http://www.asyura2.com/12/senkyo129/msg/563.html
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Nothing Ventured, Nothing Gained. 04/28/2012
http://esquire.air-nifty.com/blog/2012/04/post-279f.html
小沢判決の解説・評価と往生際の悪いマスメディア
既に多くのメディアが取り上げているが、東京地裁の小沢一郎氏に対する無罪判決について、取り上げたいと思う。小沢判決の全文は公開されていないので、NHKの判決骨子に従い、小沢判決の評価とそれを報道するマスメディアの姿勢を検証してみたい。
まず、小沢判決に対する評価であるが、他のメディアの引用は判決理由の原文から遠ざかった意図的なものが多く、判決理由を検証する上では不適切であるため、少なくとも他のメディアよりはマシに思える以下、引用はNHKのHPの判決骨子より行うこととする。
もっとも、小沢氏は判決全文を公表して、歪んだ形で判決内容が伝わらないようにした方が良いと個人的には思う(つまり、公開するということは小沢氏にとっても判決内容を歪めて有利な解釈ができないことを意味するが、無罪判決であることを考えれば、公開するする方がはるかに小沢氏の政治活動において有益であると思うが)。
1.公訴棄却の主張についての判断
まず、公訴棄却の主張に関する部分の判断につき、私見を述べたい。
公訴棄却の申立てに対する判断
〔公訴事実全部に係る公訴棄却の申立てについて〕
弁護人は、東京地検特捜部の検察官が、起訴相当議決を受けての再捜査において、石川を取り調べ、威迫と利益誘導によって、被告人の関与を認める旨の供述調書を作成した上、内容虚偽の捜査報告書を作成し、特捜部は、同供述調書と同捜査報告書を併せて検察審査会に送付し、このような偽計行為により、検察審査員をして、錯誤に陥らせ、本件起訴議決をさせたこと等を理由として、起訴議決が無効であり、公訴棄却事由がある旨主張している。
しかし、検察官が任意性に疑いのある供述調書や事実に反する内容の捜査報告書を作成し、送付したとしても、検察審査会における審査手続きに違法があるとはいえず、また、起訴議決が無効であるとする法的根拠にも欠ける。
また、検察審査員の錯誤等を審理、判断の対象とすることは、会議の秘密に照らして相当でなく、実行可能性にも疑問がある。
したがって、本件公訴提起の手続がその規定に違反して無効であると解することはできないから、検察官の意図等弁護人が主張している事実の存否について判断するまでもなく、公訴棄却の申立ては、理由がない。
ここで、判決が指摘しているのは、「任意性に疑いのある供述証拠」や「事実に反する内容の捜査報告書」といった違法証拠があり、それが検察審査会に送付されて、判断の基礎となったとしても、それが直ちに、検察審査会における手続違反に当たらないということである。
つまり、@検察審査会がたとえ、素人である一般市民により構成されているとしても、そこに出された証拠の違法性や信用力についても当然検討がなされるべきなのであって、それを踏まえて、検察審査会は検察の不起訴判断が相当であるのか、不相当であるのか、それとも起訴すべきとする起訴相当と判断するのかを職責とするのであるから、検察審査会の手続そのものに瑕疵があった場合は別として、そうでなければ、判断そのものが違法ということにはならないと理解しているようである。
そして、判決は、A審査員が適法な証拠だという誤解をした上で判断していたとしても、誤解をしていたかどうかについては、審査会における審議内容が秘密にされているのであるから、判断はできないと述べている。
この点、@の指摘は、まさにその通りというべきであろう。
逆を言えば、検察審査会の審査員に選任された場合には、検察が不起訴とした事案であるだけに、審査員も、証拠が違法である可能性も含めて証拠の評価し、審議することが要求されているということである。
