http://www.asyura2.com/12/senkyo129/msg/194.html
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次に示す二つの投稿を先にお読みいただくことをおすすめします。
「A:消費税増税法案をめぐる政局:「小泉改革」を超える“日本破壊政策”が「野田改革」:小沢判決との関連」(http://www.asyura2.com/12/senkyo128/msg/903.html)
「B:消費税(付加価値税)と経済成長:デフレ下での消費税増税はその破壊力を生々しく実証する“経済学的社会実験”」(http://www.asyura2.com/12/senkyo128/msg/905.html)
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■ 国民を騙すにも程がある消費税増税問題:「社会保障」のためというマヤカシと「財政再建」のためというデタラメ
彼らに手を引かれて歩いている野田首相はともかく、消費税増税政策にこめた財務省官僚のホントウの狙いを探るため、国民に語りかけられている目的が消費税の増税で実現できるものなのか検討する。
「社会保障の維持(充実)」や「財政再建」が、消費税の増税では実現できないとわかったら、財務省官僚たちの知性にとりあえず敬意を払い、掲げられている目的とは別の目的が秘匿されていると考えることにする。
● 「社会保障」は国民に“消費税増税やむなし”と思わせるための詐術
消費税増税は、社会保障の充実はさておき、現行水準の社会保障を維持するだけでも避けて通れない必要不可欠の政策だと説明されている。
日本の“財政危機”をことあるごとに聞かされてきた人なら、ごもっともと受け容れてしまいそうな話だが、実のところ、消費税の増税と社会保障は無関係である。
政府が消費税増税で「社会保障」を持ち出しているのは、国民に消費税の増税はしかたがないと思わせるための詐術なのである。
原発の再稼働や存続をはかるために、“電力不足”や“電力料金引き上げ”を持ち出して国民を煽るのと同じ手法である。
消費税増税に「社会保障」を持ち出すことが詐術に当たることを論証するのに、それほど面倒な手間は要らない。
▲ 税収を減らす法人税減税と税収が足らないがゆえとされる消費税増税政策との整合性
税収がひどく足りないから消費税を増税しなければ今の社会保障レベルさえ維持できないと語る同じ口が、税収を減らす法人税減税政策を平然と語り、とっくに実施に移している。
社会保障制度を維持するためにどうしても消費税の大増税が必要というのなら、経費控除後の最終利益に課される法人税は、増税しないとしても、据え置きがぎりぎりの選択で、減税するという選択肢はありえない。
財源がなくどうしようもなく困っていると言いながら、赤字法人や国民多数派に較べると担税能力が高いと言える黒字法人から徴収する法人税をさっさと減税している事実を考えれば、社会保障制度を維持するためにやむなく消費税の増税をお願いしたいという説明がマヤカシであるとわかるはずだ。
GDPの2倍を超える公的債務残高だけでも、「ギリシア危機」を見聞きした人にとっては、日本の財政破綻を予感させるには十分なデータである。
しかし、日本政府が税収レベルで消費税と同規模(約10兆円)の法人税を先行して減税した事実を考えると、日本の財政は、政府や主要メディアが大騒ぎしているほど逼迫しているわけではないことがわかる。
消費税増税政策の理論的サポートに勤しんでいる元財務省官僚の森信茂樹中央大学大学院教授も、出演したNHKの番組「週刊ニュース深読み」のなかで、日本が財政悪化で債務不履行=財政破綻に至ることはなく、現実として考えられる問題は金利上昇(金融機関の国債など保有債券に評価損が生じる)と認めている。
(※ 金利の変動は、中央銀行の貸出金利変動を基礎に、資金需要と貨幣供給量のバランスで規定されるものだ。それゆえ、貨幣供給の源流である中央銀行が金利と通貨量を望む方向に管理すれば、大きな問題につながるような金利の上昇を抑止することができる。財政悪化で起きる問題は、国家破綻や金利上昇ではなく、国民生活・民主政治・供給力が絡み合うなかで政治的に制御が難しいインフレに陥ることである。そうして起きたインフレ状況では、中央銀行とて、通貨量や金利を望む方向に制御できない)
法人税は、復興特別増税は別にして、30%から25.5%へ4.5%減税された。4.5%は30%の15%に相当するから、10兆円水準である法人税の税収は、経済環境が同じ場合、1兆5千億円ほど減少すると考えられる。
