http://www.asyura2.com/12/senkyo129/msg/400.html
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次にリストアップした先行投稿を先にお読みいただければ幸いです。
「A:消費税増税法案をめぐる政局:「小泉改革」を超える“日本破壊政策”が「野田改革」:小沢判決との関連」
http://www.asyura2.com/12/senkyo128/msg/903.html
「B:消費税(付加価値税)と経済成長:デフレ下での消費税増税はその破壊力を生々しく実証する“経済学的社会実験”」
http://www.asyura2.com/12/senkyo128/msg/905.html
「C:消費税増税は「社会保障の維持」とは無関係:竹中平蔵氏「社会保障のためなら高中所得者対象の所得税増税以外にない」」
http://www.asyura2.com/12/senkyo129/msg/194.html
「D:「財政再建」に寄与せず逆に足を引っ張る消費税増税の論理:フロー課税の連関性だけで見えてくる消費税増税の結末」
http://www.asyura2.com/12/senkyo129/msg/198.html
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■ 消費税増税政策に託す財務省官僚の願い
ここからの残り二つが、消費税増税問題に関する当該シリーズの本論と言える部分である。
これまで説明したように、消費税の増税は、政府やメディアから聞かされているような「社会保障」や「財政再建」に貢献するものではなく、逆に、それらを悪化させてしまう政策である。
それなのに、なぜ、野田首相や財務省は、あれほどまでに消費税増税にこだわるのか?
消費税増税問題を考えれば考えるほど、財務省の官僚たちが、裕福ではない国民をいじめ抜くことに喜びを見出すサディストのように思えてくるかもしれない。
共産党的解釈を好む人なら、「決まっているじゃないか。大企業と金持ちのためだよ」とすっきり割り切った回答をするかもしれない。
消費税増税に賛成の国会議員やその必要性を説き続ける主要メディアの記者、さらには理論的サポーターとして奮闘する学者たちのどこまでが、消費税増税の表に出ている目的をウソと知りながら、消費税増税の旗を振っているのかわからない。
今回の消費税増税に反対している小沢一郎氏は、消費税を導入した竹下元首相の側近、自民党の要である幹事長、細川内閣で財務省とタッグを組んで実現を図った“国民福祉税構想”などの来歴から、秘匿されている目的を知りながら消費税増税に反対しているように思える。
その理由が奇妙で許し難い判決だが、一審で無罪になった小沢氏が先頭に立ち、消費税増税政策を葬り去ることを切に期待する。
一方、主要メディアがこぞって、「無罪と言っても濃いグレーの無罪」という説明で、“小沢悪人説”を堅持している情況におぞましさを感じる。
ウソを承知でと確実に言えるのは、消費税増税政策の発案者であり政治家の背中を強く押している財務省の官僚たちである。言うまでもなく、彼ら自身が、ウソの目的を表看板として掲げている張本人だからだ。
私利私欲を含め、消費税増税政策の背後に財務省官僚の悪意を嗅ぎ取ることは可能だが、今回は、日本の将来を真摯に考える善意の官僚が熟慮の結果選び取った政策が消費税増税であると受け止め、そのような選択に至ったワケを探ることにした。
最終的には、その選択が、はたして日本の将来にとって望ましいものなるのかも検討したいと思っている。
たとえ、財務省官僚たちの頭の中にある目的がこれから説明する内容とは違っていても、提示する目的になにがしかの妥当性や意味性があるのなら、消費税の内実がよりいっそうよく見え、70年代初頭以降、欧州諸国そして米国以外の先進諸国が競って付加価値税を導入し、徐々に税率を引き上げていったワケも見えてくると確信している。
消費税(付加価値税)の問題を考えることは、国家の財政とはどういうものか、国家社会にとって税制はどうあるべきか、国民経済はどういう論理を通じて動くのか、国際競争力はどういったことに規定されるのかなど、様々なテーマを考えることに通じる。
「日本企業の国際競争力を高めるために法人税減税と消費税増税が必要」と言い続けている経団連も、知られたくない事実を明らかにしたくないからであろうが、すぐに理解できる法人税の減税はともかく、消費税の増税がどういう理屈で企業の国際競争力を向上させるのか、具体的に説明しようとしない。ともあれ、経団連は、消費税増税の目的を正直に語っていると思う。
● 消費税(付加価値税)と国際競争力
消費税増税政策に託す財務省官僚たちの直接的な狙いは、日本のグローバル企業(輸出有力企業)に、世界市場で激しい競争を演じている韓国(今後は中国やインドも)やドイツのグローバル企業たちと比較して遜色のない競争条件を与えることである。
国家国民の現在と将来を何より考える官僚のことだから、消費税増税で実現したい最終の目的は、消費税増税で進むグローバル企業の国際競争力回復(強化)を通じて、日本経済全体が力強く復活し、国民生活も底上げされ安定を取り戻すことだと推測している。
20年以上にわたって政府債務を急速に膨大させただけで日本経済を不況の淵から脱出させることができず、そのあいだには恥ずかしい悪行さえ報じられた財務省の官僚たちが、そんな殊勝なことを考えているはずないじゃないかとまでは思わなくとも、そんなに立派で意義深い目的で消費税を増税したいと考えているのなら、隠したりせず堂々と説明すれすればいいじゃないかとは思うだろう。
財務省(政府)が本心を明らかにしたうえで増税を求めないワケは、経団連などが、消費税の増税がどういう論理で日本企業の国際競争力を向上させるのかをきちんと説明しないワケと共通である。
消費税(付加価値税)増税が、かつて欧米先進国に追いつこうとしていた時代に行われていた優先貸し付け・優先外貨割り当て・輸出奨励金・円安志向外国為替政策などといった “正常範囲の国策”並みの仕組みでグローバル企業の競争条件を高めるのなら、包み隠さず説明する可能性もあった(ある)と思う。
しかし、消費税(付加価値税)増税による国際競争力の強化は、経済的自由主義や近代民主制法治主義を基礎にする国家であるなら、とうてい容認することができない仕掛けから生み出される果実なのである。