公訴の提起については、検察官に独占させるという起訴独占主義の例外である強制起訴という制度からすれば、検察審査会員の職責がそれほど重いものであるという理解をするのは当然であろう。この制度が妥当であるか否かという立法論は置いておくとして、東京地裁の判決の理解は極めて妥当なものといえる。
次に、Aの部分であるが、ここは賛否分かれるのではなかろうか。
起訴の判断における会議の秘密性ということを重視すれば、判決の通りの結論になろう。
しかし、会議の秘密ということのみを重視してしまうと、検察審査会の判断そのものを争う方法は実質的に無くなってしまうことを意味するのではなかろうか。
つまり、強制起訴された被告としては、自身の有罪・無罪を争う他なく、検察審査会の判断の適法性を争う手段としては、無罪判決を受けた上で、国賠請求をするくらいしかできないように思われる(最決22年11月25日民集64・8・1951により、行政訴訟による処分の取消訴訟及び執行停止の申し立てについては、不適法却下されているので、行訴による争いもできない。)。
もちろん、国賠については、処分の違法が国賠違法というイコールの関係ではないから、審査会員が、職務上の注意義務に違反して、違法な判断をしたという立証を原告が負担しなければならなくなる。
したがって、強制起訴された者は、無罪判決を目指す以外の方法はないことを意味する。
ただ、これは検察官の起訴の判断についても同じことがいえるのであって、特段今までとかわらないといえばそうであろうが、検察審査会が法律のプロにより構成されるものではない、いわば、素人集団であることにかんがみれば、その判断の違法性を争う手段が刑事での無罪獲得にしかないとするのは、強制起訴された者にとって酷な気がする。
〔公訴事実第1の1に係る公訴棄却の申立てについて〕弁護人は、公訴事実第1の1の事実について、起訴相当議決がされておらず、検察官の不起訴処分もされていないのに、起訴議決の段階に至って、突然、起訴すべき事実として取り上げられていることを理由として、同事実に係る起訴議決には重大な瑕疵があり、公訴棄却事由がある旨主張している。しかし、公訴事実第1の1の事実は、同第1の2及び3の事実と同一性を有するから、起訴相当議決や不起訴処分の対象にされていたと解することができる上、実質的にみても、捜査又は審査及び判断の対象にされていたと認められるから、起訴議決に瑕疵があるとはいえず、本件公訴提起がその規定に違反して無効であるということもできない。公訴事実第1の1に係る公訴棄却の申立ては、理由がない。
次に、この判示部分であるが、この部分は、公訴事実の同一性を根拠にする判断である。弁護人としては、公訴事実第1の1の事実と同第1の2及び3の事実とは、同一性がないという前提の主張をしたのであろうが、それを裁判所は認めなかったということである。
ただ、この判決は、同一性を欠く場合には起訴決議が無効になりえることを認めている。
2.借入金に当たるかという点の判断
争点に対する判断〔収支報告書の記載内容〕平成16年分の収支報告書には、本件4億円は記載されておらず、りそな4億円のみが記載されている。本件土地の取得及び取得費の支出は、平成16年分の収支報告書には計上されず、平成17年分の収支報告書に計上されている。
〔本件預金担保貸付、りそな4億円の転貸の目的〕
石川が、本件4億円を本件売買の決済に充てず、本件預金担保貸付を受け、りそな4億円の転貸を受けた目的は、本件4億円が本件土地の取得原資として被告人の個人資産から陸山会に提供された事実が、収支報告書等の公表によって対外的に明らかとなることを避けるため、本件土地の取得原資は金融機関から調達したりそな4億円であるとの対外的な説明を可能とする外形作りをすることにあった(このような本件預金担保貸付の目的を「本件4億円の簿外処理」という)。
石川が、本件4億円の簿外処理を意図した主な動機は、本件土地の取得原資が被告人の個人資産から提供された事実が対外的に明らかになることで、マスメディア等から追求的な取材や批判的な報道を招く等して、被告人が政治的に不利益を被る可能性を避けるためであった。
〔本件合意書の目的〕
