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【オピニオン】
王になるべき男 橋下大阪市長
2012年 5月 3日 17:13 JST
「ファシスト」「独裁者」「ポピュリスト」「ペテン師」「軍国主義者」「ヒトラー」さらには「プーチン」まで。日本の政治の舞台で急激に発言力を高めてきた橋下徹大阪市長はさまざまな呼ばれ方をしてきた。辛辣な批判にさらされるのはなぜか。これは主に、橋下氏が正しいことをしている証拠だろう。橋下氏の公約と選挙での勝利は、日本の政治の病巣とも言うべき、党内結束、説明責任、政策の競争などの欠如を突いている。現職の議員たちがこの野心的な市長をどんな言葉で中傷しようと、より「決断力がある民主主義」を確立するための橋下氏のプログラムほど期待が持てるものは、この数年間他になかったかもしれない。
42歳の弁護士の政界での台頭は、泥沼化している国政に嫌気がさした有権者に後押しされた。日本の戦後の政治は概して、政党とその政治綱領がはっきりしない、政治恩顧主義的、候補者中心的なものだった。改革論者たちは何年にもわたって英国政治の理想形、つまり責任ある二大政党が競い合うウエストミンスター・モデルを再現しようとしてきた。
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Zuma Press
橋下徹大阪市長
1990年代には選挙制度や政治資金規制法の改正が行われ、2009年には民主党が長く与党に君臨していた自民党から政権を奪ったが、二大政党制への移行は終わっていない。民主党政権発足からの3年間で3人の首相が誕生したが、その成果に有権者は大いに失望している。内輪もめ、公約の撤回もそうだが、なによりもひどいのは中央省庁に対する指導力のなさを露呈してきたことだ。大きな自然災害に見舞われた昨年、政治的指導力はまたしても発揮されなかった。
そこで橋下氏の登場となる。同氏が最初に権力を手にしたのは、中央政府からより大きな権限をもぎ取り、疲弊している地元大阪を再建するという公約で立候補した2008年の大阪知事選だった。地方自治権の拡大に関して東京の主流政党からいくつかの譲歩を勝ち取ると、橋下氏は2010年に自らの政党「維新の会」を立ち上げた。同政党はすでに次の国政選挙で候補者を立てる準備をしており、厚かましくも衆議院で過半数の議席獲得を目指している。世論調査によると、橋下氏の国政進出計画を支持する全国の有権者は60%以上に達する。
一方で、民主党、自民党への支持率は10%台前半となっている。さまざまな調査の結果は、大阪を中心とした関西地域で維新の会が民主党、自民党を圧倒することを示唆している。
主流政党の候補者たちは、その真価がまだ問われていないポピュリストだとして橋下氏を痛烈に批判しているが、同氏は改革を実行できる立場にある。大阪の有権者は、利益団体の優遇を約束する普通の政治家と違って幅広い政策課題に目を向けている橋下氏を評価している。維新の会は公共部門の改革、行政組織の再編成といった具体的な公約を掲げて選挙を戦ってきた。新興政党にありがちな内部からの反乱や離党といった問題も今のところは起きていない。
こうした決断力を行使できるのは、橋下氏が誰かに祭り上げられたテクノクラートではなく、直接選挙で選ばれた行政のトップであり、自ら立ち上げた党の党首だからだ。橋下氏が過去のほとんどの改革推進派市長・知事らと違うのは、明確な政策課題を持った規律ある政党を立ち上げることで、大阪市議会内に強い支持を築き上げたところである。同氏はこの戦略を国政レベルでも再現しようとしている。
現職議員たちは橋下氏を民主主義の敵と称して激しく反撃してきた。今年3月、自民党の谷垣禎一総裁は、橋下氏とその台頭ぶりについて、議会政治が麻痺した際の戦前の日本軍部やヒトラー、ムソリーニの台頭を想起させると語った。北海道大学の山口二郎教授のような左派の学者たちは、同氏の政治をファシズムにかけて「ハシズム」と呼んでいる。山口教授は橋下氏の政治手法を「軍隊的官僚主義と競争原理主義」と主張している。
こうした攻撃は日本の公共言説に存在する特定の偏見を反映している。政治的指導力や断固たる行動の欠如に対する不満をよく耳にする反面、大多数に支持されている合法的なものでさえ、「反民主主義的」だと思われることが多い。本来、民主的統治とは、下位から上位にコンセンサスを積み上げていき、徐々に変えていくものである。議会の多数派が少数派の異議を退けることや党の規律は戦前の軍国主義者たちの圧政に等しいと批判されることが多いのだ。
これに対し橋下氏は、「決断力のある民主主義」という考え方で対抗した。同氏は人気のツイッターなどで、辛抱強く自分の意見を主張してきた。4月初め、橋下氏は「日本の政治が機能するためには、選挙結果を尊重する=多数決を尊重する文化を根付かせること」とツイッターでつぶやいている。
そうした説明責任と決断力を実現するために、橋下氏は多くの構造改革を提案してきた。150年前に実行された一連の抜本的な改革、明治維新から借用して自らの党に「維新の会」と名付けた橋下氏は、この国を「維新」すると約束している。そうした改革案には、無駄な中央省庁を解体してその権限を分散させ、より強力な地方自治体を作ること、衆議院で可決された法案の通過を阻止したり遅らせたりする参議院を廃止し、憲法改正の障壁を低くすることなどが含まれている。
橋下氏の改革案には驚くほどブレがない。その目的は中央政府と地方自治体の役割をはっきりとさせること、政治的権限の多くを地理的に再分配すること、行政のあらゆるレベルで説明責任を重くし、決断力の強化を図ることである。これが実現すれば、より迅速に対応する地方自治体のあいだに有意義な競争が生まれるきっかけとなるだろう。
橋下氏は毎週のように、これまでの日本では敵に回すことがタブー視されてきた利益団体を標的にしている。原子力産業、日教組、公共交通機関、地元議会、さらにはパチンコ店(橋下氏のカジノ誘致構想は業界にとって脅威となる)といった具合に。橋下氏が大阪で成功したように、こうした団体へのフラストレーションを利用して全国の無党派層を束ねることができるかどうかはまだ不透明である。
(筆者のヒジノ ケン・ビクター・レオナード氏は慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科の准教授で元ジャーナリスト)
記者: Ken Hijino
http://jp.wsj.com/Japan/Politics/node_437104?mod=WSJFeatures
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