一方、社会保障費は毎年1兆円ずつ増加するとされ、だからこそ、消費税の増税が必要という理屈にもなっている。
先行して実施した法人税の減税で社会保障費の毎年の増加額1兆円の1.5倍に相当する税収を捨て去る一方で、1兆円ずつ増加する社会保障の財源を確保するために消費税の増税は避けて通れないと国民を口説いているのだ。
財務省は、減税に伴う法人税の減収を1兆4千億円と試算している。政府は、法人税減税が経済の活性化につながるように説明しているが、財務省の試算はただ単純に算術に従った減収値だから、法人税減税に企業の業績が上がるような経済効果はないと認めていることになる。
主要メディアも、自身が営利企業だから、法人税減税問題には口をつぐんでいる。
政策の支離滅裂ぶりがここまで明らかになってもなお、「社会保障の維持」のために消費税の増税が絶対に必要と言うのなら、野田政権は、錯乱しているかウソをついて(つかされて)いるかになる。
法人税減税を正当化するため、減税しないと企業が外国に逃避するといった “脅し”もちらつかされたが、財務省の意図は、企業の経営基盤強化や投資拡大にあると(思いたい)。
消費税増税と“タイアップ”ではない企業向けの優遇政策として考えても、最終利益に課される法人税の減税は、現時点の“勝ち組”を偏重する歪んだ政策である。
採算ぎりぎりで利益を上げられない“勝ち組”とは言えない企業は、政府からなんの恩恵も受けられず、今後“勝ち組”になっていくための支援もないことになる。
明日の日本のため、現在の“勝ち組”企業も含む広範な企業の経営基盤や競争力を強化したいと考えるのなら、最終利益に課される法人税より、最終利益の基礎でもある付加価値に課されている消費税を減税するほうが理に叶っているのだ。
消費税減税の恩恵は、納税義務免除者の小規模事業者を除くほとんどの事業者に行き渡る。むろん、“勝ち組”の事業者も消費税減税で大きな恩恵を享受する。
手に入れた付加価値(マージン)が消費税減税で事業者の手元により多く残るようになれば、従業員の待遇改善、研究開発や設備投資、さらには配当に回せる資金も増やすことができる。
ドイツは、“ユーロ危機”で揺れ続ける欧州にあって比較的好調な経済状況を維持している。ドイツ経済の好調は、ひとえに輸出の増加に支えられたものだ。
ドイツには、工作機械・印刷機械・化学製品・自動車など世界に知られている強い産業分野がある。その一方で、目立つ存在でも名が知られているものでもないが、世界市場でシェアが60%を超える物を製造している中堅企業も数多く存在する。それらの企業はほとんどが家族経営レベルだが、品質で他を圧倒することで高い収益を誇っている。それらの企業の多くは、高い品質を維持するため、アジアや東欧など人件費が安い地域に生産拠点を移さずドイツ国内で事業を継続する方針を貫いている。
日本も、高い技術力と独創的な製品を作り出す中堅企業がドイツに匹敵するほど多く存在する。長期デフレ不況の前はもっと多く存在した。そのような企業が、新幹線の車両製造や有力企業の高品質を支えてきたのである。日本経済を成長させてきた主要な動因であった輸出の拡大も、そのような企業の支えなくしては達成できなかったと言える。
日本が工業製品分野で今後も国際競争力で優位性を維持できるかどうかは、著名なグローバル企業ではなく、近隣諸国とは比較にならない幅と厚みで存在している技術力と独創性に優れた中堅企業が活力を維持できるかどうかに大きくかかっている。
長期のデフレ不況と“消費税苦”のなかで、規模は小さくても独創的製品や高い技術力を誇ってきた中堅企業の数は減少し、存続している企業も苦しい経営を強いられている。海外進出を否定するわけではないが、コスト面から国内での製造をあきらめ、海外生産に活路を見出す企業も増えている。
消費税が法案通りに10%になると、商売上手ではなく、技術力で日本経済を支えてきた中堅優良企業の多くが、5%時代を大きく超えるレベルで存続の危機に直面することになる。
消費税を“消費税”と考えている人にはピンとこない話かもしれないが、企業の経営基盤や国際競争力の強化を目的とした企業向け減税を考えるのなら、法人税よりも消費税のほうがずっと有効なのである。
配当や自社株購入の増大が目的ではなく、設備や研究開発など競争力を強化するための投資促進が目的なら、法人税の減税でなくても、それらの費用ができるだけ多く所得から控除できるようにする税優遇措置で実現できる。
“勝ち組”企業が利益から今以上に投資に回すようになれば、その分、経済全体が活性化する。そして、その集積は、日本経済がデフレから脱却するための大きな牽引力となる。