石川が、本件売買契約の内容を変更し、所有権移転登記について本登記を平成17年1月7日に遅らせる旨の本件合意書を作成した目的は、陸山会が本件土地を取得し、その購入代金等の取得費を支出したことを、平成16年分の収支報告書には計上せず、1年間遅らせた平成17年分の収支報告書に計上して公表するための口実を作ることにあった(このような本件合意書の目的を、「本件土地公表の先送り」という)。
石川が、本件土地公表の先送りを意図した主な動機は、本件土地の取得が収支報告書で公表され、マスメディア等から追求的な取材や批判的な報道を招く等して、被告人が政治的に不利益を被る可能性を避けるためであり、これに加え、本件4億円の簿外処理から生じる収支報告書上のつじつま合わせの時間を確保することも背景にあった。
〔本件土地の所有権移転時期及び収支報告書における計上時期〕
本件土地の所有権は、本件売買契約に従い、平成16年10月29日、陸山会に移転した。
石川は、本件土地公表の先送りを実現するために、本件土地の売主と交渉したが、不成功に終わり、本件土地の所有権の移転時期を遅らせるという石川らの意図は、実現しなかったというべきである。
本件合意書は、所有権移転登記について本登記の時期を平成17年1月7日に遅らせただけであり、本件売買契約を売買予約に変更するものとは認められない。
陸山会は、平成16年10月29日に本件土地を取得した旨を、平成16年分の収支報告書に計上すべきであり、この計上を欠く平成16年分の収支報告書の記載は、記載すべき事項の不記載に当たり、平成17年1月7日に取得した旨の平成17年分の収支報告書の記載は、虚偽の記入に当たる。
〔収支報告書における本件土地の取得費等の計上時期〕
平成16年10月5日および同月29日、本件土地の売買に関して陸山会から支出された合計3億5261万6788円は、本件土地の取得費として、平成16年分の収支報告書において、事務所費に区分される支出として、計上すべきである。
これを計上しない平成16年分の収支報告書の記載及びこれを平成17年の支出として計上した平成17年分の収支報告書の記載は、いずれも虚偽の記入に当たる。
〔本件4億円の収入計上の要否〕
被告人が、平成16年10月12日、本件4億円を石川に交付した際、被告人は、陸山会において、本件4億円を本件土地の購入資金等として、費消することを許容しており、石川も本件4億円を本件土地の購入資金等に充てるつもりであった。
本件4億円は、陸山会の一般財産に混入している上、資金の流れを実質的に評価しても、その相当部分は本件土地の取得費として費消されたと認められる。
また、本件定期預金は、被告人ではなく、陸山会に帰属するものと認められるから、本件4億円が、被告人に帰属する本件定期預金の原資とされたことを理由に、借入金にならない旨の弁護人の主張は、採用できない。
本件4億円は、本件土地の取得費等に費消されたものと認められ、りそな4億円は、陸山会の資金繰り等に費消されているから、このいずれも被告人からの借入金として計上する必要がある。
したがって、本件4億円は、陸山会の被告人からの借入金であり、収入として計上する必要があるから、本件4億円を収入として計上していない平成16年分の収支報告書の記載は、虚偽の記入に当たる。
判決は、秘書の行為が虚偽記入行為に当たるとの認定をしている。
判決が陸山回の一般財産に混入していることなど客観的な事情から、帰属先を認定しているのは妥当であって、そこから、帰属先が陸山会であり、小沢ではないから、借入金に当たるという事実認定の結論も特段おかしいものではない。
3.小沢氏の認識と共謀の成否について
〔被告人の故意・共謀〕関係5団体における経理事務や日常的、定型的な取引の処理を含め、社会一般の組織関係や雇用関係であれば、部下や被用者が上司や雇用者に報告し、了承を受けて実行するはずの事柄であっても、石川ら秘書と被告人の間では、このような報告、了承がされないことがあり得る。
しかし、被告人の政治的立場や、金額の大きい経済的利害に関わるような事柄については、石川ら秘書は、自ら判断できるはずがなく、被告人に無断で決定し、実行することはできないはずであるから、このような事柄については、石川ら秘書は、被告人に報告し、了承の下で実行したのでなければ、不自然といえる。
