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国際激流と日本
「ルーピー」鳩山に怒り心頭だったオバマ大統領アジア政策を支えた側近の回顧で明らかに
2012.03.21(水)
古森 義久
いやはや米国のオバマ政権が日本の民主党、鳩山由紀夫政権に対し、これほど激しい不信や憤慨を抱いていたとは思わなかった。
特に当時の鳩山首相の「東アジア共同体」構想にオバマ政権はびっくり仰天し、反米の極致として怒り心頭に発していた、というのである。
まさに日米同盟の深刻な危機だった。米国側のこんな真相がオバマ政権の対日政策の中核にいた元高官によって明らかにされた。
オバマ政権が鳩山政権に抱いた4つの心配
この暴露はオバマ政権の国家安全保障会議の東アジア担当上級部長を務めたジェフリー・ベーダー氏が今月出版した『オバマと中国の台頭』(ブルッキングス研究所刊)という新著に記されていた。
ベーダー氏はオバマ政権誕生冒頭の2009年1月から2011年4月まで大統領のそばにいて、日本をはじめとするアジアへの政策について助言する同上級部長のポストに就いていた。日本についての回顧は同書の第5章「日本:自民党から民主党の統治へ」に書かれている。
ベーダー氏はその中で次のように述べていた。まず2009年8月の日本の総選挙で民主党が大勝して鳩山政権が誕生した時、オバマ大統領は公式には鳩山政権を歓迎し、鳩山由紀夫首相にも温かい祝辞を送り、ニューヨークでの初の首脳会談でも日米連帯をうたった。しかし、すぐに鳩山政権の側にいくつかの「阻害を起こす出来事」が生じた、という。
それらの「心配な出来事」としては4項目が記されていた。その趣旨は次のようだった。
「第1に、普天間基地に関して、鳩山氏が沖縄からすべての米海兵隊を撤退させると選挙中に宣言していたことだった。米側では鳩山氏が首相となれば、現実を理解して、その宣言を引っ込めると期待していたが、なかなかそうはならず、米国側はいらだっていった。
第2には、鳩山氏が日本の米国依存を減らし、米国と中国との中間に立つような外交政策方針を述べ始めたことだった。
米側では、日本が中国との関係をそれまでより友好的にすることこそ歓迎したが、最重要の唯一の同盟国である米国と中国とを等距離に置こうとする姿勢には当惑させられた。小沢一郎訪中団の媚中ぶりが米側をさらに懸念させた。
第3には、鳩山政権が米国の核政策に反対し、日本への核抑止さえも揺らがせる結果となった。鳩山政権の外相は米国に「核先制不使用」政策の採択を求め、日本の防衛の基盤を除去することを迫る結果となった。また、鳩山政権はさらに米国の核兵器の配備や持ち込みについての両国の秘密合意の調査をも開始した。
さらに最大の悪影響をもたらした第4の出来事として、鳩山政権が東アジア共同体の構想を推進しようとしたことが挙げられる。
この構想は米国をこの共同体なる組織から除外することを意味しており、米国のアジアからの排除を示していた。アジアでの米国の最も緊密な同盟相手であるはずの日本がこんな米国追放の構想を打ち上げたことは、オバマ政権を仰天させた」
アジア各国も反対した東アジア共同体構想
ベーダー氏はこんな実態を明らかにしたのだが、特に「東アジア共同体」構想については、「ベトナムまでが深刻な懸念を表明した」と述べていた。「米国と戦ったベトナムがこの東アジア共同体なる構想の戦略的な愚かさを認識し、他方、米国のアジアでの最大の同盟パートナーである日本がそれを認識しないという皮肉は痛烈だった」とも言う。
アジアの他の諸国も鳩山政権の主張するような東アジア共同体への動きが現実に始まれば、もっぱらその構想の中心に立つのは中国であり、中国の影響圏の拡大をもたらすだろうと考えていたとも言う。
だからこの構想にはオーストラリア、シンガポール、韓国、インドネシアの各国も明確に反対していたとのことだった。要するに鳩山政権はアジア各国の反対を押し切る形で東アジア共同体構想を進めようとしたと言うのだ。
ベーダー氏は「鳩山政権のこうした言明は戦略的にも、外交的にも、日本の従来の立場にはあまりに矛盾していたが、正面から反発することを懸命で避けた」と述べ、オバマ政権内には鳩山政権のこうした動きへの怒りや不満が渦巻いたことを明らかにしていた。
そして「鳩山政権のそうした矛盾した愚かな政策スタンスは日本国民の反発をも招き、日米同盟の現実の重みにも押しつぶされて、政権自体の命運を終わらせる結果となった」と総括していた。
ベーダー氏はこの時期が米国にとって、さらには日米同盟にとっては、「非常に苦しく危険な時期だった」と評し、「それでもなお米国側の忍耐がどうにか最悪の危機を避けることとなった」とオバマ政権側に危機回避の功を与えていた。
オバマ政権の内部には、鳩山政権の対米外交姿勢にこれほどの反発があったのである。だからオバマ政権の高官たちが鳩山首相自身を指して「ルーピー(愚かな)」と断じていたというのも、いわば自然ということになりそうだ。
1人の無知な政治指導者の登場は、長年、両国民が汗を流して築いてきた日米同盟の基盤さえ一気に崩しかねない、ということでもあろう。
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