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東電の値上げを止められる政治家の力(日経ビジネス)
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投稿者 BRIAN ENO 日時 2012 年 3 月 14 日 15:14:51: tZW9Ar4r/Y2EU
 

東電の値上げを止められる政治家の力

市川房枝の「1円不払い運動」に思う

2012/03/14
市村 孝二巳
東京電力と原子力損害賠償支援機構は3月末までに策定する総合特別事業計画で、家庭向け電気料金を7月から約10%引き上げると申請する見通しだ。企業など大口契約の電気料金を4月から平均17%引き上げるのに続く動きで、東京電力は、原子力発電所の運転停止と原油や天然ガスなどの価格高騰によって増大する燃料費は、合理化によるコスト削減だけでは賄いきれないとしている。さらに将来的には、福島第1原子力発電所事故の損害賠償費用を賄うため、支援機構を通じて受け入れた公的資金を返済するには値上げを避けて通れないという考え方が根底にある。
 「値上げは権利」という西澤俊夫東京電力社長の発言はさまざまな方面から反発を招いた。東電の大口顧客であり、第3位の株主でもある東京都の猪瀬直樹副知事は大口契約の値上げに対し、その根拠が不明確だとして異議を唱えると同時に、中部電力に電力供給を打診するなどの動きに出ている。
 東京都や大手企業のように交渉できない中小企業には怨嗟の声が広がり、東電は節電に協力した中小企業には値上げ幅を圧縮する割引メニューを出した。それでも東電以外から電力を調達する選択肢を事実上封じられている需要家の反発が収まる様子はない。
 大手企業や地方自治体などの間では、安い電力を求めて、東電以外の電力会社や新規参入の電力事業者である「特定規模電気事業者(PPS)」からの調達を模索する動きが広がっている。
 中部電力には東電の値上げを契機に、東京都以外にも10件程度から電力供給を求める依頼が相次いだという。しかし中電は原発が停止している関西電力や九州電力への電力融通を優先せざるを得ないため、当面は営業区域外への供給契約に応じるのは難しいとしており、東京都も値上げを受け入れざるを得ない見通しだ。

これまでは名ばかりの自由化だった

 PPSはそもそも自前の発電所の出力が限られているうえ、日本卸電力取引所でもほとんど電力を調達できない状況にある。自由化の旗振り役として、これまではPPSから電気を買っていた経済産業省の本庁舎が来年度に使う電力の一般競争入札に、どのPPSも応札できなかったほどだ。家庭のみならず、自由化されたはずの企業も、東電以外から電気を買う道は事実上閉ざされているのだ。経済産業省と電力業界がこれまで進めてきた「自由化」が名ばかりのものだったことが改めて証明された。
 東電の総合特別事業計画申請を踏まえ、家庭向け電気料金の値上げを認可するかどうかは枝野幸男経済産業相の判断にかかっている。枝野氏は、経産省の電気料金制度・運用の見直しに係る有識者会議が2月3日にまとめた報告書案(3月15日の有識者会議でとりまとめの予定)に基づき、原価計算の対象となる費目から、広告宣伝費、寄付金、業界団体への拠出金などを外すとともに、電力会社の高額給与は全額算入せず、従業員1000人以上の大企業の平均値やガス、鉄道など公益企業の水準も参考に、値上げ幅を圧縮し、消費者の理解を求めたい意向とみられている。
 枝野氏は総合特別事業計画で、支援機構が1兆円の公的資金を東電に資本注入し、定款変更など重要事項を決定できるように3分の2以上、少なくとも過半数の議決権を掌握したい考えだが、東電はこれに「民間(の経営形態)が望ましい」(西澤社長)などと激しく抵抗している。東京電力に関する経営・財務調査委員会の報告書によると、東電では直近5年間の販売電力量の6割を企業など自由化部門が占める一方、電気事業利益はわずか1割にとどまったという。実に利益の9割は家計など規制部門から得ていたのである。
 東電経営陣の経営責任を明確させるために、大手銀行の一時国有化などの例にならい、全取締役を退任させるといった経営刷新案も検討されているようだが、電力の安定供給という命題をクリアしつつ、どれだけ大胆な経営改革を実行できるような体制を構築できるのか。東電問題をどう処理するかは、日本のエネルギー問題の将来を左右する大外科手術であり、民主党の次期首相候補の1人である枝野氏の試金石でもある。

http://business.nikkeibp.co.jp/article/opinion/20120309/229652/?mlp&rt=nocnt


国の根幹を揺るがすほどの失態を演じ、国民の税金による資本注入を仰いでもなお、自立を模索しようとする東電。かつてこの企業を相手に一歩も退かず、一切の政治献金を辞めさせるという大仕事を成し遂げた政治家がいたことを、ご存知だろうか。

