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2012年2月26日 (日)
銀行負担を国民負担に転嫁させる東電実質国有化
東電処理の問題は、原発事故の損害賠償を誰がどのように負担するのかを決定する極めて重要な意味を持つ事項であるので、改めて問題を提起しておきたい。
日本が法治国家であるなら、すべての行政処理は法律に則って行われるべきである。
原子力事業にかかる事故が発生した場合、損害賠償責任を誰が負うのかについては、原子力損害賠償法に定めがある。
原子力損害の賠償に関する法律
第二章 原子力損害賠償責任
(無過失責任、責任の集中等)
第三条 原子炉の運転等の際、当該原子炉の運転等により原子力損害を与えたときは、当該原子炉の運転等に係る原子力事業者がその損害を賠償する責めに任ずる。ただし、その損害が異常に巨大な天災地変又は社会的動乱によつて生じたものであるときは、この限りでない。
法律の規定は、原子力事業者が損害賠償責任を負うとしている。
例外規定として、異常に巨大な天災地変又は社会的動乱によって損害が生じた場合には、「この限りでない」と定められている。
これまで、繰り返し記述してきたように、今回の津波、地震は、「異常に巨大な天災地変」ではない。産業技術総合研究所などが、過去の津波事例の調査結果に基づき、再三、福島原発の津波対策が不十分であることを指摘してきた。東電サイドも問題を認識したが、費用がかかることから、この警告を無視してきた経緯がある。
この点を踏まえれば、本来、刑事事件として捜査が行われる必要があるが、東電は警察から30名を超える天下りを受け入れており、これが原因で刑事捜査が行われていない。客観的にはそう判断せざるを得ない。
いずれにせよ、今回の原子力事故の損害賠償責任は東京電力が負っている。
しかし、損害賠償金額は間違いなく東電の純資産額を超える。昨年10月に作成された報告書の段階でも、一過性分の賠償額が2兆6184億円、廃炉費用が1兆0817億円であるのに対し、2011年3月末段階の純資産が1兆6025億円で、明らかに債務超過になる。
したがって、東電を法的整理しなければならないことは明白である。
ところが、野田政権は東電を法的整理せずに、公的資金で救済する方針を強硬に示し続けている。
これに対する批判が極めて強いことを受けて、「実質国有化」という、まやかしの処理方法を提示し始めた。
「実質国有化」とは「実質救済」のことだ。
似た言葉に「一時国有化」があるが、これは「破たん処理」である。
「実質国有化」とは、企業を生かしたまま政府が公的資金を投入することで、破たん処理に伴う責任処理を闇に葬る措置である。
何がどう違うか。
法的整理=破綻処理の場合、経営責任だけでなく、株主責任と貸し手責任が厳正に問われることになる。
ところが、公的資金投入による救済=実質国有化の場合、株主責任と貸し手責任が問われなくなるのである。
政府が公的資金を投入して経営権を所得すれば、経営者を入れ替えることはできる。つまり、経営責任だけは追及できる。
しかし、経営者を一掃してこのポストに人を配置するとき、大会社の役員ポストは、極めて経済的価値の高いものであるから、ここに、巨大な「人事利権」が発生する。
政府が政府支援者にこの経済的価値の高い役員ポストを配分することは、一種の金権利権政治になる。近親者に対する利益供与になるからだ。
小泉竹中政権はりそな銀行を実質国有化という名の下に救済した。旧経営者は一掃され、小泉竹中政権近親者にりそな銀行役員ポストが配分された。
このポスト配分という利益供与を受けた人々が、これまでにどれだけの所得を得たのかを調べて開示する必要があるだろう。
問題は、政府によって乗っ取られたこの銀行が、自民党に対して巨大な融資を実行していったことだ。
りそな銀行は自民党の機関銀行化していったのである。
他の銀行の対自民党融資金額が軒並み二分の一から三分の一に減少するなかで、りそな銀行の対自民党融資金額が激増した。
この重大事実を朝日新聞が2006年12月18日朝刊でスクープした。もちろん、一面トップ扱いだった。ところが、この記事を書いた朝日の敏腕記者鈴木啓一氏はその前日、東京湾で水死体となって発見されたと伝えられているのだ。
東電を法的整理せずに公的資金で救済する理由として掲げられているのは、原発事故の損害賠償債権が東電に対する一般担保権付社債よりも弁済順位において低位にあるため、法的整理を行うと、東電資産が枯渇して原発事故の損害賠償が行えなくなるというものだ。
しかし、この主張はまったく正しくない。原賠法には次の規定がある。
第四章 国の措置
(国の措置)
第十六条 政府は、原子力損害が生じた場合において、原子力事業者(外国原子力船に係る原子力事業者を除く。)が第三条の規定により損害を賠償する責めに任ずべき額が賠償措置額をこえ、かつ、この法律の目的を達成するため必要があると認めるときは、原子力事業者に対し、原子力事業者が損害を賠償するために必要な援助を行なうものとする。
2 前項の援助は、国会の議決により政府に属させられた権限の範囲内において行なうものとする。
国会が議決すれば、政府の責任において、原子力損害に対する賠償を必要十分に行うことが可能なのだ。
東電を法的整理すると、株主責任が問われ、貸し手も責任を問われることになる。それでも、原発事故の損害賠償を東電は賄えない。不足する部分は政府が責任を持つことになる。つまり、その部分は納税者負担で処理することになる。
法的整理しない場合は、株主と貸し手が負担する部分がゼロになるから、そっくり、その分だけ、それ以外の者の負担が大きくなる。
政府はこれを財政支出ではなく、将来の電力会社負担で実施することとしようとしている。電力会社負担と言うと聞こえが良いが、実際は、電力利用者がその分高い電気料金を払わされることになる。
つまり、政府が現在進めている「実質国有化」案は、本来、株主と貸し手である銀行が負わなけれならない負担を、電力利用者に押し付けようとするものなのだ。
当然のことながら、このメカニズムを国民が知れば、激しい反対が起きる。
そこで、政府は東電の役員を一掃すると言っているのだ。
しかし、役員一掃は、野田政権が人事利権を獲得することを意味するだけであり、国民に利益をもたらすものでない。
本来、兆円単位の負担をしなければならない金融機関がこの負担を免除されるということは、金融機関が政府から兆円単位の補助金をもらうことと同じになる。巨大利益供与である。
まさに、「政治とカネ」巨大スキャンダルである。
東電の本当のメインバンクは財務省の最重要天下り機関である日本政策投資銀行である。財務省が東電救済策を推進しているのは、自分の庭の負担を吹き飛ばすためである。
したがって、いまからで遅くない。東電の法的整理を実施するべきである。
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