本件土地公表の先送りや本件4億円の簿外処理について、石川ら秘書が、被告人に無断でこれを行うはずはなく、具体的な謀議を認定するに足りる直接証拠がなくても、被告人が、これらの方針について報告を受け、あるいは、詳細な説明を受けるまでもなく、当然のことと認識した上で、了承していたことは、状況証拠に照らして、認定することができる。
この判決理由の注目されている部分の1つである。
判決は、4億円という大金が動いていること、土地の購入という経済的利害にかかわることからすれば、小沢氏が何らかの形で、土地購入を先送りするということ、及び簿外処理をするということについて、知っていたことは推認できるという判断をしている。
ここは小沢氏の主張とは相いれない部分ではあるが、どのような大物政治家であっても、4億円の大金が動き、不動産の購入をするというときに、それに全く関知しないというのは、常識的に考えられないことである。
4億円という大金を動かす以上、小沢氏が全くこれに関知しておらず、すべて秘書に任せており何も知らないということは、経験則に照らして、到底受け入れられない。
そうであるとすれば、少なくとも、判決が認定するような認識及び了承はあったと推認できるのであって、この判断は社会通念に照らして正当な事実認定であるといえる。
さらに、被告人は、平成16年分の収支報告書において、本件4億円が借入金として収入に計上されず、本件土地の取得及び取得費の支出が計上されないこと、平成17年分の収支報告書において、本件土地の取得及び取得費の支出が計上されることも、石川や池田から報告を受け、了承していたと認定することができる。
しかし、@被告人は、本件合意書の内容や交渉経緯、本件売買契約の決済日を変更できず、そのまま決済されて、平成16年中に本件土地の所有権が陸山会に移転し、取得費の支出等もされたこと等を認識せず、本件土地の取得及び取得費の支出が平成17年に先送りされたと認識していた可能性があり、したがって、本件土地の取得及び取得費の支出を平成16年分の収支報告書に計上すべきであり、平成17年分の収支報告書には計上すべきでなかったことを認識していなかった可能性がある。
また、A被告人は、本件4億円の代わりにりそな4億円が本件土地の購入資金に充てられて借入金になり、本件4億円を原資として設定された本件定期預金は、被告人のために費消されずに確保されると認識した可能性があり、かえって、本件4億円が、陸山会の一般財産に混入し、本件売買の決済等で費消されたことや、本件定期預金が実際には陸山会に帰属する資産であり、被告人のために確保されるとは限らず、いずれ解約されて陸山会の資金繰りに費消される可能性があること等の事情は認識せず、したがって、本件4億円を借入金として収支報告書に計上する必要性を認識しなかった可能性がある。
これらの認識は、被告人に対し、本件土地公表の先送りや本件4億円の簿外処理に関し、収支報告書における虚偽記入ないし記載すべき事項の不記載の共謀共同正犯として、故意責任を問うために必要な要件である。
このような被告人の故意について、十分な立証がされたと認められることはできず、合理的な疑いが残る。
本件公訴事実について被告人の故意及び石川ら実行行為者との共謀を認めることはできない。
上記2点の判断がこの判決で最も重要であることは、言うまでもない。
まず、@についてだが、「被告人は、本件合意書の内容や交渉経緯、本件売買契約の決済日を変更できず、そのまま決済されて、平成16年中に本件土地の所有権が陸山会に移転し、取得費の支出等もされたこと等を認識せず、本件土地の取得及び取得費の支出が平成17年に先送りされたと認識していた可能性があり」と指摘している。
小沢氏としては、土地の取引がそもそも、平成16年中に行われたのではなく、平成17年に先送りされたと理解していた可能性があって、その理解に基づけば、平成16年分の報告書に記載せず、平成17年の報告書に記載することで問題ないと理解していた可能性があるということである。
そういう理解であれば、そもそも、小沢氏に虚偽記入の故意といえる認識・認容があったとは到底いえない。