デフレ不況が長期化している最大の要因は、“勝ち組”企業が利益を投資に回すのを控え、内部留保積み上げや債務削減に利用していることである。
日本の企業は、03年から始まった「異常円安好況期」を通じて、内部留保を167兆円(02年)から266兆円(10年)に100兆円も積みました。同時に、利益を活用して進めた債務削減は、銀行の預貸率を100%から70%に急減させた。
別の機会に説明するつもりだが、このような動きこそが、「赤字国債」の発行額が増大してきたワケなのである。
むろん、個別企業は、生き残りと不確定の将来を見据えて経営判断をしなければならないと思っているから、そのような動き自体に目くじらを立てる気はない。
しかし、だからこそ、経済社会の上に立つ政府の政策が重要になるのである。
理ではなかなか動かないが、利にさといのが企業である。企業が投資をする気になるよう、呼び水を撒くのが政府の努めであろう。
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参考資料:【消費税に関連した国税諸税の変動】
※証券や配当への課税の変動は除く。△は増税策、▼は減税策。
今回の「社会保障と税の一体改革」では、さすがに、高額所得者向け所得税の減税はでてこなかったが(増税に動いた)、税制変更の歴史を顧みると、消費税の導入や増税が法人税の減税と深く絡んでいることがわかる。
87年:所得税最高税率60%▼(86年までは70%)
88年:法人税42%▼(暫定税率1.2%が消滅)・所得税2千万円未満税率引き下げ▼
89年:[消費税3%導入△]・法人税40%▼・所得税最高税率50%▼
90年:法人税37.5%▼
95年:所得税最高税率50%適用2千万円超から3千万円超へ▼
97年:[消費税国税分1%アップ:地方消費税分と合わせ5%△]・所得税定率減税廃止△
98年:法人税34.5%▼
99年:法人税30%▼・所得税最高税率37%▼
07年:所得税最高税率40%△(695万円超及び195万円〜330万円への増税△)
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12年:法人税28.05%▼(復興増税分を含む)・所得税復興定率増税25年間2.1%△・所得税給与所得控除額上限245万円△・相続税課税対象拡大△---------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------
14年予:[消費税国税分6.3%:地方消費税と合わせて8%△]
15年予:[消費税国税分7.8%:地方消費税と合わせて10%△]・法人税25.5%▼
▲ 「社会保障の維持や充実」にとってもっともふさわしくない手段が消費税増税
「社会保障のための消費税」という表現は、ことあるごとに聞かされてきたフレーズなのでもっともらしく聞こえてしまうかもしれないが、実際は、「生活を楽にする高利貸しからの借金」と変わらないほど奇妙な論理なのである。
「社会保障のための消費税」という表現は、広告表現と同じで、「消費税を増税する(導入する)→理由が必要だから、何かいい売り文句はないか?→社会保障を目的にするとウケがいいはず」というように、結論(目的)が先にあり、表に出ている目的は、結論を実現するために世間受けを狙った後付けのものだから、表現には端から論理性がないのだ。
原発問題も同じで、「原発は存続→しばらくは反発や不安が大きいからショックが薄らぐ(ほとぼりが冷める)まで時間経過が必要→存続ありきと思われないよう存続の是非や安全問題を真剣に考えている姿勢を見せる→放射線被害はたいしたものではなく事故は終息に向かっているという印象を与える→電力料金の高騰や電力の不足という情報を不断に流し原発の必要性を意識させる→原発がなくてもやっていけると思われてしまう危険性があるので全部の原発が停止する前に再稼働を始める→合意形成ができなくても最後は政治判断で断行する」といった考え方が、経産省官僚を中心に、おそらく、3.11の福島第一原発の事故直後からあったものと推測している。
消費税増税が、「社会保障の維持や充実」にそぐわない理由は明瞭である。消費税の増税は、多寡はともかく、低収入世帯の実質生計費を減少させる政策だからである。
消費税は事業者が手に入れた付加価値に課される税だが、企業は、最終利益を少しでも増やそうとするから、消費税に限らず、法人税や固定資産税などあらゆる税の負担を第三者に転嫁しようとする。
とりわけ消費税は、諸経費控除後の最終利益に課される法人税とは違い、儲けが1円もなくコスト相当のマージン(付加価値)を得るだけでも課される“過酷な税”だから、増税で増加した負担を第三者に転嫁できなければ、給与の支払いをはじめ、それまでの経営状態を維持できなくなる。