奇妙なたとえだが、権力を掌握した共産党が“逆累進”所得税を導入するということに匹敵するほどの倒錯的な内実を秘めているがゆえに、消費税増税のホントウの目的を国民に説明することができないのである。
ある範囲の労働者や社会保障受給者の窮乏化は進むが、供給サイドの多くの事業者にはメリットがあるとか、メリットはなくとも打撃はないということであれば、これまで日本で実施されてきた政策を鑑み、倒錯とは言わないし、説明できないこともないと思う。
消費税の内実や増税の目的が頑なに秘匿されているワケは、その内実や目的の手段を知ると、戦後保守政党の大票田であり続けた農家・中小商店・中小企業の事業主やその家族までが怒り心頭に発するからである。
本人に自覚があるかどうかは知らないが、小沢一郎氏が中心になって進めた小選挙区制=二大政党制も、供給サイドや保守層を基盤にした“反消費税”政党が現れ、勢力を伸長させるような政治状況の出現を防ぐためのものと言えなくもない。
おかげでと言うとおかしな表現だが、現在の日本で“反消費税”を標榜する政治勢力は、“弱者保護”を基幹政策とし、やや“反供給サイド”のスタンスをとる“弱小”で“オールドファッション”の共産党と社民党に限られている状況である。
この両者が仮に統一戦線を組んだとしても、多数派の形成はおろか、勢力を伸張することさえムリだろう。たとえ、マスコミによる“妨害工作”がなくとも。
「社会保障」や「財政再建」に貢献するどころか足を引っ張るといったレベルであれば、歴史的事実であり、少し調べたり考えたりすればわかることだから、それをもって、消費税増税のホントウの目的を隠す動機にはならない。
しかし、乗用車や冷蔵庫を買ったとき、消費税がなければもっと安く買えるのにと思い、今回の消費税増税政策で消費税が2倍になると聞き、そうなったらいい乗用車や冷蔵庫は買えなくなると嘆いている人たちに、「消費税を増税しなければ財源が足りないと騒いでいるけど、乗用車や冷蔵庫の買い物で負担したと思っている消費税は、実のところ、国や地方自治体の金庫にはほとんど入っていない。さらに、消費税増税後も、乗用車や冷蔵庫を買うときに支払う消費税がほとんど国や自治体に入らないという状況に変化はない」と説明すると、どう思うだろう。
と言う前に、このような事実について、どれだけの国民が知っているのだろうか?
家族や従業員の生活の糧を得るのが精一杯で、儲けは1円もなく、納付すべき消費税は家族や従業員の生活費(給与)を切り詰めてなんとか確保してきたような中小企業の経営者や従業員に、「トヨタやパナソニックなど名だたるグローバル企業の多くが、受け取っていると言っている消費税を1円も政府に納付していない。それどころか、逆に、数千億円の還付を受けているケースもある」と説明すると、どう反応するだろう。
この事実を知っている国民も、おそらく圧倒的少数だろうと推測する。
消費税増税の目的として「企業の国際競争力強化」を掲げれば、このような事実を含む消費税の内実を明らかにし、それが正当で妥当である理由や根拠をきちんと説明しなければならなくなる。
なぜなら、そのような実態や事実こそが、グローバル企業(輸出有力企業)の国際競争力を高めるパワーだからである。
消費税の内実や消費税増税の目的を秘匿しているのは、「原発問題」で、安全性という表現ではなく危険性という表現を使ったり、発生した事故の内容をきちんと説明したり、必要な安全強化策をきちんと取り上げたり、広範囲の住民を対象にした避難訓練をしたりすると、国民の多くが原発は安全なものではないと疑い、原発の増設や稼働が困難になると忌避してきた(いる)のと同じ考え方に由来する。
過去の戦役の英霊のために生身の300万人が命を捨てることになり、1億の国民が塗炭の苦しみを味わい、あげく6年にも及ぶ占領統治を強いられた「大東亜戦争」を持ち出すまでもなく、現在の政府や一部主要メディアは、通り一遍の福島第一原発事故の“検証”を根拠に、天井に穴を開けるドリルや電源車を配備し、福島第一でも合格しそうなストレステストに合格したことなどを根拠に“安全”と認定し、定期点検を終えた原発は順次再稼働させていくと平然と語っているくらいだから、消費税問題でウソをつくことなんぞたいしたことではないと思っているに違いない。
そうであっても、投稿Aで書いたように、消費税増税が「デフレ不況から脱し歴史的現在にふさわしい国民生活の実現と維持に資する経済政策」と判断したら、ためらいつつも擁護するつもりである。
義理も謂われもないのに、経団連のためにもなる投稿を始めてしまったのだから、「毒を食らわば皿まで」で仕方がない(笑)。
近代民主国家にあるまじき仕組みでグローバル企業の国際競争力を強化するというのは、日本の消費税に限った話ではなく、付加価値税である限り、どの国のものでも同じである。
60年代末から70年代にかけて、フランスを先頭に西欧(EC)諸国が付加価値税(VAT)を本格的に導入していった“動機”も、日本や米国との経済競争で劣勢になり、域内の国民経済が高い成長力を維持できない成熟期に入ったと自覚したことである。
70年代初めには外国為替が固定相場制から変動相場制に移行したことで、自国通貨を意図的に安くとどめることも困難になった。
成熟期を迎えた経済社会は、過剰労働力問題を恒常的なものとし、国家の社会福祉費用も増大させる。
付加価値税は、そのような経済社会を前提に、政治的に切り捨てることが困難な社会福祉を「裕福ではない人の相互扶助」で担い、生産性で劣る輸出企業の支援を税制という隠れ蓑を通じて行う目的で普及していったのである。
租税負担割合の“実質”的な上昇で中低所得者の相対的貧困が進むことや中小企業の経営基盤が弱体化していくことを厭わず、金融を含むグローバル企業の活力を維持するために付加価値税を活用しようとしたのである。
旧大蔵省が、70年代中葉から付加価値税の導入をめざし、78年大平内閣の「一般消費税」、86年中曽根内閣の「売上税」とゴリ押し的に実現をはかったのも、西欧諸国の付加価値税導入の背後に隠れている目的を認識したからである。その当時から、財源問題や福祉目的は、目眩ましであり、ダシでしかなかったのである。
二つの付加価値税導入政策は、主要メディアを含む国民世論の反対でことごとく頓挫し、88年竹下内閣でようやく「消費税」として陽の目を見たのである。