 市川房枝氏。昨年、没後30年を迎えた市川氏が女性の権利向上などの分野で果たした功績は数限りないが、今、とりわけ刮目すべきは、企業の政治献金撤廃にかけたその熱意である。
 きっかけは1974(昭和49)年2月12日の朝日新聞の記事だった。
 自民党の政治資金団体である国民協会が業界や企業から集めている会費を平均4.1倍に引き上げることを要請しているという内容だった。時の首相は田中角栄氏。原子力発電所の立地自治体に対する財政支援の元となる電源開発促進税法など、いわゆる電源三法が制定されたのもこの年である。
 市川氏は、ただちに2月17日の朝日新聞に「政治献金に提訴を」と題する一文を寄稿する。一部を引用する。
 「自治省の発表をみても、自民党の政治資金団体国民協会が、寄付として氏名、金額を明らかにしたのは、集めた金額の4分の1に過ぎない。(中略)それは政治資金規正法が寄付だけに届け出の義務を負わせ、会社を出るときは寄付であっても、会費、賛助費の名義にすれば届け出を要しないからである」
 その内実を明らかにした朝日の報道を受け、市川氏はたまたま保有していた309株(その後の記録によっては約700株)を元手に、ある対抗策を思いつく。「自分が賛成出来ない自民党への巨額の献金は、取締役の忠実義務に反する? として、その金額を会社に返還せしむるよう訴訟を提起しては如何だろうかと思うのである」

東電は「一切の政治献金を行わないと決定した」

 市川氏の呼びかけには確かな手ごたえがあった。市川氏は当時の手記をまとめた『復刻私の国会報告』でこう語っている。「その後色々な方にご相談したり、協力を申出てくれた方などがありましたが、その中で高橋氏他2人の弁護士さんが積極的に参加して下さいました。そして訴訟の準備段階として東電に対し、今までの同社の政治献金の額や国民協会の月例会費額、献金に対する所見等4点について回答を求めました」
 さらには、市川氏の回りにはさまざまな知恵者が集まり、企業の政治献金反対、電気料金値上げ反対運動の実効性を高めていく。「独協大学の宮川淑助教授の提案した『政治献金分の一円不払い運動』や小金井の川崎達氏を中心とする『料金の自動振込みの一時保留』の提案、叉は料金値上げ反対運動等の市民運動も起ってきました」。
 一円不払い運動とは、電気料金のうちの1円を東電の政治献金分と見立て、その分だけ払い込みを減らすことにより、政治献金廃止を求めた動きである。その前提として、電気料金の自動振り込みをやめる動きも広がった。東電は全額を支払わない限り受け取らないとし、滞納が続けば電気を止める姿勢さえ示したという。
 折しも1973年に発生した第1次オイルショックによる狂乱物価で、電力各社は74年6月以降、電気料金を大幅に引き上げていた。日本婦人有権者同盟の機関紙「婦人有権者」の74(昭和49)年7月1日号の「談話室」と題するコラムで、西川信枝氏が当時の東京都小金井市での運動の様子を活写しているので、少し長いが、引用してみる。
 「4月末、小金井市の消費者連絡会は予想される電力料金値上げに反対することをきめ運動をすすめていった。そして5月10日に電力大幅値上げ反対集会を開き、東電武蔵野支所長および幹部から『値上げの根拠』について説明をきくことになっていたが、5月17日、とつぜん東電側から出席拒否を通告してきた。理由は、吊し上げ抗議集会には出席しかねるとのこと。集会は、東電側欠席のまま開催された。消費者はこの横暴な電力会社のやり方に怒り、納得できない一方的値上げには応じられないとして、銀行の自動振替解約、値上げ分支払一時保留などを全会一致で決定した」
 「知らしむべからず、依らしむべし」という東電の官僚的な対応が、消費者の怒りを増幅していった様子が手に取るように分かる。
 市川氏は、同年7月の参院選全国区で193万票を集め、2位で当選する。「一円不払い運動」を含め、一連の政治活動が全国の選挙民の心を掴んだ結果であったことは間違いない。この選挙結果が、東電をして、市川氏が国民に与える影響力を看過し得なくなったのであろう。
 市川氏の国会報告は、一連の運動の結果、「8月13日午後、東電の水野(久男)社長が私の質問状への回答として、取締役会で決定した『当社としては政党政治団体もしくは政治家個人に対し、今後寄付、会費等一切の政治献金を行わないことを決定した』旨を伝えてきました。これにつづいて他の電力及びガス、私鉄等にも政治献金廃止が波及しました」と、成果を淡々と記している。