スケジュール通りに、消費税の負担が現在の2倍になる税率10%への増税が実施されれば、どこまで可能なのかは別として、その負担を値上げを通じてなんとか転嫁しようという動きが火を噴くことになる。
消費者が負担するものではなくとも、企業による存続をかけた必死の転嫁(付け回し)はあるから、消費税の増税は、社会保障の受給者を含むあらゆる世帯の実質の所得(生活物資購入能力)を減少させる。
保護を受けずにぎりぎりの収入で生活している人も、生活保護を受給している人も、生活物資を買うときには、裕福な人と同じように、消費税負担分を今以上の額で付け回しされる。
政府の「社会保障改革に関する集中検討会議」の資料では、消費税の“実効負担率”は、税率5%のとき、年収935万円の世帯で2.7%(税率の54%)、年収318万円の世帯で4.3%(税率の86%)と推定されている。
この推定をベースにすると、年収318万円の世帯は、消費税が10%になることで、収入の8.6%、額にして27万円強を消費税の転嫁によって失うことになる。
このような理屈と事実だけで、主として所得がない人や少ない人を対象としている社会保障制度を維持するために、消費税を増税するという政策がいかにトンチキな話なのかわかるだろう。
暖をとるためには氷柱を立てるといいと言い張るような話で、消費税増税の目的がホントウに公式の説明通りならとんでもない笑い話になる。
消費税増税で社会保障を維持するという政策の最たる不合理は、「それほどは生活に困っていないが裕福ではない層」から「生活に困っている層」への所得移転にとどまらず、コントになりそうな話だが、「生活に困っている層」から「生活に困っている層」への所得移転までが組み込まれていることである。
「社会保障のための消費税」というスローガンの本質は、国民の多数派である低中所得者が低・無所得者に所得を移転することで社会保障を維持する度合いを高めるというものである。
端的に言えば、社会保障費ないし歳入に占める消費税税収のウェイトが高くなることは、「社会保障制度」が、「裕福ではないもの同士の相互扶助制度」に近づいていくことを意味する。
累進所得税は、高所得者から低所得者に所得を再分配する機能をもっているが、消費税の増税は、累進所得税の所得再分配機能を緩和する役割を果たす。
消費税の税率が高くなり、消費税税収が全税収に占める割合が高くなればなるほど、累進所得税の所得再分配機能は希薄になっていく。
それでも、そのおかけで国家社会と国民生活が全体としてうまく回っていくというのなら、裕福ではない人には我慢をしてもらうしかないと思う。
しかし、国民多数派が社会保障をより支えるようになることで生じる購買力(民間消費支出)の減少は、国民経済の下押し要因となる。
さらに、「裕福ではないもの同士の相互扶助」は、政策的にも個人の選択としても、生活物資を安価な輸入品に頼るよう仕向けるため、国内でそれらを供給してきた事業者の廃業や倒産を招き、国民経済がさらに低迷するようになる。
70年代から80年代の欧州は、ドイツを除き“ヨーロッパ病”患者と揶揄されていたが、80年代末の“共産主義崩壊”を契機に経済的統合の東方への拡張が始まり、同時進行的な中国の市場経済的急成長にも支えられることで、経済の活気を取り戻しかつそれを持続させた。
新世紀を迎えたのちも、02年に通貨ユーロの流通開始に伴い本格的なユーロ経済圏が動き始めたことで、一夜にして弱い通貨から強い通貨を手にする国民と国家が生まれ、金融機関も為替リスクがなく国境制限も少ない金融活動が展開できるようになり、取り戻した経済の活気はさらに継続した。
09年末に顕在化し今なお騒動が続いている国家債務危機=金融機関破綻危機は、“共産主義崩壊”と“ユーロ経済圏発足”に支えられた華やかな時代の幕が降りたことを告げる鐘の音である。
欧州経済が“共産主義崩壊”と“ユーロ圏発足”という成長要因を食い尽くし、新たな時代に移行せざるをえなくなると欧州の支配層が考えたからこそ、“国家債務危機”を過激なかたちで露呈させ、財政と金融の見直しを強硬に進めているのである。
欧州の諸国民がこのまま手を拱いていれば、国際競争力の相対的低下と付加価値税に依存した社会保障制度に起因する“ヨーロッパ病”がより厳しい姿で再来することになる。
たとえ付加価値税(VAT)の税率が25%にアップしても、ますます「裕福ではないもの同士の相互扶助」に近づくだけだから、社会保障レベルは現在よりもずっと劣ったものになる。
このような変化は、国民のなかに断裂と倦怠が生まれ、いわゆる“極右”や“極左”といった政治潮流が力を増す要因にもなるだろう。