前置きが長くなったが、法人税減税は、企業の国際競争力強化に直接貢献するものとは言えないが、消費税増税は、国際的な競争環境に身を置く企業の競争力を濡れ手に粟的に高める機能を有している。
今回の消費税増税政策は、これまで日本経済を支えてきた自動車や家電の名だたるグローバル企業が軒並み悲惨な経営状況に陥るなかで急浮上してきたと推測している。
ご存じのように、ソニーやパナソニックといった世界を代表する家電メーカーが膨大な赤字を計上し、リーマン・ショック以前は1兆円もの経常利益を計上し、生産台数世界一の座を目前にしていたトヨタ自動車までもが、09年度から11年度(予測)にかけて3期連続で経常損失を計上している。
デジタル薄型TVの構造的な収益悪化やデジタル製品の販売戦略で後手に回っている問題はともかく、大々的な業績悪化のきっかけは、リーマン・ショック後の円安是正と世界レベルの需要後退である。しかし、東日本大震災があったとはいえ、世界経済が回復していく過程でも業績はいっこうに回復しない。
財務省をはじめとする官僚たちは、そのような事態を目の当たりにするなかで、韓国やドイツとの比較での税制面の不利を認識し、その不利を解消すれば、弱まった国際競争力も回復できる可能性があると考えたのだろう。
家電メーカーや自動車メーカーは、産業における重要性や連関性から、エコポイント、エコカー減税やエコカー補助金など、エコを看板にした他の業界から見れば垂涎の的になるような国策的支援も受けてきた。
それでも軒並み惨憺たる経営状況が続いていることが、財務省を中心とした官僚たちを消費税増税と法人税減税に駆り立てたに違いない。
名前を挙げた企業に限らず、自動車や家電などのグローバル企業は、いずれも消費税を納付しておらず、逆に、「消費税還付金」を受け取る“税負担の特権者”の地位にいる。
もちろん、それらは、脱税といった類の話ではなく、法律に則った正規の結果である。
日本を代表する企業トヨタ自動車を例に説明すると、税引き後に純利益をなんとか計上しているトヨタも、一つの企業として最大規模の1800億円から3000億円にも達する「消費税還付金」がなければ赤字に転落してしまう。
経常損益ベースまで赤字で、税の還付を織り込むことでようやく黒字になるというまさに綱渡りの経営をしている。
09年期のトヨタ自動車は、営業損益で3千280億円の損失を計上し、経常損益でも771億円の損失、税会計処理でかろうじて最終純利益261億円を計上した。
08年期までは営業利益も純利益も1兆円を超えるという期さえあったが、リーマン・ショックの翌年09年から今期(11年度)までの3年間は、「消費税還付金」を受け取ることで、ようやく頭が水面から出るという経営状況が続いている。09年期は、「消費税還付金」の2100億円がなければ、最終損益は1800億円以上のマイナスになる。
今期(11年度)の純利益予測は528億円だから、2000億円前後の「消費税還付金」がなければ、最終利益はやはりマイナスで終わってしまうだろう。
政府が自国企業の国際競争力を向上させたいと願っても、お金を直接注ぎ込むような政策は「政府補助金」と見なされ、競合国の政府から相殺関税を課されるため元の木阿弥になる。
為替レートの円安への誘導は、円高で収益悪化と輸出数量の減少に苦しむ輸出企業にとって大きな救いだが、為替レートを規定する論理を超えた水準はどのみち持続性がなく、ある国が為替介入に熱を上げれば、競合国が揃って自国通貨を安くする“平価切り下げ”競争につながる可能性があることも考えれば、世界経済をただただ混乱に陥れる“我が儘”な政策でしかない。
また、原油などの価格上昇が及ぼす経済社会全体への影響を考えれば、円安が必ずしも望ましいとも言えない。輸出企業の国際競争力のみを考えても、国際分業構造から、短期的には有利に働いても長期的にも有利に働くわけではない。
そう考えると残された政策は、諸外国も採用していることから後ろ指を指されることもない税制の変更ということになる。
そうして浮かび上がったのが、消費税増税と法人税減税をセットにした今回の「税の一体改革」なのである。
むろん、日本の行く末を案じ日夜考えている官僚のことだから、輸出企業だけの利益ではなく、輸出企業の競争力強化とそれに伴う活性化が、生産設備や原材料・部品などを供給する企業や宣伝広告を含む販売促進にかかわっている企業の活性化につながり、最終的には、幅広い国民に恩恵がもたらされるようになると考えている(と思いたい)。
かつて私も唱えた「雁行的成長論」に近いものなのかも知れない。
(「雁行的成長論」:逆V字で飛ぶ雁の群れのなかで先頭に位置する雁が領導者であるように、収益性の高いグローバル企業が経済成長の牽引者となるべきであるという考えである。グローバル企業が国際的に稼いだお金を経済社会に還流することで総需要が増加し、経済社会全体が活性化する。それにより、グローバル企業も、国内市場からも安定的な利益を得ることができ、経営基盤をさらに強固なものにできるという考え)
論より証拠で、日本のグローバル企業が、韓国とドイツのグローバル企業と比較して税制面でどれだけ不利な状況に置かれているのか確認してみよう。
輸出企業の国際競争力と税制の関係を考えるうえで重要な法人税と付加価値税(消費税)の税率を比較する。企業の負担問題だから、国税や地方税といった区分は必要ないのでトータルの負担で比べる。
【日韓独の法人諸税と付加価値税(消費税):11年度ベース】
日本:法人諸税40.69%:付加価値税05%
韓国:法人諸税24.20%:付加価値税10%
独逸:法人諸税29.38%:付加価値税19%
※ 日本の法人税は、時限の復興増税分を別にすると、36.19%になっている。また、日本も租税特別措置法で政策的な税優遇を行っているが、「輸出第一主義」で走っている韓国は、輸出増大に貢献している有力企業に税優遇措置を採っており、サムスンなどの実質的な法人税は15%程度とも言われている。
※ 各国の法人諸税データは財務省データを参照
(http://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/corporation/084.htm)
ワケは徐々に説明していくが、国際競争力の観点で法人税と付加価値税の関係を考えると、法人向け税金の税率はなんでも低いほうがいいというものではなく、法人税の税率は低く、付加価値税(消費税)の税率は高いほうが好ましいという奇妙な結論に到達する。