つまり、判決は、4億円の大金を動かす話であったから、小沢氏が4億円について、平成16年の報告書ではなく平成17年の報告書に記載するということ、及び、そのために、土地の売買契約の内容を変更する方針であることについては、秘書から聞いており、それを了承していたことは認められるけれども、その報告書の記載方法が、実際の取引と合致しているものだとの認識をしていた可能性があると指摘しているのである。
そうであるとすると、共謀の成立以前に、小沢氏は、本件虚偽記入行為が、違法な虚偽記載行為であるとの認識を持っていないということになるのであるから、共謀の成立なんて到底認められないということになる。
直接証拠がすべて任意性なしで排除されている状況からすると、状況証拠からこの可能性を排除するのは「推認」という作業を超えた、「憶測」でしかなくなってしまうのであり、東京地裁がその「憶測」に踏み込まず、あくまで「推認」の作業を綿密に行っていることは高く評価すべきである。そして、この事実認定の手法を覆すのは無理であろう(控訴で仮に東京高裁が逆転有罪として、この可能性を排除した推認をしたとしても、近年の綿密な事実認定を求める最高裁判断からすれば、最高裁が差し戻すと思う)。
次に、Aの部分についてだが、判決は、小沢氏が、りそなからの4億円が土地購入に使われたのであって、自分の4億円は自分のために未だ残っていると考えていた可能性があることを指摘している。
そうすると、小沢氏からの4億円は、陸山会への借入金だという認識がなく、これを記載しなければならないという認識がないから、そもそも、記載方法が法に反するものだとは認識していなかったのではないかということである。指定弁護士は、この可能性を排除することができなかったのであるから、共謀が成立するなんて到底無理である。
以上から明らかなように、共謀共同正犯に問われた小沢一郎氏に対する裁判の結果は、無罪であり、その理由も単純明快である。犯罪の共謀の事実が認められないという一言に尽きる。
判決が指摘する可能性が排除できていないということは、共謀の立証が全くと言っていいほどできていないことを意味する。
今回の東京地裁の判決内容は、事実認定の手法としては秀逸というべきものである。憶測による事実認定を回避し、あくまで、状況証拠から認定できる推認の限界を意識しながら、行われた事実認定であることが判決骨子からも読み取れる。
以上が私の判決理由の評価である。
そもそも、この事件については、強制捜査を行われた当初から、このブログで再三指摘してきたとおり、無理筋の事件なのであって、強制起訴をした市民感覚と称する審査会の判断こそが、歪んでおり、ズレていたと言っても過言ではない。
その結果、税金を使って刑事裁判を行い、無罪判決を得たのであるから、審査会の在り方は別途議論していかなければらないであろう。
なお、このブログでは、事件当初から、報道の問題も含め、この事件について、何度も取り上げてきた。
参考までに、これまでの記事を掲載しておきたい。
○刑事事件に対する未熟な報道 ― 小沢問題からの考察を中心に
○小沢問題に関する考察 − 検察の捜査方法への疑問
○なぜ著名ジャーナリストがここまで騒ぐのか(検察捜査と報道の問題点)
○小沢問題と検察審査会制度とそれに関するお薦めブログの紹介
4.マスメディアの報道と往生際の悪さ
さて、東京地裁の判決は極めてまともで妥当な判断なのであるが、マスメディアの見出しや報道からは判決内容を歪曲するようなものが多く、私は、依然として、この国の法律意識の欠如に危機感を覚える。
たとえば、毎日新聞のこの記事である。
<小沢元代表無罪>指定弁護士「ほとんど有罪」
毎日新聞 4月27日(金)1時18分配信
政界の実力者に下された無罪判決。「完全な無罪」と評価する小沢一郎・民主党元代表の弁護団に対し、検察官役の指定弁護士は「ほとんど有罪」と悔しさをにじませた。「市民感覚」を反映した検察審査会の判断に結果的に「ノー」を突き付けた東京地裁の判決は、関係者に大きな波紋を広げた。【伊藤一郎、鈴木一生、山本将克】
【虚偽記載事件】小沢一郎元代表に無罪判決…東京地裁