米国が曲がりなりにも経済的活力を維持しているのは、国際基軸通貨ドルに依存した旺盛な購買力(輸入力)をベースに、米国市場に期待する輸出国とのあいだで繰り返される資金循環と米国市場を糧として成長している新興国への輸出が増加していることが主因だが、欧州諸国とは異なり、付加価値税を導入していないことが底流で支えになっていることを指摘したい。
その理由は、この投稿シリーズを読み進んでいただき、消費税(付加価値税)がどのような内実を秘めている税制なのかを知ればわかってもらえると思う。
小泉元首相とコンビで「小泉改革」を推進した竹中平蔵慶応大学教授は、以前に紹介したが、今回の消費税増税について“大義も効果もない政策”と断じ真っ向から反対している。
竹中氏は、最近放送されたNHKの『マイケル・サンデル教授の究極の選択』という番組のなかで、社会保障の財源として所得税と消費税のどちらを増税するかと問われ、「格差をなくすために税金を集めるということですから、そのためであるならば、所得税以外にはありません。所得税で負担能力のあるひとに払ってもらわなければ、社会保障のためという意味はなくなる。但し、それは最高税率だけを上げるというのではなくて、みんなが少しずつ所得税を上げるようにしなければならない」と答えていた。
かつて、小泉元首相とともに竹中氏もボロクソに批判したが、菅−野田的民主党多数派の倒錯した政策を目の当たりにすると、竹中氏が彼らよりはずっとまともな考え方をしていることがわかる。
消費税増税政策に関する竹中氏の論評には批判したいことも多くあるが、「社会保障と増税政策」に関する説明は正鵠を射たものと高く評価させていただく。
それにしても、小泉元首相や竹中平蔵氏を好意的に評価するような投稿をすることになるとは露とも思わなかった。阿修羅にも投稿したと記憶しているが、竹中氏が大臣時代にテレビ朝日日曜朝の田原氏の番組に出演したとき、高額所得者の所得税減税問題で「頑張った人が報われる政策にしなければならない」と語ったときに見せた“後ろめたさ”のワケがようやくはっきりしたとも思っている。
社会保障を具体的にどうするのかというビジョンを示さないまま増税だけ前のめりで追求していると野田政権を批判する向きもあるが、それ以前に、社会保障を維持するという目的にはまったく適合しない消費税増税を真顔で打ち出していることが問題なのである。
社会保障の維持や充実という目的に照らせばウソになるが、「社会保障の持続性」や「財政再建」のために、社会保障受給者や低所得者の生活レベルを切り下げることも辞さないというのなら、その人たちの可処分所得のなかから少しでも多く納税に回る消費税増税も間違いではない。
しかし、消費税増税の目的に沿って、消費税増税後も、社会保障受給者や低所得者の生活をこれまでと同じレベルで維持するというのなら、増税で減少すると推定されている可処分所得を、給付額の増加などを通じて補填しなければならない。
それを実行するためには行政経費が余分に必要になる。
負担相当を消費税増税で増えた税収から全額補填するというのなら、余計な経費が上乗せされるのだから、消費税増税なぞ端からやらないほうがいいのだ。
「いや、年金受給者のなかにも裕福な人たちがけっこういるから、税制面で優遇されている彼らにより多く税金を負担してもらう方策が消費税増税なのだ」と言うのなら、裕福ではない人や貧乏な人まで一蓮托生で可処分所得減少の渦に巻き込む消費税増税ではなく、年金を含む総合所得の課税強化を選択するほうが、的を外さず着実に達成できる政策である。
(※ 自民党や公明党との協議で揺れてきた“子ども手当(児童手当)”も、親の年収とは無関係に一律で支給し、所得レベルで子ども手当は“不要”と判断された人たちからは、“マイナス扶養控除”などで相当分を税徴収するほうが、行政機構の経費が少なくなるだけでなく、政府が子育てを支援するという制度の主旨にふさわしい方法である。高額所得者にまで補助金を出すのはおかしいといった一見もっともらしい話は、国税庁とは別の組織が所得を確認し支給対象を切り分けるという新たな手間を生じさせ、行政機構の事務経費増大につながる)
インフレではなくデフレのために苦境に陥っている日本に増税の必要性はまったくないが、長期的な視点からどうしても増税が必要というのなら、余裕のない低中所得者の可処分所得を減らしマクロ経済を悪化させる消費税の増税ではなく、将来のために多くのお金を預貯金や投機に回すだけの余裕がある人(企業)や高額な商品やサービスを享受している人たちにもう少し負担を増やしてもらう増税策を選択すべきである。