要点だけ言うと、法人税の負担は利益を上げている限り逃れられないものだが、付加価値税(消費税)は、膨大な付加価値を稼いでも、「輸出免税」制度で、負担が軽減されたり還付金を受け取ったりする可能性があるからである。
税負担を免れることが難しい税は減税し、負担の減少や還付さえある税を増税すれば、負担が減少したり還付を受けたりする“特権”的企業は、より有利な条件で事業を展開できるようになる。
異なる国籍の二つの企業が国際市場で競争関係にあるとして、一方の税負担は重く、一方の税負担は軽いという違いがあれば、両者のあいだに価格競争力や投資力で決定的な差が付く。
経団連の「法人実効税率を引き下げ、消費税を引き上げるべき」という提言も、法人税と消費税(付加価値税)に関するこのような理解を前提にしたものである。
仮に、法人税を全廃し、その分を消費税の税率アップで賄うように税制を変えると、トヨタやパナソニックなど消費税を納付(負担)していないグローバル企業は、フロー(付加価値や利益)に係わる税の負担がなくなり、固定資産税や自動車関連税など資産絡みの税金のみ負担すればいいことになる。
不幸なことに、ここ数年の日本はそういう現実を垣間見せている。それは、トヨタ自動車やソニーに象徴されるように、消費税は、納付ゼロで還付金を受け取り、法人税は、経常損益の赤字(損失)が数期にわたっているため納付する必要がないという事態が有力企業のあいだで見られるからである。
財務省は、岡田副首相が積極的に代弁しているが、できるだけ早い時期に消費税(付加価値税)の税率をドイツ並みの20%に近づけ、自民党が代弁しているが、法人諸税の実効税率も韓国や中国(25%)と変わらないレベルまで下げたいと考えているはずだ。
そのような思いがあるからこそ、与党対策上の戦術という側面もあるとはいえ、10%まで増税した翌年(16年)にさらに続けて増税するという驚くべき内容まで法案に盛り込もうとしたのである。
● 消費税増税がグローバル企業の国際競争力を強化する論理
消費税増税が、どのような論理でグローバル企業の国際競争力を強化していくのか見ていこう。
消費税増税は、財政難で苦しむ日本を国民が広く薄く負担を増やすことで支える政策だと受け止められている。
ところが、法人税減税はわかるとしても、消費税が増税されても、負担が増えるどころか逆に“利益”が増える事業者がいるのである。
まるで“焼け太り”のような話であるが、それこそが、消費税増税がグローバル企業の国際競争力を強化する理屈なのである。
消費税増税がどういう論理で国際競争力を強化していくのか、「税負担構造の変化」・「事業者のマージン(付加価値)の増減」・「外国製品の国内市場へのアクセス条件の変化」という三つの観点で説明したい。
▲ 「税負担構造の変化」:輸出有力企業の税負担度合いを低下させる消費税増税と法人税減税の“一体改革”
消費税増税と法人税減税が一体の政策が、国家社会の税負担構造にどのような影響を与えるのかという問題である。
日本を代表するグローバル企業をはじめとする輸出企業は、(多くが誤解しているようだが)仕入に課されるのではなく、売上と仕入の差額である付加価値に課される税である消費税をまったく負担(納付)していない。
法人税については、決算で経常利益が黒字であれば税法に則り納税している。
消費税増税と法人税減税の「一体改革」政策は、グローバル企業にとって、自身が負担することはない消費税が増税され、自身が負担する可能性がある法人税は減税されるというものだから、税負担をまちがいなく減少させる好ましいものと言える。
なお、グローバル企業が消費税を負担(納付)していないという指摘に財務省などが不満を持つのなら、「消費税還付金」を受け取っている企業が、還付の前提としてあるはずの消費税を1円でけっこうだから、ちゃんと負担(納付)している証拠を提示してもらいたい。
税の「一体改革」が事業者の税負担構造をどのように変えるのかわかりやすいように、消費税増税と法人税減税の「一体改革」を極端に推し進めたケースで考えてみる。
ある年度のフローにかかわる税収が40兆円で、内訳は、所得税20兆円、法人税10兆円、消費税10兆円だとする。供給活動を担う事業者が負担する法人税と消費税は、合わせて20兆円である。
事業者からの税収規模20兆円というのは変えず、法人税を廃止し、その分を消費税の増税で補う政策を実施し、法人税はゼロ、消費税は20兆円という税収構造になったとする。
このときの事業者の税負担を考えると、「消費税還付金」を受け取っている輸出企業は、事業者向けの税をまったく負担しないで済んでいることがわかる。
とはいえ、事業者全体が負担する税額は変わっていないのだから、特定の事業者の税負担がゼロになったことで、他の事業者が、残った税負担を消費税でずっしり受け止めていることになる。
今回の「一体改革」は法人税をゼロにするものではないが、消費税増税と法人税減税が一体の政策は、極端な例で示したとんでもなく歪んだ税負担構造に少しずつ近づくものなのである。
このような仕掛けが見えてくると、政府が、消費税を、けっして事業者対象の直接税とは言わず、「間接税」で最終消費者が負担する税金だとしきりに喧伝してきたワケが透けて見えるはずだ。
国民みんなが、消費税は事業者の付加価値に課され、事業者が負担する法人税と同じ事業者対象の「直接税」であると認識すれば、消費税増税政策で推し進められようとしている税負担構造のとんでもない不公平にも気づきやすいからである。
消費税の増税が消費者=一般国民の負担増と認識されているあいだは、保守的政党を投票行為や集票活動で支えてきた中小事業者や農民の“反乱”をなんとか抑制できるだろう。
前半で示した【日韓独の法人諸税と付加価値税(消費税):11年度ベース】のような比較表をベースに法人課税の重さを考えると、普通の感覚では両方の税を加算したものになるだろう。
日本の法人税は12年度から減税されているので、その値に変えた表を示し、法人諸税と付加価値税を合計した値を追加する。
【日韓独の法人諸税と付加価値税(消費税):12年度ベース】
日本:法人諸税38.69%:付加価値税05%:合計43.69%
韓国:法人諸税24.20%:付加価値税10%:合計34.20%
独逸:法人諸税29.38%:付加価値税19%:合計48.38%
この比較表を見ると、さすが高福祉国家のドイツは法人が負担する税金も高いなあと思うかも知れない。そして、日本の法人の税負担は、韓国よりは重いが、ドイツよりは軽いと評価したくなるかもしれない。