●笑顔の元代表 「そうか、そうか。ありがとう」。判決言い渡し後の104号法廷別室。判決内容を詳しく説明する弁護団の弘中惇一郎弁護士の言葉に、元代表は緊張が解けた様子で笑顔を浮かべた。公判を毎回傍聴し、同席した民主党の辻恵衆院議員が「おめでとうございます」と声をかけると、「ありがとう」と右手を差し出し強い握手を交わした。
これから記者会見に臨むことを告げる弁護団。元代表はコメントだけで対応する意向を示し、関係者が運転する黒いワンボックスカーに乗り込み、東京地裁を後にした。その後、「裁判所の良識と公正さを示していただいたことに敬意を表する」とのコメントを出し、自宅に閉じこもった。
●弁護団けん制 弁護団の会見。弘中弁護士は「完全な無罪と受け止めている」と断じた。元代表が「政治的抹殺が目的」とまで批判した検察の捜査手法にほとんど触れない判決内容には「物足りなさが残る」と不満を見せたが、すぐに笑みを浮かべ、「要は結論」と言い切った。
秘書らとの間に虚偽記載の「報告・了承」があったと認定した上での無罪判決だが、喜田村洋一弁護士は「一昔前なら『可能性』があれば有罪だった。(今回の判決は)『可能性』があっても故意や共謀を認定できないという刑事裁判の本道に立ち戻った判断だ」と強調した。
判決が批判した、元東京地検特捜部の田代政弘検事の捜査報告書問題については「(検察が)きちんと起訴して、裁判所の判断を仰ぐ方向でやっていただきたい」と注文。指定弁護士に対しては「控訴は思いとどまるという結論をしていただくことを強く期待する」と、けん制した。
●控訴明言避け 弁護側に続いて会見した指定弁護士の大室俊三弁護士は「結論として主張が受け入れられなかったが、私どもが指摘した個々の点はほとんど否定されていない」と無罪判決に疑問を呈した。山本健一弁護士も「争点は、ほぼ我々の主張が認められているが、結論は逆方向」と不満をあらわにした。
弁護士同士が相対する異例の裁判に、指定弁護士には疲労の色もうかがえた。村本道夫弁護士は「無罪でも有罪でも(指定弁護士としての任務は)今日で終わりかなと思っていた。控訴については3人で話さなければならないが、これからとなると、ちょっとつらい」と明かした。
裁判では捜査報告書問題で強制起訴の有効性が争点になり、指定弁護士を苦しめた。それでも大室弁護士は「判決を聞く限り、検察審が起訴すべきだとした議決は、不合理な決断ではなかった」と、公訴棄却という最悪の判断が示されなかったことを評価した。
焦点の控訴について、山本弁護士は「無罪理由を検討し、納得できなければ、控訴する」と説明。大室弁護士は「(控訴しても、しなくても)政治的影響はある。そうした影響を考えて判断したくはないので、司法の問題として考える」と述べるにとどめ、明言を避けた。
●関係者の困惑 検察審の補助役を務めた吉田繁実弁護士は「ほぼ事実関係を認め、重要な争点だった秘書の報告、了承を認めながら、無罪としたのは、全く予想外。ここまで詳細な認識が要求されるのなら、政治家本人が政治資金規正法違反で有罪になることはない」と非難するコメントを出した。
今回の判決で自身の違法行為を再び認定された元秘書の石川知裕衆院議員は、複雑な表情を浮かべた。今年2月の結婚披露宴で「私のことで大きな荷物を背負わせてしまった」とスピーチしてくれた元代表。その無罪判決には「ほっとした」と素直に喜んだ。一方、「2度目の有罪判決」を受けたことについては「罪を犯そうと思ってやったわけじゃないが、結果として小沢さんが無罪になったことで、判決は良しとしなければ」と言い聞かせるように話した。
◇控訴、指定弁護士側「これから検討」
控訴について、指定弁護士側は「これから検討したい」とし、通常の刑事裁判と同様に2週間以内に控訴できる。初の強制起訴裁判となった那覇地裁の無罪判決(3月)でも指定弁護士が控訴した。ただ、検察審査会法は指定弁護士の職務について「公訴を提起し、公訴の維持をするため検察官の職務を行う」と定めるだけで、控訴審の指定弁護士の人選などについて規定はない。制度づくりに関わった法務省幹部も「明確には言えない」という。
