国を取り込んだアジア太平洋地域の新たな秩序作りを進める方向を明確に示したものだといえる。
また、野田政権は日露関係も改善している。この連載では、ロシアがシベリアにおける中国の影響力拡大に強い警戒感を持ち、シベリア開発は中国よりも、むしろ日本と協力関係を築きたい意向を持つと指摘してきた(前連載第18回を参照のこと)。メドベージェフ大統領時代、北方領土問題でロシアは日本を挑発し続けたが、それは中露が手を組んだのではなかった。日本がシベリア開発になんの戦略を持たず、ロシアになにも提案しないこと対して、「目を覚ませ!」とメッセージを送り続けていたのだ(前連載第59回を参照のこと)。
だが、野田首相は、北方領土問題で、プーチン首相の次期大統領就任に際し、ロシアとの戦略的提携を強化し、北方領土問題を解決するという意欲を強く示した。これをロシア側に肯定的に受け止めたようだ。ロシアの対日姿勢は明らかに変化している。大型連休中に前原政調会長がモスクワ市内でロシア国営ガス企業・ガスプロム副社長と会談した。日本向けガスパイプライン敷設の可能性について、今後協議を続けることで合意した。野田首相や前原政調会長の姿勢を、プーチン大統領は「話せる相手」だと高く評価しているといえる。
しかし、なぜ米露は政権基盤がぜい弱で不安定な野田政権を相手に外交を進めようとしているのだろうか。それは、民主・自民の「野田世代」に対する「信頼感」ではないかと考える。米露は、たとえ野田政権が退陣しても、同じく「話せる相手」と考えられる自民党の「野田世代」が政権を引き継げば、外交の継続性が保たれると考えているのだ。
更に言えば、民主・自民の「野田世代」が合流して小沢グループと分かれる「政界再編」への期待もあるはずだ。だから、いつ政権交代が起こるかわからないのに、米露は日本に対する外交的布石を打ち始めているのだ。
自民党の「野田世代」は、世代交代を成し遂げ、
「政界再編」へ行動せよ
現在、自民党内では「野田世代」の林芳正政調会長代理を中心に社会保障改革について独自の対案を策定中だという。水面下では、この案を野田政権が丸飲みして政府修正案とするウルトラCが画策されているという話もある。これを機に、自民党の「野田世代」は、ベテランから意思決定の主導権を奪って「世代交代」を成し遂げ、一挙に「政界再編」へ動くべきではないだろうか。今、変わるべきは自民党なのである
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