しかし、グローバル企業の経営者なら、日本は、ドイツよりも、さらには韓国よりも税負担が重い国と評価するだろう。
むろん、日本国内の市場だけで事業を展開している企業の評価はまったく変わるし、ドイツも、ドイツ国内市場だけで事業を展開している企業も違った評価になる。
グローバル企業の経営者に、他の要素は排除し、法人税制だけを基準にリストアップした三つの国のいずれに本社を置きたいかと問えば、ドイツ→韓国→日本となるだろう。
グローバル企業にとって、法人税制の評価は、法人税と付加価値税の合計ではなく、法人税から付加価値税を差し引いた値にこそ意味があるからである。
なぜなら、グローバル企業にとって、法人税は利益が出たときに負担しなければならないものだが、付加価値税は、非課税の「還付金(輸出戻し税)」が得られる貴重な収益源として恒常的に機能してくれるものだからである。
試しに、法人税から付加価値税を差し引いた値を比較する。
【法人諸税から付加価値税を差し引いた値の比較】
日本:38.69%−5%=33.69%
韓国:24.20%−10%=14.20%
独逸:29.38%−19%=10.38%
この値にどのような意味があるかは、読み進めてもらえば、徐々に明らかになっていくはずだ。
消費税の税率が15年に10%になれば、そのときは法人税の復興特別増税もなくなっているから、法人税から付加価値税を差し引いた日本の値は26.19%になる。
それでも、韓国やドイツの値より10ポイント以上も高いのだから、岡田副首相が消費税率18%、自民党が30%未満の法人実効税率を主張している理由が見えてくる。
仮に、法人諸税が29%、消費税が18%になれば、値が11%となり、ドイツと較べても遜色ないレベルになる。
むろん、税制のみが企業の競争力や利益を規定しているのではないから、税制をそのような内容にしたからといって、有力企業の競争力や収益力が強化されると決まっているわけではない。今回の税の「一体改革」をめぐる是非は、結局のところそこに集約される議論になる。
グローバル企業が消費税を負担(納付)しないのは、「輸出免税」に伴う「消費税還付」制度があるからである。
表現を簡潔にするため、「輸出免税」に伴う「消費税還付」制度を、「輸出戻し税」と呼ぶ。
消費税の還付は、輸出に限定された措置ではなく、めったにないことだが、店じまい換金セールや大量の返品を受けて通期のマージン(付加価値)がマイナスであれば発生する。
しかし、「輸出戻し税」は、不思議なことだが、通期のマージン(付加価値)がプラスでも(たとえ数兆円あっても)発生する。
輸出を行う事業者は、本質的な違いではないが、消費税に関する外見性から三つに区分できる。
@ 国内売上で生じた付加価値に課される消費税が「輸出戻し税」で減額される事業者
A 国内売上で生じた付加価値に課される消費税が「輸出戻し税」で帳消し(ゼロ)になる事業者
B 「輸出戻し税」が国内売上で生じた付加価値に課される消費税額を超えて現金の還付金を受け取る事業者
税の「一体改革」で自分の負担は減り第三者に税負担を押し付けるという“恩恵”は、@〜Bいずれの事業者でも享受するが、@の事業者は、消費税の負担(納付)がゼロというわけではない。
消費税をまったく負担(納付)しないのは、AとBに該当する事業者である。
「輸出戻し税」について簡単に説明する。
消費税率が5%のとき、輸出も行っている企業の消費税は、
消費税額=税込国内売上額×5/105−税込総仕入額×5/105
という式で算出される。(「総仕入」というのは国内分・輸出分両方のための仕入を意味する)
消費税が10%になると、税込金額から税額を求める乗率である5/105の部分が10/110に変わるだけで考え方は変わらない。
この式を付加価値税らしく表現し直すと、
消費税額=(税込国内売上−税込総仕入)×5/105
となる。
輸出の売上がないから全体として得ている付加価値とはずれているので、ちっとも付加価値税らしくないとお叱りを受けそうだが、だからこそ、今回の説明の肝になるのである。
「消費税還付金」はこの式の値すなわち消費税額がマイナスのときに受け取るものだから、国内税込売上が税込総仕入よりも少ない場合に、還付金が発生すると言える。
たとえ「消費税還付金」を受け取らなくとも、国内売上のための仕入を超える部分の仕入に5/105を乗じた金額が「輸出戻し税」として発生し、国内売上で得た付加価値に課される消費税額を減少させる。
「輸出戻し税」は、消費税擁護派の言い方をまねると、“輸出のための仕入に含まれていると認定された消費税額”ということになる。
輸出を行う企業は、「輸出戻し税」により、金額の多寡はあるとしても、国内売上から生じた付加価値に課される消費税が必ず少なくなる。
「(国内税込売上−税込総仕入)<0」になる(還付金の発生)条件は、輸出比率や対売上原価(仕入)率で異なる。対売上原価(仕入)率が高ければ、輸出比率が低くても「消費税還付金」を受け取ることになる。
Bに該当する事業者にとって、「消費税還付金」は、目の前に現金で積まれる“輸出奨励金”となる。むろん、@とAの事業者も、論理的な“輸出奨励金”を受け取っていることに変わりはない。
かつてなら外貨不足解消と経済成長のためと説明され公にされていた輸出補助政策が、今では、消費税(付加価値税)という税制で秘匿された“輸出奨励金”になっているのである。
▲ 「事業者のマージン(付加価値)の増減」:消費税税率が5%から10%の2倍になれば「輸出戻し税」もほぼ2倍
消費税の税率がアップすると、その負担が仕入価格に上乗せされるためコストアップになるが、販売価格に自分の負担増加分として上乗せすることでチャラにできるから、事業者に損得は発生しないと説明されている。消費税増税で負担が増えるのはあくまで最終消費者とされている。
転嫁がうまくいけば損をする事業者はいないかもしれない。
しかし、取り上げられることはないが、消費税増税で得とする“焼け太り”の事業者はきっちり存在するのである。
税抜販売価格9400円・税抜仕入価格7000円・マージン(付加価値:2400円)の商品販売で、消費税増税が及ぼす影響を確認してみよう。
・税率5%:税込販売価格9870円・税込仕入価格7350円
消費税額=(9870円−7350円)×5/105=120円