そのような政策は、“勝ち組”企業や高額所得者にとって、短期的には損するように思えるが、中長期で考えれば利益や所得をより増やすことができる“得策”なのである。
逆に、目先の利益にとらわれた政策を選択すると、自動車業界や家電業界で見られるように“勝ち組”企業が“負け組”に転落し、高額所得者が中所得者に落っこちる事態を迎えることになる。
(※ 税収構成でどうしても間接税を増やしたいのなら、ニセの間接税=消費税ではなく、「米国州税型売上税」や物品税のような正真正銘の間接税を導入したほうが害毒は少ない)
▲ 消費税増税に伴う低収入世帯への公的支援策の真意
政府は、投稿Aで触れた「年金の一律加算」の他にも、消費税の増税で打撃を受ける低収入世帯向けに広く公的支援を行うことを検討している。
当初は低所得世帯に一律1万円を配る「簡素な給付」で、後に、マイナンバー制度をベースに「給付付き税額控除」を導入するという案が有力である。
「簡素な給付」の支給対象者は、住民税非課税レベルの所得しかない世帯に属する3100万人と想定されている。東京都区部に居住しているのなら、夫婦子ども1人(配偶者の一方は非就労)の世帯で年収205万7千円以下がその対象になるという。3100万人に1万円ずつなら3千1百億円だが、「簡素な給付」のための財源としては4千億円が用意されている。
より厚い「簡素な給付」を求める声も大きいが、財務省は、消費増税分で賄う対策として1兆4千億円の低所得層対策(「年金の一律加算」や「介護保険料の軽減」)が含まれていることを盾に上積みの必要性を認めていない。
考えればすぐにわかることだが、低収入世帯に公的支援が必要になる原因は、消費税増税である。そして、その消費税増税は、社会保障のためにという名目で追求されている。
こんな訳の分からない奇妙奇天烈な話が、聡明である(なければならないはずの)政府によって真顔で進められているのである。
消費税問題を考えると、このようなあまりにバカバカしい話が平然ともっともらしく語られている現実を見ることになるので気が重くなる。国民をたぶらかすにも程があると言いたい。
それはともかく、4千億円や1兆4千億円といった“消費税対策費”が、支給対象の世帯が消費税増税で減らすと推定されている家計費に見合っているのか確認してみよう。
財務省は、消費税を増税することで10兆円を超える増収を見込んでいる。地方消費税と合わせた5%の消費税増税では、12兆円から13兆円の増収になると言われている。
住民税非課税の世帯に属する3100万人は、全人口のおよそ24%に相当する。子どもや老人も含まれているが、人口の約1/4は消費税の打撃で生活が立ちゆかなくなる低所得層に属していることになる。(世帯数ベースでは20%ほどと推測)
「簡素な給付」の財源4千億円は、消費税増収分を12兆円と考えても、3.3%に相当する。低所得者向けの“消費税割り戻し給付”が、増税増収分の3.3%ということだ。
消費税増税で受けるとさえる経済的打撃に対する支援が十分かどうかは、人口の24%を占める低所得者層の消費支出額が消費支出全体の3.3%を下回っているかどうかにかかっている。
3.3%以下であれば、消費税増税に伴い減少する生計費を「簡素な給付」でカバーできるはずだ。
しかし、人口の24%に達する低所得者3100万人の消費支出がそれ以上の割合を占めているのなら、たぶんを超えて絶対にそう言えるが、低所得者は、消費税の増税により、生活がこれまで以上に苦しくなる。
政府は、消費税の税率が10%になると、年収300万円以下の世帯では1人当たり5万円の負担増加になると試算している。
ところが、同じ政府内でも厚労省は、このシリーズの投稿Aで紹介したように、「年収300万円以下の高齢者夫婦世帯の場合、消費増税による負担増は年間2.4万円」と説明している。
両者のあいだに4倍という大きな開きがある。厚労省の2.4万円は、消費支出が高齢者二人で50万円(月々4万円強)しかないことになるのでウソっぽく感じられるが、厚労省の数値がウソから出たものではないとしたら、消費税増税に伴う負担増加分がうまく転嫁できないことを想定しているのかもしれない。
政府の一人当たり5万円は消費税負担増加分が100%まるまる転嫁されたケースで、厚労省の一人当たり1.2万円(二人で2.4万円)は24%ほどしか転嫁できない想定と考えれば辻褄が合う。
転嫁の問題は複雑な要素を含んでいることを承知のうえで、政府が試算した1人当たりの負担増加5万円を政府が考える低所得者3100万人にかけると、低所得者全体で約1兆5千億円の負担増加になる。
1.55兆円は、増収分12兆円のおよそ13%にあたる。「簡素な給付」の上限4千億円はその1/4ほどでしかない。