http://business.nikkeibp.co.jp/article/opinion/20120309/229652/?P=2

木川田東電会長との極秘会談

 実は、それだけではない。市川氏があえて記さなかったのは、東電の「天皇」とまで呼ばれた木川田一隆会長との極秘会談のやりとりである。
 のちに児玉勝子氏が著した『覚書・戦後の市川房枝』によると、市川氏が東電に求めた4点の問い合わせに対し回答はなかったが、木川田氏から政治献金問題で話し合いたいという申し入れがあり、市川氏の拠点である東京都渋谷区の婦選会館で2度にわたって会談した、というのである。
 訴訟を起こす意図を明かす市川氏に対し、木川田氏は「会社に対して値上げ反対運動など、2、3の市民運動が起こっている時なので、いま先生から訴訟を提起されると大変困る、何とかやめてほしい」という。市川氏は「もし貴社が政治献金をおやめになるなら中止しましょう」といったところ、「それは重大問題だから考えさせてほしい」とその日はそれで別れた。
 約1週間後、2人は再び婦選会館で会った。「他会社との関係もあり大変だったが決心し、政治献金はやめることにした」と回答した木川田氏に、市川氏は「口頭の約束だけでは困る、取締役会の決議にしてほしい」と申し入れたという。
 これが事実でなければ、8月13日の東電取締役会の決定に至る経緯は説明できないだろう。
 そして8月13日、水野社長が婦選会館を訪れ、政治献金廃止を伝えた後の経緯を、市川氏は国会報告にこう綴っている。
 「しかしその後東電の部長会は国民協会に負担していた月百万円の穴うめとして課長以上の管理職に対して国民協会への入会勧誘をしたとのことなので、これに抗議し撤回の申し入れをしています」
 市川氏の運動は、財界を巻き込んで企業の政治献金廃止につながる大きな潮流を引き起こすきっかけになった。しかし、東電は政治献金廃止を約束する一方で、今度は個人献金の名を借りながら、事実上の政治献金継続の道に踏み出していたということになる。その命脈はなお、国民協会が改称した国民政治協会に対して東電の役員が職位に応じて数十万円の献金を延々と続けることによって保たれてきた。
 市川氏の運動は、必ずしも東電の値上げ反対を企図したものではなかったし、値上げを止められたわけでもなかったが、当初の狙いであった企業の政治献金廃止という目的に対して大きな前進をもたらした結果として、東電の価格政策に多大な影響力を及ぼした。それをなし崩しにしようとする策動が当時から現在まで続いているという事実をもってしても、市川氏が積み重ねた政治活動の成果を否定するには不十分だろう。
 この年の秋、雑誌『文芸春秋』は立花隆氏らによる田中政権の金権政治を批判するキャンペーンを展開。田中政権は退陣へと追い込まれた。
 そして市川氏は80年の参院選では全国区第1位で当選を果たしたが、翌81年、心筋梗塞で亡くなった。87歳だった。
 市川氏の没後31年目を生きる我々は、東電に真っ向から対峙し、その膝を屈するほどの影響力をもつ政治家を有していないことを嘆くほかないのだろうか。

http://business.nikkeibp.co.jp/article/opinion/20120309/229652/?P=3

 

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