マージン=9870円−7350円−120円=2400円
・税率10%:税込販売価格10340円・税込仕入価格7700円
消費税額=(10340円−7700円)×10/110=240円
マージン=10340円−7700円−240円=2400円
このように、納付すべき消費税は2倍になっているが、転嫁がうまくいく想定なので、事業者のマージンは2400円で変わりはない。
しかし、「輸出戻し税」を受け取る事業者の場合は話が違ってくる。
輸出企業の消費税(「輸出戻し税」)算定式は、
消費税額=(税込国内売上−税込総仕入)×税率/(100+税率)
と表現できる。
還付金を受け取る企業は、必ず「税込国内売上<税込総仕入」であるから、売上も仕入も消費税がきちんと転嫁されると想定すると、(税込国内売上−税込総仕入)のマイナス値は、消費税の税率が高くなるほど若干だが大きくなる。
そのマイナスが大きくなった値に、大きくなった「税率/(100+税率)」(5%で4.76%→10%で9.1%)を乗ずるのだから、最終的な「輸出戻し税」も増大する。
「輸出戻し税」算出のベース金額(税込国内売上−税込総仕入)が増えることを無視しても、「輸出戻し税」は1.91倍(9.1%/4.76%)に膨らむのである。
例えば、税抜国内売上:400億円・税抜総仕入500億円・輸出:300億円・マージン200億円のケースで消費税の処理を終えると、
・消費税率5%:
消費税額=(420億円−525億円)×5/105=▼4.76億円
還付金=4.76億円
最終マージン=204.76億円
・消費税率10%:
消費税額=(440億円−550億円)×10/110=▼10億円
還付金=10億円
最終マージン=210億円
消費税の増税があったのに、この輸出企業は、消費税を勘案すると、マージンが逆に増えている。この例では、2倍以上も増加している。
消費税の税率がアップすると、転嫁の論理で増税負担がチャラになる一般事業者とは異なり、輸出事業者は「輸出戻し税」(益)が比例的に増加するのである。
これを企業の競争力という視点で見れば、元の税率時に得ていた最終マージンで経営上の問題がないのなら、消費税増税でマージンが増えたことをもって、“価格を下げる余白”すなわち価格競争力がアップしたと言える。
上の例で言えば、マージンが5.24億円増えているから、それを国際競争力のアップに注ぎ込むのなら、5.24億円/300億円(1.7%)の輸出価格引き下げが可能になる。
日本国内を考えれば、デフレ不況のなかで他の事業者は、増税で増加した消費税の負担を転嫁できずに苦しんでいるのに、「消費税還付金」を受け取るような事業者は、仮に負担増を転嫁できなくても、増えた「消費税還付金」で穴埋めができることになる。
さらに、消費税増税で「消費税還付金」という“利益”が増大するロジックは、グローバル企業をより危険な方向へと追いやる。
「輸出戻し税」を増大させる方法の基本は、算定式を見ればわかるように、「税込総仕入」を増やすことである。
むろん、めったやたらと増やしてもマージンが減るだけだから、「仕入」と認定されない費目を「仕入」と認定される費目に移すことを通じて実現しなければならない。
その役割を担うのが「人に関する経費」なのである。
法人税では、給与も派遣会社への支払いも外注費もすべて等しく経費として扱われるが、消費税では、直接雇用の人件費は控除できる「仕入」ではないのに、派遣会社に支払う“人件費”や外注費は控除できる「仕入」とみなされる。
そのように処理される建前は、派遣会社や外注先に支払う費用には消費税の転嫁分が含まれているからということになるが、正規従業員と派遣労働者の賃金格差や雇用主の社会保険負担などを考えれば、消費税の転嫁分なぞ吹っ飛ぶことがすぐにわかる。
他の事業者も、雇用している従業員を派遣労働者や外注に置き換えることで消費税の負担を減らすことができるが、「輸出戻し税」を受け取っている事業者は、雇用する従業員を派遣労働者や外注に置き換えることで、「消費税還付金」という“利益”を増やすことができるのである。
消費税の税率が高くなればなるほど、ハケンや外注の費用がより多くの「消費税還付金」を生み出す。
先ほどの「税抜国内売上:400億円・税抜総仕入500億円・輸出:300億円・マージン200億円」のケースを使って説明する。
マージンのなかには雇用している従業員の給与総額(社会保険料込み)100億円の原資が含まれているとする。
従業員の給与は消費税で税額控除の対象とならないので、70億円分を派遣労働者に置き換え、直接雇用は30億円分にとどめた。派遣労働者の70億円は、派遣会社の消費税転嫁分を含むものとする。
消費税率5%のとき:元の「還付金」4.76億円・元の最終マージン204.76億円
消費税額=(420億円−(525億円+70億円))×5/105=▼8.33億円
還付金=8.33億円
最終マージン=208.33億円
消費税率10%のとき:元の「還付金」10億円・元の最終マージン210億円
消費税額=(440億円−(550億円+70億円)×10/110=▼16.36億円
還付金=16.36億円
最終マージン=216.36億円
最終マージンが、直接雇用の従業員だけで派遣労働者を利用しないときより大きく増加していることがわかるだろう。
これに味を占めた経営者は、派遣労働者を90億円、直接雇用を10億円とした。この場合の消費税額と最終マージンは、
消費税額=(440億円−(550億円+90億円)×10/110=▼18.18億円
最終マージン=218.18億円
と、さらに“利益”が増大する。
労働市場がタイトであれば、消費税増税後に賃金を切り下げることはなかなかできないが、ここ15年の日本や欧米諸国の雇用環境そして労働運動の実情を考えれば、賃金に強い上昇圧力があるとは考えにくい。
何より、派遣労働者には雇用であれば負担することになる社会保険の企業負担がないことで、消費税の増税と相殺できる可能性が高い。
派遣会社に対する90億円の支払いを消費税5%アップに合わせて94億円にすると、マージンは4億円減少し196億円になる。
消費税額=(440億円−(550億円+94億円)×10/110=▼18.54億円
還付金=18.54億円
最終マージン=214.54億円
それでも、直接雇用100%のときの最終マージン210億円より、4.54億円、率にして2.2%も増えるのである。