この値から、人口の24%を占める低所得者3100万人の消費支出は、全体に占める割合が13%くらいと推測できる。
事業者が増税で増加した消費税負担を100%消費者に転嫁すると、4千億円では生計費の減少をカバーすることはできず、25%(3.3%/13%)の転嫁であれば、カバーされることになる。
厚労省の“想定転嫁率”24%と「簡素な給付」の“想定転嫁率”25%は不思議と近い値だから、政府部内では消費税増税に伴う“転嫁率”を25%と想定している可能性がある。
「消費税は最終的に消費者が負担するもの」と言い続けている政府とすれば、消費税の増税に伴う負担増加分の25%ほどしか消費者に転嫁できないと考えているとは、口が裂けても言えないだろう。
この問題は、単に数字の違いということでは済まない。
増税に伴う負担増加分の25%ほどしか転嫁できないと政府自身が考えているとしたら、消費税増税が、日本経済のデフレをさらに深刻なものにし、利払い不能者の続出で金融危機を再燃させ、企業倒産や生活困窮者の増大で社会をますます歪める政策であることをすでに認めていることになる。詳しい説明は別の機会に譲るが、消費税増税に伴い増加する消費税納税額の75%がこれまでマージンだった部分を削ることで納付されることを意味するからである。
この推測が事実なら、日本は錯乱した統治者連中に支配されていることになる。
次に、「年金の一律加算」について考えてみる。
高齢者を対象とする「年金の一律加算」は、保険料→給付という年金制度の根幹にかかわる微妙な問題をはらんでいるが、生活保護給付の一部肩代わりや生活保護給付額とのバランス調整と受け止めれば、生活保護の申請者が増えるより年金として受給する人が増えるほうが社会政策的に好ましいと思えるので、消費税増税とは無関係に許容できる政策である。
07年のデータだが、厚労省は、生活保護の受給要件を満たしていながら申請していない人が440万人いると推計している。
現実に生活保護を受けている人の2倍以上の人が、受給資格を有しながら慎ましやかに生活していることになる。実際に生活保護を受けている210万人と合わせると、650万人が生活保護を必要とする低収入状態に置かれていることになる。全人口のほぼ5%である。
このような意味から、「年金の一律加算」は遅ればせながらというもので、消費税増税でできる「社会保障の充実」と主張するには少々ムリがある。
消費税増税に伴う低収入世帯の“負担”緩和策と高齢者低所得層対策を合わせると1兆8千億円である。1.8兆円は、見込まれている増収12兆円の15%に相当する。
国民の24%を占める低所得者3100万人の消費支出が全消費支出の15%以下であれば、消費税増税に伴う実質可処分所得の減少がカバーされることになる。しかし、実際の給付は、高齢者にウェイトがかかっているので、現役世代の低所得者より年金受給の低所得者のほうが消費税増税で受ける打撃がカバーされることになる。
明確な数字はわからないが、住民税非課税の低所得者3100万人は、なんとか実質購買力を維持できる程度の給付を受けるとみることができる。
しかし、所得が300万円〜800万円の中所得世帯(中間層)は、全世帯数のおよそ48%を占めている。この中間層には、給付や補填という対策は考えられていないから、消費税増税による可処分所得の減少はまるまる総需要の減少につながる。
しかも、低所得者の消費税増税に伴う“負担”が全額補填されるとしても、低所得者の可処分所得を原資として徴税したお金がそのまま同じ低所得者に戻る「循環システム」でしかないのだから、消費税を増税する必要なんかないという話になる。
「循環システム」を動かすためにも行政経費が必要になるから、消費税増税は、無意味を超えて不合理な政策ということだ。コストがかかる「循環システム」をわざわざ構築するくらいなら、低所得者を除く中高所得者の所得税や他の税目をシンプルに増税したほうがいいに決まっているではないか。
消費税増税を公約に掲げている自民党は、消費税増税の対策として食料品などの税率を軽減するというアイデアを出している。
「軽減税率」は、「簡素な給付」や「給付付き税額控除」と違い、低所得者に限定されることなくすべての所得階層の“負担”が軽減される仕組みである。消費税の内実から言えば、特定の事業分野(業界)に属する事業者の付加価値に課される税金が軽減されることを意味する。
どのみち社会保障とは無縁の制度だが、「軽減税率」の採用は、「簡素な給付」よりさらに社会保障目的から遠ざかることになる。
貧乏人は食べて命をつなげれば十分という考えなら、自民党案が望ましいだろう。