一方、指定弁護士の報酬は政令が「審級ごとに19万〜120万円」と定めており、1審、2審、上告審でそれぞれ120万円を上限に支払われる。【坂本高志】
共謀の前提となる、犯罪行為に対する認識・認容について、その認識がない可能性が明確に指摘されているにもかかわらず、「ほとんど有罪」とはどういう判決の読み方をしているのか驚いてしまう。
判決文全文を私は見れる立場にないので、この指摘が正当かはわからないが、指定弁護士は、判決が検察審査会の判断が不合理でないと判断したと理解しているように、この記事からは読めるが、上記の判決骨子からすれば、裁判所は審査会の判断について、不合理かどうかの審理すらしていないように思われる。
したがって、無罪判決が出ている以上、審査会の判断が不合理だったというのが裁判所の判断なのであって、公訴棄却というのは、あくまで公訴提起の手続に違法があり無効となる場合の話なのであるから、公訴棄却にならなかったから、審査会の判断が不合理でないと裁判所が判断したと理解しているのであれば、刑訴法338条を読みなおすべきである。
この他にも、石原都知事は「まあ無罪といっても、灰色。それも限りなく黒に近い判決でしょ? 国民だって、そっぽ向きますよ。何を勘違いしているか、知らないけどね」と評したり、産経新聞は、「小沢元代表、無罪 『全面勝利とはいえない』『検察へ重いメッセージ』」と題した記事や「小沢元代表無罪 自民・茂木氏「依然、グレー変わりない」 証人喚問求める」といった記事で報道している。
グレーだという評価だが、そもそも、刑事の無罪判決が出た段階において、グレーの概念はない。判決が出た段階では、白(無罪)か黒(有罪)しかないのである。
やったという証拠はないけど、グレーで怪しいから、執行猶予付き有罪判決なんて裁判官がやるとすれば、それは司法の崩壊である。
この点、刑事訴訟法の「疑わしきは被告人の利益に」という大原則があることをあげて、「無罪判決でもグレー」と主張する人がいるのかもしれないが、これは挙証責任の問題と判決の意義を混同しており、かかる見解は失当というべきである。
判決を出す過程の問題として、疑わしきは被告人の利益にという挙証責任の問題があることと、判決が出た段階における無罪判決の意義を、同一に論じられるべきではない。
基本的に、判決が出た段階においては、無罪判決は白であり、有罪判決は黒である。
この根本が理解できていない立法者たる政治家やマスメディアが多いことは本当に恐ろしいと言わざるを得ない。
仮に、グレー判決というのがあるとすれば、無罪判決を受けた冤罪の被害者は、一生、「無罪だがグレーだ。」、「限りなく黒だ。」とのそしりを受けて生活しなければならないのであろうか。
そんな主張は到底受け入れるべき見解ではないし、このような発言をする人間が東京都の都知事であることについて、都民は恥ずかしいと感じなければならない。
「無罪でもグレー」とか、「無罪でお限りなくクロ」とかいう主張を平然とする人々は、足利事件の被害者である菅谷さんに対しても同じことをいうのであろうか。
菅谷さんと小沢の無罪判決との差は何で、どういう事件であれば、「無罪でもグレー」と評価できるのか、その合理的根拠は何であるのか。
他の無罪判決への影響などこういったとも考えず、「無罪でも、怪しい」という議論をする人間は、極めて底が浅い。
「無罪でもグレー」なんていう主張を認めだしたら、司法は終わりである。
挙証責任の問題と無罪判決の意義を混同し、司法が何たるかを理解してない人々が要職に就いている我が国の現状は極めて恐ろしいと言わざるを得ない。
今回の事件を機に、捜査のあり方はもちろん、司法に対する国民の意識を高めることは重要であろう。
また、虚偽の報告書を作成した検事への公訴提起の有無についても、裁判所が極めて強い姿勢で、検証を要求している以上、法務省及び検察庁は徹底した姿勢で臨まなければ、信頼は地に落ち、回復困難な状況になるだろう。
我々国民も含め、法務省、検察庁、マスメディアは、今回の裁判の過程及び判決で示された裁判所からの忠告を真摯に受け止めることが必要である。
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