このような論理が、89年の消費税導入後、派遣労働者の割合が増加し、経団連などが派遣労働の適用業務拡大を強く求めている重要なワケである。
ただ単に、従業員を雇用する経費より派遣労働者のほうが安上がりという理由ではないのだ。
消費税の負担が減ることは国内専業企業も同じ条件だが、「消費税還付」を受けるグローバル企業は、“利益”の増大につながるのである。
とにかく、消費税で「仕入」と認定されない経費はできるだけ減らし、消費税で「仕入」と認定される経費に振り替えていくことで利益を増大させることができるのである。
▲ 「外国製品の国内市場へのアクセス条件の変化」:特殊な「輸入関税」としての消費税(付加価値税)
日本では消費税は“消費税”として考えられがちなので、輸出や輸入といった国境措置がどうなっているのか、ほとんど関心をもたれていないようである。
国境における消費税の取り扱いは、輸出は「免税」、輸入は課税である。
輸入が課税取引ということは、輸入関税とは別に、消費税が水際で課されることを意味する。
水際の消費税課税ベースは「輸入関税課税価格(CIF価格)+輸入関税などの税」で、その金額に消費税税率を乗じた額が消費税となり、輸入事業者から関税とは別に徴収される。
欧州諸国のように付加価値税が20%前後という高い税率になっている国に輸出する場合は、輸入関税の負担に加えて、多額のお金を付加価値税として納付しなければならないことになる。
たとえ輸入関税が撤廃されていても、20%前後の輸入関税が課されているのと変わらないのである。
まだ調べていないが、このことから、域内で水平分業が進んでいる欧州諸国の付加価値税の税収に占める「輸入にかかわる付加価値税」の割合は非常に高いと推測できる。
だからこそ、あらゆる国が20%前後という同じ水準の付加価値税になっているとも言える。付加価値税率の違いは、輸入関税税率の違いと同じく、競争上の不公平を意味するからである。
日本のメーカーが乗用車をCIF価格100万円でドイツに輸出すると、乗用車の関税がゼロだとしても、100万円×119%→119万円の陸揚げ価格になる。
逆に、日本のディーラーがドイツの乗用車を同じCIF価格で輸入すると、同じく輸入関税はゼロとして、100万円×105%→105万円である。
これは、二つの乗用車が同じ品質で同じ機能だと仮定すると、付加価値税の税率の違いにより、水際段階で大きな価格差が生じることを意味する。
消費税は最終的に消費者に転嫁されると説明されるが、だからといって、価格競争力が消えるわけではない。消費税込みの原価(コスト)が高ければ、消費税込み販売価格はさらに高くなる。
別の言い方をすると、輸入で課される消費税は、輸入関税と同様、国内事業者を外国の事業者から保護する役割を有していることになる。
TPP交渉参加をめぐる論議で、輸入関税の引き下げや撤廃は小売価格の引き下げにつながるので、消費者にもメリットがあるといった説明が行われた。
しかし、当時からすでに消費税増税政策が大きな話題になっていたのに、消費税の増税が輸入品の価格上昇につながることは、まったく説明されなかったし、今もされていない。
メインストリームであれこれ発言する人は、“政治的良心”はともかく、“学問的良心”というものをまったく持ち合わせていないように思える。
輸入と消費税の関係がわかると、経団連などが輸入関税の引き下げにつながるTPPやFTAなどの締結を急がせるワケも見えてくる。
グローバル企業は、国内で生産した製品の輸出や国内販売だけでなく、海外で生産した自社ブランド製品を輸入し国内で販売している。
国境措置が輸入関税なら、日本企業が海外で生産した製品にも関税が課され、それが“コスト”から消えることはない。その意味で、輸入関税だけなら、日本企業と競合する外国企業の条件に差は生じない。
ところが、輸入関税がゼロになり、消費税のみになると、話は変わってくる。
グローバル企業には、「輸出戻し税」さらには「消費税還付金」という“特典”が用意されているからである。
海外生産の製品を輸入し水際で消費税が課されたとしても、「輸出戻し税」でその負担を減らしたり消し去ったりすることができる。
グローバル企業は、国内販売か輸出かを問わず、「消費税還付金」を考慮したうえで、販売価格を設定することができる。
一方、日本以外で生産した製品を日本で販売しようとする外国企業は、日本に生産拠点があり製品の輸出もしていれば別だが、日本の水際で課税された消費税を消すことはできない。
水際で課された消費税もコストとしてずっとつきまとうから、それを織り込んで販売価格を設定しなければならない。
韓国、日本それぞれのメーカーが日本以外で生産した高級薄型TVを日本に輸出したとする。輸入関税はゼロ%で、CIF価格はともに5万円とする。
消費税が水際で課されることは共通だから、輸入業者(日本法人や本社)の引き取り価格は、消費税税率が5%であれば52500円となる。
韓国メーカーの日本法人は、輸入販売だけなので「輸出戻し税」はない。
韓国メーカーの日本法人でも、消費税の計算上、仕入に伴う消費税の控除はあるが、「輸出戻し税」のように、対応する“売上に伴う消費税”がないのに控除できるというものではないから、還付につながることはない。当たり前のことだが、基本的に、売上>仕入だからである。
「輸出戻し税」は、売上に伴う消費税がないのに、その売上のための仕入から算術的に求められた消費税額を控除することで発生するものである。
一方、輸出も行っている日本メーカーには「輸出戻し税」がある。
製品を輸入した韓国メーカーの日本販社は、消費税を差し引いた後に30000円のマージンが確保できる価格で家電量販店に販売するものとする。
販売価格=(52500円+30000円)×1.05=86625円
消費税額=(86625円−52500円)×5/105=1625円
マージンをチェックすると、86625円−52500円−1625円=30000円
さらに、消費税は、輸入段階で自分が負担した2500円もあるので、合計で4125円である。
日本メーカーも同じように消費税が課されるように思えるが、最終的に還付金を受け取るのだから、消費税は、輸入段階の分も含めて、少なくともゼロである。
ということは、量販店への販売価格を80000円にしても、1台当たり30000円のマージンが確保できることを意味する。
この取引における日韓両メーカーを較べると、同じ30000円のマージンを得るための販売価格は、日本メーカーが80000円で、韓国メーカーが86625円となる。