消費税の税率が複数になると、必須というわけではないが、帳簿方式ではなくインボイス方式に変更すべきという声が上がるかもしれない。管理の方式はともかく、これまでの課税取引・非課税取引・免税取引という区分けに加え、品目ごとに税率の違いを管理する手間とコストが追加される。もう一つ、付加価値に課される税率が変わるのだから、税率区分の線引きをめぐる政治的駆け引きが活発になるだろう。
さらに、税率の複数化は、現在の非課税取引と同じ問題を生じさせる。
消費税率が10%になった時点で食料品など特定品目が5%に据え置かれると、消費税5%の商品を供給するために、消費税が10%の素材や機械設備などを仕入れる必要は生じるから、その仕入に伴う消費税の転嫁が難しくなるという不平不満の声があがるだろう。
付加価値に課される税だから仕入での消費税負担がいくらだとか売上で受け取る消費税負担がいくらといったことは関係ないが、それまで税込1090円で販売していたものを税込1130円で販売するのは難しいかもしれない。
消費税増税とともに考えられている「給付付き税額控除」などの公的支援や特定品目への軽減税率適用は、社会保障受給者や低所得者が消費税増税で受ける経済的打撃を緩和する政策だと説明されるのが通例だ。
消費税増税が原因でそこまでしなければならないのに、消費税の増税は「社会保障のため」と平気で言い続ける政治家や官僚の心性と知性を疑う。
消費税増税に伴って考えられている公的支援は、低収入世帯の苦境を助けるためと言われているが、それだけの目的で行われるわけではない。
低収入世帯の苦境を作り出すのは消費税増税そのものなのだから、消費税増税をやめればすむことであり、消費税増税で生じる経済的苦境を公的支援で助けるというのは倒錯の極みである。このように考えれば、公的支援の目的が見えてくる。
公的支援の真の狙いは、事業者が増税で増加する消費税の負担をできるだけ最終消費者に転嫁できるようサポートすることにある。
勤労者の名目給与が増加しない状況で消費税が増税されると、赤字財政支出・民間設備投資・輸出のいずれかが増大しない限り、総需要が増税の増収分12〜13.5兆円ほど減少することになる。
そうなると、多くの世帯が実質で減少する家計費を有効に使おうと不要不急の商品やサービスの購入を減らし、供給サイドも、減少した総需要のなかでなんとか売上を確保しようと価格競争に走るようになる。
その結果、販売量の急激な低下で苦しむ事業者や増加した消費税の負担をほとんど転嫁できない事業者が多く生み出される。
経済的力関係で優位に立つ事業者でさえ消費税の転嫁は限定的で、劣位の事業者は、転嫁ができないどころか、消費税負担増加より多くマージンを減らしながら、より多くなった消費税を納付しなければならない事態に陥る可能性が高い。
消費税増税後の国民の生活ぶりをざっと想像してみよう。
中所得者以上の世帯は、金融資産に回すお金を減らすることで、それまでの生活スタイルを維持するかもしれない。
裕福な年金生活者も、金融資産をこれまでより少し多く取り崩して生活レベルを維持しようとするかもしれない。
しかし、預貯金に回す余裕どころ預貯金差さえない低所得者や生活保護受給者は、実質的な生活費が減少するなら、とにかく購入するものを減らすしかない。
消費税増税に伴う社会保障給付額の増加、「簡素な給付」や給付付き税額控除などの公的支援や特定品目に軽減税率を適用するという政策は、そのままでは増税された消費税に対応できず生活レベルを切り下げるしかない層の購買力を支えることで、最終的に打撃を受ける事業者をなんとか救済しようというものなのである。
政府は、消費税増税で生じる負担増加の25%ほどしか転嫁できないと想定しているようなので、事業者は実に過酷な経営に追い込まれる。
「社会保障と税の一体改革」で打ち出された増税策のなかで社会保障の維持という目的に叶うのは、3万人ほどが対象となると言われている所得税最高税率45%引き上げ(課税所得5千万円超に適用)と相続税の課税強化策くらいである。
相続税は、これまで相続者の5%程度しか適用されていない状況を一変し30%以上の相続者に適用が広がると推測できるので、死後ではあるが、年金受給者のなかで“それなりに裕福な人”たちへの課税強化という意味も有する政策である。
現行の相続税でも引っかかるレベルの資産家は、贈与税がかからない範囲や見逃されるかたちで相続権者に贈与を行い相続税の軽減に務めていると思われるので、今回の相続税増税は、これから先どれくらい生きるかわからないと無駄遣いをせずに貯金をしているような層の相続者が大きな打撃を受けることになるだろう。
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