日本メーカーは、6625円、率にして7.6%ほど有利な価格条件を提示できる。
そして、家電量販店で小売りされる価格は、量販店のマージンや消費税負担分が上乗せされるので、卸価格の差以上に韓国メーカーのほうが高くなる。
次に、消費税が10%になったときを考える。
消費税税率が10%になると、水際の消費税もアップして5000円となる。
「輸出戻し税」がない韓国の日本法人は、「(55000円+30000円)×1.1」と93500円の卸価格にしなければ、消費税処理後に30000円のマージンを確保できない。
しかし、日本メーカーは、同じ価格で販売すると、93500円−50000円=
43500円のマージンを確保したことになる。違う言い方をすると、日本メーカーは、韓国メーカーよりも13500円安く販売できる。
消費税率が5%のときは、同じCIF価格とマージンで、6625円の差だったものが、13500円と2倍に膨らむのである。
消費税は個別取引ごとに処理されるものではなく、通期で処理されるものなので、次のようなケースを考えてみる。
税込価格3000円で仕入れた2万個の商品を、輸出も国内販売も税込価格3000円で販売するとする。
想定のケースは違っても、税込総仕入額6千万円・税込総売上6千万円であることは変わらない。
そして、仕入価格と販売価格が同じなので、どのケースでも、マージン(付加価値)は発生しない。ということは、付加価値にかかる消費税はゼロになるはずである。
輸出免税取引がある消費税額は、前述したように、次の算定式で求められる。
消費税額=(税込国内売上−税込総仕入)×税率/(100+税率)
この式に、具体的な例を適用してみる。
・ケースA:2万個を半分(1万個)ずつ輸出と国内で販売
消費税税率5%:消費税額=(3千万円−6千万円)×5/105=▼142.8万円
値がマイナスだから還付金が発生する。
「輸出免税」にともなう「消費税還付」制度で、利益が出ない取引でも現金142.8万円を手に入れることができたことになる。
(還付金額:142.8万円)
消費税税率10%:消費税額=(3千万円−6千万円)×10/115=▼272.7万円
(還付金額:272.7万円)
・ケースB:2万個すべて輸出
消費税税率5%:(0円−6千万円)×5/105=▼285.7万円
(還付金額:285.7万円)
消費税税率10%:(0円−6千万円)×10/110=▼545.4万円
(還付金額:545.4万円)
ケースC:2万個すべて国内販売:税込国内売上=税込総売上
消費税税率5%:(6千万円−6千万円)×5/105=0円
(消費税もしくは還付金:0円)
消費税税率10%:(6千万円−6千万円)×10/110=0円
(消費税もしくは還付金:0円)
これで、「輸出免税」に伴う「消費税還付」が輸出企業に利益をもたらす制度であり、その利益は、消費税の税率が高くなるほど増えることがわかったと思う。
以上が、消費税増税がもたらす「税負担構造の変化」・「事業者のマージン(付加価値)の増減」・「外国製品の国内市場へのアクセス条件の変化」に関する説明である。
拙い説明なのでどこまで理解を得られたのか自信はないが、日本を代表する企業が、消費税増税で有利な国際競争条件(利益)を手に入れるという話は見えたのではないかと思っている。
経団連やグローバル企業を擁護する気はまったくないが、日本のグローバル企業が消費税増税で手に入れる有利な条件は、日本のグローバル企業との関係において、韓国やドイツのグローバル企業はすでに手に入れていることになる。
官僚たちは、輸出企業の国際競争力を高めることこそが日本経済の成長を維持する基礎だと考えているのだろう。そのような考えを否定するつもりはない、その通りだと思う。
しかし、消費税の増税が国際競争力を高める手段だと考えているのなら、断じて否と言う。算術で競争力を強化することなぞできない。もっと複雑に様々な要素が絡み合う論理を通じて経済は動いていくからである。消費税増税がグローバル企業に与える特典は一つの要素でしかない。
最低でも、デフレ基調を脱しない限り、消費税増税がグローバル企業の国際競争力の強化につながることはない。日本経済全体の回復や国民生活の底上げを考えればなおのことである。
その証左が、02年から08年にかけての「異常円安好況期」に見られたグローバル企業と日本経済の動きである。
理論値から大きく乖離した水準での円安は、消費税増税と似た国際競争力上昇要因である。
最高益さえ更新していった戦後最長の好況期といわれたこの時期に、日本の有力企業は、積極的な返済で債務残高を大きく減らしていっただけでなく、内部留保も100兆円ほど積み増しした。
グローバル企業は利益を内にとどめたが、それでも、外需に支えられた派遣労働者の増員や時間外手当の増加で総需要は増大し、05年から07年にかけて、日本経済はデフレ基調から脱出できる兆しさえ窺えた。
しかし、結局はそこまでで、08年初秋のリーマン・ショックを契機にひどいリセッションに陥った。
デフレ基調という問題を脇に置けば、グローバル企業が、消費税増税という国策で増大した利益を、給与の引き上げや投資に回したり、景気変動のバッファとして活用したりするのなら、官僚たちが考えている目的に少しは近づく可能性もある。
しかし、「異常円安好況期」でも給与水準や賞与を押さえ込み、そのあいだに内部留保を大きく積み増ししていながら、不況になればすぐに“派遣切り”という現実を見せつけられた後では、消費税増税政策が、回り回って広く国民の利益になるとはとうてい考えられない。
消費税増税と法人税減税をセットで求めることで、“タダ乗り”どころか“利益拡大”を目指している経団連が、政府に歳出削減や社会保障給付の抑制を求め、国民には自助努力の訓示を垂れ、消費税の増税を国家のためと説明するのだから、怒りを超えて笑ってしまう。
消費税では“益税問題”もよく取り沙汰される。
「消費税納税義務免除事業者」制度や「簡易課税」制度のことだが、輸出有力企業に付与された巨大な“特典”を棚上げにして、それらを“益税”と呼び大問題のように語る人たちの知性と心性を疑う。
次回は、「輸出戻し税」に正当性や根拠があるのかを中心に、消費税増税問題の締めくくりを行うつもりである。
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